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世界を救った後就職したけど世の中世知辛過ぎてツライ  作者: 冷えピタ
元英雄サラリーマンの日常
9/25

8話 この道がずっと続けばいいのに...

前回からですが物語の転換の時は♢を使用する事にしました!

「えー...皆さんもご存知の通りヒーローに大切な事は友情、努力、勝利です。はい復唱」


「「「ゆ...友情、努力、勝利」」」


「声が小さいもう一度えでぃばでぃせい」


「「「友情!!!努力!!!!勝利!!!!!!」」」


「はいOK。先生嬉しいぞ。もうお前達に教える事は何も無い、あとはお前達各自の判断を信じ行動するように!以上!」


 生徒達の熱いシャウトを聞き届けた俺は若人達にニヒルな笑みを送りながら教室を後にする。年長者にあれこれ煩くされるのはやはり嫌だろう。


 満足気な雰囲気を出しスライド式のドアに手を掛ける。今日は上手い酒が飲めそうだ!!。



 ガシッ


 今まさにドアに掛ける手へ力を込め用とした時背後から凄まじい力で肩を掴まれ振り向くとそこには引き攣った笑顔を浮かべる元魔法幼女兼現魔法少女椎名(ミゾレ)が立っていた。


「ちょっと待ってください何帰ろうとしてるんですか?まだ来て十分も経ってませんよね?何でジャ○プ三ヶ条復唱させてやり切った感出してるんですか?」


 ギリギリと肩を締め付けられる。俺は一般的な人間よりも飛び抜けて強靭な身体を有しているはずなのに凄まじく痛い、これが愛と正義の魔法の力なのだろうか。


 歪な笑顔を浮かべながら握り潰さんばかりの握力で肩を掴む魔法少女、その光景を唖然とした表情で見つめる10代の少年少女達。場所はヒーロー活動してる者達の総本山。ヒーロー東京支部の複数ある談話室の一室である。


「そうだぞ勇者。後任達の育成も能力のある者の義務だ」


 ドアの入り口の壁にもたれ掛かりニコニコしながら帰ろうとする乾を諌めるスーツ姿の美女がいる。特徴的な長い白髪を手で梳く姿を見つめる視線にはいくつかの種類があった。嫉妬、情欲、羨望等、非現実的なまるで妖精の様な雰囲気さえ醸し出している彼女は今ここに1番居てはいけない存在。10年前世界をその手に収めようとした魔王その人である。


 10年前の元英雄がいて、その時の仲間である魔法幼女がいて、その後輩達も揃い、これら全ての敵であるはずの魔王がヒーローの総本山に集結している。まさにオールスター。


 こんなカオスな状況になるのはマオがついてくると行ってきた時点で正直分かりきっていたがここに至るまで何があったのか少しだけ遡ってご覧になって頂きたい。




 ♢


 時はマオと乾が雑誌を捨てヒーロー東京支部へ向け歩きだし暫くたった頃まで遡る。支部は自宅から歩いて通える場所にあるのだがそもそも近いからと18の時指定されてここへ入居して以来ずっとここに住んでいる。引っ越しも考えたのだがヒーロー支部から少ないながら補助金が出ているのでそのままだ。


「そんで政府直々の要請で支部に行くんだけど...本当に来んのか?」


「クドイぞ。私は一度行ったことは曲げない」


 もう既に支部への道を歩みだして10分ほど経ち歩き続けてる最中同じ質問を何度もしているのだが、マオでなくてもウンザリしてしまうのは仕方のない事だろう。


 何度も何度も確認したが残念ながら嘘でも冗談でも無いようだ。であれば今の急務はどうやってこの状況を切り抜けるかにかかってくる。


 案その1。走って逃げる。

 結果予想。普通に捕まる。その後捕まった場合更に面倒な事になる事が予想されるので推奨しない。


 案その2。支部にて事情を話し共に戦う。

 結果予想。倒せるとは思うが被害が大きすぎる。後輩がもっと育つまで推奨せず。万が一マオが抵抗せず倒されれば....それはそれで後味が悪いので却下。


 案その3。10年前と同じ様にタイマンで勝利する。

 結果予想。その時と状況が違い確実に倒しきる自信が無い。万が一負けた場合の被害が予想出来ず推奨しない。....以下同文。


 あれ?マオが付いてくると言ってきた時点で詰んで無いか?そもそも口に出したわけでも無いのに何でバレたんだ?。


「ああそれなら魔王666個の特殊能力の1つサタン読心だ」


 相変わらずうっすらと笑みを浮かべながらそんな事を言ってくる佐藤マオであった。というかそんな便利な能力があるなら10年前もっと苦戦してそうだけどな。


「勿論使っていたけれど勇者は殴る、蹴る、跳ぶくらいしか考えてなかったからそんなに役に立たなかったぞ?」


 確かにその頃の俺は回りくどい事考えずに正面から敵を叩き潰す事しか考えていなかったな....。それに観察していて分かったけどマオが読s...「サタン読心」サタン読心を使う時は目が怪しく光る様だ。常時発動の能力では無いみたいだしその瞬間を見極めてタイミングをズラせば対応出来そうだ。


「まあこんな無粋な能力はあまり好きじゃ無いから滅多に使わないけど」


「じゃあ何で使ったんだよ...」


 相変わらず薄く笑っている。


「こうでもしないと勇者は私と接点を持とうとしないだろう?」


 理由が分からない。なんでそんなに俺に拘る...。怨敵として命を狙われた方がまだ分かりやすい。


「言った筈だぞ私の目的を達成する為に勇者が必要だとな。それに君は私の問いに前向きに検討すると言った筈だ。逃がすわけがないだろう」


 日本人666の特殊能力空気読心(リーディング・エア)を彼女は持ち合わせていなかったらしい。そりゃそうだ彼女魔王だもん。検討する、善処する、行けたら行くというのは分かりやすく問題を先送りにしつつかつうっすらと否定的な雰囲気を醸し出す事ができる。日本人なら誰しも「あ...コイツ行く気ねえな」と察することが出来る最終兵器が彼女には通用しなかった。むしろめっちゃ前向きに捕らえられて凄まじく面倒な事になりかけている気がしないでもない。...それに。


 あまり好きじゃないと言いつつ使い倒してるじゃないか...サタン読心。


「でもな魔王...「何で心ではマオって読んでるのに口では魔王って呼ぶんだ?面倒だろ?」」


「.....じゃあ佐藤でいいか?流石みファーストネームで呼び合う間柄でも無いだろう」


 俺の言葉を聞いた魔王は数瞬思考停止したかの様に固まったがすぐに納得し頷きながらポンと手を叩く。


「佐藤というのは私の事か!」


「そうだよ!お前絶対適当につけただろう!なんだ佐藤マオって、マオは明らかに魔王から取ってるし佐藤は取り敢えず数が多そうなのを選んだだけだろうが」


 そもそもなんでコイツが本物の免許証を持てているのかが分からない。戸籍とかどうなってんだ。


「戸籍は勇者に負けた時に部下の1人を政府に潜り込ませてどうにかしたが免許に関しては大学に通ってる時に自分で取ったんだぞ?」


「え?佐t「マオ」マオは大学出てるのか」


 俺は高校卒業した後そのまま就職したからな...そこから最初に入った企業で色々あって今いる会社に転職したんだけど。そうか.....マオの方が学歴上なのか...。なんとも言えない敗北感が胸を支配する。


「そんな事より、ほらっ着いたみたいだぞ」


 着いてしまった。くだらない話をしていたせいで対策も全く考えていない。


 見上げる程に大きな建物は平和を象徴しているかの様に白く新築みたいな輝きを放ち聳え立っている。それは塔の様にも巨大な学校の校舎の様にも見えるが間違いなくそれは日本が誇るヒーロー連盟、対ヴィランの総本山東京支部に間違いなかった。一部校舎に近い作りになっているのは特殊な能力に目覚めた人間がヴィランに対抗するための術を学ぶための学校になっているからだ。そこでヒーローになる為の教育を受けていて俺がわざわざ呼び出された理由に繋がっているのだが...。


「俺が人にモノ教えるなんて...ガラじゃ無いんだけどな」


 溜息と一緒に吐き出された言葉から分かるように今回呼ばれたのは現在この支部で学んでいる優秀な成績を出している特待生クラスの新人ヒーロー達に10年前東京事変を解決した英雄の手で教鞭を取ってほしいとの命令(いらい)があったからだ。俺から教えられる事なんて何も無いというのに。


 もどかしい気分を誤魔化すため胸元のタバコを探るがこの周辺一帯が全面禁煙になっている事を思い出す。守衛さんがこっちをガン見してらっしゃるので胸ポケットを探っていた何の成果もないまま引き抜かれズボンのポケットへと戻って行く。


「良いじゃないか堂々としていれば。勇者は私を倒して世界を救ったんだからもっと自分を誇るべきだろう。出なければ私の方が浮かばれない」


 相変わらず何が楽しいのか笑みを絶やさない。10年前もそうだ悲しそうな顔をしているくせにずっと笑って...。今は間違いなく俺をからかって楽しんでいるのだろうが。


 マオは堂々としろと言ってくれるが正直嫌で嫌で仕方がない。考えない様にしてマオの話しに付き合いながら歩いてきたわけではあるのだけど心の中では「この時間がずっと続けばい良いのに...」なんて恋人未満高校生男女ペアの甘酸っぱい青春の下校時みたいな事を言っていたけど実際その意味は進むも地獄戻るも地獄の八方塞がりのこの状況でいっそのことこの歩いている時間が一生ループしてぬるま湯の地獄を延々と繰り返したいという究極の現実逃避でしか無い。


 こんなくだらない事を考えていても時間は無情に過ぎ去っていって時刻は既にに約束の時間を20分も過ぎてしまっている。いい加減守衛さんも建物の前でピクリともしない怪しい男女の事が気になっているのかソワソワしている。昨日に引き続いて二日連続の職務質問待った無しだ。


「安心しろ守衛よりも先に声をかけてくれる者がいる様だぞ...おや?これは、懐かしいな随分成長したみたいだな」


 笑みを深くした彼女の視線を追ってみると建物の入り口から何やら気迫やらオーラを身に纏った少女がこちらに向けて歩み寄ってくるのが見えた。


 間違いない。怒りやらなんやらがごちゃ混ぜになって歪な笑顔になってはいたが彼女はこの東京支部の実質的なリーダーである元魔法幼女椎名霙その人だった。


 俺と共にヒーロー特待生の教鞭を予定の彼女だがもう途轍もなく怒っている。時計を見ればいつのまにやら先程から更に20分経って合計約40分の遅刻だ。...これは誰だって怒る。


「女性同伴の重役出勤ですか随分いいご身分ですね乾さん?...何か申し開きはありますか?政府から直々の命令に堂々と遅れて来る程の用があるなら是非聞かせていただきたいものです」


「遅れて誠に申し訳ありませんでした」


 自分に過失があってミスをしたら変に言い訳をせず素直に謝罪する。当たり前のことだがこれがかなり大切なことだと社会人やってて学んだ事だ。ちゃんと覚えておくんだぞ?。おじさんとの約束だ。


「とにかく、時間が押してるんです。この件は上に報告しておくとして早く授業を始めましょう」


 そう言い捨ててミゾレは早足で建物の中へと戻って行く。


 ...確実に許されるとは言っていない。


「勇者...一回りも年下の少女にど正論で叱られるのは流石に情けないぞ」


 肩に手を置かれ魔王に諭される。


 ですよね....。世知辛い。


 ♢


 そして舞台は魔法少女に肩にてを置かれ握り潰されそうになっている所へと舞い戻る。


 何がいけなかったんだ...。全ての問題は友情努力勝利とあと少々の財力とコネで何とかなると俺は週間少年ジ○ンプで学んだんだ。それさえ網羅すれば怖いものなんて無いと言うのに。


 というより10年前はポヨポヨうるさい奴等のささやかなバックアップと俺とミゾレとアキラの3人の力のゴリ押しで勝ったみたいなものだ。本当に教えられる事なんて何も無い。


 そんなコントのような光景を呆然と見つめる特待生ヒーローの集団の中から不遜な声が上がった。


「そんな情けないオッサンが本当に強いのかよ」


 只でさえ我の強い者が多いとされるヒーローの中で特待生とまでいわれ優秀と持て囃されているクラスだ。当然1人1人の個性は中々強い。今声を上げた談話室の椅子にだらし無く腰掛ける髪の一部に白のブリーチを入れているガラの悪い少年もそれなりにアクが強い。



 もうこの時点で乾真一の心境は帰りたいの一言に尽きるのだが肩を支配する痛みがそれを許さない。


「実に愉快だな」


 この場で本当の意味で楽しそうに笑っているのは魔王只1人だった。















読んで頂いて感謝感激です!!!!!!!!!

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