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世界を救った後就職したけど世の中世知辛過ぎてツライ  作者: 冷えピタ
元英雄サラリーマンの日常
8/25

7話 お隣さん

 首都圏某所マンションの一室。


 カーテンから溢れ出す朝日。スマートフォンから流れるけたたましい電子音が朝の到来を知らせてくれる。今時珍しい完全週休二日制の会社に勤めている俺はまだもう暫く惰眠を貪っても良い身分ではあるのだが用事が入っているのでそういうわけにもいかない。


 イマイチ覚醒していない頭を振って体を無理矢理起こしベットから這い出る。


 欠伸を1つ。コーヒーの為の湯を沸かしながら昨日の夜の事を考えていた。




 ♢




「私の物になれ勇気ある者よ。私と共に来れば世界の半分を与えよう」


 10年前と同じ問いをされる。コンビニ勤めしているとはいえ世界に王手をかけようとしていた化け物だ。軽々しい冗談の類いでは無いだろう。マオが未だに世界を手にする気があるのかどうか知らないけど俺はもう10年前と状況も考え方もまったく違っていた。


 その頃は硬い考え方しかできない子供だったけど流石に10年も経てば老成もする。


 全否定してまた敵対なんて面倒でしか無い。俺は学んだのだ。間違っていると自分が思ったとしても価値観なんて人それぞれでありわざわざそれを否定し己が是と思うことを押し付ける行為は正義では無いのだ。


 10年の歳月とある程度の社会人生活を経て形成された今の自分。それが出す答えが10年前と同じの筈が無い。俺は成長したのだ。否定だけでは無く許容し自分の中で考え答えを出す事が出来るようになった。


 苦労、挫折を経て俺が出した答え、それは———————-。


「前向きに善処します」




 ♢


 まごう事無き先延ばしである。


 簡易ベットに腰掛けコーヒーを啜り、タバコに火をつけた。


 あのあと会計を済ませてマオが何か言う前にさっさと帰ってきてしまった。代金を渡す時の店主の比喩では無く鬼の様な形相は夢に出てきそうなほどだったが大丈夫だろうか。夜道に気をつけた方が良いのだろうか。


 胸一杯に化学物質満載の煙を吸い込む。


「ん、...,まあマオ本人が来ない限り大丈夫か」


 独り言と一緒に味わい終わった煙を吐き出す。


 社会人生活の中で俺は自分の手に負えない問題はさっさと適切な人間にぶん投げた方が良いと学んだ。重要な相談事はケースにもよるけどその場で回答せず先延ばしにして持ち帰った方が良い場合もあると学んだ。


 今日は丁度ヒーローの東京支部に顔を出す予定だからマオには悪いけど報告するしか無いな。


 タバコを揉み消しマグカップをシンクに入れ水に浸けておく。そろそろ出かける準備を始めなければいけない時間だった。服装は面倒なのでいつも会社に行く時と変わらないスーツ姿だ。窮屈だからネクタイは外してあるけれど。


「そういえば今日って雑誌がゴミ出せる日だったかな」


 漫画雑誌も毎週買ってるとそこそこ溜まってくるものだ。28にもなってそんな物買っているとコンビニや本屋の店員さんの目が痛くて辛くなってくる今日この頃だけどヒーロー生活を謳歌していた頃引きずってるのかイマイチ買うのを辞めるタイミングが見つからない。というか正直最近また面白い作品増えてきて普通に楽しみになってきている。


 5冊くらいで纏めたものを紙製の紐でキツく縛った物が2つほど出来上がった。


「さっ行ってくるかな」


 面倒だけど仕方ない。ヒーロー本部からの頼み程度なら別に無視しても良いんだけど今回は政府から直々の要請だから流石に行かないわけにはいかない。


 俺はドアノブに手をかけそれを押し開いた。


「む、こんにちは」


 どうやらお隣さんがいた様だ。去年くらいまで空き家だった気がしたけどいつのまにか入居者がいたのだろう。顔見せには伺ってなかったけど挨拶くらいはしておかないとな。


「あーどうもこんにち...わ...」


 その瞬間俺の脳内に昨日のおでん屋で見た光景が駆け巡った。目の前に差し出された免許証。佐藤マオ、そして年齢、生年月日はイマイチ見られなかったが住所だけは見慣れた数字が並んでいるのが妙に印象に残ってしまった。


「んん?勇者じゃないか奇遇だな」


 見慣れて、書き慣れた数字。今だったらあれが見間違いでは無かったと確信を持てる。


 その答えが今俺の目の前にいるのだから。


 白く輝く一本一本透き通る様に艶やかな長髪。Tシャツとショートパンツから覗くすらりと長い手脚。昨夜見た時と同じように笑みを浮かべる凄艶な美女。元魔王「佐藤マオ」が雑誌を一纏めにしたものを手に佇んでいた。


「.....なんでここにいるんだ?」


「一年前から住んでいるからに決まっているだろう」


 ですよね...というか俺も隣に魔王が住んでて一年間気づかないってどうなのよ。


「そ、そうかじゃあ俺行くな!あーついでに雑誌捨てて来てやるよ」


 雑誌持ってることから目的地がゴミ捨て場な事は明らかなので途中までついてこられても困るから手元から攫ってさっさと退散しようとするけれど大都市を破壊出来る程の力を秘めているその細腕は雑誌を離さない。


「まあそう邪険にするな。何処かに出掛けるのか?」


「え?あぁ...まあ、な。そんな事より遠慮せず、雑誌くらい任せろ、な?」


「・・・・・」


 相変わらず雑誌を離さいまま何やら考え込むマオ。考えながら視線を漂わせるが一瞬その目がこちら向いた気がしてさらに怪しく輝いたように見えた。


 暫く考え込んだ後何か納得した様に頷き改めてこちらに視線を向けてくる。


「うむ、少し待て」


 そう言ってマオは部屋に戻ってしまった。


「え....」


 放置された俺は困惑するしかなかった。なんなのだろうか...。このままさっさと先に行っても言っても構わないかと考えても見たが普通に逃げても追いつかれるだろうし、万が一怒らせた場合今はちょっとした事情から対抗出来ないので大人しくする事に決めた。


「すまない、待たせたな」


 戻ってきたマオは手に持つ雑誌はそのままだったが格好はパリッとしたスーツ姿に変わっていた。俺と違いネクタイまで閉めていたけど女性の場合はネクタイは締めない、ないしはスカーフじゃ無かったっけ?。


「いや何でそんな格好を?」


 先程の部屋着とは違い明らかに外出する為の格好を見て怪訝な目をする俺に得意げな表情をするマオはため息つく位綺麗なものだったが嫌な予感しかしない。


「勿論勇者と一緒に行く為だよ」




 続いてその形の良い唇紡がれるは想像に難く無い、理屈では無いが確信を持てる。しかし信じたくは無い。



「ヒーロー東京支部へ」


「いや無理に決まってるだろう?殴り込みにでも行くのか?」


 どう考えても面倒ごとになる気しかしない、どうにかして諦めさせてさっさとこの問題を後輩に丸投げしたいが一緒に仲良く本部に行ってコイツの正体がバレた場合下手したら拘束されかねない。絶対に勘弁してもらいたい。


「ちょっとお腹痛くなってきちゃったな...そうだ今日は辞めt「勿論共に行くぞ」」


「さいですか」


 世知辛い...。


















読んでいただいて嬉しいです!!!!

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