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世界を救った後就職したけど世の中世知辛過ぎてツライ  作者: 冷えピタ
元英雄サラリーマンの日常
2/25

1話 とあるサラリーマンの話

  東京事変から10年の月日が流れた。


 災害の最中泣いていた子供達は成長し、瓦礫の山だった都市は復興を果たした。魔王によって完膚無きまで叩き潰された日本の現代文明は元通りどころかそれ以上の経済的成長を遂げた。


  その理由は皮肉にも魔王の行動に起因している。


  破壊された都市を一から作り直す事なんて偉業。指導者に求められる資質は並大抵のものでは無い。今まで日本を牛耳って来た政治家達では何もかもが足りないのだ。勿論凡庸な人間の中にも一角に優秀な者も居る。


  だがその時の傷ついた日本に必要だったのは秀才でも天才でも無く、鬼才。魔王を打ち倒した勇者とはまた違ったベクトルの英雄なのだ。


  幸いにもそれに足る者は現れ、謎の人物からの莫大な寄付も手伝い日本は立ち直ることが出来た。





 



  都内某所


  「困るな〜、遅刻なんて社会人失格だよ?」


  現在午前10時、出社予定時刻午前9時。まごう事無き遅刻である。


 オフィスにはパソコンのキーボードを弾く音とコーヒーの香りが漂っている。皆朝から面倒ごとに関わり合いになりたく無いのか真面目に目の前の仕事に向き合い叱られている人間になど目もくれない。


  しかし何事にも例外があり窓際の1人の男性社員は夜勤明けだろうか机に突っ伏し周りの目も気にせず睡眠をとっていた。


  今もなお上司のお叱りを受けている俺としては少々納得がいかない。


「聞いているのかね?」


  「はい、すいません」


  「はあ...何で遅刻したかくらいは聞いておこうか」


  「ヒーローとして世界救ってました」


  「は?」


  上司のポカンとした表情、突飛な発言により静けさに包まれたオフィス。


  一間置いて。


  クス...

 クスクス...

 ふふ


  冗談を聞き周りの人間を和ませた時の様な笑いではなく、嘲笑や憫笑や嗤笑の類い。だがそれは不思議と発言した者に向けられた物では無い様にも見える。


  「君ねえ...」


  呆れた様に呟く上司の口角も若干ではあるが上がっていた。


  先程まで叱られていた事など忘れて上機嫌の男性は尚も何か発言しようとしたが...。





  「GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO」






 咆哮。


  音の爆発と衝撃により窓ガラスの軋む音が響いた。


  一瞬で尋常なものでは無いと察することが出来る叫びを聞いたオフィスは阿鼻叫喚の嵐になっているかと誰もが思うだろう。


  「え、また?」

「今月多くない」

  「電車止まったりしたら困るんですけど」


  だが実際は全くそんなことも無く寧ろうんざりしている様な雰囲気さえ伺える。


  「仕事だ。早く行ってきたまえ乾君」


  上司の視線は目の前の社員を通り過ぎ窓際の絶賛お昼寝中の男性社員に注がれた。


  周りの同僚達の視線も一緒くたに突き刺さってくる中、乾と男性は睡眠を中断し呼ばれたボサボサの黒髪にどんよりと濁ったお世辞にも良いとは言えない目つきを窓の外に向けたままゆっくりと立ち上がった。


  「乾真一(いぬいしんいち)平社員。世界の平和を守りにいざ出撃してくるであります」


  ビシッと...とはとても聞こえて来なさそうなくたびれた敬礼をし彼、乾真一はオフィスを後にした。


「これ貰っていくぞ」


  「え、ちょっと先輩!?それ私のお昼ご飯なんですけど!!!」


  ...乾真一は後輩女子社員のパンを大きめの茶色の紙袋ごと強奪してオフィスをあとにした。


  彼乾真一は何を隠そう10年前魔王を討った勇者その人なのである。



 彼は今日も今日とて片手間にサラリーマン(窓際族)を営みながら世界をすくいにいくのだ。




 そして喧騒に満たされたオフィスに取り残された遅刻社員は上司の小言を聞きながらこう思うのだった。





 仕事やめよう。

 

 

 

読んでいただきありがたき幸せ( ´ ▽ ` )


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