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お父さんと望日は裸の付き合いじゃん。変なのー

「ボボボボボボ!」


 怒りの雄叫びともとれるような呻き声をあげながら、奴は俺の方を一瞥する。

 だが、蛙の面に水という言葉があるように、その言葉通り、蛙の面に水の効果は薄いようだった。何より、俺の放った水が、高圧水流と呼ぶにはまだまだ力の足りないものだったのだ。結果として、表皮にかすり傷を負っただけの奴を見て俺は、この攻撃が無駄であったということを痛感する。

先ほどと状況は逆転し、今は完全に奴の標的となっていることが分かった。少しでも動けばやられる――はっきりとそう感じた。圧倒的劣勢、俺は為す術がなく、その場で臨戦態勢を保ったまま立ち尽くすことしか出来なかった。


「何か……策は……」


 如何せんこのような戦闘は想定していなかったこともあり、俺が勘案するも妙案が生まれる気がしなかった。


「いっそのこと、奴の胃袋に侵入するってのは……」


 無謀ともいえる案が頭をよぎった時、奴の様子が一変する。


「ボボッボボッ……ボボ!」


 遂に向こうが痺れを切らし、反撃の姿勢を見せてきたかのように思われた。それに合わせて俺も身構える。


 だが、予想とは裏腹に、忽ち空に真っ赤な血飛沫が、川岸に咲く彼岸花のように噴出した。

 それが紛れもなく俺の目の前のカエルから噴き出したものであることを理解した頃には既に、俺の眼前に裸の少女が血みどろのまま腕組みして直立していた。


「お父さんが助けてくれないから、自分で出てきちゃった」


 赤ずきんも顔負けの強さの少女、跡川望日。囚われの少女は自らの力で窮地を脱した。そんな豪傑な彼女は、不満げに俺の方をまじまじと見詰める。


「もう少しカッコいいところ見せて欲しかったなあ。望日を救い出してくれるって信じてたのになあ」


 ぶつくさ言う望日に引け目を感じながら俺は胸を撫で下ろしていた。


「望日……無事で良かった……」


 そうして、わが娘を抱き締めようとしたところ……


「服が……」


 全裸の娘を見て赤面する俺――カエルの体内で溶解してしまったのだろうかと邪推しながら、さっと望日から目を逸らす。一方、望日は、俺が着ていたシャツを決まり悪い様子で手渡したのを見て言った、


「何を今さら緊張してるの? お父さんと望日は裸の付き合いじゃん。変なのー」


 全てを見られても全く動揺していない様子だった。これが、純粋無垢ってことなのか? はたまた俺は試されているのだろうか……


「と、とりあえず、脅威は去ったってことで良いんだよな? このカエルには悪いことをしてしまったけど、こっちも命懸けだったし」


 自分に言い聞かせるように、そして、話題を逸らすように俺は言った。


「むむむ、お父さん、話を逸らした! まあ、そうだね。《ライレイン》に向けて再出発ー!」


 すっかり緊張の糸が切れ、安堵の表情を浮かべる俺と望日。再び目的地に向かおうとする自分たちを鼓舞していた。


まさにこの瞬間、俺たちは最も油断し、驕っていた瞬間であったといえるだろう。

だから俺たちは気がつかなかった。


「ん? 雨が強くなってきたな……」


 油断大敵の言葉通りである。


「なんか風もびゅーびゅー強くなってる気が……」


 俺は自らの過ちを自覚する。


「さっさと目的地に向かうぞ! 望日!」


 黒風白雨に気を取られ、忍び寄る危機を察知できなかったことを。

 カエルはなぜ泣くのか? 楽しいから? 嬉しいから? あるいは、悲しいから?

 違うだろ。




――メスを呼んでいたんだ。




「あっ……」


 後ろからやってきたメスのヒキガエルは、俺と望日をぺろりと丸呑みにした。二人はその接着性の高い舌に絡め取られ、急激に掛った重力加速度の影響で一瞬にしてブラックアウトした。

 これで、跡川朱冴と跡川望日は仲良くカエルの胃袋に誘われる。


 以降、カエルの胃袋編の始まり!


――なんてことはない。



 月夜の蟾蜍とお父さん、軍配は巨大なヒキガエルに上がった。生憎のところ、相手のオスは望日によって肉塊となり果ててしまったが、それでも跡川親子という最高の餌を手に入れることができたのだからカエルにとっては幸運なことだろう。



 不幸なのは跡川親子だけ。



 舞台は白銀の世界ガランサスへ……



次回は7月12日7時更新です

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