34 謎の生物登場
用意ができたところでリビングのハンモックにいるイヴァンとシロに声をかける。
今日は、暇だからとシロも一緒に行くらしい。
いつも暇だと思ってたけど。
玄関を出ると渋々イヴァンに跨る。
すぐ近くなら歩いて行くと言い張ったのだけど、歩いて行ったら日が暮れると言われ、昨日は近くだって言ったじゃないのと私が反論すれば、我に乗ればすぐだという意味だと返された。
できれば暗くなる前に帰りたいので、仕方なく私が折れた。
はぁ。
久しぶりのジェットコースター・・・。
少しの我慢だからと思いっきりイヴァンの首にしがみついてモフモフの毛に気を紛らわ・・・そうとしたけどやっぱり無理ーっ。
チラッとイヴァンの頭の上を見れば、とぐろを巻いたシロが気持ち良さそうにしている。
怖くないの!?
思わず心の中で叫んだ声にシロがのんびりした口調で返してきた。
『なかなか気持ち良いぞ。水の中を泳ぐのは格別じゃが、風の中というのもまた良いものじゃな」
シロの余裕が羨ましい。
それでも何とかサーバル草の生えているという森の入り口に着いた。
これから採取だというのに私はすでにヘロヘロだ。
気を取り直してゆっくりと森の中を進んでいく。
「どの辺りで見たの?」
『もっと奥の方だったように思うが・・・』
奥へ向かって進んでいくと、まだ昼前だというのに薄暗く感じるほど木々がうっそうと茂っていた。
何故か鳥の声一つ聞こえない。
なんなの、この不気味な感じは・・・。
あっ、まさか。
「ねぇ、イヴァン。この森って普通の森なんだよね。ということは魔物なんかもうじゃうじゃ出てくるんじゃないの?」
『問題ない』
「いや、それはわかってるんだけど。イヴァンは強いし、結界も張ってくれてるんでしょ」
「それだけではない。風の精霊は四方八方に殺気を飛ばして魔物どもをけん制しておる。この森には低級な魔物しかおらぬようじゃから怖がって誰も近寄らぬ」
笑いながらシロが教えてくれた。
「そうだったの!?ありがとう、イヴァン」
口ではなんだかんだ言っても結局イヴァンは優しいのだ。
イヴァンの心遣いを嬉しく思いながら、どんどん歩を進める。
小一時間は歩いた頃、突然目の前に岩山が現れた。
見上げると、かなり高さのある山のようで、中腹にはぽっかりと穴が開いている。
洞窟かな。
ぼんやり見上げる私に、イヴァンが、
『あの洞窟に生えておったはずだ』
「洞窟の中に?」
『あぁ。サーバル草は日の光を嫌う。ああいう洞窟や木のうろに生える。あの高さでは冒険者どももなかなか登れぬであろうからたくさんあるだろう』
「そうなんだ。でもどうやってあそこまで・・・」
行くの?と言いかけて、ああここに便利かつ怖い乗り物があったと思い出す。
『何やらすっきりせぬがまあ良い。早く乗れ』
さすがにあそこまで自分では登れないとわかっているので、仕方なくイヴァンに跨る。
目の前の洞窟までだったので、怖いと思う間もなく着いた。
奥を覗き込むが真っ暗で何も見えない。
私はアイテムバッグから電池式のランタンを取り出した。
以前に防災用にと購入したものだけど、念のためにアイテムバッグの中に入れておいたのだ。
スイッチを入れると明るく足元を照らしだした。
「イヴァン。このまま進んでも大丈夫?いきなり魔物とかに襲われたりしない?」
『大丈夫だ。ここには何もおらぬ』
真っ暗でいかにも何かいますみたいな雰囲気の洞窟だったので、ちょっと不安だったけど、イヴァンの言葉にホッとする。
さっさと歩き出すイヴァンの後ろを遅れないようについて行く。
少しジメッとしていて、何だかかび臭い。
本当にこんな所に生えているのかしら?
そう思ったとき、イヴァンが声を上げた。
『あったぞ』
見ると、前方がぼやっと光っている。
ランタンをかざしてみると、確かに草のようなものが見える。
近くまで寄ってみると黄色い草が生えているのがわかった。
「これがサーバル草?」
『そうだ』
周りを見渡すとあちらこちらでぼやっと光っている。
その全てがサーバル草のようだ。
サーバル草を摘みながら奥へ奥へと進んで行く。
しばらくそうやって進んで行くと少し開けた場所に出た。
「あら?何だか地面が揺れているように見えるんだけど・・・」
揺れる地面を良く見ようと歩き出すと、すぐにイヴァンの声が飛ぶ。
『気をつけろ。そこは湖だ』
ピタッと足を止めた私はイヴァンのを振り返り、確かめるようにつぶやいた。
「湖?」
『そうだ。湖というには小さいが水たまりというには大きい』
視線を前に戻し、慎重に近づいていく。
ランタンを掲げると、ランタンの光を反射して湖面が揺らめくのがわかる。
「どうしてこんな所に湖が・・・」
岩山の中腹にある洞窟の奥にある湖だから地下水ってことはないわよね。
やっぱり雨水がたまってできたのかしら。
そっと手を水の中に入れてみる。
「冷たいっ!」
雪解け水のように冷たかった。
手がジンジンするほどだ。
その時、シロののんびりした声が洞窟に響いた。
「ラシュートにある我のねぐらのようじゃな。もちろんこれよりもっと広いが」
「えっ?シロの家はこんな感じなの?」
「そうじゃ。なかなかに快適じゃった」
私からしたら、寒々しいとしか感じられないけど。
そう思ったら何だか悲しくなってきた。
「シロっ。ごめんなさいっ。良かったら今日から一緒に寝よう?寝室に水槽を用意するから。ねっ、そうしよう?」
「我は別に風の森の湖でもかまわぬが・・・。まぁ、サキがそう言うのなら一緒に寝てやらんでもない」
『お前などと一緒に寝たくはない。今まで通り、湖で寝ればよかろう』
「イヴァン、そんなことを言わないで。みんなで一緒に寝よう?」
会話に割り込んできたイヴァンを優しく撫でながら、私は言った。
『・・・。好きにすれば良い』
「ありがとう、イヴァン」
思わずイヴァンの首元にすりすりする。
『もうここはあらかた取り終えただろう。行くぞ』
「はーい」
踵を返して歩いて行くイヴァンについて行こうと歩き出したとき、目の端に何か赤いキラッとしたものが映った。
何かしら?
近づいてみると、湖の浅い所に何か落ちている。
水の中に手を入れて拾い上げると、小さな赤いビー玉だった。
「今度は赤いビー玉・・・。何だか最近ビー玉に縁があるみたい」
手の中でビー玉を転がしながら考えていると、イヴァンが少しイラついたように、
『何をしている。早くしろ』
「ごめんっ。今行くわ」
私は赤いビー玉をアイテムバッグの中に入れると慌ててイヴァンの側まで駆け寄った。
洞窟を出て、また森の中へ戻るとサーバル草を探し始めた。
木のうろだとか茂みの後ろだとか。
洞窟で見つけたほどは見つからなかったけど、それなりの量は手に入れることができたと思う。
それにサーバル草以外の薬草もたくさん見つかった。
薬草の宝庫だ。
時間もそろそろお昼時だろう。
私のお腹がお昼ご飯が食べたいと主張している。
「イヴァン。シロ。そろそろお昼にしようか。どこかもっと明るくてご飯を食べるのにいい場所ない?」
さすがにこんな暗くてうっそうとした場所でピクニックシートを広げたくない。
やはり明るい太陽の下、みんなで楽しく食べたいよね。
『森を抜けた先に確か広々とした草はらがあったはずだ。何もないがここよりましだろう』
森を抜けるべくさらに奥を目指して進んで行く。
二十分ほど歩いた頃だろうか。
森が突然終わりを告げ、目の前に緑一面の大地が広がって・・・いるはずだった。
イヴァンの言う通りならば。
でも、今私の目の前にあるのは一面の焼け野原。
そして、焼け焦げて生きているのかもわからない数人の人影と、二足歩行の白い生き物。
何なの!?
何があったの!?




