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のんびりまったり異世界生活  作者: 和奏
第二章 異世界はやっぱり異世界です
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32 私は甘い

 ユラに別れを告げ風の森に帰って来ると、おやつが食べたいと言うイヴァンともうすぐ晩ごはんだからダメだと言う私はしばらく熱き攻防を繰り広げていたけど、結局イヴァンの頑固さに負け、おやつを出すハメになった。


 本当にもう。

 子供じゃあるまいし、ここまでおやつにこだわる必要ある?

 千年生きてるんだか何だか知らないけど、小さな子供と一緒じゃない?

 むしろ年を経てる分、始末が悪い。


 ブツブツ文句を言いながらもおやつを作る私はかなり甘いんだと思う。

 しいて言えばダメだとわかっているのに欲しがられるままにご飯を与え、ペットを丸々と太らせてしまい獣医さんに怒られる飼い主だ。


 はあ。

 甘々なのは自分でもわかってるんだけど、ついわがままを聞いちゃうんだよねえ。

 ダメだなあ。

 正しいペットの飼い方なんて本、読んだ方がいいのかも。


 そんなことを考えながら手を動かしていく。


 卵、砂糖、牛乳、溶かしバターをボウルに入れて混ぜ合わせ、そこにホットケーキミックスを入れてさらに混ぜる。

 耐熱容器の型に流し入れ、レンジで三分加熱すると完成。


 簡単にできる蒸しパンだ。


 型から取り出し、前に手作りしたイチゴジャムを添えて、イヴァンの前に置く。

 嬉々として平らげていくイヴァンを横目に見ながら、小さめにカットした同じものをシロの前に。


 美味しそうに食べる二人を見ていると、まあいいかなんて思ってしまう。


 厳しくするのは明日からでいいや。


 どこまでも甘い私だった。


 晩ご飯は何にしよう。

 今、おやつを食べてるから軽めのものでいいか。

 

 冷蔵庫を覗きながら考えていると、冷凍室に昨日届いたばかりの冷凍讃岐うどんが目に入った。

 

 そうだ、鍋焼きうどんにしよう。

 まだ夜は肌寒いしちょうどいいわ。


 収納棚から一人用の土鍋を三つと大きな土鍋を一つ。

 一人用の小さなものは私とシロとユラ、大きな土鍋はもちろんイヴァン用だ。

 小さな鍋ではいくつあっても足りない。

 ちなみに一人用の土鍋は四つある。

 夫と私、和奏と洸大の分だ。

 

 まず、具材の準備。

 鶏肉代わりにマトルトサーペントの肉を一口大に切る。

 長ネギは五ミリ幅に、椎茸は軸を落として削ぎ切りに、油抜きした油揚げは一センチ幅の短冊形に切る。


 「ほうれん草か何かあればよかったんだけど、仕方がない。またこれを代用しよう」


 アイテムバッグから取り出したのは、もちろんリオラ草。

 それとカウラリア草。


 このコリコリとした食感がお鍋に合うと思うの。


 それらを沸かしたお湯でサッと茹でて水気を絞り、食べやすい長さに切る。

 具材の準備が出来たらそれらを土鍋の中へ入れていく。

 別鍋にだし汁、醤油、みりんを合わせ、強火でひと煮立ちさせ、マトルトサーペントの肉を入れて加熱し、アクを取る。

 マトルトサーペントの肉と解凍した讃岐うどんを入れ、だし汁を注いでいく。

 さらにひと煮立ちさせたら卵を割り入れ、最後に天かすを散らし、蓋をして卵が半熟になったら完成。


 先に夕食をユラの所に届けに行く。

 今日は一日中一緒にいたからか、私が帰るとき、ユラがいつも以上に寂しそうに見えて辛かった。


 こっちに持ってきた枝、早く成長しないかしら。


 すでにテーブルにスタンバっている二人の前に土鍋を置く。

 

 「おやつを食べたばっかりだけど、食べれるの?」


 『「問題ない」』


 息ぴったりな返事が返ってきた。

 

 あまり関わり合いになることはないって前に言ってたけど、案外この二人、気が合うんじゃないの?


 はふはふしながらうどんを食べ終えると、待ってたかのようにデザートの催促。


 「ついさっき、かなり遅めのおやつ食べたよね。それなのにデザートがいるの?」


 『いるに決まっておる』


 やっぱりいるんだね。

 もういいって言ってくれるかもってちょっぴり期待してたけど甘かった。


 「仕方ないなあ、もう」


 簡単にできるものって何かあったかな。


 パントリーの中に視線を走らせ、隅っこの果物かごの中にいくつかのリンゴを見つけた。


 「しまった。これっていつ買ったんだっけ?」


 リンゴを手に取り思い出してみるけど、つい最近ではないことは確かだ。


 「よし、これを使ってコンポートを作ろう」


 リンゴは全部皮をむき、芯を取って八つ切りにする。

 鍋に水、砂糖、レモン汁、リンゴを入れて火にかける。

 リンゴに透明感が出てきたら、蜂蜜を加え、少し待ってから火を止めると完成。


 少し冷ましてから二人の前に出す。

 美味い美味いと食べてくれる二人を見ていると、やっぱり幸せな気分になってきて、自然と頬が緩んでくる。


 幸せなんて人それぞれだよね。

 この子たちがいてくれる、それだけで私は十分幸せだわ。


 リンゴのコンポートを食べ終えた二人はリビングのハンモックへ行き、二人仲良くハンモックを楽しんでいる。


 この二人、いつの間にこんなに仲良しになったのかしら。


 そんなことを考えながら、私は後片付けを終えた。


 桜の香りの入浴剤を入れたお風呂を堪能して寝支度を整え、ベッドに入ると唐突に思い出した。


 しまった。

 今日採取した薬草、ギルドに持って行くの忘れてた。

 シロにもらった水草も。

 まあ、アイテムバッグに入れたままだから問題はないんだろうけど。

 それに今朝摘んだ薬草もけっこう食べちゃったからまた採取して補充した方がいいよね。

 あぁそうだ。

 サーバル草とアトリア草のこと、イヴァンに聞かなくちゃ。


 もう寝ちゃったかしらとそっとイヴァンに目を向けると、バッチリイヴァンと目が合った。

 まだ、起きていたみたいだ。


 「ねえ、イヴァン。エミリさんにサーバル草とアトリア草、頼まれたでしょ。風の森に生えてるの?」


 イヴァンは大きなあくびをしながら、面倒くさそうに教えてくれた。


 『アトリア草なら森の奥に生えておる。サーバル草はこの森にはないな』


 「そうなの・・・。サーバル草はどこへ行けば採取できるの?」


 『この辺りだと・・・ここから西にある森で見かけたような気がするな』


 「その森まで遠いの?」


 『いや、ここからすぐの所にある』


 「じゃあ、明日連れて行ってくれる?休み明けから教会で治療師として働くから、それまでに一度、どんな薬草か見ておきたいの。お願い、イヴァン」


 手を合わせて、イヴァンに頭を下げる。


 ・・・ちょっと待って。

 イヴァンは私にいつでも上から目線で頼んでくるけど、頭を下げたことって一度もないよね。

 納豆を出したときに下手には出たけど、頭を下げて言われたわけじゃないし。

 なのに私だけ頭を下げて頼むなんて、何だか理不尽だわ。


 何だか納得がいかないわと頭を上げると、ニヤッと意地悪そうに笑うイヴァンがいた。


 『なら連れて行かぬとも良いのだな。我とてそんな面倒なこと、せずとも良いならそれに越したことはない』


 キーっ!

 なんか、むかつくんですけどっ!


 でも結局私が折れることになる。


 だって、ないとエミリさんが困るんだもの。

 仕方ないじゃないっ。


 もう一度頭を下げて、イヴァンにお願いする。


 「明日、サーバル草を摘みに連れて行ってください。お願いします」


 『仕方あるまい。サキがそれほど頼むなら、連れて行ってやらんでもない』


 うぅ。

 やっぱり理不尽だ。

  

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