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のんびりまったり異世界生活  作者: 和奏
第二章 異世界はやっぱり異世界です
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閑話 アレスⅡ ①

 早紀の泣いている顔が頭から離れない。

 そんなつもりじゃなかった。

 毎日、言い訳しか出てこない。

 家から出ない俺を心配したウッドやみんなが代わる代わるやって来るが、話をする気も起きず、適当に返事をして閉じこもっていた。

 このままじゃダメなのはわかっている。

 でも早紀に本当のことを告げるのが怖い。

 あなたのせいだと非難されることが怖いのだ。

 どうすればいいのかわからない。

 そんな風に俺の思考は同じ所をグルグル回っていた。

 それでも数日たつと少し頭が冷えてきたのか、外の空気が吸いたくなって久しぶりに外へ出た。

 行く当てがあるわけでもないので、ただ闇雲に歩いた。

 あちこちで知り合いが声をかけてくるのにうんざりした俺は家へ帰ることにした。

 もう少しで家に着くというとき、あいつに会った。

 シルバーウルフ・・・いや風の精霊(フェンリル)か。

 今思えばあいつがシルバーウルフじゃなくフェンリルだったというのは衝撃の事実なんだが、あのときの俺はそれどころじゃなかったからな。

 その、早紀がイヴァンと呼ぶフェンリルが目の前にいた。


 「どうしてお前がここに・・・」


 驚く俺にあいつは言った。


 『・・・誰だ、お前は・・・』


 思わずコケそうになったが、すぐあいつの声が聞こえたことに驚く。


 『あぁ。先日死にかけた冒険者か・・・』


 またしてもコケそうになるが、本当のことなので何も言えねえ。


 「・・・お前・・・」


 話せるのかと言いかけて早紀と話しているんだから当然のことかと思いなおす。


 「どうしてここにお前が?ここは得体の知れないものが住んでるって噂のある家だろう?・・・まさか早紀もここに?」


 『・・・お前は一体何者だ?何故サキと同じ匂いがする?』


 あいつは俺の質問には答えず、逆に質問で返してきた。


 早紀と同じ匂い?


 『どういうことだ?何故お前は年を経たサキを知っている?我も知らぬサキの姿を・・・』


 困惑の表情を浮かべるフェンリルに俺の思考が読まれているのかと思い至る。

 だったらいっそ何もかも話してしまおうかとも思ったが、こいつの口から早紀にバラされるのも嫌だ。

 うだうだと考え込む俺にあいつは呆れて言った。


 『何とも支離滅裂な思考だな。まるでサキのようだ。あやつもすぐあちこちへ思考が飛ぶ。それはそれでおもしろいがな』


 ニヤリと口元を歪めるフェンリルに思わず笑いが漏れる。

 そんな俺を睨みつけながらあいつは言った。


 『洗いざらい話せ。隠し立ては許さぬ』


 このときの俺はもう隠す気もなくなり、全てをフェンリルに話した。

 俺の傲慢で身勝手な振る舞いの全てを。


 俺の話を最後まで聞いたフェンリルはうぅと低く唸りながらも納得したように頷いた。


 『つまり、サキが風の森に現れたのは女神の仕業だったのだな。いたずら好きの精霊王の所業かと思っておったが、なるほど合点がいく。サキの家には精霊王が風の森に張ったのとは別に結界が張られていた。あれは女神の張ったものであったか。お前の願い通り、サキが危険にさらされぬよう風の森に現れたのだな。そして我と出会った。いつもなら滅多に立ち寄らぬ場所であったが、何故かあの日はあそこで休みたくなり足を踏み入れたのだが、あれは偶然であったか、それとも何者かの意思が働いておったのか、今となってはわからぬが、どちらにせよ我にとっては僥倖であった』


 にこやかに言うフェンリルに殺意が湧きそうになる。


 『だが、見た目に反してサキは強い。それは我より付き合いの長いお前の方がよく知っているのではないか?あやつはいつまでもくよくよしておらぬ。いや最初からくよくよなどしておらんかった。それなのに男のお前がいつまでくよくよしておるのだ。鬱陶しくてかなわぬ。全てのことはなるようにしかならぬ』


 フェンリルのその言葉に俺は声も出なかった。

 フェンリルの言う通りだ。

 早紀はか弱そうに見えて案外強い。

 適応力もある。

 でも・・・。


 「俺は早紀を泣かせた。それも二度もだ。そりゃ、最初のは死にたくて死んだんじゃねえから仕方ないとしても二度目は・・・」


 『泣かせたかったのか?』


 「そんなわけねえだろっ。でも結果的に早紀を泣かせちまった。ずっと笑っていて欲しかったのに」


 『心配せずともよい。確かに泣いたこともあったろうが、今のサキはいつでも笑っておる。我がいつも側におるからな』


 なんかムカつくぞ、こいつ。


 「それは俺の役目だったんだ。いつでも早紀が笑っていられるように側にいて幸せにしてやりたかったのに」


 『・・・。お前にできぬというのであれば我がしてやろう。ゆえに心配するでない』


 「はっ!?お前何言って・・・」


 「あっ!!」


 最後まで言い終わらないうちに声が聞こえ、声の主を見るとそこには会いたくて会いたくなかった早紀がいた。

 とっさに俺は身を翻して逃げた。

 だが、俺を呼び止める早紀の声に思わず足を止めてしまった。

 背中に早紀の視線を感じて体中に緊張が走る。

 上位魔物と対峙したときだってこれほど緊張したことはなかった。


 「ごめんなさい。知らないうちにアレスさんに酷いことをしてたんですね。本当にごめんなさい」


 少しも悪くない、むしろ被害者である早紀の謝罪の言葉を耳にした俺は慌てて早紀に言った。


 「違うっ!早紀が悪いんじゃないっ。早紀は何もしてない。むしろ俺が早紀に酷いことをしたんだ。だから・・・」


 俺はこれ以上言葉を続けられず、黙ってしまった。

 そんな俺に早紀は、


 「私、何もされてませんよ?むしろよくしてもらって感謝してます。それなのにどうしてそんなことを言うんですか?」


 わけのわからないといった顔をする早紀と視線を合わすことができず、下を向いたまま、


 「だから俺が早紀を・・・」


 『サキ。昼飯はできたのか?』


 先を続けようとした俺の言葉を遮ってフェンリルが言った。


 「ちょっと待って、イヴァン。今大事な話をして・・・」


 『飯だ』


 「だから今・・・」


 『飯だ』


 「・・・」


 早紀は諦めた様子でため息をついた。

 そしていいことを思いついたとでもいうように俺を見て言った。


 「アレスさん。お昼がまだなら一緒にお昼ご飯を食べませんか?」


 「えっ?早紀の手料理!?いや、しかし・・・」


 く、食いたい。

 でもこのまま一緒にいたら必ずさっきの話になる。

 どうすればいいんだ。


 早紀は悩む俺の腕を取り、家に招き入れた。

 俺もされるがままについて行く。

 食卓の椅子に俺を座らせると向かいの椅子に座った。

 

 「ここは早紀の家なのか?お化け屋敷と呼ばれている家だろう?大丈夫なのか?」


 俺も噂だけなら聞いて知っている。

 最近では気味悪がって全く買い手がつかないことも。

 お化けが本当にいるかどうかはわからねえが、危険な場所なら早紀を置いておきたくねえ。


 心配する俺に早紀は笑いながら言った。


 「この家は私が買ったんです。いつまでも野宿してるって嘘つくのも嫌ですからね。それにこの家に住んでるお化けってこの子のことなんですよ。ユラ、出てきて」


 早紀の呼びかけに応じて何かがゆっくりと姿を現した。


 ・・・海月だった。


 「・・・これは・・・?」


 「大地の精霊だそうですよ。といっても下位に当たる精霊だそうですけど」


 「精霊・・・」


 これが!?

 どう見ても海月だ。

 早紀の好きな海月。

 年に何回かは水族館に見に行ってたし、俺だって一緒に行ったことがある。

 早紀がこっそり海月の写真集を買っていたことだって知ってる。


 驚く俺に早紀はさらに驚きの人物を紹介した。


 「この子はあのときの水の精霊なんですよ。今は人型に変異してますけど」


 「えっ?水の精霊(アクエ)?白蛇の姿だっただろう?」


 早紀の手のひらに乗る小さな人間を凝視する。

 男の俺が見てもイケメンだと思う小さな男を。


 「蛇の姿のシロと一緒に食事をするのには少し抵抗があって・・・。そしたらシロが人型に変異してくれて、今では食事のときはこの姿になってくれるんです。二人ともかわいいでしょ」


 海月とイケメンの小人を胸に抱きしめながら嬉しそうに笑う早紀を見て、海月と小人に殺意が湧きそうになるがグッと我慢した。


 こんなのでも一応精霊だ。


 「お口に合うかどうかわかりませんがどうぞ、召し上がってください」


 早紀に勧められたのはいなり寿司だった。


 懐かしい・・・。


 久しぶりの早紀の手料理が俺の好きだったいなり寿司だなんて・・・。

 最初はたまたま近所の豆腐屋で売ってた味付きの揚げを使って作ったらそれがすごく美味くて、俺が気に入ったと知った早紀はこの味を再現しようと何度も試行錯誤しながらやっと作ったもので、同じものができたと思うのって嬉しそうに言った早紀の顔を思い出す。

 俺のために一生懸命作ってくれた味・・・。


 そんなことを考えていたせいで、俺は自分でも気づかないうちに「いただきます」と唱えていた。


 「そんなに心配しなくても毒なんか入ってませんよ。・・・って今いただきますって言いました?」


 しまったっ。

 この世界では食事の前に簡単に神に祈りを捧げてから食うのが普通だ。

 神なんか信じてねえからと祈りを捧げることすらしねえ奴も多い。


 「あっ、いや、その・・・」


 なんて誤魔化せばいいんだと焦る俺に助け舟を出したのは、何故かフェンリルだった。


 『我が教えた。サキの手料理を食うなら当然であろう?』


 「そうなんだ・・・。びっくりしちゃったよ。何で知ってるのかなって」


 椀にみんなの分の汁物を入れる早紀を見ながら、早紀の横にいるフェンリルを盗み見る。

 

 『お前が何を気にしているのか全くわからぬし、お前が何者であろうとも我には関係ないことだ。それにサキに真実を告げたところでサキが元居た場所に戻れるわけでもあるまい。人は短い生しか生きられぬ。小さなことをいつまでも気にしていても仕方なかろう?』


 フェンリルの言葉に俺は黙るしかなかった。


 そんなことはわかっている。

 ただ・・・俺が弱いだけだ。


 「リオラ草と花麩のお吸い物です。一緒にどうぞ」


 「リオラ草?」


 「はい。葉物野菜に代用できそうだったのが、リオラ草だったんです。案外いけますよ」


 「薬草を料理に使うなんて初めて聞いた」


 「そうなんですか?昨日は天ぷらにしてみましたけど、美味しかったですよ」


 「薬草の天ぷら・・・」


 絶句する俺に早紀は心なしか得意気に、


 「リオラ草以外にもフォルモ草とカウラリア草も天ぷらにしてみましたけど、それなりに美味でした」


 「・・・薬草は売った方がカネになるからな。料理に使うなんて発想がねぇんだろうな」


 「それは暗に私が変わり者だって言ってます?」


 「えっ?いやっ、そうじゃないっ。そうじゃなくてただ単に食材として認識してねえってだけでっ。だから別に早紀がどうのってことじゃなくて・・・」


 焦る俺を見て、早紀は突然笑い出した。


 「ごめんなさい。冗談なのにあたふたするアレスさんを見たら、何だか笑えてきて。そしたら笑いが止まらなくなっちゃって・・・」


 心から楽しそうに笑う早紀を見たらちょっと安心した。


 「早紀が楽しいのならそれでいいか・・・」


 いつまでも笑う早紀に俺も笑みがこぼれる。

 そこへフェンリルの怒った声が響いた。


 『いつまで我を待たせるのだっ。早く食わせろっ』


 それを合図に俺たちは食事を開始した。


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― 新着の感想 ―
[一言] 食べなくても問題が無いはずなのに空気読まないゴリ押しメシメシの頻度が非常に高過ぎて閉口する そのせいでまっっったく話が進まないのはやり過ぎではないですか?
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