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のんびりまったり異世界生活  作者: 和奏
第二章 異世界はやっぱり異世界です
89/160

29 挿し木といなり寿司とアレスさん

 風の森の家に戻ると、やりかけの挿し木をする。


 「ちょっと長く水につけすぎたかしら?」


 水につけたままにしておいた枝を水から出し、準備しておいた鉢に植えると水をたっぷり与え、鉢を日陰に移動させる。


 「どうかなあ。ちゃんと発根するといいんだけど・・・」


 その後、シャワーを浴びて汚れを落とし、昼食作りを始める。


 朝冷蔵庫を開けたとき、奥に油揚げを見つけたので、お昼はいなり寿司にしようと決めていた。

 お昼に炊き上がるようにセットしていたのでご飯の準備もバッチリだ。

 

 油揚げをまな板に載せ、お箸を転がして開きやすくしておく。

 半分に切って、熱湯をかけ油抜きする。

 鍋にだし汁、砂糖、醤油、みりんを入れて火にかけ、油抜きしたおあげを入れて煮汁が少し残るくらいまで煮含め、冷ましておく。

 炊き立てのご飯に、砂糖、塩を混ぜた酢を入れ、切るように混ぜる。

 混ぜ終えたら三等分にし、一つには黒ゴマを、一つにはしそふりかけを、残りの一つにはたくあんを小さく刻んだものを入れて、それぞれを混ぜ合わせる。

 俵型に握って汁気を切ったおあげに詰めたら完成。


 それからもう一つ、菜の花と花麩のお吸い物・・・と言いたいところだけど菜の花がない。

 春らしくていいのに。

 仕方がないので、リオラ草で代用してみた。

 リオラ草を、塩を入れたお湯でサッと茹でる。

 ざるにあげて冷まし水気を切る。

 花麩をぬるま湯で戻す。

 鍋にだし汁をいれてひと煮立ちさせ、薄口醤油と塩を入れて味を調える。

 花麩を加えた後、溶き卵を流し込みそのままふたをして少し蒸らす。

 最後に茹でたリオラ草を入れてさっと温めると完成。


 念話で湖にいるであろうシロを呼び、お昼ご飯ができたと告げる。

 返事があったと思った次の瞬間、目の前にシロが現れた。


 転移、それは何とも便利な魔法なり。


 「風の精霊(フェンリル)の気配がせぬがどうした?サキの近くにあやつの気配がないなど珍しいこともあるのだな」


 「カイセリの街に買った家にいるのよ。ここは結界で厳重に守られていて安心だからって。さっき、カイセリの家を大掃除して綺麗にしたの。だから向こうでお昼ご飯を食べようと思うんだけど、シロも一緒に行かない?ここで一人で食べるのも寂しいでしょ。向こうに行けばユラも紹介できるし」


 「ユラ・・・大地の精霊か・・・。そうだな。我も行く」


 話がまとまったので、すぐさま準備をする。


 大皿に乗せたいなり寿司にラップをかけ、お吸い物用の椀と箸を一緒にアイテムバッグに入れた。

 それから人型に変異したシロを肩に乗せ、お吸い物の入った鍋を持つとカイセリの家へと転移した。


 「イヴァンっ。ユラっ。お待たせーっ。お昼ご飯持ってきたよっ」


 大きな声で二人に声をかけながら、キッチンの大きなテーブルの上にいなり寿司の乗った大皿や汁椀、お箸をアイテムバッグから取り出し並べていく。

 するとすぐにユラが現れた。

 ゆらゆらと嬉しそうだ。


 「ユラ、この子がシロ。水の精霊なんだって」


 やはりシロが上位の精霊だとわかるのか、少し怖がっている。

 ううん、怖がってるんじゃなくて戸惑ってるって感じかな。


 「そりゃ、急にこんなに上位の精霊が現れたらびっくりするよね。大丈夫よ、ユラ。シロは何もしないから」


 肩にいたシロをそっと両手に乗せユラの目の前に持っていく。


 「シロ、このかわいい子がユラ。ぷにぷにしててとっても気持ちいいの。二人とも仲良くしてね」


 しばらく二人は見つめ合ったまま動かなかったけど、興味を失くしたのかシロが私の手のひらからポンっとテーブルの上に飛び降りた。

 シロはともかくユラの方は少し緊張していたようでホッとした雰囲気が伝わってくる。


 「ユラ、イヴァンは遊んでくれた?やっぱり無視して昼寝でもしてた?イヴァンのことだから昼寝してた確率の方が高そうね。でもおかしいわね。ご飯の用意ができたのに顔を見せないなんて・・・。イヴァンは庭にいるの?」


 ユラを見ながら聞くと、ユラは体を縦に揺らした。


 「しょうがないなあ。呼びに行きますか」


 庭に通じる扉を開け、広くもない庭に出てイヴァンを探す。

 どこにいるのかすぐにはわからなかったけれど、ハナマイムの木の陰にいるようだ。

 ユラが教えてくれた。


 あんな所で何をしてるのかしら。

 昼寝をするならこっちの陽の当たってる所の方が気持ちいいのに。


 そう思いながらハナマイムの木の方へ歩いて行く。


 「あっ!!」


 イヴァンに声をかけようとハナマイムの木の陰を覗いたら、木の柵の向こうに赤髪の大男、アレスさんがいた。

 私に気づいたアレスさんは悲しそうな、辛そうな、何とも言えないような顔をして、そして何故だか踵を返してそこから立ち去ろうとした。


 何で!?


 「待ってくださいっ、アレスさんっ。どうして逃げるんですか?私、何かしましたか?」


 私の声を聞いたアレスさんはその場にピタッと立ち止まるけど、背中を向けたまま一向にこちらを見ようとはしない。


 やっぱり私が何かしたのかな。


 「アレスさん、私が何か酷いことをしたのなら謝ります。ごめんなさい。本当に私、この世界のことわからなくて知らないうちにアレスさんに酷いことをしてたんですね。本当にごめんなさい」


 そう言って頭を下げる私に、アレスさんは慌てた様子で、

 

 「違うっ!サキが悪いんじゃないっ。サキは何もしてない。むしろ俺がサキに酷いことをしたんだ。だから・・・」


 アレスさんが私に?


 思わず顔を上げ、アレスさんを見た。

 私を見るアレスさんは冗談ではなく本気でそう言っているようだ。

 

 「私、何もされてませんよ?むしろ良くしてもらって感謝してます。それなのにどうしてそんなことを言うんですか?」


 「だから俺がサキを・・・」


 『サキ。昼飯はできたのか?』


 さらに続けて何か言おうとしていたアレスさんを遮り、イヴァンが言葉を被せてきた。


 「ちょっと待って、イヴァン。今、大事な話をして・・・」

 

 『飯だ』


 「だから今・・・」


 『飯だ』


 「・・・」


 私は大きなため息を一つついて、諦めた。

 こうなったイヴァンには勝てない。

 ご飯にありつくまで言い続けるに決まっている。


 仕方がない。

 後でじっくりアレスさんに問い質そう。

 何か誤解がありそうだし。

 でないと、私もツライ。


 「そうだ、アレスさん。お昼がまだなら一緒にお昼ご飯を食べませんか?たくさん作ってきたので、よかったらどうぞ」


 「えっ?サキの手料理!?いや、しかし・・・」


 決して嫌ではないけど、明らかに迷っているアレスさんの腕を取り、少し引っ張った。

 されるがままのアレスさんだけど、やっぱり迷っているようで目が泳いでいる。

 裏木戸を開け、アレスさんを招き入れると、迷いつつも素直に私について来てくれるので、家の中に案内した。

 キッチンの椅子をアレスさんに勧めると向かいの椅子に私も座る。

 私の隣にはイヴァン。


 「ここはサキの家なのか?お化け屋敷と呼ばれている家だろう?大丈夫なのか?」


 キョロキョロしながら質問するアレスさんに、苦笑いしながら答える。


 「この家は私が買ったんです。この間の報酬で。いつまでも野宿してるって嘘つくのも嫌ですからね。お化け屋敷って噂のおかげで安く買うことができたので、ラッキーでした。それにこの家に住んでるお化けってこの子のことなんですよ。ユラ、出てきて」


 知らない人が入ってきたので、姿を消していたユラがゆっくりと姿を現す。


 「これは・・・」


 「大地の精霊だそうですよ。といっても下位にあたる精霊だそうですけど」


 「精霊・・・」


 びっくりしているアレスさんの目の前にテーブルの上にちょこんと座って待っていたシロを両手に乗せて差し出し、シロを紹介した。


 「この子はあの時の水の精霊なんですよ。今は人型に変異してますけど」


 「えっ?あの時の水の精霊?白蛇の姿だっただろう?」


 「蛇にはあまり抵抗なかったんですけど、蛇の姿のシロと一緒に食事をするのには慣れなくて・・・。そしたらシロが人型に変異してくれて。今では食事をするときはこの姿になってくれるんです。二人ともかわいいでしょ」


 二人を胸に抱きしめながら笑う私に言葉も出ないのか、あんぐり口を開けたままのアレスさんの表情がなんともおかしくて笑いそうになるのを我慢しながら、テーブルに並べた料理を勧めた。


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