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のんびりまったり異世界生活  作者: 和奏
第二章 異世界はやっぱり異世界です
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27 イヴァンの苦手なものとユラの特技

 家に帰るとイヴァンは私が出かけたときのまま、ハンモックの上で眠っていた。

 と思ったらすぐさま起き出して、


 『朝飯はまだか?』

 

 と聞いてきた。


 イヴァンてば何だか日に日に食べることに対してどん欲になってる気がするんだけど。


 「イヴァン。そんなにご飯だ、おやつだって食べてると太るわよ。食べ過ぎて太っちゃって、そのせいで空を飛べなくなるとかないよね」


 『サキっ。変な心配をするでないっ。以前にも言ったであろう。太るなどということはありえぬ』


 「本当にぃ?」


 疑わしそうな目で見る私に、イヴァンはうっとおしそうに怒鳴った。


 『いいから、早く飯だっ』


 「はいっはーい」


 けらけら笑いながら私はキッチンに向かった。


 「さて、と何を作ろうかしら」


 エプロンをつけながら考える。


 「今日は和食にしよう。ダイエットには和食がいいっていうものね」


 『サキっ!』


 イヴァンの怒鳴り声は無視して、サバの切り身を焼き始める。

 それから野菜たっぷりの味噌汁。

 あとは青のり入りの卵焼き。

 デザートにはいちごをのせたヨーグルト。

 イヴァンたちにはさらにあんこをトッピングして。


 「うん。これで完成」


 テーブルに並べ、最後に冷蔵庫からあるものを取り出す。


 「やっぱり和食のときの朝食には欠かせないわよね」


 ふたを開け、お箸でしゃかしゃかと混ぜ、最後に刻みネギを少々。

 そうしてできたものは、そう、納豆だ。

 苦手な人も多いけど、私は好きだ。

 ただ、匂いが気になるので今までは出したことがなかったのだけど、イヴァンたちは食べられるかしら?


 すでに椅子に座ってスタンバイしているイヴァンとシロの目の前にそっと出してみる。

 すぐさまイヴァンが反応した。

 前足で鼻を押さえて、今まで見たこともないくらいの剣幕で怒鳴った。


 『サキっ。今すぐそれを捨ててこいっ。そんな腐ったものを食べさせる気かっ』


 イヴァンの悲痛な叫び声も無視し、私はイヴァンを見つめた。

 納豆のふたを開けたときからイヴァンは嫌そうな顔をしたので、ある程度イヴァンの反応には予想がついていた。

 狼や犬系の動物と同じで鼻が利くんだなって。

 でも今のイヴァンは・・・。

 前足で鼻を押さえてグルグルと唸っている姿はまるで漫画かアニメだ。

 その仕草があまりにもかわいくて吹きだしそうになる。

 

 一方シロはというと無表情な顔で納豆を見ているだけだった。

 蛇ってあまり鼻が利かないのかしら?

 そもそも嗅覚ってあるの?

 残念ながら今まで蛇の生態に興味がなかったのでわからないけれど。


 「蛇に嗅覚があるかどうかは知らぬが、我は蛇のような姿をしていても蛇ではないゆえちゃんと匂いもわかる。確かに独特の匂いがするが我は嫌ではないぞ」


 なんとシロは納豆平気派だった。

 シロの小さな茶碗のご飯の上に少し納豆をのせると、シロはこれまた小さなお箸を器用に使って食べた。


 「どう?」


 匂いは大丈夫でも味がダメかもしれない。


 「うむ。変わった味だが嫌いではないな。それに他のものより魔力を多く感じる」


 「魔力が多い?」


 栄養価が高いと魔力も高いのかしら?

 じゃあ今度、青汁を試してみよう。

 私はあまり好きじゃないけど、栄養はありそうだものね。


 すると、今まで鼻を押さえたまま沈黙していたイヴァンが、何かを察したのか苦虫を嚙み潰したような表情でぼそりと言った。


 『・・・サキ。()()()()変なモノを出さないでくれ』


 えっ?

 今何て言った?

 頼むから!?

 

 今の私は目の玉が飛び出そうなくらいイヴァンを凝視しているはずだ。

 いや、きっと第三者が見たら目の玉が飛び出ていると証言しそうなほど、目を見開いているに違いない。

 それほどイヴァンの言葉は衝撃的だった。


 あのイヴァンが下手に出るなんて。

 人に何かをお願いするときも、いつも上から目線でしか頼まないあのイヴァンが。

 明日、この世界は滅亡するかもしれない。


 あぁ、短い二度目の人生だったわ。


 なんて遠い目をする私に、イヴァンがいつもの調子で怒鳴った。


 『サキっ!いい加減にしろっ』


 「あはは。ごめん、イヴァン。おもしろくてつい・・・。でも納豆はね、栄養があって体にも良い食べ物なのよ。私も好きだし。イヴァンが匂いが苦手だって言うなら匂いの少ない納豆もあるから一度試させて。それでもダメなら・・・イヴァンのいない所でこっそり食べるわ」


 やっぱり食べるんかいっというツッコミは誰もしてくれなかったけれど、何故かシロが小さく拍手してくれた。


 シロ、ありがとう。


 なんだかんだありつつも朝食を全て平らげ、片付けを終えると、私はユラの分の朝食を持ってユラの元へ転移した。


 「ユラ、朝ごはん持ってきたよ」


 私が声をかけると、ユラはすぐに姿を現した。


 何度見てもクラゲね。

 それもミズクラゲ。

 コロンとしたフォルムも頭の上に四枚の花びらみたいな模様があるところもそっくり。

 でもクラゲじゃないんだよね。

 これが精霊だなんて本当に不思議だわ。


 トレーに乗せた焼き魚定食風の朝食を差し出しながらユラを見て、しみじみと異世界にいるんだなって思う。


 朝食を食べ終えたユラはいつものように体を揺らしたけど、突然ピタッと動きを止めた。


 うん?


 ユラは辺りをユラユラ移動してはチラチラこっちを見てる・・・と思う。

 目がどこにあるのかわからないので、絶対とは言い切れないけど。


 「何が言いたいの?」


 この家の小さな庭にもいくつか花が咲いているのだけど、その花の上に行ってみたり、庭に置かれている木のバケツの上に行ってみたり。


 そういえばイヴァンがユラは自分の思うように不必要なモノを出せるって言ってたっけ。

 つまり、鉢植え以外にも出せるってことかしら?


 「もしかして私の好きな物を出すって言ってくれてるの?」


 ユラの体が縦に揺れた。


 「ありがとう、ユラ。 他に何が出せるの?」


 花はもちろんだけど、木のバケツの上に行ったってことは木製品も大丈夫ってことだよね、たぶん。


 ユラはしばらく考えるようにユラユラしていたけど、やがてゆっくりと動き出した。

 私について来いと言っているようだ。

 ユラの後をついて行くと、地下へ降りる階段へ通じる扉の前へ来た。

 すると、すっとユラの体が扉の中へ入って行った。

 

 「えっ?ユラってば通り抜け出来ちゃうの?」


 扉を開けると地下室の入り口にユラがいた。


 「この扉、木製だからそんなことができるんだね。すごいね、ユラ」


 褒められたことがわかったのか、ユラは大きく体を揺らしながら地下へ降りていく。

 着いた先はあのガラクタやら大量の土で埋まった部屋だった。

 そして、ユラは山となっている土の上でクルクル回り出した。


 「まさか、この大量の土もユラが出したの?」


 ユラは大きく縦に体を揺らした。


 なんと大量の土を運び入れた犯人はユラだった。

 なるほど大地の精霊だからこそ為せる技だったのだ。

 でもこんなガーデニングに適した土が手に入るなんてラッキーかも。


 「ありがとう、ユラ。嬉しいわ」


 ユラをギュッと抱きしめながらお礼を言うと、またユラの体がぷるぷる震えだした。


 「ユラっ、待って!土は嬉しいけどこんなにたくさんあるから今はいらないわ。それよりもできるなら部屋に飾れるような観葉植物の鉢植えが欲しいんだけど、どうかな?」


 思案するようにクルクル回っていたユラだけど、ポンっと出してくれたのは双葉の小さな植物の鉢植えだった。


 「何の木かしら、これ」


 私も木の種類についてはそんなに詳しくないし、こちらの世界の木なら尚更わからない。

 でも・・・。


 「ユラ、ありがとう。風の森の家で大事に育てるわね。それからもう一つお願いがあるんだけど」


 そして私はユラに、ユラのヤドリギの一部をもらえないかと頼んでみた。

 どうなるかわからないけど、上手くいけばユラが風の森に来ることができるかもしれない。

 昨日の夜、夕食を持ってきたときはすでに真っ暗で、日本と違って街灯もないので何も見えず、貰うことは断念したけど、朝なら何の問題もない。

 早速、ハナマイムの木の下まで戻ると、挿し木にできそうな枝を探してみた。


 うーんっっ。


 どれが挿し木にできるのか全くわからない。

 成長している新しいところがいいのはわかるんだけど。

 普通、こんな大木の枝、挿し木にしたりするのかな。

 サゴシュさんがもうすぐ赤い花が咲くって言ってたから、花が咲いたらきっと実もなるわよね。

 実から種を取り出して植えた方がいいんじゃないかしら。


 うんうん唸りながら考えていると、ユラが一本の枝の先でユラユラ揺れ出した。


 「どうしたの?」


 やっぱり揺れている。

 

 「もしかしてこの枝がいいの?」


 ユラが縦に大きく揺れた。


「そっか。じゃあここの枝をもらうね。でもユラ。あまり期待しないでね。私、挿し木の成功率ゼロだがら」


 挿し木が失敗したときは種ができるまで待とう。

 ユラにはもっと待たせちゃうことになるけど。


 いつもは食事を届けたらすぐに戻っていたけど、今日はもう少しユラと一緒にいたいなあ。

 そうだ。

 少しこの家の掃除をしよう。

 でもその前にこの枝を挿し木しなくちゃ。

 地下室にある土を持って帰ってそこに植えてみよう。

 案外、相性がいいかもしれない。


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