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のんびりまったり異世界生活  作者: 和奏
第二章 異世界はやっぱり異世界です
86/160

26 それ、間違ってるからっ

 「な、何コレ!?何が起きてるの?」


 次の日の朝、散歩がてら湖まで薬草を摘みに来た私は目の前の光景に唖然とした。

 湖の水が右から左へゆっくりと、円を描くように流れているのだ。


 「何で?昨日までは普通の湖だったのよ。それなのに何で水が流れてるの!?」


 そして唖然とする私の目の前をシロが流れていった。


 「えっ?シロ?」


 今のシロ・・・だよね。

 白い蛇が流れていったけど、絶対にシロだよね。

 何で!?


 狭くはないが広くもない湖を一周してまたシロが水の流れに乗って戻ってきた。


 「シロ!どうなってるの、これ!」


 びっくりして尋ねる私に、シロはあいかわらずののんびりした口調で、


 「これが流れるプールとかいうものであろう?」


 「流れる・・・プール?」


 満足そうに頷くシロを見ながら、私は昨日の夜の会話を思い出していた。


 若返って疲れ知らずの体になったとはいえ、一日中ちくちくと細かい作業をしていたので、肩が凝ったりだとか、小さな疲れはたまっていた。

 なので、今日も入浴剤を入れたお風呂に入ろうと思う。

 何の香りの入浴剤にしようかしらなんて考えているときに、ふと思いついてシロに聞いてみた。


 「シロはやっぱりお湯に浸かるより、水の方がいいの?」

 

 「湯?」


 「私はお湯に浸かる方が疲れも取れて気持ちがいいんだけど、シロが入ると茹ったりしちゃうのかしら?」


 脳裏にお湯に浸かりながら、頭にタオルを乗せてお風呂を堪能する白蛇姿のシロが浮かんだ。

 温泉ならなお絵になる。


 「湯よりも水の方が良い」


 「まあ、そうだよね」


 返事を聞くや、脳裏に浮かんでいた光景が消えていく。

 

 残念。

 温泉でのんびりするシロが見たかった。


 「私はやっぱり温泉でのんびりする方が好きだけど、シロはプール派ね」


 「プール?」


 「そう。夏になって暑くなると水を張った水槽・・・そうね、人工的に作った湖みたいなものかしら。とにかく水に入って暑さを凌ぐの。場所によっては水が流れていて、流れに乗って泳いだり遊んだりするの。流れるプール以外にもウォータースライダーっていって、高い所から滑り降りて水の中に飛び込んだり。楽しいわよ。まあ、私はもう何年も、いえ何十年も行ってないけどね」


 「・・・」


 「じゃあ、私、お風呂に入ってくるわね」


 ・・・。

 確かこんな会話をしたはずだ。


 「流れるプール・・・」


 これが真夏だったら湖に入るのも気持ちいいかも。

 しかも流れるプールを独り占め。

 なんて贅沢なの。

 あっ、でも水着がないわ。

 もうずっと、海にもプールにも行くことがなかったもの。

 新しく買わなくちゃ。

 なんてバカなことを考えていると、上の方から私を呼ぶシロの声が聞こえた。


 上?


 「あっ、まさか・・・」


 それに思い至ったときには、すでに目の前に水の壁ができていた。

 そして次の瞬間。


 バシャーン!!


 上から水の塊が降ってきた。


 「何するのーっっ!」


 頭から水をかぶり、上から下までずぶ濡れだ。


 「これがウォータースライダーとかいうものではないのか?」


 シロの声が、またしても頭の遥か上の方から聞こえてきた。


 嫌な予感がする・・・。


 「シロっ、待って!間違って・・・」


 最後まで言い終わらないうちにまたも水の塊が私を襲った。


 「シロ・・・。それ間違ってるから・・・」


 頭から水を滴らせながら、目の前で楽しそうに泳ぐシロを見た。


 「違うのか?」


 「違いますっ!!全然違うからっ」


 あれ?

 ちょっと待って。

 湖の水を流れるようにしたり、水の壁を作ったりってけっこう魔力がいるんじゃ・・・。


 「問題ない。我は水の精霊じゃ。これくらいのこと、たいして魔力も必要ない」


 「でも、魔力不足だから元の姿に戻れないんでしょ。それなのにこんなことに魔力を使うなんて・・・魔力の無駄遣いじゃないのっ!」


 私の抗議をよそにシロは優雅に湖を泳いている。


 「もう、シロってば・・・」

 

 ため息をついた瞬間、大きなくしゃみを一つ。

 かなり暖かくなってきたとはいえ、まだ朝晩は冷える春先だ。

 水浴びをするにはまだ早い。


 「風邪をひく前に服を乾かさないと」


 風魔法を使って一瞬で全身を乾かす。

 

 「こんな時、風魔法って便利ねぇ」


 お風呂上り、髪の毛を乾かすときもドライヤー代わりに風魔法を使って乾かしている。

 なんか使い方間違ってると思わないでもないけど、便利なんだからしょうがない。

 そして一つわかったことがある。

 なんとこのアイテムバッグ、防水仕様になっていた。

 あんなにずぶ濡れになってもアイテムバッグは全く濡れていなかったのだ。

 なんとも都合の良い、いやありがたいバッグだ。


 気を取り直して、いつものように薬草を摘んでいく。

 リオラ草。

 フォルモ草。

 カウラリア草。

 今日は森の奥でピペリア草とヒハツ草も見つかった。

 でも・・・。


 「薬師のエミリさんが言ってたサーバル草とアトリア草。どれがその薬草なのかわからないわ。イヴァンなら知ってるかしら」


 でも今日はイヴァンは一緒ではない。

 朝は一緒に起きてきたのだけど、階下へ降りるとすぐにハンモックに飛び乗りまた眠ってしまった。

 なので、薬草摘みには私一人で来ていた。


 そうだ。

 シロに聞いてみよう。

 シロも知っているかもしれない。

 

 湖まで戻ると、湖を気持ちよさそうに泳いでいるシロに、サーバル草とアトリア草について聞いてみる。


 「ねえ、シロ。シロはサーバル草とアトリア草がどれだかわかる?風の森にも生えてるのかしら?」


 「サーバル草とアトリア草なら知っておるが、この森に生えておるかどうかは知らぬ。我はこの湖以外行ったことがないからの」


 「そう。じゃあ、特徴だけでも教えて。どんな色や葉の形をしてるの?」

 

 「うむ。確かサーバル草は黄色の草で葉の形は普通じゃ。アトリア草は赤じゃな。葉の形は普通じゃ」


 「・・・シロ。色はわかったわ。でも葉の形は普通って何?」


 「普通は普通じゃ」


 「もっとあるでしょ。丸いとか細長いとかトゲトゲしてるとか」


 シロはしばらく赤い瞳でジッと私を見ながら考えていたけど、おもむろに目を見開くときっぱりと言った。


 「普通は普通じゃ」


 「・・・。わかった。もういい。後でイヴァンに聞いてみる」


 「もう良いか?」


 「うん、ありがと」


 湖の中心に向かって泳ぎ出していたシロは、ふと動きを止めてまたこっちを向いて言った。


 「サキは薬草を探しておるのか?」


 「えぇ、そうよ。これから一緒に働くことになる薬師のエミリさんが薬草を欲しがってるの」


 「そうか。なら少し待つが良い」

 

 そう言うなり、シロは湖の真ん中まで泳いでいき、ちゃぽんと水の中に潜って姿が見えなくなった。


 ?


 よくわからないままシロに言われた通りに湖の側で待っていると、しばらくしてシロが水の中から姿を現した。

 よく見ると、口に何かを銜えている。

 それをそっと私の足元に置いた。


 「ベルマフィラだ」


 「ベルマフィラ?」


 「そうだ。我には魔力を含んだ水草に過ぎぬが、人の子には貴重な薬となるはずだ」


 「えっ?これも薬草なの?」


 「薬になる草という意味ならそうであろう」


 私はシロが取ってきてくれたベルマフィラという薬草を手に取った。

 一つ一つの葉は広葉樹である桜や欅の葉のような形だけど、よく見ると細い葉に分かれている。


 これって・・・。


 「オジギソウみたい・・・」


 試しに葉に触ってみたけど、オジギソウのように葉を閉じたりはしなかった。


 「うん。水草だもんね」


 私はそれをアイテムバッグに入れると、シロにお礼を言った。

 まだ湖で泳いでいるというシロに手を振り、私は家に帰った。

 この時の私はこの薬草がのちに街を巻き込む大騒動に発展するなど知る由もなかった。


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