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のんびりまったり異世界生活  作者: 和奏
第二章 異世界はやっぱり異世界です
83/160

23 美味しく食べたかったら元の姿を想像してはいけない

 次に目を覚ますと、辺りはすでに薄暗闇に包まれ始めていた。


 「うわぁ、ヤバいっ。寝すぎちゃった!?」


 ハンモックから上体を起こそうとして、胸の上で眠るシロに気づいた。

 人型のまま、赤ちゃんのようにうつぶせで寝ている。

 

 もう、かわいすぎるんだけどっ。


 シロを起こさないように、シロの頭や背中の辺りに手を当て、そっとハンモックの上に降ろす。

 それでもすやすや眠るシロを見ていると何だか幸せな気分になってくる。


 こんな感じ、久しぶり。


 和奏や洸大が赤ちゃんの頃、家事に育児に仕事にと奮闘する恵里に休息を取ってもらおうと、恵里を無理やりベッドに押し込み睡眠を取らせ、代わりに私が和奏や洸大の世話をしたことがあった。


 あの時もお母さんになったみたいで嬉しかったことを覚えている。

 結局、お母さんになることはなかったけど、和奏も洸大も私に懐いてくれてお母さん気分を味わうことはできた。


 ふふっ、あの頃みたいね。


 なんて懐かしんでいると、ふと疑問が浮かぶ。


 どうして人型のままなのかしら?

 いつもなら魔力切れだか何だかで、ご飯を食べ終えるとすぐに元の白蛇に戻っちゃうのに。

 不思議。


 イヴァンを見ると、ラグの上で目を閉じている。

 まだ眠っているようだ。

 二人を起こさないようにそっとリビングを後にし、キッチンへ移動する。

 時計を見ると針は六時を指していた。


 夕食の支度をしなくちゃ。


 まず、コーンスープ。

 モロコシをラップで包みレンジでチンする。

 包丁で実を取り鍋にモロコシの実、水、コンソメを入れて煮る。

 灰汁が浮いてきたらこまめにすくい、十分ほど煮た後ミキサーに入れて撹拌する。

 ザルに入れて裏ごしした後、食べる直前に牛乳を入れて温めなおすと完成。


 牛乳を入れると薄紫色がさらに薄くなりほんのりラベンダーみたいな色になってこれはこれで美味しそう。


 それからスナップエンドウとじゃがいもにカニカマを入れて、イタリアンドレッシングで和えた春野菜のサラダ。


 「後はメインよね」


 今日もらってきた高級魔物肉、あれを一口大に切って、サイコロステーキにしようかな。

 全部少しずつ使って食べ比べてみよう。


 そうだ、目の前で焼きながら食べるのもいいわね。


 早速とばかりにホットプレートを出してくる。

 一人になってからは面倒で久しく使っていなかったけど、たまにはいいかもしれない。

 焼きそばとかお好み焼きとか。


 肉もそれぞれ切り分け、最初に用意しておいたご飯も炊き上がり、準備万端だ。


 二人の様子はどうかとリビングの方を見れば、こちらを見ている二人と目が合った。

 ハンモックの上でユラユラと心地よさそうにしている二人と。


 「いつの間に・・・」


 シロは人型からいつもの白蛇の姿に戻り、イヴァンの頭の上でとぐろを巻き、イヴァンはイヴァンで楽しげだ。


 シロはともかく、イヴァンは興味なさそうだったのに。


 つつっとイヴァンがきまり悪そうに目を逸らす。


 ふふ。

 いつもは何だか偉そうなのにたまに人間くさいときがある。

 こういうときのイヴァンはたまらなくかわいいと思う。


 あー、モフりたいっ。


 『ふんっ。こやつが楽しそうだったから、少し試してみただけだ』


 「素直じゃないわね」


 『黙れ。それより腹が減った。飯はまだか?』


 「本当にもう。用意はできてるからいつでも食べれるわよ」


 そう言うとイヴァンは器用にハンモックから飛び降りテーブルの方へやってくる。

 イヴァンと人型になったシロが自分の席に着くと、一口大に切り分けた肉をホットプレートの上で焼いていく。


 まずはキングボア。

 軽く塩こしょうを振ってしっかりと焼く。

 たとえレアな魔物の肉でもレアで食べる勇気はない。

 ・・・なんて冗談はさておき、各々の皿に取り分ける。


 がっつくイヴァンとのんびり食べるシロを見ながら、私も一切れ口に入れる。


 「うわあ、美味しいっ」


 キングボアの見た目が猪みたいだったから猪肉みたいな味なのかと思ったら違った。

 猪肉を使ったぼたん鍋を何回か食べたことがあるだけだから、猪肉の味がはっきりわかるのかと言われれば困るんだけど。

 とりあえず、記憶にある猪肉とは違う気がする。

 最も、猪肉の味なんてどうでもいいと思えるくらい、キングボアの肉は美味しかった。


 他の肉も次々と焼いていく。


 結果、どれもとんでもなく美味しかった。

 スチールバードは思った通り鶏系の、でも高級なフレンチレストランで出される合鴨のような感じでとにかく油が美味しい。

 マーダーグリズリーは弾力があって噛み応えもあるけど、噛めば噛むほど肉汁がじわっと出てきて身もだえするほどだ。

 でも私が一番好きだなと思ったのはマトルトサーペントの肉だった。

 ささみや鶏むね肉のようなあっさりとした淡白な味わいだけど、淡白な中にもコクがあってとても元が蛇だとは思えないほどだ。

 元の姿を思い出すと、口に入れるのをためらいそうになるのであえて考えないようにした。

 このマトルトサーペントの肉をシロに出すとき、共食いになったりしないのかなと心配したけど、精霊と魔物は全然違うと気にも留めなかった。


 そりゃそうか。

 姿形が似てるだけだもんね。


 美味しい魔物肉に舌鼓を打ちつつ、ほんのり薄紫色をしたモロコシのスープをいただく。

 

 「これは美味い」


 色が違うだけのコーンスープを思いの外気に入ったのはシロだった。

 かなり大きなスプーンを器用に使いながら少しずつ口に入れている。

 なんだかんだで食事が終わると最後はデザートの登場だ。

 イヴァンは無表情を装いながら、しっぽだけはぶんぶん振り回している。


 イヴァンって考えは読めないけど、感情はわかりやすいのよね。


 冷蔵庫からいちごのムースを取り出す。


 ガラスの器に入ったものをシロと私の前に、タッパーに入った一際大きなものは、大きな皿にタッパーをひっくり返して乗せるとイヴァンの前に置く。

 と同時に待ちきれなかったイヴァンは食べ始めた。


『うむ。冷たいデザート良いな』


 私もスプーンで一口すくって口へ運ぶ。

 冷たくてぷるんとした食感がたまらなく美味しい。

 シロも一言「美味い」と言うと後は黙々と口へ運んでいる。

 大量のムースを食べ終えたイヴァンが身を乗り出しておかわりを催促してくる。


 「悪いんだけど、それで全部だったの。ごめんね」


 そう言う私の目の前でイヴァンが固まった。

 これが漫画ならきっとイヴァンの頭の上に「ガーン」という文字が浮かんでいるに違いない。

 そんな顔だった。


 「そんなに気に入ったの?」


 私の問いには答えず、すごすごとリビングの方へ歩いて行ったイヴァンはひょいとハンモックに飛び乗り、前足に頭をのせて目を閉じた。


 ラグじゃなくてそっち!?


 また一つイヴァンのお気に入りが増えたようだ。

 いや、一つじゃなくて二つか。


 かわいいイヴァンの姿が見れてニマニマする私だった。


 昼間宣言した通り、バラの香りの入浴剤を入れたお風呂を堪能した私は趣味部屋の入り口に立ち思案していた。

 夕方なんて時間に昼寝をしたせいか眠れないのだ。

 なので、久しぶりに何か作ろうと思ってこの部屋に来てみたのだけど。

 まあ、何かってカレンダーなんだけどね。

 教会で治療師として働くまであと三日ある。

 その間に完成させたいのだけど、何で作ろうかしら。


 部屋の中を見渡しているとある一角で目が留まる。

 そこにはたくさんの布地や端切れが置いてあった。


 そうだ、パッチワーク風にしてみよう。


 色とりどりの布地の中から気に入ったものを取り出す。

 今流行の北欧柄やリバティプリント、梅や桜の和柄、目が覚めるような青いドット柄やチェック柄など、数種類の端切れを数枚。


 この国の一ヶ月は三十日で毎月変わりがない。

 それが十二か月。

 なので、万年カレンダーのように一つ作ればずっと使えるものができる。

 一から三十までの数字と一から十二までの月の数字。

 これだけあればいい。


 選んだ数種類の端切れと白いフェルト生地、刺繡糸と裁縫道具を小さなバスケットに入れ階下へ降りる。

 リビングのソファに座るとバスケットの中からそれらを取り出した。


 まず最初に白いフェルト生地にチャコペンで丸を描く。

 直径三センチくらいの大きさのものを三十個。

 これに一つずつ、一から三十の数字を刺繡していく。


 案外これが大変で十まで刺繡したところで、今日の作業は終了。

 一つずつ、ちくちく刺繡するので思った以上に時間がかかるのだ。

 心地良い疲労感が眠気を誘い、気持ちよく眠れそうだ。


 明日、続きをするのでバスケットの中に片付けるだけにする。

 ふと、イヴァンと目が合った。

 ハンモックに寝そべり、ユラユラ気持ち良さそうな顔のイヴァンと。


 「随分気に入ったのね」


 イヴァンはくすくす笑いながら言う私からスッと目を逸らすと、少し怒ったような口調で、


 『別にそんなことはない。空を駆ける方がよほど気持ちが良い』


 あまりにもイヴァンが素直じゃないので、思わず意地悪したい気分になった私は、


 「じゃあ、そのハンモック、片付けちゃおうかな。大きくて邪魔だし」


 ニヤニヤ笑って言った。


 途端にイヴァンは慌てた様子で、


 『何を言っておるのだっ。ダメに決まっておるだろう・・・あ、いや、その・・・』


 おたおたするイヴァンが新鮮で、私は、思いきり笑い転げた。

 

 「もう、イヴァンてばかわいいんだからっ」


 そしてイヴァンが本気で怒りだすまで、わしゃわしゃとイヴァンを撫でまわし続けたのだった。


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