7 私は異質な存在らしい
『サキ、お前は目立ちたくないと言っておるが、この世界には黒目黒髪の人間はおらぬ。黒目だけ、黒髪だけ、といった人間は多少なりとも存在するが、両方ともとなると・・・彼らが信仰する神の一人、ルーナオレリアくらいだな。彼女は夜の闇をまとった月の女神で、その対をなすのが太陽神ソライヨーバ。この世界の人間はこの二人の神を崇めている。お前のその姿を見たら・・・どうなるか想像もできんな』
な、なんかとっても怖いんですけど。
「じゃあ、変装でもすればいい?」
『?姿形を変えられる魔法が使えるのか?』
「あっ、そうじゃなくて・・・ちょっと待ってて」
いいことを思いついた私はリビングのチェストから手のひらサイズの箱を取り出した。
箱から一つ取り出すと片方だけつけてみる。
「どう?」
私は顔をイヴァンの方へ向けた。
『瞳の色が変わった!?魔力の使用は感じられなかったぞ』
驚いているイヴァンに私は笑いながら説明した。
「これはカラコンっていって、とても薄いプラスチックという素材でできていて、それをこうやって目の中に入れると、ほら瞳の色が変わったように見えるの。目の上にかぶせただけだから取ると元の瞳の色に戻るの」
便利でしょと言いながら、もう片方もつけてみせた。
イヴァンの目にはアンバーの瞳になった私が映っているはずだ。
これは以前、姪の和奏が買ったものの似合わなかったからと言って置いていったものだ。
こちらとしても置いていかれてもカラコンをして喜べる年でもなかったので、結局チェストの引き出しにしまったままになっていた。
「出かけるときだけ瞳の色を変えるってのはどう?」
『ふむ。お前の世界にはおもしろい物があるのだな。まあ、ある程度は誤魔化しが効くだろう。明日にでもギルドに行ってみるか?』
「そ、そうだねー。一人じゃちょっと不安だけどがんばって行ってみようかな」
不安げに言う私にイヴァンは言った。
『心配するな。我も一緒に行ってやる』
「本当?ありがとう」
よかったあ。
いきなり行ったことのない外国の地を一人で目的地を探して歩くようなものだもの。
ちょっとどころかかなり不安だったのよね。
それが異世界だもの、尚更よ。
まあ、言葉が通じるだけましか。
・・・人にも通じるよね、言葉・・・。
イヴァン以外と話したことないけど大丈夫かしら。
『明日になればわかることだ。なるようにしかならん』
はい、ごもっともです、イヴァンさん。
「イヴァンが一緒に行ってくれるのはすごく心強いけど、姿を見せても大丈夫なの?」
『フェンリルと知れたら大騒ぎになるだろうが、魔狼のふりをすれば問題なかろう。フェンリルが人前に姿を現すことなどそうそうないからな』
「魔狼?魔物ってことじゃないの?魔物が一緒にいても大丈夫なの?」
『魔物の中にも知能の高いものもいて、人間と従魔契約を結んでいるものも少なくない。特に冒険者はみな従魔を連れている』
「そうなんだ。じゃあ一緒にいても大丈夫だね。よかった」
ホッとして私が言うと、心配するなとでも言うようにニヤリとイヴァンが笑った。
出会ってからまだ数時間しかたってないのに、もう全面的にイヴァンを信用している私がいる。
イヴァンの首にゆっくり腕を回してそっと囁く。
「イヴァン、大好き」
私の声が聞こえなかったのか聞こえないふりをしたのか、イヴァンは何も言わなかったが私にすりすりと鼻先を押し付けてきた。
うん、照れ隠しだね、きっと。
ふふふと笑いながらわしゃわしゃと撫でまわしておいた。
もふもふ天国だ。