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のんびりまったり異世界生活  作者: 和奏
第二章 異世界はやっぱり異世界です
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19 市場探索

 ユラにまた来るからねと約束して、買ったばかりの家を出た。

 人に慣れれば一緒に出掛けることも可能だろう。

 とりあえず小腹は満たされたので、時間もあることだし今日こそ市場へ行きたい。

 モリドさんにそう訴えるとモリドさんは笑って、じゃあ今から行くかと言ってくれた。

 この街で一番大きな市場がここから二十分ほど歩いた所にあるらしい。


 モリドさんに案内してもらったそこは、私が思っていた以上に大きくて活気あふれる場所だった。

 いつだったか、テレビで見たどこかの国のバザールのようだ。

 あちこちで威勢のいい店主の声が聞こえてくる。

 目の前の店の店先に置いてあるかごの中を覗くと、リンゴのような赤い果物が入っている。

 ここは果物屋のようだ。

 その隣のかごには黄色いグレープフルーツのようなもの。

 さらにその隣にはピンク色をした桃のようなもの。

 奥には紫色のブルーベリーのようなものまである。

 かと思えば見たこともないスイカサイズの青いものもある。


 つい興味津々で見ていると、店のおばさんが小さな赤い実を差し出しながら、


 「お嬢ちゃん、これなんかどうだい?今朝採れたばかりのアナンの実だよ」


 と声をかけてきた。


 「もらってもいいの?」


 「あぁ、食べてみておくれ。モリドの彼女かい?」


 後半はモリドさんに言ったようで、モリドさんが慌てて、


 「ち、ちげえよ。ただの知り合い・・・いや友達・・・かな?」


 モリドさんが私を見ながら不安そうに言うので、私は力いっぱい頷いた。


 「この街に来たばかりで知り合いもいなくて、モリドさんにはいろいろ教えていただいています。サキと申します。よろしくお願いします」


 ペコリと私が頭を下げると、おばさんも名乗ってくれた。


 「あたしゃ、ソーニャ。モリドの近所に住んでて、生まれた時からモリドのことは知ってるんだが、本当にいい子だからよろしくしてやっておくれね。いい年して彼女もいないなんて、母親が心配してたんだよ」


 そして次にモリドさんの方へ向き直ると、ニヤッと笑いながら、


 「こんなかわいい子がいたなんて、モリドも隅に置けないねぇ。頑張るんだよ」


 それを聞いたモリドさんはぶんぶんと両手を振りながら否定する。


 「だ、だから違うって言ってるだろっ。ただの友達だからっ。・・・今はまだ・・・」


 最後は小さな声でごにょごにょ言ったので、よく聞き取れなかった。


 そっか。

 私たち、見る人が見たらカップルに見えちゃうんだ。

 気をつけないとモリドさんに悪いわね。

 モリドさんを狙ってる女の子たちに申し訳ない。

 というか、知り合いも少ないこの街で敵にしたくない。

 うん、ここまで案内してもらったらもう大丈夫。

 

 なので、そっとモリドさんに言ってみた。


 「モリドさん。ここまで案内してもらったので、もう大丈夫です。せっかくのお休みなんだからモリドさんのしたいことをしてください。本当にありがとう・・・」


 最後まで言い終わらない内にモリドさんに止められた。


 「何言ってるんだよっ。俺は今日休みなの。暇なの。好きでサキの案内してるの。だから何の問題もないの。わかったか?」


 モリドさんに早口で言われて、思わず頷いてしまう私。


 「・・・はい・・・」


 「じゃあ、そのアナンの実、食べて次行こう」


 申し訳なく思いながらもこのまま案内してもらえるのはありがたいので、遠慮なくモリドさんの厚意を受け取ることにした。


 ソーニャおばさんからもらったアナンの実を口に入れた。

 噛んでみるとそれはまるでさくらんぼのような味だった。

 日本のさくらんぼのように二つ一緒にはなっていないけど、味はまさしくさくらんぼ。

 それも佐藤錦並みの甘さだ。


 「美味しい・・・」


 これでケーキとかタルトとか作ってもいいし、ジャムだって絶対美味しい。


 買って帰ろうかな。


 でも財布の中身を思い浮かべて諦めた。


 そうだ、さっき家を買っちゃったんだ。

 他のお店もみたいし、今日は諦めるか。


 「おばさん、ありがとうございました。今日は持ち合わせがないので、次に来たときに買わせていただきますね」


 私が残念そうに言うと、おばさんは笑って気にするなと言ってくれた。

 それどころか、モリドを頼むよと言って小さな黄色い果物を渡された。


 よろしく頼まれても困るんですが・・・。


 困っている私を見たモリドさんも、


 「サキ、気にしなくていいから。おばさんも変な気をまわさないでくれ。でもこのオルドはもらっておく。ありがとな」


 モリドさんに腕を引かれ、ソーニャおばさんの店を離れる。

 後ろを振り向き、おばさんに手を振った。


 私の腕を引くモリドさんに、視線は手の中の果物に向けながら、


 「貰っちゃってよかったんですかね、これ・・・」


 手の中の果物は見た目はオレンジにそっくりだけど、中身もオレンジなのかしら。

 それとも全くの別物?


 「いいんだよ、貰っとけば。それより次はどこを見たい?」


 モリドさんに聞かれ、私はハッとした。


 そうだ、せっかく市場に来たんだから楽しまなくちゃ。


 視線を周りに向けるといろいろなものが目に入った。

 ソーニャおばさんの店の隣は野菜を売る店だった。

 見知った野菜にそっくりなものもあるし、何だかよくわからないものも。

 端の方に山盛りになった、玉ねぎとじゃがいもそっくりなものもあった。


 日本なら新玉ねぎや新じゃがの季節よね。


 私の視線に気づいた店主が、


 「どうだい?採れたばかりの玉ねぎとじゃがいもだ。たくさん買ってくれたらおまけも付けるよ」


 「玉ねぎとじゃがいも・・・ですか?」


 「あぁ、玉ねぎとじゃがいもだ」


 にこにこ笑顔の店主を見ていて、私は気づいた。


 そっか。

 日本にあるものと全く同じものは同じ名前なんだ。

 さっきのさくらんぼ味のアナンの実みたいに、似てるけど違うものはこちらの名前で聞こえるんだわ。

 一つ一つ確認していけば同じものとそうでないものがわかるのね。


 翻訳チート、すごいっ!


 今度、一人で来たときに確認してみよう。

 今日はモリドさんがいるから、あんまり時間かけちゃ悪いしね。


 とにかく市場は広かった。

 モリドさんに教わりながら一つ一つ店を覗いていく。

 肉屋の店先には大きな肉の塊がぶら下がっていたり、鍋や包丁などを売る金物屋があったり、魚を干した干物の店があったり。

 やっぱり海から遠いので、生の魚は売っていないそうだ。

 アレスさんが言っていた通り、お米を売る店もあった。

 ジャポニカ米かどうかはわからないけど、ちゃんと米と聞こえたので日本にある米と同じなのだろう。

 細々とした雑貨を売る店や女の子が好きそうなアクセサリーの店、衣料品や帽子や鞄などを売る店、塩や香辛料を専門に売る店など、ここで手に入らないものはないんじゃないかっていうくらい、いろいろなお店がひしめき合っていた。

 夕食の買い物をするには少し早い時間にもかかわらず、たくさんの人が行き交い、市場は喧噪で埋め尽くされている。

 値引き交渉をしている人もいれば、店の人と楽し気におしゃべりしている人もいる。

 後ろから子供の笑い声が聞こえてきたかと思うと、私のすぐ横を数人の子供たちが追いかけっこでもしているかのように駆けていく。

 日本ではあまり馴染みのない光景にキュッと胸が締め付けられる。


 やっぱりここは日本じゃない。

 もうとっくにわかっていたけど、少し、心が、痛い。


 少し感傷に浸っていた私に、モリドさんが声をかけてきた。


 「サキ?どうした?疲れたのか?何処かで休むか?」


 「え?ご、ごめんなさい。大丈夫です。もう少し見てまわってもいいですか?」


 「わかった。でも疲れたらちゃんと言うんだぞ。遠慮なんかするんじゃないぞ」


 心配そうな顔のモリドさんにほっこりする。


 優しいなあ、もう。

 こんなに優しくてイケメンなのにどうして彼女がいないのかしら。

 不思議だわ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 凄いなぁ。 私ならメモ帳に次々に書いていかないと、絶対に忘れてしまうわ。 戻ってから漏らさず思い出して、それぞれ考える事もできるのだろうね。 羨ましいよ!
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