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のんびりまったり異世界生活  作者: 和奏
第二章 異世界はやっぱり異世界です
78/160

18 昼下がりの庭で

 庭のハナマイムの木の下に移動すると、アイテムバッグからシートを取り出して広げ、サンドイッチを並べた。

 さらに紅茶の入った水筒とピクニックなんかに便利な野外用カトラリーの入ったかごを取り出した。

 そう、私がクラフトテープで作ったかごだ。

 かごの中にはプラスチックでできたコップや皿などを入れてあり、ピクニックやBBQに重宝する便利アイテムだ。

 必要なこともあるかもと思い、アイテムバッグの中に入れておいたのだ。

 これもいくらでも収納できるアイテムバッグだからこそできることだ。


 本当にアイテムバッグって便利ね。

 いつ必要になるかわからないものでもとりあえず入れちゃえってことができるんだもの。

 それで今役に立ってるわけだし。

 持ってきてくれたイヴァンのおかげね。


 『ふふん。そうであろう。我のおかげだ。もっと我に感謝するがよい』


 ものすごいドヤ顔でイヴァンが言ってのけた。


 確かにそうなんだけど、でもそんなドヤ顔で言う程の事でもないし、実際すごいのはアイテムバッグなわけだし。


 途端にイヴァンにギロッと睨まれた。


 ・・・思考を読まれないようにするのって難しい。


 かごから取り出したコップに水筒からコポコポ紅茶を注いだ。

 それをモリドさんに手渡すと、今度は自分用に紅茶を注ぐ。

 いただきますと手を合わせた後、並んだサンドイッチに手を伸ばす。

 厚焼き卵の他に、まだたくさん残っているレッドボアを揚げたカツサンドもある。

 今朝、厚焼き卵を作っているときに、ついでに作っておいたのだ。

 衣をつけて揚げるだけだから簡単だしね。


 「美味いっ!何だこれはっ!?」


 すぐ横からモリドさんの驚いた声がした。


 見ると手に持っているコップの中を凝視している。

 あの少し青臭い味のモバ茶が一般的な飲み物なら、砂糖とミルクがたっぷり入ったミルクティはさぞかし美味しく感じるだろう。


 ちょっとマズかったかしら。

 もしかしてこの世界にはない飲み物なの?

 もしくは上流社会だけにしか流通してないとか。


 「サキっ。これだったらすごく売れるぞ。こんな美味い飲み物、今まで飲んだことがねえ」


 興奮するモリドさんを宥めつつ、


 「落ち着いてください。残念ながらこれは少量ですが砂糖も入ってますし、原価が高すぎて売り物になりません。自分が楽しむためだけのものなんです」


 そうなのか、そんな高価なもの、俺まで飲んでよかったのかと顔を強張らせるモリドさんに、大丈夫です、遠慮なく飲んでくださいと声をかける。

 するとジィーっと私を見るユラの視線に気づいた。


 「ユラも飲みたいの?」


 体を縦に揺らすユラのためにもう一つコップを取り出し紅茶を注ぐと、そっとユラの方へ差し出した。

 ゆっくりとユラが近づいてきてコップの上に静止したかと思うと、次の瞬間にはコップの中の紅茶はなくなっていた。


 紅茶といい、さっきのサンドイッチといい、何だろう、この異次元的な食べ方は。

 とても生物とは思えない。

 ううん、そもそも精霊を生物と分類してもいいのかしら。


 首を傾げる私の横からまたもモリドさんの叫び声が聞こえた。


 「美味いっ!こんな分厚い卵のサンドイッチは初めて食べたがすごく美味いぞっ。こっちのサンドイッチも食べていいか?」


 「どうぞ。レッドボアのカツサンドですよ。前に報酬の一部として頂いた肉で作ったんです。モリドさんの口に合ったみたいでよかったです」


 次々と口に放り込むモリドさんを見ながら私は言った。


 そこへイヴァンの焦った声がした。


 『おいっ、サキっ。そんなにそいつに勧めるなっ。我の分がなくなるであろうっ』


 悲痛な叫び声を発しながら、イヴァンも負けじとサンドイッチにかぶりつく。

 さらにユラがサンドイッチの上までゆらゆら揺れながらやってきたかと思うと、ふっと一瞬でサンドイッチが消えていく。


 いやいや、ユラまで参戦しなくていいから。


 三人の勢いに押された私は食べることも忘れて見ていることしかできなかった。

 あっという間に全てのサンドイッチを食べ終えた三人はジッと私の方を見た。

 正しくは私の手にあるサンドイッチを。


 「ダ、ダメっ!私もお腹すいてるのっ。これくらい食べさせてっ」


 私は最後の厚焼き卵のサンドイッチを死守するべく、くるりと背を向けた。


 『・・・仕方ない。サキ、デザートはないのか?何か作っていただろう?』


 「見てたの?」


 『うむ。何を作っているかまではわからなかったが、甘い匂いがしておった』


 やっぱりバレバレだったかあ。


 実は朝、サンドイッチを作ったときに出るパンの耳を使ってパン耳ラスクを作っておいたのだ。

 毎回捨てるのももったいないし、クルトンにするのも限界があるし、どうせデザートだ、おやつだってうるさいのもわかっていたし。


 パンの耳を食べやすい大きさに切ったらバターを塗って砂糖を振りかけオーブンでさっくり焼き上げただけの簡単ラスクだ。


 アイテムバッグからラスクの入ったペーパーバックを取り出すと、みんなの前に広げる。

 早速、イヴァンがかぶりつく。

 ユラもゆっくりやってきてラスクの上で静止する。

 モリドさんもそっとラスクに手を伸ばし口の中に入れる。

 そして・・・。


 『「美味いっ!」』


 ユラの声はなかったけど、体中で美味しいと表現している。

 そんな三人を見ながら、私はやっとサンドイッチを食べることができたのだった。


 「こんな美味い飯がまた食えるなんて、次が楽しみだなあ」


 鼻歌まじりに機嫌よく話すモリドさんの言葉に、思いがけなく手料理を振る舞うことになって約束を果たせたと思っていた私は、あの約束はまだ果たせてないんだと苦笑いする。


 別にいいんだけどね。

 元々イヴァンのために作ったサンドイッチとラスクだったし。


 お腹も満たされたところで使っていたシートやコップを片付けていると、突然ユラの様子がおかしくなった。

 微妙にぷるぷる体が震えている。


 「ユラ?どうしたの?どこか痛いの?どうしよう。変な物を食べさせちゃったのかしら。イヴァンっ、ユラはどうしたの?」


 慌てる私を他所(よそ)にイヴァンは興味なさげにあくびをしている。


 「ねえ、イヴァンてば。ユラはどうしたの?何か変だよっ」


 震えがどんどん酷くなっている気がする。


 「ユラ?大丈夫?どこか痛いの?」


 するとユラはおろおろする私から少し離れたかと思うと、くるんと体を回転させた。


 ぽとっ。


 その瞬間、何もなかった空間にピンク色の花の咲いた鉢植えが出現した。


 え?

 何?


 唖然とする私たちにイヴァンが面倒くさそうに言った。


 『さっきも言っただろう。今、飯を食ったから魔力を吸収した後の必要ない物を出しただけだ』


 「・・・。イヴァン。さっきは排泄物だって言わなかった?これ、どう見ても綺麗な鉢植えだよ?」


 『だから余分なものを体外へ排出しているのだから排泄物だろう?』


 確かにそうかもしれないけど、これが排泄物!?

 いや、こんな綺麗な鉢植えを排泄物とは言わない。

 つまりユラは、魔力を吸収した後のいらなくなった物を体の中で別の物に変換して放出している・・・ということかしら?

 排泄物って思うより気持ち的に全然いいんだけど、摩訶不思議すぎてファンタジーの一言で片付けていいものやら・・・。

 異世界って奥が深い・・・。


 でも何で鉢植え?


 『美味い飯を食わせてもらった礼らしい。つまりこやつは自分が思うように不必要な物を体外へ排出できるらしい。最も大地の精霊らしく緑に関する物、例えば今の鉢植えのような物以外は無理らしいが。全く。とても同じ精霊とは思えぬ。こんなことができる精霊など今まで聞いたことがない。特殊な生まれの者は全てが特殊なのだな』


 妙に感心するイヴァンの声もそこそこに私はジッとユラを見つめた。


 特殊・・・。

 そっか。

 ユラは私と同じなんだ。

 いるはずのない場所にいて、普通なら有り得ないことが起こって、周りの人たちとは全然違う異質な存在。


 どうして私だけここにいるんだろう。


 幾度となく頭に浮かぶ疑問。

 でも、誰かが答えてくれることもなく、いつしか考えることもしなくなった。

 幸か不幸か、イヴァンの世話で忙しいからね。

 それでも私には最初からイヴァンがいてくれたから。

 随分救われたと思う。

 でも、ユラには?

 三年もの長い間、誰もいなかったの?

 ずっと一人だったの?


 そんなことを思ったら何だか泣きそうになって、思わずユラをギュッと抱きしめた。


 「これからは私やイヴァンがいるからねっ」


 『我を巻き込むなっ』


 「俺だっているぞっ」

 

 二人の声がユラに聞こえていたかどうかは定かではない。


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― 新着の感想 ―
[一言] サキが食堂を経営したら繁盛しすぎて、そんなに儲からなくても良いのに忙しくて、暇が無くなりそうですね。
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