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のんびりまったり異世界生活  作者: 和奏
第二章 異世界はやっぱり異世界です
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16 大地の精霊!?

 「クラゲっ!?」


 一瞬、海の中にいるかのように錯覚してしまったほど、海の中を漂うクラゲのようにゆらゆら揺らめいていた。


 「なんでここにクラゲがいるのっ?それも海の中じゃなくて空気中を泳いでるしっ。ソルディアじゃクラゲは陸にいるものなの?すごいわっ。ねっ、触ってもいい?やっぱり毒があるのかしら。刺されたりしない?ねっ・・・」


 興奮して矢継ぎ早に話す私をイヴァンが静かに遮った。


 『何故、大地の精霊がここにいる?お前たちはアルクマールを住処にしているはずだ。何か理由があるのか?』


 「え?このクラゲが大地の精霊なの?クラゲじゃないの?」


 「これが大地の精霊・・・」


 驚く私の横でモリドさんもそうつぶやくとごくんと息をのんだ。


 「・・・」


 大地の精霊が何かを言ったようだけど、私にはさっぱりわからなかった。

 イヴァンの説明によると、このクラゲが大地の精霊で間違いないこと。

 イヴァンやシロのような上位の精霊ではないため、イヴァンたちのように人間と会話はできないこと。

 でもこの精霊さん、下位の精霊なのに人間の言葉はわかるらしい。

 そして、三年くらい前にこのハナマイムの木から生まれたこと。

 大地の精霊は生まれた木や植物の周辺で暮らすことが多いらしい。


 「精霊って木から生まれるの?」


 いやいやそんなことも知らないのかなんて顔をされても知るわけないでしょ。

 地球生まれの地球育ちなんだってば。


 何も知らない私にイヴァンが教えてくれる。


 『精霊は自然から突然生まれてくる。大地の精霊は木々や植物から。水の精霊は湖や川から。火の精霊は炎から。そして我ら風の精霊は風から生まれる。ほとんどがそやつのような下位の精霊だがな』


 「大地の精霊が木々や植物から生まれてくるなら、私どうして今まで一度も見たことなかったの?風の森っていうくらいだもの、たくさん木も植物も生えてるじゃない?湖だってあるし、風だっていつも吹いてるし」


 『我のように上位の精霊ではないものはほとんど姿を現すことはない。そこら中にいるが人間が気がつかないだけだ。特に風の精霊は同じ場所に留まらず、常に風と共に移動しておる。この国を出ることもなければ、他の精霊たちもこの国へ来ることはない』


 「どうして?」


 「・・・。ここグルノーバル王国が何故風の国と呼ばれているかわかるか?」


 「・・・イヴァンがいるから?」


 私の本気の答えを無視(スルー)し、イヴァンが続ける。


 『風の精霊が生まれやすいからだ。反対に他の精霊はこの国では生まれぬ。風はどこの国にも吹く。だが、他の国ではほとんど生まれることはない。同じことが他の精霊にもいえる。水の精霊はラシュートで、火の精霊はベステルオースで、大地の精霊はアルクマールでしか生まれぬ。何故だか理由はわからぬ。だが昔からそのようになっておる。ゆえに・・・』


 イヴァンはチラッと視線を大地の精霊に向けると納得できない様子でつぶやいた。


 『何故、大地の精霊が風の国グルノーバル王国で生まれたのか・・・』


 「別にどこで生まれてもいいじゃない。それよりもイヴァン。もっとにこやかにできないの?この子、怯えてるでしょ」


 私からすれば精霊がどこで生まれようとたいした問題じゃない。

 むしろ、目の前にいるものがクラゲそっくりだという方が問題だ。


 だって私、モフモフ動物も好きだけど、年に何回か水族館にクラゲを見に行くくらいクラゲも大好きなんだもの。


 「大丈夫よ。イヴァンは顔が怖いだけで本当は怖くないからね。ねっ、触ってもいい?」


 「俺も触りたいっ」


 横からモリドさんが手を伸ばしてくる。

 二人ですりすりぷにぷにしていると、イヴァンの呆れた声が聞こえた。


 『そやつ、かなり嫌がっているぞ。いい加減解放してやらぬか』


 「え?ごめんなさい。かわいかったからつい・・・」


 二人して同じタイミングでさっと手を離す。


 わぁお、息ぴったり。


 なんてことはさておき、通訳代わりのイヴァンに、家の中の物が無くなったり、覚えのない物が現れたりすることについて何か知っているか聞いてもらう。


 すると驚きの事実が判明した。


 なんとこの精霊さん、普通の精霊のように魔力を吸収できないらしい。

 人間が食べ物を食べて栄養を摂取するように、何か物を体内に取り込むことによって魔力に変えているそうだ。

 そしてそれは食べ物に限らず金属や布、木製品など何でもいいらしい。

 生まれが特殊なら魔力の吸収の仕方も特殊だ。


 「じゃあ、家の中の物がいつの間にか無くなっていたのは・・・」


 『こやつが食っていたからだな』


 「そっかぁ。お腹がすいてつい食べちゃったんだねえ。覚えのない物が現れるのは関係ないの?」


 『それは魔力を吸収した後の残りかすのようなものだな。魔力は吸収できても物質そのものを全て魔力に変えることはできぬらしい。まあ、いわゆる排泄物だな』


 しれッとした顔で説明するイヴァンに、私は数秒ぽかんと口を開けたまま精霊を見つめていた。


 「・・・排泄物?それってつまり・・・。えーっっ!」


 そりゃ人間だって食べたら出すけどさ。

 精霊がそんな人間くさいだなんて思いもしなかったわっ。


 はっ!?

 イヴァンは!?


 「イヴァンも私の知らないところでトイレに行ってたのっ!?トイレの使い方、教えてなかったのに!?」


 イヴァンは苦々しげに顔をしかめると不機嫌さを隠そうともせず言った。


 『バカなことを言うでない。我らは元々何も食べずとも魔力を補えるし、口にした物全てを魔力に変えることもできる。ゆえに出す必要などない。金属や布など食べ物以外を口にしたこともなければ、口にしようとも思わぬ。サキに会うまで食べ物ですら口にしたいと思わなかったくらいだ。他のどんな精霊も同じだ。ともかくこやつが特殊すぎるのだ。そんなやつと一緒にするなっ』


 「そうなんだ・・・。やっぱり精霊なだけあってファンタジーなんだねえ。ペット用トイレシート、買ってこなくちゃいけないかと思ったよ」


 しみじみと言う私の耳にイヴァンのため息が聞こえた。


 『お前というやつは・・・』


 そんなイヴァンにさらに畳みかける。


 「イヴァン。一番大事なことを聞いてほしいんだけど。私たちがここに出入りしても大丈夫かどうか。あんまりうろちょろして目障りだって思われても困るし。ねっ、イヴァン、聞いてみて」


 直接話ができれば一番いいんだけど、無理なんだからイヴァンに頑張ってもらうしかない。


 「イヴァン。そんな面倒くさそうな顔しないで。私じゃ会話できないんだから仕方ないでしょ。精霊さん、何て言ってるの?」


 『・・・』


 イヴァンはやれやれといった風に首をすくめると、大地の精霊の方に向き直り何やら話しかけた。

 声なき会話なのでやり取りは全くわからないけど、イヴァンによるとずっと一人だったのでどうしたらいいかわからないらしい。


 「私たちのこと、よくわからないんだもの、仕方ないわよ。あなたに危害を加えるつもりはないから安心して。少しずつ仲良くなっていけばいいわ。ねっ?」


 そう言って私が手を出すと、精霊さんは薄いひらひらした触手のようなものでちょんと触れてきた。


 「かわいいーっっ!」


 私は精霊さんを抱きしめるとぷにぷにする頭部と思われるところにほおずりした。


 しばらくサクラに会えてないからかわいいものに飢えてたのよね。


 「一緒に住むんだから改めてもう一度自己紹介するわね。私は早紀。こっちがイヴァン。それからついでにこの人はモリドさん。あなた、名前は?」


 俺はついでなのか?と抗議の声を上げるモリドさんを横目に、精霊さんを見るとぷるぷると頭というか体を横に振っている。


 「名前はないの?」


 もう一度聞くと、今度は体を縦に振っている。

 会話はできなくても多少の意思の疎通ができるのはありがたい。


 「じゃあ、私が名前をつけてもいい?」


 再度尋ねるとぷるぷると嬉しそうに縦に体を揺らした。

 

 見れば見るほどクラゲにそっくりだ。

 ユラユラ海の中を漂うクラゲに。


 「じゃあ、ユラでどう?ユラユラ揺れるクラゲにそっくりだから」


 本当に嬉しいようで、さっきよりも大きく体を揺らしている。


 「ふふっ、改めてよろしくね、ユラ」


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