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のんびりまったり異世界生活  作者: 和奏
第二章 異世界はやっぱり異世界です
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15 ハナマイムの木

 案内された先でも家を見せてほしいと言うと随分驚かれたけど、快く家の中を見せてくれた。

 玄関の鍵を開けて中に入ると、そこは店舗スペースで、その奥に大きめのキッチン、さらに奥には水回りがあるらしい。

 ここは昔パン屋さんで、跡継ぎのいない老夫婦が引退した後はずっと空き家になっているそうだ。

 もちろん老夫婦が引退した後、何人かの人がこの家で商売を始めたけど、食べ物だったり、生活用品だったり、売るための商品だったりが突然なくなって、かと思えば覚えのない物が置いてあったり、家中が汚れたりするので、皆、気味悪がって一ヶ月もしない内に出て行くのだそうだ。

 この家の所有者でもある不動産屋のおじさん、サゴシュさんはとてもいい人で、そういうこともきっちり説明してくれて、その上で買うかどうか決めてくれと言ってくれた。


 物がなくなったり、現れたりすることと、大地の精霊の眷属が関係するのかはわからないけど、何か起こったらその時に考えればいい。

 私は毎日ずっとここで生活するわけじゃないので、少しだけ間借りさせてもらえれば十分なのだ。

 それにこの店舗スペースにはガラスのショーケースで出来たカウンターがあり、それが有名なアニメの、ほうきに乗って空を飛ぶ女の子が店番をするパン屋さんみたいで何だかワクワクする。


 私は入り口から家の中へ向かって声を張り上げた。


 「私は早紀と言います。この子はイヴァン。少し中を見せてもらいますね」


 突然の私の行動にモリドさんもサゴシュさんもびっくりしたようだけど、私がこれから一緒に暮らすなら挨拶は大事だと力説すると、本気で正体不明の何かと暮らす気なのかと驚かれた。


 もちろんですとも。

 相手が精霊なら何の問題もないはず。


 十分な広さの販売スペースにかなり広めのキッチンを見てまわった後、奥の扉を開ける。

 扉は二つあり左の扉を開けると水回りスペースだった。

 水回りスペースへの扉を開けて入ったすぐ横にもう一つ扉があり、そこも開けると地下へ通じる階段があった。


 「地下室まであるんだ」


 階段を降りて大きな地下室へ足を踏み入れると、そこには何故か草で編んだようなかご、何に使うかわからない木の棒、枯れ枝らしきもの、壊れた木の桶、それから・・・大量の土。


 「なんだ?この大量の土は・・・」


 モリドさんも地下室の大量の土を見て驚いている。


 「ここで何か育てているのかしら?」


 「誰がだっ」


 すぐさま、モリドさんに突っ込まれた。


 「よくわからない人がよくわからないことをするのはよくあることですよ」


 「よくわからんのはお前の方だっ」


 笑って言う私にまたしてもモリドさんの鋭い突っ込みが入った。


 おもしろい人だな、この人。

 モテたかったら笑いのセンスは必要だっていつだったか和奏が言ってたけど、それでいけばモリドさんは十分モテ要素があるってことじゃない?


 思わずモリドさんの肩をポンとたたき、私は告げた。


 「安心してください。モリドさんにはバラ色の未来が待ってますよ」


 私の唐突な発言に頭の上にはてなマークを並べるモリドさんを横目に部屋の奥へと進む。

 大量にある土はただの土ではなく、いわゆる腐葉土のようだった。

 これだけでも十分だけど、これに堆肥を混ぜれば立派に植物が育つ。


 「でも、何で地下室に土?」


 考えてもわからないのでひとまず一階に戻ることにした私たちだけど、その時部屋の隅で何かが動いた気がした。

 でも、目を凝らしてみても何も見えない。

 

 気のせい?


 首を傾げつつ、階段を上る私はため息をついた。


 これは掃除が大変ね。


 もう片方の扉は庭へ出る扉だった。

 そう広くもないけど、それなりのスペースの庭で隅には井戸もあった。

 井戸の向こうには立派な木が植わっており新緑の葉が太陽の光にあたってキラキラ光っている。


 何の木かしら?


 緑眩しい大樹を見上げていると、サゴシュさんが、


 「ハナマイムの木ですよ。この国ではあまり見かけない木ですが」


 と教えてくれた。


 ハナマイムっていうんだ。


 「もう少ししたら小さな赤い花が咲きますよ」


 へぇ、楽しみだなあ。


 「あの井戸は使えますか?」


 「使えるはずですよ」


 井戸はバケツを入れてくみ上げるタイプじゃなくてポンプ式だった。

 サゴシュさんとモリドさんが使えるようにしてくれたので水やりも問題なさそうだ。


 次に二階を見せてもらう。

 階段を上がった先に部屋が一つ、右手にも一つ、その奥に小さな小部屋が一つ、二階は全部で三つ部屋があった。

 ここで作業をするにしても、倉庫として使うにしても、十分な広さだ。

 それからもう一つ、屋根裏部屋があった。

 まるでアルプスの少女でも住んでいそうな部屋で、これはこれでいい雰囲気だ。

 普段は風の森で生活するけど、カイセリの街に来た時の拠点みたいにできればいいなと思う。

 たまにはここに泊まったりして。

 あとは予算の問題ね。


 「この家はおいくらですか?」


 私が購入の意志を示すと、モリドさんには本気か?と心配され、サゴシュさんも他にもいい条件の家はたくさんありますよと親切に言ってくれた。

 訳あり物件を無理やり売りつけようとしないサゴシュさんに好感を持った私はぜひ売ってくれとお願いした。

 若い子がこんな家に住まなくても・・・と言いつつもサゴシュさんは、


 「本来なら金貨七十枚なんですが、すぐに売買契約をしていただけるのなら金貨六十枚でけっこうです」


 「買いますっ」


 即答だ。

 金貨六十枚なら今までのギルドの報酬でなんとか払えるはず。

 サゴシュさんのお店に戻って、早速契約を済ませる。


 隣でモリドさんがあんないわく付きの家を買うなんてホントにサキは変わり者すぎるぞとブツブツ言っているけど、笑って無視(スルー)し、アイテムバッグの中から昨日もらった金貨五十枚の入った袋と、がま口財布に入れておいた以前の分と今日の薬草採取の報酬、合わせて金貨十枚を取り出し、サゴシュさんに手渡した。


 「金貨六十枚です。確認してください」


 昨日もらった報酬も多すぎると思ったけど、おかげであの家が買えたんだもの、よかったってことよね。


 ちなみにこの辺りで家を買うと金貨百二十枚から百五十枚くらいになるそうだ。


 相場の半分ほどで手に入れることができたのも正体不明の精霊のおかげね。

 仲良くなれたらいいんだけど。


 鍵を受け取るとサゴシュさんに礼を言って店を出る。


 ふっふっふー。

 いい買い物ができたわ。


 鼻歌まじりに上機嫌で歩く私の頭の上に、モリドさんのため息が落ちる。


 「モリドさん、ため息ばっかりついていると幸せが逃げちゃいますよ」


 私の言葉にモリドさんはさらに大きなため息をついた。


 「サキは楽天家だなあ」


 「あはは。よく言われます」


 もう一度買ったばかりの家に戻ると、家から少し離れた所から我が家を見上げる。

 赤い屋根の上の風見鶏がさっきよりも勢いよく回っていて、私たちを歓迎してくれているようだ。

 玄関扉には売り家のプレートはもうない。

 扉を開けて中に入ると、まず最初に、


 「今日からお世話になります。よろしくお願いします」


 と挨拶した。


 うん、挨拶、大事。


 もう一度一通り家の中を見て回ると、必要な物を考える。


 とりあえず大掃除しなくちゃ。


 家から持ってくるものを頭の中にメモすると、今度はモリドさんに向き直った。


 「モリドさん、心配しなくても大丈夫ですよ。イヴァンが言うにはこの家に住んでる正体不明の何かって大地の精霊の眷属だそうですよ。だから安心してください」


 私の言葉にモリドさんはしばらくあっけにとられていたけど、すぐさまらんらんと目を輝かせ始めた。


 「この家に精霊が住んでいるのか?会いたいっ。会わせてくれっ」


 興奮して捲し立てるモリドさんに唖然としつつも、


 「モリドさんっ、落ち着いてくださいっ。私もまだ会ったことがないので無理ですっ」


 ハッと我に返ったモリドさんは恐縮しながら口を開いた。


 「すまん、つい・・・。精霊がいるのかと思ったら興奮してしまって・・・」


 モリドさんは思いの外、夢見る男子だったようだ。


 「ねえ、イヴァン。どうしたら大地の精霊に会えるの?どうしてここにいるのか知りたいんだけど」


 イヴァンはあちこち気配を探るように視線を動かすと、やがて庭に視線を定めた。


 『庭の大きな木がやつの住処のようだな」


 イヴァンの言葉に促され、庭に出るとハナマイムだと教えてもらった大樹の下に行く。

 見れば見るほど立派な木だ。

 私は小さな声で呼んでみた。


 「精霊さん。何もしませんから出てきてくれませんか?」


 私の問いかけにも無反応だけど仕方ないか。

 本来精霊は人間とはなれ合ったりしないそうだから。

 まあ、ここや湖に例外はいるけど。


 『何も取って食おうというわけでないゆえ、そうびくびくするな。少し話がしたいと言っているだけだ。さっさと出てこい』


 イヴァンには見えているのか、何とか説得してくれようとしている。

 だけど・・・。


 「イヴァン。いくら口で何もしないって言っても、ただでさえ目付きが悪いのに、そんな目で睨まれたら出てきたくても出てこれないわよ」


 うっとおしそうに私を見たイヴァンは、ちっと舌打ちをしてそれっきり黙った。


 「大丈夫よ。何もしないから出てきて。ちょっと聞きたいことがあるの」


 しばらく待ってみたけど何も起こらない。


 どうしようか。


 顎に手を当て考える私に、イヴァンがボソッと言った。


 『出てきたぞ』


 「え?本当?」


 モリドさんと二人、目の玉が飛び出そうなくらい凝視したけど、全く見えない。


 「本当にいるの?」


 『そのままではサキには見えぬ。姿を現せ』


 イヴァンの命令ともとれる言葉に、目の前の空間が歪んだかのように見えたと思ったら、そこには青い半透明のクラゲが浮かんでいた。


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