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のんびりまったり異世界生活  作者: 和奏
第二章 異世界はやっぱり異世界です
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14 三角屋根のかわいいおうち、見つけました

 冒険者ギルドに着くと窓口で、今朝摘み取ったばかりの薬草を買い取ってもらった。

 珍しい薬草もあったそうで金貨六枚になった。

 次に昨日約束したレア魔物の肉をもらうために裏の建物へ向かう。

 中に入るとすぐに私たちに気づいたラクトンさんが飛んできて、私の両手を掴むとぶんぶん振りながら、

 

 「サキっ。ありがとうっ。うちのアイテムボックスに時間停止魔法をつけてくれてっ。これで大量に持ち込まれても不眠不休で働かずに済むよ。いつもこれのせいで、「私と仕事、どっちが大事なの?」って彼女に言われて振られるんだ。これで彼女に振られずに済むよ。本当にありがとう」


 そうなんだ・・・。


 「お、お役に立ててよかったです。ところで約束のお肉なんですが・・・」


 「あぁ、聞いてるよ。こっちだ」


 上機嫌のラクトンさんと一緒にアイテムボックスまで行くと、中からレア魔物の肉を出してくれる。


 「この白い紙で包んであるのがキングボア、こっちの茶色の包み紙がスチールバード、薄茶がマトルトサーペント、最後の黒い紙のがマーダーグリズリーだ」


 「ありがとうございます」


 私はラクトンさんから肉を受け取りながら礼を言った。


 「久しぶりにレアな魔物が解体できたってフラッジオさんは上機嫌で帰って行ったよ。俺も珍しい魔物の解体を体験できたし。本当にありがとう」


 「いいえ。私も食べるのが楽しみです」


 すごく喜んでくれているラクトンさんと別れ、次の目的地である市場へと歩いて行く。

 足取りも軽く気分よく歩く私の頭の中は最高級肉のことでいっぱいだ。


 どうやって食べようかなあ。


 浮かれる私を見ながら、隣を歩くモリドさんが聞いてきた。


 「サキは肉が好きなのか?」


 「お肉が好きと言うより食べることが好き・・・ですね。あまり上手くはないですけど料理も好きです」


 「そう言えば、昨日の夕方、詰所に寄ったらサキからの差し入れだとケーキを貰った。すごく美味かった。ありがとな」


 「お口に合いましたか?素人の作るものだから、たいしたものでもないんですけど・・・」


 「十分美味かった。甘ったるいのかと思えばそうでもなくさっくりと食べられた。そういや、商業ギルドにも登録してるから商売のことも考えないとって言ってたよな。あの蜂蜜のケーキを売ればいいんじゃないか?まあ、あんまり高くなると街の人間には贅沢すぎて買えねぇかもしれないが・・・。売る物はともかく店を探す気があるなら手伝うぞ。サキよりは街のことを知ってるからな」


 「本当ですか!」


 実は少し考えていることがあるのだ。

 一部の人たちには野宿していないことがバレちゃったけど、このままいつまでも街の外へ帰るのもおかしな気がするので、街の中に家を借りようかと思っている。

 シロに付与してもらった転移魔法があるので借りた家と風の森にある家を簡単に行き来できるからそういった不都合を解消できるんじゃないかと思うの。

 さらに店舗付き住宅なら尚良し。

 だからモリドさんの申し出はありがたい。

 もちろん商業ギルドへ行って斡旋してもらってもいいのだけど、せっかくなのでモリドさんにお願いすることにする。


 「ちょうど家を探そうと思っていたんです。いつまでもイヴァンがいるから野宿してますって誤魔化せませんし。もし店舗付き住宅みたいなのがあれば嬉しいです。もちろん費用はなるべく抑えめで」


 モリドさんは、早速見に行くかと市場へ向かっていた道をそれて街の中心地へ向かって歩いて行く。

 中心地にある広場も抜けてさらに少し歩くと、道の両側にたくさんの店が並ぶ通りに出た。

 パン屋さんや衣料品店、雑貨屋に武器屋らしき店などいろいろな店が軒を連ねていた。

 

 「かわいいっ」


 どの店もレンガ造りや石造りのお洒落な店構えで見ているだけでウキウキしてくる。

 本当は一軒一軒中に入ってじっくり見てみたいけど、付き合ってくれているモリドさんに悪いので今日は外から眺めるだけで我慢する。


 またゆっくり見に来よう。


 「この辺りは比較的治安もいいから安心だ。まあその代わり家賃は少し高くなるが、サキが一人で住むならこれくらい治安のいい所じゃないと後で俺が隊長に怒られる。どこかに空き店舗があったはずだ」


 そう言って、モリドさんは視線をあちこちにやりながら探してくれた。


 モリドさんっていい人だなあ。

 イヴァンがいるからそんなに心配いらないけど、治安がいいのに越したことはないものね。


 「あっ、あった。確かここだ。ってあれ?」


 モリドさんの指差す方へ目を向けると一軒のかわいらしいレンガ造りの家があった。

 でも・・・そこには靴屋の看板がかかっていた。


 「すまん、サキ。ついこの間まで空き店舗だったんだ。先を越されちまったみたいだな」


 モリドさんのせいじゃないのに申し訳なさそうに謝るモリドさんに私の方が恐縮してしまう。


 「モリドさんのせいじゃないですから気にしないでください。それに私としてはもう少し静かな通りの方が好きです」


 この通りは道幅も広く人通りも多いのでかなり賑やかだ。

 できればもう少し静かな所でのんびりまったり自分のペースで店を開けたり閉めたりできればいいなと思っているので、この通りに面した店では私の希望とは合わない。


 「そうか。じゃあ裏の通りも見てみるか」


 モリドさんと一緒にのんびり裏の通りを歩いてみる。

 一本通りを入っただけなのに思ったより静かで、普通の家や一階部分がお店になっている家が建ち並ぶ、そんな通りだった。


 この感じ、いいなあ。


 子供たちがはしゃぎながらこっちに向かって走ってきたけど、イヴァンの姿を見て顔を引きつらせ来た道を慌てて戻って行く。

 井戸端会議中のご婦人方もおしゃべりを止めてこちらを見ている。

 家の前に出した椅子に座って日向ぼっこをしていたご老人は椅子から転げ落ちた。


 そんな街の人たちの姿にため息を漏らしつつ、歩を進める。


 「イヴァンは誰かれ構わず襲ったりしないのに・・・」


 私のつぶやきを拾ったモリドさんが、


 「気にするな。そのうちみんなも慣れるさ」


 と慰めてくれる。


 モリドさんの言葉に元気づけられた私は、落としていた視線をモリドさんに向けた瞬間、モリドさんの後ろの建物に目を奪われた。

 それはログハウスのような丸太造りの二階建ての家で三角屋根になっていて、屋根の上には風見鶏が風に吹かれてくるくる回っていた。

 三段ほどの階段を上ると玄関ドアがあり、ドアの横には大きめの窓、窓の下には壁に沿って花壇が作られている。

 今は何も植えられてなくて雑草だらけだけど。

 そして、玄関ドアにかかっているプレートには売り家の文字。


 私は興奮しながら言った。


 「モリドさんっ。私、この家がいいですっ。値段にもよりますが、できればここに住みたいですっ」


 私の興奮とは裏腹に、なんだかモリドさんの様子がおかしい。


 「・・・モリドさん?」


 何やら考え込んでいたモリドさんだけど、


 「サキ。ここはやめとけ」


 「どうしてですか?」


 首を傾げる私にモリドさんは真剣な顔で言った。


 「ここには見えない何かが住んでるらしい」


 「見えない何か?」


 「ああ。とにかくよく物が無くなるそうだ。かと思えば覚えのない物が現れたり、家中が泥だらけになったり。姿は見えないが何かの気配を感じることもあるらしい。だからみんな気味悪がって近寄らない。残念だがサキもやめておいた方がいい」


 「・・・」


 こんなにかわいい家なのにいわくつきなの?


 モリドさんにああ言われたものの、気になって仕方がない。


 見た感じはすごくいいんだけどなあ。


 レンガ造りや石造りの家が多い中、丸太造りのこの家は独特の雰囲気を出していて、木のぬくもりを感じられる柔らかい印象の家だった。

 全くおどろおどろしい気配は感じられない。

 私はイヴァンに聞いてみた。


 『ねぇ、イヴァン。この家に正体不明の何かが住んでるって本当?』


 様子をうかがう素振りを見せていたイヴァンだったけど、しばらくすると、


 『魔物の気配はせぬが・・・我らの眷属らしき気配はあるな』


 『眷属?つまり精霊ってこと?』


 私は驚いてイヴァンを見た。


 『うむ。あれは大地の精霊の眷属だな。大地の精霊はアルクマールを住処とする者が多いが・・・。まあ、どこにいようと我には関係ない。それにアクエの例もあるからな』


 そうね、ラシュートにいるはずのシロも何故かここグルノーバル王国の嘆きの森にいたんだものね。

 そういえばどうしてグルノーバル王国にいたのかしら。


 『じゃあ、害意はないってこと?』


 『今のところ感じられぬが・・・。詳しいことはわからぬ』


 そっか。

 お化けの住む家は嫌だけど、精霊の住む家ならいいよね。

 風の森にある家だって精霊の住む家になっちゃってるんだもの、同じようなものよね。


 「モリドさん。やっぱり私はここに住みたいです。こんな木の家に住むのが夢だったんです」


 胸の前で両手を合わせ、モリドさんを見上げながら私は言った。


 どうだっ、必殺乙女の上目遣いっ。


 「サキ。何が起こるかわからんからやめておけ」


 あっさりモリドさんに却下された。


 おかしいな。

 男の人って女の人の上目遣いに弱いんじゃないの?


 ブツブツ言う私の頭の上からモリドさんのため息が降ってきた。


 「得体の知れないものが住んでるって聞いたら普通、女なら嫌がるもんだろ?なのに何でサキは住みたがるんだ?変わり者にもほどがあるぞ」


 それは得体の知れない何かの正体がわかったからです。


 「住む、住まないはともかく、一度中を見せてもらうことはできませんか?お願いします、モリドさん」


 結局、がんとして首を縦に振らない私にモリドさんの方が折れて、この家を管理している不動産屋に案内してくれた。


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