6 いちご大福作ってみた
ふと、リビングのイヴァンを見ると、寝息を立てて完全に寝ているようだ。
さて、今から何をしようかな。
うーん。
あっそうだ。
冷蔵庫にいちごが入ってたっけ。
あれでいちご大福を作ろう。
レンチンで簡単にできるやつだけど。
早速、キッチンに入って材料を取り出す。
白玉粉、砂糖、缶詰のあんこ、いちご。
白玉粉、砂糖、水を容器に入れてよく混ぜレンチン。
取り出して、片栗粉を引いたシートにのせ薄く伸ばして適当な大きさに。
これでもちの部分ができた。
あんこをスプーンですくってもちもちの皮の上にのせ、さらに洗ってへたを取ったいちごをのせ、少しいちごが見えるように包む。
いちご大福の完成だ。
たくさんあっても食べきれないので少なめにと思って作ったのに案外たくさんできてしまった。
ここでは近所にお裾分けというわけにもいかないし、どうしようかなぁ。
なんて考えていたら
『それは何だ?いい匂いがするな』
とイヴァンの声が響いてきた。
気がつくと私のすぐ近くまで来て、いちご大福を凝視している。
「いちご大福よ。ちょっと暇だったから作ってみたの」
『食べてもいいか?』
チラッと時計を見ると、三時半を少し回ったところだった。
まあ、おやつにはいい時間よね。
「いいけど、さっきのお饅頭やおはぎと違ってこの皮はもちもちしてるから喉に詰めないように気をつけてね」
いくつか取ってお皿にのせて、いつの間にかテーブルの椅子に座っているイヴァンの前に置く。
その内の一つを口に入れてパクリ。
一口である。
『おぉ、これも美味いな。いちご大福といったか』
満足げに次から次へと口に入れていく。
本当に美味しいと思ってくれているのだろう。
しっぽが思いっきりゆらゆら揺れている。
その間に私はさっきと同じようにお茶を入れ、いちご大福を一つ皿に取り、イヴァンの向かいに座る。
一応、イヴァンの前にもお茶を置く。
いただきますと手を合わせ食べようとしたところで、イヴァンのおかわりと言う声が聞こえた。
食べ過ぎではと思ったけど、イヴァンの全身から出ている食べたいオーラに負けて残りのいちご大福をイヴァンの前に置いた。
残っても明日には固くなって食べられないからと自分を納得させるともう一度いただきますと手を合わせ、今度こそいちご大福をほおばった。
美味しい。
思ったより上手くできたようだ。
今回は材料がなかったので、普通の黒い小豆あんを使ったけど、本当は白あんで作ったいちご大福の方が好きなのだ。
ネットスーパーで買い物ができたら、白あんも手に入るのになあ。
やっぱり物のやり取りは無理かなあ。
ネットスーパーでの買い物ができるかできないかも重要だけど、どちらにしてもこの世界の事を知ることが必要だ。
まず、この世界の貨幣価値や生活水準が知りたい。
あと、この世界での私の身分はどうなのか。
戸籍とかあるのかな。
いつの間にかここにいた私に戸籍の取得とか無理だよね。
『身分の保証ならギルドへ行けば、してもらえるはずだ』
突然聞こえてきた声の方に視線を向ければ、あれだけたくさんあったいちご大福を全部平らげたイヴァンと目が合った。
「全部食べちゃったの?いちご大福」
『うむ。美味かったぞ。また作ってくれ』
盛大にしっぽが揺れている。
あぁ、モフりたい。
「糖分摂りすぎると体に良くないよ」
『我は精霊だ。何の問題もない』
・・・そうでございますか。
別にいいんですけどね。
私は一口お茶をすすり、小さくつぶやいた。
「私みたいなこの国の人間じゃなくても身分の保証なんてしてもらえるの?」
『問題ないはずだ』
「じゃあ、冒険者ギルドに行けばいいのね?」
『別に商業ギルドでもかまわんと思うが』
「商業ギルドもあるの?商売をする人のためのギルド?」
『そうだ。商いをやる者は商業ギルドに、冒険者は冒険者ギルドに登録するのが普通だが、どちらにも登録する者もいたはずだ。ギルドに登録すればギルドカードが貰え、それが身分証になる』
「へぇー、そうなんだ。どっちに登録した方がいいかな。でも登録したら何もしないわけにもいかないよね。私、冒険者には憧れるけど魔物討伐なんてできそうもないから冒険者にはなれないな。やっぱり商業ギルドかな。でも商売なんてしたことがないから商人にもなれないや。うーん、どうしよう」
真剣に悩んでいる私にイヴァンは事も無げに言った。
『どちらにも登録すればよかろう』
「どっちにも?」
『うむ。冒険者として極めるつもりがないのなら薬草採取のような比較的簡単な依頼のみ受ければいい。それにお前は我と契約して風魔法が使えるはずだから練習次第で弱い魔物くらい狩れるようになるだろう。商いにしてもお前の作る飯や菓子は美味い。上手くやればすぐに商人として成功するだろう。まあ、我としては我のためだけに作ってほしいところだがな』
そう言って、イヴァンはニヤリと口角を上げた。
うん、笑ったよ。
狼でも笑えるんだ。
『狼ではないと何度も言っておろう』
あっ、ちょっと不機嫌になった。
無表情なのかと思ったら、案外いろいろな表情を見せてくれる。
「ふふふ」
なんだか楽しくなってくる。
誰かがいるっていいなあ。
やっぱり一人は寂しいから。
「貨幣価値や生活水準なんかは・・・」
『街へ出てみなければわからんな』
「そうだよね。やっぱり一度街を見てみたいなあ。ギルドに登録に行くついでに見て回ろうかな。
ねぇ、イヴァン。私みたいなよくわかってないおばさんがギルドで登録したり、街を歩いてたりしてても怪しまれたりしない?あんまり目立ちたくないんだけど」
『・・・おばさんどころか子供にしか見えぬと言っておろうに』
そう言ってイヴァンはため息をついた。
そう、ため息をついたの、狼なのにっ。
すごくない?
『だから我は狼ではないと・・・』
「わかってるって。精霊なんだよね、狼そっくりな・・・」
私の言葉にイヴァンは残念な子を見るような目で私を見て、また一つ盛大なため息をついた。
何故だ?