9 従魔の印
床に立つシロに目を向けると、ジッとこっちを見上げていた。
何だかきゅんとして思わず小さな子供にするように頭をよしよしと撫でていた。
「気を遣ってくれてありがとう。食事の時だけでもその姿でいてくれると嬉しいかな。人型でもちゃんとご飯食べれる?」
「うむ。大丈夫だ。魔力不足ゆえ長い時間この姿でいることはかなわぬが、食事の間くらいなら問題ない」
「そうなのね。ありがとう、シロ」
シロを見ながらにっこ笑うと、シロは何故か視線を逸らしながら、
「・・・あー、その・・・。代わりと言っては何だが、我もフェンリルのような従魔の印がほしい。作ってはもらえぬか?」
従魔の印?
イヴァンの首元の飾りがキラッと光る。
あ、あれのことか。
いつの間に従魔の印になっちゃったのかしら。
「もちろん、いいわよ。そのうち作るつもりだったし」
早速趣味部屋から材料を取ってきて作り始める。
もちろんメインのトップはシロの瞳に合わせた赤いシズク型のスワロ。
シロは変異するのでギュッと固定されるより大きさが変わっても問題ないようにテグスではなくブレスレット用のゴムで作ることにした。
それでも体が小さいのでイヴァンの首飾りのように編んだりせず、一本通すだけにする。
どうしようか。
シロの真紅の瞳に合わせた赤いシズク型のスワロをトップにしてその両横にアイボリーのパールビーズを持ってくるでしょ。
それから・・・天然石を並べよう。
白いシロと赤いスワロに馴染むようにラピスラズリをチョイス。
しかも選んだラピスラズリは青ではなく、一見黒かと見紛うほど濃い紫で、その中に金色の星のような模様が入っていてとても神秘的だ。
きっとシロによく似合う。
体の小さなシロに合うようにトップのスワロも少し小さめなので、小さなスワロが目立つようにラピスラズリも直径三ミリの小さなものにした。
配置通りにゴムに通し、最後にゴムを結んで完成。
人型のシロの首にかけてあげると大きさもぴったりで全体的に白いシロに濃い紫と赤い色が映える。
「わあ、素敵よ、シロ。よく似合ってるわ」
「そ、そうか」
何だか照れているシロに、元の蛇の姿に戻ってもらう。
「どう?首締まってない?つけたまま変異しても苦しくない?」
蛇の姿のシロの首のあたりに首飾りがあり、ずり落ちそうな感じはない。
「うむ。どちらの姿でも苦しくない」
「元の大きさに戻れたら、そのときのシロに合わせてまた作り直すからね」
イヴァンのものに比べて一見簡素な作りに見えるシロの首飾りだけど、人型になってもあまり表情の変わらないシロの嬉しそうな雰囲気は伝わってくる。
早く元の大きさに戻れるといいね。
そうしたら大きなシロに似合う豪華な首飾りを作ってあげるからね。
しばらく三人でまったりしていたけど、シロが湖へ戻っていったので、私たちも今日はもう寝ることにした。
この世界に来てからは日の出とともに起きて、日の入りとともに就寝・・・ということはないけどそれほど夜更かしすることもなくベッドに入る生活だ。
健康的なこと、この上ない。
ベッドに入るといつもならすぐに寝てしまうのだけど、今日はなかなか眠れなかった。
ふとした時にイヴァンの言葉が浮かんでくる。
人は一人では生きられない。
人生八十年として、とっくに人生の折り返し地点を過ぎていたのに、気がつけばこれからの人生の方が長くなっている。
もちろん、これからもイヴァンやシロと一緒に生きていくのだろう。
でも精霊である彼らと私では根本的に違う。
いつかそれに耐えられなくなる日が来るのかな。
その時、側にいてほしいと思う人がいるのかな。
小さな小さな不安の種を私は胸の奥にしまっておくことにした。
眠れない夜を過ごしていたつもりでもいつの間にか眠っていたようで、翌朝も朝の光と鳥のさえずりで目を覚まし、イヴァンと一緒に階下へ降りる。
すかさずシロが姿を現したので「おはよう」と声をかけると誇らしげに胸を張って「おはよう」と返してくる。
そんなに喜んでもらえて嬉しいけど、反対に簡素過ぎて申し訳なくなってくる。
昨日の夜、ホームベーカリーをセットしておいたので、朝食は焼きたての食パンで厚焼き卵のサンドイッチにしよう。
卵に牛乳、砂糖、マヨネーズ、塩を混ぜ卵焼き器で焼いていく。
焦げないようにかき混ぜながら、半熟状態になったら半分に折り、中まで火を通す。
食パンにマヨネーズを塗り、厚焼き卵をどんっとのせ、食パンで挟み、四等分にカットしたら完成。
細切りにしたベーコンとみじん切りにしたニンニクを炒めて、トマト缶と水を加えて作ったトマトとベーコンのスープを添えて、朝食の出来上がり。
シロの分は四等分にしたものをさらに四等分してみた。
人型のシロは十五センチくらいの身長しかないので、あまり大きいと食べられない。
スープも一番小さな皿に入れる。
スプーンも一番小さなコーヒースプーンを用意したけど、これでも大きすぎるかも。
手を合わせて食べようとしたとき、人型のシロなら手を合わせることもできるなと思い、食べる時の作法を教えた。
シロも毎回私とイヴァンが「いただきます」「ごちそうさま」と言うので、不思議に思っていたそうだ。
三人で「いただきます」と合掌した後、食べ始める。
ふと気になった私はシロに、蛇の姿のときみたいに丸呑みしないでちゃんと噛んで食べてねと一言添える。
精霊が喉に食べ物を詰まらせて死んじゃったなんてことになったら洒落にもならない。
シロは丸呑みしていたときと同じくらいのゆっくりとしたペースで食べている。
それとは対照的にイヴァンはものすごいスピードで平らげている。
「イヴァン、もう少しゆっくり食べれないの?早すぎない?」
私の言葉も無視して、イヴァンは一言、
『おかわり』
もう本当にイヴァンたらせっかちなんだから。




