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のんびりまったり異世界生活  作者: 和奏
第二章 異世界はやっぱり異世界です
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4 ウッドさんってばお茶目ですね

 「サキ、悪いがこいつを解放してやってくれるか?」


 「はい、わかりました」


 仕方なくメイブを解放しようとしてはたっと気がついた。


 どうやって解除すればいいの?


 困った私は助けを求めてイヴァンの首元に抱きついた。


 「イヴァン、どうしよう。どうやって解除すればいいのかわからないんだけどっ」


 「「はっ?」」


 後ろで二人のハモった声が聞こえたけど、それどころじゃない。


 『...サキ、落ち着け。我にもよくわからぬ魔法だが使えたのだから解除もできるはずだ。だいたいお前が以前土魔法でアースウォールを使ったときもちゃんと元に戻せただろう。同じことではないか』


 あっ、そうか。

 元に戻すイメージでいいのか。

 圧縮した空気を元に戻す...。

 元に戻す?

 ダメだ、イメージできない。

 そこまで私、理系じゃない。

 土魔法と同じようにはいかないな。

 なら、違う角度から攻めてみようかな。

 強固なダムも小さなひび割れから決壊したりするものね。

 だからこの塊にひび割れを作ればいいんじゃないかしら。

 金槌で釘を打つイメージで...トンっ。

 トン、トン、トン。

 パリンっ。


 流石に音までは聞こえなかったけど、空気の塊が砕け散った。


 「よかったぁ。解除できた」


 ほっと息をついた私に、自由になったメイブがいきなり掴みかかろうとした。

 すぐには動けなかった私だけど、その手が私に届く前にマルクルさんとウッドさんに阻まれた。


 「メイブっ。サキには手を出すなと言っただろう。ギルドを敵に回す気か?」


 「ギルドだけではないよ。俺たちドラゴンナイトもだ。そうそう、一つ忠告してあげるよ。お前ごときじゃサキには勝てない。さぁどうする?」


 強面の顔をさらに怖くして睨むマルクルさんと、にこやかに優しげな笑みを浮かべるウッドさん。

 対照的な二人だけど、言っていることは同じ。

 二人とも私の味方だと思うと嬉しくなる。

 

 「...ちっ、わかったよ。おら、お前ら行くぞっ」


 私をひと睨みして、メイブは仲間と共にギルドを出て行った。


 はぁ、よかった。

 でもこれからはもう少し気をつけなくちゃ。

 他の人に迷惑かけたくないからね。


 「大丈夫か?サキ。悪かったなぁ。あいつらはあんまり評判のよくねぇパーティだ。何かあったらすぐ俺に言えよ」


 「ありがとうございます、マルクルさん。助かりました。ウッドさんも。ウッドさんまで巻き込んでしまってすみませんでした」


 私は二人に深々と頭を下げた。


 イヴァンがいるから誰も絡んでこないと思い込んでいた私が悪い。

 もう少し警戒心持たなきゃダメね。


 「気にするな。それより例のものは?」


 私がこくりと頷くと、マルクルさんに連れられてギルドの裏手にある建物に案内された。

 ここが持ち込まれた魔物を解体する作業場兼倉庫らしい。

 中に入ると早速解体担当者らしき人が飛んできて、


 「ボス、この人が例の?」


 「ああ、サキだ。サキ、こいつはラクトン。それともう一人・・・」


 「おお、その子がサキか。早くAランクのレアものを出してくれ」


 ラクトンと呼ばれた若い茶髪の青年の後ろから、白いあごひげたっぷりの貫禄のあるおじいちゃんが出てきた。


 「フラッジオ。待ちきれないのはわかるが、紹介だけさせてくれ」


 マルクルさんが紹介してくれたフラッジオさんは解体一筋五十年の大ベテランで、解体の責任者でもあるらしい。

 久しぶりにレアものの解体ができるとあって、昨日からそわそわと落ち着かなかったそうだ。


 アイテムバッグの中から、預かっていたキングボア・スチールバード・マトルトサーペント・マーダーグリズリーを取り出した。

 それを見たフラッジオさんは目を輝かせて、


 「早速解体じゃっ。ほれっラクトン、さっさと用意せいっ」


 フラッジオさんは意気揚々と解体を始めた。


 「キングボアの解体なんぞ、十五年ぶりじゃ。腕が鳴るのお。その上新鮮ときた。やはり時間停止魔法というのは良いのお」


 上機嫌で解体していく。


 そうか、やっぱり時間停止魔法付きのアイテムバッグを持っていること、知ってるんだ。


 「ラクトン、こんな時に悪いが昨日頼んでおいたものはできてるかい?」


 一緒に来ていたウッドさんもここに用があったのか。


 「ああ、ウッドか。できてるよ。そこに置いてあるから勝手に持って行ってくれ」


 ラクトンさんはこちらを見もせず、フラッジオさんの仕事を凝視している。

 大きな包みを手にしたウッドさんと一緒に作業場を後にし、マルクルさんの後についてギルド二階の執務室に入る。

 ソファに座るとタイミングよくリンジーさんがお茶を持ってきてくれた。

 ちょっと薄味のハーブティ。


 おお、ここで今朝焼いた蜂蜜のパウンドケーキの出番じゃないの。

 お茶請けにぴったり。


 早速、パウンドケーキをアイテムバッグから取り出し、ナイフで適当な大きさに切り分けてどんっとテーブルの中央に置いた。

 

 「一緒にどうですか?」


 さらにアイテムバッグからケーキを取り出すと、マルクルさんに手渡した。


 「いろいろお世話になったお礼です。よければ、皆さんでどうぞ」


 同じようにウッドさんにも。


「美味しそうなケーキだね。ありがとう」


 そう言ってウッドさんはにっこりといつもの優男スマイルを浮かべた。


 ウッドさんって体はムキムキのマッチョなのにそれに似合わない優しい顔立ちなんだよね。

 なんだかギャップ萌えしそう。


 「ところでサキ。今更だが怪我はしてないか?ホントに悪かったな。あいつらの評判はあんまりよくねえが、それでもBランクなだけあってそこそこ実力もある。規則違反でもしてくれりゃこっちとしてもそれなりの対処ができるんだがな」


 申し訳なさそうなマルクルさんに、


 「マルクルさんのせいじゃないです。私が挑発したのが悪いんです。そのせいでウッドさんにまで迷惑をかけてしまって・・・。本当にすみませんでした」


 頭を下げる私にウッドさんは変わらず優しい笑顔で気にしなくていいよと言ってくれた。


 「サキのせいでもないから気にするな。・・・ところでウッド、お前が何でここにいる?」


 「いやだなあ。昨日の報酬を受け取りにですよ」


 にこやかに笑うウッドさんに、


 「なら下の窓口で受け取ってくれ」


 マルクルさんはにべもなくウッドさんを追い出そうとしたけど、


 「でも、メイブのやつが待ち伏せでもしてたらマズいでしょ。だから俺もサキの用心棒代わり」


 「ありがとうございます、ウッドさん。でもウッドさんも忙しいんじゃないですか?私ならイヴァンがいるから大丈夫ですよ」


 「確かに俺なんかより頼りになるだろうね。でもここでじゃあ後はよろしくって帰っちゃたら俺、男としてどうよってならない?」


 ウッドさんはいたずらっぽく笑って言った。

 私が気にしないようにあえて明るく振る舞ってくれるウッドさんの心遣いに嬉しくなる。


 「そうだな。メイブのやつがこれで諦めてくれればいいが・・・。俺たちも目を光らせておくから心配するな。何かあったらすぐ知らせろよ、いいな」


 マルクルさんにも念を押された。


 心配してくれる人がいるっていいなあ。


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