2 狼藉者は成敗してくれよう
いつものように髪はゆるく三つ編みに、瞳は変異魔法でアンバーに変える。
本当に変異魔法って便利だわ。
「シロ、私たち街まで行ってくるけど、いい子でお留守番しててね」
「・・・我は子供ではないぞ」
「じゃあ、行ってくるね」
後ろでため息が聞こえた気がしたけど、気にする間もなくカイセリの街の近くの木立の陰にいた。
転移魔法っていいわね。
もうイヴァンのジェットコースターに乗らなくてもいいんだもの。
街へ入るとまず先に門の横の警備隊の詰所に顔を出した。
「こんにちは。エドさんいますか?」
奥の部屋からエドさんが顔を覗かせ、
「ああ、サキか。何か用か?」
「用ってほどでもないんですが、今お仕事大丈夫ですか?」
「ん?かまわんぞ」
エドさんの許可をもらったので、エドさんの所まで行くと、アイテムバッグから焼き立ての蜂蜜のパウンドケーキを取り出し、手渡した。
「エドさん、いろいろご迷惑をかけてすみませんでした。それとありがとうございました。パウンドケーキを作ってきたので、よかったら食べてください」
エドさんは嬉しそうに、
「悪いな。でも礼を言うのは俺たちの方だぞ。お前たちのおかげで助かった。ありがとな」
そしてポンポンと私の頭をなでてくれた。
思わずにへらと笑ってしまったけど、自分の年を考えなきゃ。
さらにアイテムバッグからパウンドケーキを取り出し、エドさんに手渡す。
「スタンさんや他の隊員さんたちにもおやつ代わりに食べてもらってください」
「うん?スタンたちの分もあるのか。残念ながらスタンは今本部の方に行っていていないんだ。すまんな。みんなにも渡しておく」
エドさんと別れて今度は冒険者ギルドのマルクルさんのところへ。
ギルドの中に入ると何だかざわついている。
うん?
何かあったのかな?
受付を見るとロザリーさんがいたので、真っすぐにロザリーさんのところに行く。
「こんにちは。ロザリーさん」
「あっ、サキさん。お疲れ様でした。今回はサキさんのおかげだってギルマスが言ってましたよ」
ロザリーさんの笑顔に何だか癒されるわーとほっこりしていたら、突然腕をつかまれた。
「お前が三属性持ちのサキか?」
びっくりして声の方へ顔を向ければ、そこには角刈り頭のいかつい大男がニヤニヤ笑いながら私を見下ろしていた。
誰?
「なるほど。お前をパーティに入れれば、光魔法とシルバーウルフがついてくるのか。よし、俺のパーティに入れてやろう。Fランクの新人が一人でいてもすぐ死ぬだけだ。ありがたく思えよ」
え、何?
この上から目線。
するとロザリーさんが、
「やめてくださいっ、メイブさん。ちゃんとサキさんの意思を確認してください。それにサキさんはもうFランクじゃありません。Dランクにランクアップされたんですからっ」
えっ、Dランク?
いきなり?
何のことだとロザリーさんを見ると、
「さっきからギルマスがお待ちです。なのでメイブさん、サキさんを離してください」
「はあ?たかが受付嬢のくせに何を偉そうに俺に口きいてんだ。俺がこいつを俺のパーティに入れるって言ってんだからごちゃごちゃうるせーこと言うんじゃねえ」
うわー、なんか腹立つんですけどっ。
どうしてやろうかと考えていると、イヴァンの唸り声が聞こえた。
イヴァンを見ると、今にも飛びかかりそうだ。
「おいっ、シルバーウルフをけしかけるなよ。冒険者同士の喧嘩はご法度だからな」
下卑た笑いを浮かべながら、私を見ている大男を横目に、
「イヴァン、ダメよ。みんなが見てる前で何かしちゃ。規則違反になるんだって」
まるで誰も見ていない所なら何をしてもいいととれるような言い方をわざとしてみた。
案の定、その言葉を聞いた大男は、
「ふざけるなっ」
と怒鳴ると同時に私の腕をつかんでいる手に力を込めた。
「痛っ!」
ここ、絶対青あざになるよ。
「この小娘がいい加減にしろよっ。俺を誰だと思ってる。Bランクパーティ『赤いとかげ』のリーダー、メイブだっ。たかが、FランクだかDランクだかのランクのくせして楯突くんじゃねえっ!」
メイブと名乗った大男は、私の腕をつかんでいるのと反対の手を振り上げた。
殴られるっ!?
思わず目を瞑るけど、一向に衝撃は訪れなかった。
代わりに、
「いててっ。何しやがんだっ」
メイブの声が聞こえ、目を開けるとメイブの腕を捩じり上げるウッドさんの姿があった。
「ウッドさんっ」
「サキ、こんな奴に喧嘩なんか売っちゃダメだよ。仮にも女の子なんだからね」
「ごめんなさい」
ウッドさんの言葉に私は素直に謝った。
だって、つい・・・。
本当にムカついたんですもん。
「サキはメイブのパーティに入りたい?」
「いえ、全然。むしろ迷惑です」
「だそうだよ、メイブ。悪いけど諦めて?」
ウッドさんはにこやかに話しているけど、目は笑っていない。
「ウッドっ。離しやがれっ。お前には関係ないだろっ。口を出すんじゃねえっ」
メイブと呼ばれた大男はウッドさんを睨みながらウッドさんの腕を振り払おうとした。
「残念ながら関係なくはないんだよ。俺とサキは友達だからね」
「はあ!?何が友達だっ。嘘ついてんじゃねえぞ」
「心外だなあ。本当のことなのに。ね、サキ?」
私にウインクするウッドさん。
案外ウッドさんってお茶目なのね。
「とにかくこの汚ねえ手を離しやがれっ」
ウッドさんの手を無理やり振り払ったメイブは、今度はウッドさんの胸倉を掴んで、
「いつでもそうやって善人面しやがって。お前のそういうとこがムカつくんだよっ」
「俺もお前のそういう下品で乱暴で自分勝手なところが嫌いだな」
「ああ?お前に好かれたいなんぞ思ってねえっ」
「奇遇だねえ。俺もだよ」
「貴様ーっ」
いつ殴り合いの喧嘩になってもおかしくない一触即発状態だ。
どうしよう。
私のせいでウッドさんが規則違反なんてことになったら。
とにかく止めなきゃ。
同じくおろおろ見てるだけになっているロザリーさんに、
「喧嘩の仲裁のために魔法を使っても違反になりますか?」
「え?あっ仲裁なら大丈夫です。やり過ぎたらダメですけど」
それを聞いた私はイヴァンに尋ねた。
「土がなくても土魔法って使えるの?」
『使えんな』
あっさり返事が返ってきた。
そうか、ダメなのか。
ぬりかべも落とし穴も使えない。
かまいたちみたいな攻撃性のあるのもダメ。
他に何か・・・。
ふと、昔習った理科の授業を思い出した。
次回から毎週火曜日・木曜日・土曜日20時に投稿します。よろしくお願いいたします。




