45 綺麗になりたいのはどこの世界の女の子も一緒
部屋に戻ると、着替えを手伝ってくれた美人のメイドさん二人が、私が呼び止める間もなく慌ててお茶の用意をするために部屋を出て行った。
部屋にはみんなが座れるだけの椅子はないので、みんな好き勝手にラグの上だとかソファのアームの部分だとかに座っている。
どうしよう。
今のうちにこのドレス、脱ぎたかったのに。
そうだ。
「リタさん、ちょっとお願いがあるんですけど。このドレス、脱ぐの手伝ってもらえませんか?コルセットが苦しくって・・・」
「もう脱いでしまわれるのですか?」と聞くレインさんに「脱ぎます」ときっぱり断言すると「似合っているのに・・・」と呟く声が聞こえたが無視だ。
快く引き受けてくれたリタさんと一緒に寝室に入る。
リタさんに手伝ってもらいながらドレスを脱ぎ、コルセットをはずす。
うわあー、何この解放感。
コルセットがないだけで空気が美味しい気がするよ。
何度か深呼吸してからアイテムバッグと一緒に置いておいた服の下からブラを取り出しつける。
一応、盗まれないようにアイテムバッグと服はイヴァンが結界を張ってくれていた。
ショーツとお揃いのピンクのブラは、実はこの間買ったばかりだ。
というのも若返って体型まで変わってしまったから、今まで身に着けていたおばさんパンツやブラのサイズが合わなくなってしまい、ネットスーパーで買い物ができるとわかってから、こっそり下着をいくつかネット通販で購入したのだ。
アラフィフともなれば、買うのは地味な色のものばかりだったけど、今回はアラフィフの私じゃ絶対に買わないようなかわいいピンクとかブルーとかパステル系を中心に選んでみた。
これだけでも気持ちが上がるよね。
もちろん、誰かに見せる予定はないけどね。
上に着るシャツに手を伸ばそうとしたとき、つうと誰かに背中を触られ、
「ひゃあっ!」
つい大きな声を出してしまった。
「何するんですか、リタさん。びっくりするじゃないですか」
「サキの肌って、肌理は細かいし、色は白いし、その上スベスベで気持ちいいわね。肌のお手入れはどうしてるの?」
「どうって、色が白いのは単に家に引きこもっていただけですし、お手入れだって最低限のことしかしてませんよ」
「嘘でしょ。何も特別なことしてなくて、こんなに綺麗なの?」
リタさんは信じられないとブツブツ言っているけど、本当に特別なことはしていない。
シャツに袖を通し、ボタンを留めて、スキニージーンズをはく。
いつもの自分に戻れてホッとする。
「サキ、それが今朝言ってた彼シャツなの?少し大きめよね」
まあ、確かに少しぶかぶかだが、これは単におばさんだったときに着てたシャツを若返って痩せた今の自分が着ているからであって決して彼シャツとかではない。
第一このシャツは女物だ。
うーん。
何て説明すればいいんだろう。
その時、扉がノックされてアンナさんの声がした。
「もうみんな揃ってるわよ」
うわっヤバい。
待たせちゃった?
慌てて寝室から出ると、さっきまでいなかった領主様たちもそれぞれ腰掛けていて、お茶の用意まで終わっていた。
「さっき、サキの悲鳴が聞こえたけど、リタ、あんた何かしたの?」
アンナさんの問いにリタさんは興奮気味に、
「それがサキの肌ってすっごく綺麗なの。色が白くて肌理も細かくてその上スベスベなのよ。それなのにたいして手入れもしてないって。どう思う?この差は何なの?」
「そりゃ、ズバリ若さでしょ。リタはそろそろお肌の曲がり角だもんね」
・・・アンナさんってかわいい顔して案外毒舌なのね。
「そんなにスベスベなの?私たちにも触らせて」
何故かシェリーさんとティーナさんまで参戦してきた。
引き気味の私を余所に、シャツの袖を捲り上げ撫でまくっている。
「うわー、本当スベスベ。気持ちいいっ」
「何この手のひらが吸い付くような感触はっ」
「これはもう若さの一言では片付けられない気がする」
「アンナもそう思うでしょ。どうやったらこんな肌を手に入れられるの?」
ガシッ。
四人の女性に腕をがっしりつかまれて、
「また今度、じっくり話をしましょうね、サキ」
何、この逃げられない感じはっ。
だってあれは完全に獲物を狙うような目だったんだもの。
女って怖いっ。
やっとリタさんたちから解放されてホッとしたところに、イヴァンがおやつはまだかと催促してきた。
そうだね。
かなり待たせちゃったね。
領主様に先にイヴァンにおやつをあげる許可をもらうと、アイテムバッグの中からさっき半分残しておいたはちみつ味のかりんとうを取り出した。
残しておいてよかったよ。
イヴァンにかりんとうをあげながら、
「イヴァン、今日は夕食代わりだから特別だからね。本来、夕食後のおやつなんてないからね」
『いつも食べているではないか』
「それがおかしいんだって」
『なら、デザートだ』
「デザートにしては食べる量が多すぎるでしょ」
『気にするな。何の問題もない。うむ、やはりサキの作るものは美味い』
「・・・」
やめる気ないな、こいつ・・・。
すると今までイヴァンの体に隠れていた白蛇がにゅっと出てきて、
「我も食べるぞ」
「白蛇くんも食べれるの?」
「我は白蛇ではない。水の精霊アクエだ」
ああ、そうだったね。
白蛇・・・もといアクエの前にもかりんとうを置くとアクエは器用にかりんとうを飲み込んでいく。
「おお、確かに美味いな」
さらにレインさんの背中でおとなしくしていたサクラまで出てきて食べたそうにするので、サクラにも一本渡すとモグモグ食べ始めた。
あー、何か一番癒されるわー。
サクラの食べる姿を見てほっこりしていたら、突然アクエが腕に巻きついてきた。
うわっ。
だからダメなんだって。
さすがにこの距離で見つめ合うのは遠慮したい。
どうやって引きはがそうかと考えていると、
「サキの魔力は甘いな」
甘い・・・。
確か前にイヴァンにも言われたな。
するとびっくりしたように領主様が魔力に味なんてあるのですか?と丁寧な口調で聞いてきた。
「本来、魔力に味などない。だが、不思議なことにサキの魔力は甘く感じるのだ」
そんなことどうでもいいから早く離れてっ。
そろそろ忍耐力に限界が・・・と思ったときに、おもむろにイヴァンがアクエのしっぽを銜えポイっと部屋の隅に向かって放り投げた。
え?
一瞬、何が起こったかわからなかったけど、イヴァンが助けてくれたんだよね。
投げられてしまったアクエには悪いが、さすがにこの距離は近すぎる。
ホッとしてイヴァンの頭を撫でると、
『おかわり』
うん、わかってる。
これがイヴァンだから。
アイテムバッグからさらにかりんとうを出すとイヴァンの前に。
「サキ。そろそろ話がしたいのだが、いいか?」




