44 罪悪感がハンパないです
「サキ、お前は親が死んだから森から出てきたって言ってたよな」
エドさんに聞かれ、そう言えばそんな設定だったと思い出す。
「えーと。父が死ぬ前に私を一人にしておくのは心配だからと男の人を連れてきてその人に私のことを頼んでくれたんです。父が死んだ後、その人と一緒に住むようになって・・・。しばらく二人で生活してたんですけど、さっきも言ったようにオークに襲われて、夫が死んで私ももうダメだと思ったときにイヴァンに助けられたんです」
しどろもどろになりながらも何とか辻褄の合う言い訳を口にする。
「小さな子供を一人にするなら心配なのもわかるが、見た目は子供でもサキはもう大人だろう。そんなに心配する必要があったのかい?」
領主様の言葉に内心ダラダラ冷や汗をかきながら、
「いろいろ事情がありまして・・・」
と誤魔化す。
「ところでサキ、結婚するときに結婚誓約書にサインはしたかい?」
結婚誓約書?
婚姻届みたいなものかしら。
「結婚誓約書にはしていません」
婚姻届にならしたけど。
私の答えに領主様はふむとあごに手をあて、少し考えてから口を開いた。
「それでは結婚したことにはならないね。誓約書を教会に提出して神父に承認を受けて、はじめて結婚したと認められる」
なるほど。
婚姻届の提出がないと結婚したと認められないのと一緒か。
でもよかった。
誓約書にサインしたとか嘘つかなくて。
調べたらわかることだもんね。
「じゃあ、つまり・・・」
「サキが夫と呼ぶ人物は、本当の意味では夫ではないことになる」
「夫ではない・・・」
あの人が夫ではないと言われると悲しいけど、架空の人間を夫ではないと言われても悲しくとも何ともないわね。
少しくらい悲しむふりをするべきかしら。
考えていると、領主様の反対隣に座っているエドさんに頭を撫でられた。
前から思ってたけど、明らかに子供扱いされてますよね。
「元気を出せよ、サキ。どんな理由があって誓約書を出さなかったのか知らんが、少なくともサキのことは大切にしてたはずだ。でなきゃお前を庇ったりしないからな」
鼻をグズグズ言わせながら慰めてくれるエドさんに、何だか胸が温かくなると同時に、ものすごい罪悪感が・・・。
本当のことが話せないせいで嘘ばかりついてごめんなさい。
「エドさんて死んだ夫によく似てます。その人のいい所とか」
笑って言えば、
「そうか。でも俺みたいなおじさんと似てると言われても死んだ旦那も嬉しくないだろう」
「ふふふ。エドさんは(私なんかよりずっと)若いですよ」
「そうか?でもサキと同じくらいの子供が二人もいるんだぞ。十分おじさんだろ?」
茶目っ気たっぷりにエドさんは言う。
エドさんて二人の子持ちなんだ。
エドさんのことだ。
きっといいお父さんなんだろう。
「サキの旦那はいい人だったか?」
唐突にエドさんに尋ねられたけど、私は迷わず答えた。
「はい。私をとても大切にしてくれました」
「幸せだったか?」
「はい。とても」
私は本当に幸せだった。
あの人が死んだ時、周りからその若さで未亡人なんてかわいそうと口々に言われたけど、かわいそうなのは私じゃなくて突然人生を閉ざされた夫の方だと思った。
予定よりも早く一人になってしまったけど、それでも私は幸せだったのだ。
エドさんはそうか、よかったなと呟いて何度も私の頭を撫でてくれた。
エドさんの手の温もりにほっこりしながら、あの人のことを思い出していたら、いつものアレが出た。
『サキ、おやつが食べたい』
さっきまで、我関せずで知らんぷりしてずっと寝ていたはずのイヴァンがシャキンっと音がしそうなほどピシッとした姿勢で私の方を見ていた。
「お、おやつ?」
『うむ。おやつだ』
「何か持ってきてたっけ?ああ、そうだ」
アイテムバッグから取り出そうとしてアイテムバッグがないことに気がついた。
ドレスに着替えたときに着てた服と一緒に部屋に置いてきちゃったんだ。
イヴァンにそう説明すると、
『部屋に戻るぞ』
の一言が返ってきたので、領主様にお暇する旨を告げると、皆も疲れているだろうからここらで解散するとしようとおっしゃってお開きになった。
ところが、小さな声で俺たちはこの後サキの部屋に集合だという声が聞こえ、ギョッとして振り向くといい顔したマルクルさんがまだ聞いてないことがあるだろうと、凶悪な顔をさらに凶悪に歪めておっしゃった。
何か怖いっ。
断れずに渋々承諾すると、じゃあ後ですぐ行くからなと言い笑顔で去って行った。
ドラゴンナイトとフェアリーウィングの面々、及びエドさんとスタンさんはこのまま一緒に私の部屋へ行くという。
マジか。




