39 どうしてみんなそんなに優しいの
みんなの活躍によりほとんどの魔物を殲滅し終えると、領主様が作戦終了を宣言され、それを合図に辺り一帯に歓声が響き渡った。
みんな満身創痍、疲労困憊だったけど、それぞれが達成感に溢れたいい笑顔をしていた。
幸いなことに討伐隊には死者は一人も出ず、多少重傷者はいたものの全員無事に帰還できそうだ。
まあ、残念ながら違法取引に関与した人間は全員助からなかったけど、自業自得だから仕方がない。
後は街で勾留している冒険者を尋問するそうだ。
多少手荒なことになりそうだがなとエドさんは笑って言った。
不可解なことが多すぎたものね。
私はいつの間にか浄化魔法でこざっぱりとしたイヴァンの頭をわしゃわしゃと撫でた後、アップルパイが食べたいと言うイヴァンの前に昨日作ったアツアツのアップルパイを置く。
「お疲れ様。大活躍だったね」
そうやってイヴァンがおやつタイムを楽しんでいる間に、私はまず領主様のところへ行き、「お疲れ様でした」と言ってヒールをかけた。
「サキのおかげで勝てたよ。助かった」
「足手まといにしかならないんじゃないかと心配していたので、少しでもお役に立ててよかったです」
「サキは謙虚だな。でもそれがサキなんだろうな」
私は私ですよ?
領主様の隣にいるグリセス様にも同じように「お疲れ様でした」と声をかけヒールをかける。
「一人も死者が出なかったのはサキのおかげです。まさか広範囲回復魔法が使えるとは思いませんでした。本当にありがとうございました」
グリセス様は貴族らしからぬ腰の低さでお礼を言って、さらに頭まで下げてくださった。
本当に貴族ですか?
そうやって一人一人順番にお疲れ様でしたの声とともにヒールをかけていく。
特に背中に大きな傷を受けた騎士様と左腕を骨折した警備隊の方の治療は念入りに。
でも思ったほど酷くなくてホッとした。
途中、イヴァンのおかわりの声にサンドイッチをアイテムバッグから取り出し、イヴァンに。
するとレインさんの懐からサクラが出てきて、欲しそうな目で見ているのでサンドイッチを一つサクラに渡すと嬉しそうに食べ始めた。
うんうん、サクラも大活躍だったもんね。
私はちゃんと見てなかったけど、あちこちで風魔法や水魔法が使われていたので、きっとレインさんだと思う。
つまりサクラも頑張ったってことだよね。
ティーナさんは未だに全回復していないようだったので代わりにサンドイッチを一つ手渡した。
あんなにキュアを連発して、さらに一人一人にヒールをかける余裕があるなんてどれだけ魔力量があるの?と驚かれた。
そうなの?
アレスさんもあちこちにかすり傷がある程度だったけど、同じようにお疲れ様でしたと労いヒールをかけた。
「サキのおかげで助かった。ありがとな」
アレスさんは私の頭をポンポンしながら笑った。
アレスさんは相当頭ポンポンが好きらしい。
フェアリーウィングの方々にもヒールをかけようと近づくと、気づいたリタさんにいきなり抱きつかれた。
ビキニタイプとは言えアーマーはどこまでいってもアーマーなので、顔面を強打した。
痛かった。
リタさんはすぐに謝ってくれたし、私も気にしてなかったけど、リタさんはガレルさんにそのガサツさのせいで結婚できねえんだ、もっと落ち着け。と怒られていた。
この二人はいつもこんな感じなんだろうなと思うと何だか笑える。
案外お似合いの二人だと思うんだけどな。
「本当にサキはすごいわ。サキがキュアをかけてくれたおかげでいつもより楽に戦えたわ」
美人の笑顔の破壊力も半端ない。
ヘンな気分になりそうだ。
さらにガレルさんまで、
「あの時はマジでやべえって内心焦ってたから本当に助かった。感謝するぜ」
そうやってみんなが私を労ってくれるけど、イヴァンの結界に守られ、一人安全圏にいた私の方がみんなを労わなくちゃいけないと思う。
ヒールをかけて回るくらいしかできないけど、それでみんなが元気になってくれたら嬉しい。
ヒールをかけ終わって、みんなが元気になったところでマルクルさんからもう一仕事頑張ってもらうぞと声がかかった。
なんでも倒した魔物から素材や魔石を回収するそうだ。
冒険者から素材や魔石を買い取り、他に転売して利益を得ているギルドとしてはこのままほっとくわけにはいかないらしい。
警備隊の方々も本来ならアジトである建物を調べるところだけど、残念ながら魔物との戦いで建物が全壊し、調べようがないので素材や魔石の回収を手伝うことになった。
魔物の死骸をこのまま放置しておくと別の魔物を引き寄せかねないので、浄化魔法によって消滅させるのが一般的らしいけど、それが使えるティーナさんは素材や魔石の回収を優先させているため、結局さっさと終わらせるために騎士様方も駆り出された。
私も浄化魔法使えますけど・・・。
みんなが一丸となって素材や魔石を集めている中、必要な素材も魔石の取り出し方もわからない私はみんなを手伝えずイヴァンの頭を撫でながらサクラの遊び相手をしていた。
うっ、本当に役立たずでごめんなさい。
そっと心の中でみんなに謝っていると、いつの間にか領主様が隣に立ち、私に抱っこされて気持ち良さそうにしているサクラの頭を撫でながら、
「君は不思議な子だねえ。貴族のように洗練された所作をするかと思えば、メイド並みの気遣いもできる。料理の腕も確かなようだし、料理人や一般庶民のように毎日料理も作っているんだろう。それにそれなりの知識もあるようだ。つまりそれだけの教育を受けられる立場にあったということだ。貴族や豪商の子息でもないとなかなか教育を受ける機会はない。頭の良さをひけらかすどころか反対に思慮深いときた。さらに言えば、今回の討伐がここまで酷いことになるとは予想もしていなかったのに、冒険者になったばかりの君は慌てることなく冷静に対処していた。まるで人生経験を積んだ人間みたいに。本当に君は何者なんだろうね」
領主様の好奇心いっぱいの探るような目に見つめられながら、
「私は・・・どこにでもいる普通の人間ですよ。いえ、普通どころかそれ以下かも。イヴァンがいなければ何もできませんから」




