35 明日のおやつは何だろう
家に帰るとシャワーを浴びて夕食の準備に取り掛かる。
今日はハンバーグにしよう。
玉ねぎをみじん切りにして少し色づくまで炒める。
パン粉、卵、牛乳を合わせて混ぜておく。
ボウルに合い挽き肉、塩、ナツメグ、胡椒を合わせて手でつかむように混ぜたら、パン粉、卵、牛乳を合わせたもの、炒めた玉ねぎを加え、さらによく混ぜる。
フライパンに油をひいて、空気を抜いてハンバーグ型にまとめたたねを焼く。
焼き色がついたら返して両面を焼き、水をハンバーグの高さの半分まで注ぎ、ふたをして中火で蒸し焼きにする。
フライパンの水分が少なくなってきたら竹串を刺し、濁った汁が出てこなければ、水、ケチャップ、ウスターソースを混ぜたものを加える。
中火で煮詰め、とろみがついたら完成。
付け合わせは茹でたブロッコリーと、一口大に切ってレンチンし、塩胡椒で味付けしたじゃがいも。
それからトマトと豆腐のコンソメスープ。
トマトは湯むきしざく切り、豆腐はさいの目切りに。
お鍋に水を入れ沸騰したらコンソメを入れて溶かしトマトを入れる。
五分ほど煮込んだら豆腐を加え、塩胡椒で味を調える。
最後に溶き卵を回し入れると完成。
アボカド、レタス、きゅうりで作ったアボカドサラダも用意。
ハンバーグを作る前にセットしておいたご飯も炊けたようだ。
盛り付けたそれらをテーブルに並べ、二人揃って、
「『いただきます』」
美味しそうにハンバーグを食べるイヴァンを見ながら明日のことを考える。
イヴァンなら大丈夫と勝手に決めつけて協力してもらうことにしたけど、本当に大丈夫かな。
怪我したりしないかな。
あんなに簡単に協力してなんて言うんじゃなかった。
何の役にも立たない私が一緒なんて負担になるだけだよね。
なんてうだうだ考え込んでいたらイヴァンの声が聞こえた。
『我なら心配ない。魔物ごときにやられる我ではない』
ハッとしてイヴァンを見るとイヴァンもじっと私を見ていた。
「うん、そうだね。イヴァンがそう言うなら大丈夫だね。絶対に死んだりしないでね」
『ああ。だからサキ、デザートだ』
「・・・」
イヴァンはどこまでいってもイヴァンだった。
デザートにはホットケーキミックスを使った、なんちゃってどら焼きを作った。
ホットケーキミックスに卵、砂糖代わりの甜菜糖、水を加えてよく混ぜる。
熱したフライパンで生地を焼き、プツプツ穴が開いてきたらひっくり返す。
焼きあがった生地にあんこを挟めば完成。
『どら焼きというのか。これも美味いぞ』
ばくばくどら焼きを食べるイヴァンを見ながら、明日のおやつも用意しといた方がいいよね。
何がいいかな。
まだ、この世界に何があって何がないのかわからないので、あまり疑われなさそうなものにしたい。
だって、誰に見られるかわからないもの。
抹茶のクッキーでさえ、食べたことがないって言われたからね。
いろいろ考えていると玄関でコトッといつもの音がした。
何を買ったっけ?と思い出しながら箱を開ける。
バターやチーズ、小麦粉に混じってりんごも入っていた。
そうだ。
りんごも買ったんだ。
じゃあこれでアップルパイを作ろう。
これくらいならこの世界にもありそうだよね。
冷凍庫に冷凍パイシートもあるから手間もかからないし。
鍋に皮をむいて小さく切ったりんごと砂糖代わりの甜菜糖、レモン汁を入れて煮る。
ぐつぐつしてきたらバターを投入。
りんごに火が通ればOK。
パイシートを切ってその上にりんごをのせて更にパイシートをかぶせる。
フォークの背で周りを押さえてくっつける。
卵黄を塗ってオーブンで二十分ほど焼けば完成。
焼きあがるまでの間に藍色のマントの胸元に刺繡をしようと趣味部屋から必要なものを取ってくる。
試着したときに思ったのよね。
胸元に小さな花の刺繡でもあればかわいいのにって。
なので、自分で刺すことにした。
イヴァンの瞳と同じ紫色の菫の花。
あまり目立たないように小さめに。
チャコペンで簡単に図案を描いて刺繡針と紫色の刺繡糸でサテンステッチでチクチクと刺していく。
花びら全体を糸で埋めていくとぽっこりとかわいいステッチができる。
濃い目の緑色の糸で茎と葉っぱを刺繡して完成。
他のステッチやビーズを間に通したりともっと凝った刺繡もできるのだけど、今回は至ってシンプルに。
刺繡を刺し終わったタイミングでアップルパイも焼きあがった。
またイヴァンが食べたがったが、明日のおやつだからと言いくるめて、ペーパーバックに入れたアップルパイをアイテムバッグにしまった。
時間経過がないからこれで食べる時もアツアツのままだ。
お風呂のお湯をためている間にいつものようにネットスーパーで買い物をしようと思ったけど、明日はいつ帰って来れるか予想もつかないので今日はやめておいた。
本当は砂糖が欲しかったんだけどな。
代わりにイヴァンリクエストのかりんとうを作ろうと思う。
小麦粉と甜菜糖、ベーキングパウダーを合わせたら牛乳を入れてよく混ぜる。
生地がなめらかになったら麺棒で伸ばし縦四センチ、横三センチくらいに包丁で切る。
百八十度の油で、菜箸で転がしながらこんがりムラなく揚げる。
油を切っている間に、フライパンに水とはちみつを入れて煮詰め、煮詰まったら生地を入れてよく絡ませ、クッキングペーパーに広げて冷ますと完成。
出来上がったかりんとうをペーパーバックに入れ、アイテムバッグへ。
よし。
これでおやつの準備はOKね。
最初からイヴァンを誘うのは諦めて一人でゆったりと湯船に浸かる。
今日もいろいろあったなあ。
たくさんの人と知り合って、少しずつだけどこの世界のこともわかり始めて、早くイヴァンごと受け入れてもらえたらなと思う。
アレスさんと街の人とのやり取りを見て、少し羨ましかったのだ。
一見、怖そうな雰囲気のアレスさんなのに、実際はみんな楽しそうに会話をしていた。
ちゃんと存在を受け入れてもらえてるんだと思った。
もちろん、アレスさんの人柄の良さもあるんだろうけど。
もしこのまま元の世界に帰れず、ここで生きていかなくちゃならないのなら、できるだけ笑って生きていきたいと思う。




