33 私がパンダもどきの名付け親です
「しかし、何故そいつらはグリーントレントのいる嘆きの森を自由に出入りできるんだ?」
ガレルさんの疑問は皆が思っていることだが、誰も明確な答えを持っていない。
「それに生きたままの魔物をどうするつもりなんだ?生かしたままなんて危険が増すだけだろう」
「それには少し心当たりがある」
領主様の声に皆が領主様に注目する。
「はっきりとした証拠があるわけではないが、魔物たちはオラン帝国に連れて行かれているらしい。そこで軍部が関係しているのか、軍部とは全く関係ない奴らの仕業なのかわからないが、人間の兵士に代わる魔物軍団を作っているという噂がある。各国がその噂の真偽を確かめるべく動いてはいるらしいがまだ何の証拠も見つけられないそうだ」
先ほど、王宮からの早馬でそのことを知った領主様は急遽自分も参加することにしたんだそうだ。
なんだ、俺はてっきりシルバーウルフが見たくて来たのかと思ったぜというマルクルさんに、それもないとは言わんと返す領主様。
何だか仲良しだなあと思っていたら、後で聞いたところによると、二人は昔同じ冒険者パーティーを組んでいたんだって。
貴族なのに冒険者?って不思議に思ったんだけど、領主様は昔から変わり者だったらしい。
何だかわかる気もする。
あんまり貴族っぽくないものね。
王宮でも騎士の派遣の準備をしてくれているみたいだけど、のんびり待っている時間はないので、結局このメンバーで実行することになった。
決行日は明日。
朝七時に西門の辺りに集合。
ということで今日は解散。
各々、必要な武器や薬の調達をしたり、体を休めたりと明日の討伐に向けて動き出した。
そうそう、あのパンダもどき、まだ名前がないそうで、というかつけるつもりがなかったそうで、名前がないと呼びかけにくいとレインさんに訴えたら、じゃあ代わりにつけてもらえませんかと頼まれた。
きれいな桜色のパンダだから「サクラ」。
パンダもどきにもどう?と聞いたらキュウと鳴いたので了承されたと思っておこう。
レインさんに何か意味があるのですか?と聞かれたのできれいなピンク色だったのでと答えておいた。
よくわからないという顔のレインさんだけど、桜の木がこの世界にあるかどうかわからなかったからね。
マルクルさんやエドさんはまだ領主様やグリセス様と話があるようで別の部屋に行ってしまったし、他の皆さんも何だか忙しそうだったので、私も帰ることにした。
他の皆さんに帰る旨を告げ、イヴァンと一緒にギルドを出る。
そろそろ日が傾いてくる頃なので、急いで帰らないとと思って門の方へ歩き出そうとしたとき、後ろから声をかけられた。
振り向くと、そこにいたのは大剣使いのアレスさんだった。
「サキ、これからどうするんだ?」
あれ?
またしても違和感・・・。
うーん、何だろ?
「暗くなる前に帰ります」
「どこの宿に泊まってるんだ?」
「イヴァンが一緒なので、今は野宿をしています」
「野宿!?」
びっくりしたアレスさんにそれなら自分の家に来ればいい、部屋も余ってるからと言われたが、それこそこっちがびっくりだ。
何故今日知り合ったばかりの男の家に行かなくちゃいけないの。
またしても顔に出ていたんだろう。
慌ててアレスさんが変な意味じゃない、いくらシルバーウルフが一緒でも女の子が一人なのは危ないからと弁明するが、変わらず不審者を見る目付きの私に、本当に何もするつもりはないし心配なだけだとしどろもどろで弁解する。
その様子にアレスさんの人の好さが表れているようで、思わずくすりと笑ってしまった。
「あっ」
何故かアレスさんが目元を赤らめて目を逸らした。
?
「あーその。サキは冒険者になったばかりだと聞いたが、装備なんかはちゃんとそろってるのか?魔術師なんだろう?それなのに杖の一つも持っていないようだったから」
杖?
そう言えば魔術師だと紹介されたレインさんもアンナさんも、形や大きさは違えど杖のようなものを持っていた。
そうだよね。
魔法を使うなら杖は必需品だよね。
でも私、持ってないけどいいの?
いや、そもそも私って魔術師なの?
『それだけの魔力と適性があれば魔術師でも通るだろう。杖はあくまでも魔力を使うときの媒体なだけで、なくても問題ない。実際、お前は杖がなくても三つ全ての魔法が使えただろう。それに光魔法を使う女は杖を持っていなかった』
確かにティーナさんは杖を持っていなかった。
大きな杖は案外邪魔になるし、かといってアイテムバッグに出し入れするのも誰かに見られて騒ぎになるのも嫌だし。
まあ、エドさんやマルクルさんにはバレてるけど、あの二人なら触れ回ったりしなさそうだしね。
じゃあなくてもいいか。
「アレスさん。気にしていただいてありがとうございます。でも杖はいりません」
「特になりたての新人魔術師は杖がないと制御が難しいんだろ?大丈夫なのか?」
驚いているアレスさんに再度いらないと言うと、今度は鎧はどうするんだ?と聞かれる。
金属製の重い鎧を想像した私は思わず、
「あんな重い物着たら動けません」
と答えた。
イヴァンにも我の結界があるから必要ないと言われたので、その通りにアレスさんに伝えると、
「まあ、シルバーウルフの結界があるなら傷一つ負うことはないかもしれないが、軽い革の胸当てくらいはあってもいいんじゃないか?」
と言われ、何の役にも立ちそうもない私でも形くらいはきちんとしておいた方がいいかなと思いなおし、胸当てと小手だけ買うことにした。
売っているところがわからなかったので、アレスさんに連れて行ってもらった。
ただでさえイヴァンと二人でも目立つのに、大剣背負ったアレスさんも一緒だとさらに目立つ気がする。
勘弁してくれ。
それでもせっかくアレスさんがいるので、田舎者のふりをして街の生活について聞いてみた。
大体金貨八枚くらいあれば、一家四人が十分一ヶ月生活できるらしい。
つまり、昨日レッドボアの買取代金として金貨六枚もらったけど、それで一ヶ月の生活費の約七割が稼げたことになる。
リスクも高いが高収入も期待できるのが冒険者ということね。
ついでに米や味噌、醤油があるのか聞くとあるそうだ。
一度市場を覗いてみたいな。




