29 作戦会議に参加します
冒険者ギルドに着くと、私とグリセスさんが一緒なのを見てロザリーさんが一瞬驚いた顔をしたけど、すぐに何事もなかったかのように私たちを二階の会議室に案内してくれた。
扉をノックして中に入るとすでにたくさんの人が集まっていた。
ヤバっ、遅れちゃったかな?
内心焦る私とは裏腹に、グリセスさんののんびりした声が聞こえた。
「申し訳ありません。遅れてしまいましたか?」
「いや、ちょうどいい時間だ」
マルクルさんの言葉にほっとしていると、
「サキ、こっちに来い。ここだ、ここだ」
エドさんが呼んでくれたので急いでエドさんの隣に座る。
私の後ろから入ってきたイヴァンの姿にみんなギョッとしたようだが、さすがに警備隊と冒険者の方だけあって騒ぎ出すようなことはなかった。
イヴァンも嫌そうな顔はしたものの特に何も言うことなく私の隣に寝そべる。
時間に遅れなくてよかったとほっとしていた私は、意味ありげに私を見つめる視線に気づくことはなかった。
リンジーさんがみんなの前に飲み物の入ったコップを置き終わると、マルクルさんはおもむろに話を始めた。
「では、これから冒険者による魔物の違法取引についての話し合いを始める。最初に今回の作戦に参加するメンバーを紹介しておく。まずは俺だ。知っていると思うがカイセリの冒険者ギルドのギルマス、マルクルだ。で、俺の隣にいるのが・・・」
そこで言葉を止めたマルクルさんはチラッと私を見てまた言葉を続けた。
「領主のニコライ・ブレンナー伯爵だ」
え?
領主様?
隣のエドさんを見るとニヤリと笑われた。
あれ?
そんな話だっけ?
「本当なら今回の作戦にはご子息のみが参加してくださることになっていたが、何故か領主殿も参加してくださるそうだ」
つまりそれは俺も知らなかったんだよ、突然の話だったんだよと言いたいのでしょうか、マルクルさん。
領主と紹介されたその人はマルクルさんに負けないくらい体格のいい人で貴族というより冒険者やってましたと言われた方がすんなり受け入れられそうな雰囲気の人だった。
でも茶色の瞳は優しく私を見つめていた。
「私が領主のニコライ・ブレンナーだ。まあ、ここにいるのはすでに知っている顔ばかりのようだがね。お嬢さんを除いて」
私をじっと見ながら領主様はにっこり笑っておっしゃった。
私ですか?
ええ、私ですね。
えーと、領主様?
一体私に何を求めていらっしゃるんでしょうか?
挨拶ですか?
どうするべきか悩んでいたらマルクルさんが、
「サキのことは後で紹介する。他に言うことがなければ次いくぞ」
と取り付く島もない。
「領主の隣にいるのが領主のご子息グリセス殿だ」
つうと視線を領主様の隣にやると、そこにいたのはさっき知り合ったグリセスさんだった。
グリセスさんて領主様の息子だったの?
貴族だったの?
じゃあ、グリセス様って呼んだ方がいいですか?
ってか全然似てないですよ。
領主様は茶色の髪に茶色の瞳なのに対してグリセス様は金髪碧眼のザ・外国人って感じなので言われなければ親子とはわからない。
体格にしても、俺鍛えてます的な体つきの領主様に、貴族然としたスラッとした体型のグリセス様。
お母様似なの?
グリセス様。
「グリセス・ブレンナーです。今回は城から私が率いる第一騎士団の十名が参加します。本来、領主は仕事の都合で来れないはずだったのですが、強引について来たのでこき使っていただければと思います」
と笑いを取ったグリセス様も私を見てにこっと笑った。
ああ、笑った顔は似てるかも。
さすがにこの狭い部屋には入れないので、グリセス様以外の騎士団の方々は別室で待機しているそうだ。
次はエドさん率いる警備隊の紹介だった。
といってもここにいるのは隊長のエドさんと副隊長のスタンさんの二人だけ。
こちらも騎士団と同じ理由で十名ほどが別室で待機。
副隊長のスタンさんは初めて会ったけど、ほっそりとした体型で腹黒参謀タイプって感じの人だった。
実際はそんなことなかったんだけどね。
エドさんに似たとても良い人でした。
腹黒なんて思ってごめんなさい。
次に紹介されたのは何故か商業ギルドのギルマス、サラトスさんだった。
「商業ギルドのギルマス、サラトスです。今回の作戦に参加はしませんが魔物の違法取引はギルドの規則違反でもありますので何か力になれることがあればと思い、ここにおります。武器や薬の調達が必要な場合はご相談いただければと思います」
なるほど。
必要な物もいろいろあるだろうしね。
って何がいるのかよくわからないけど。
それから冒険者の方々の紹介。
まず、Aランクパーティー『竜の夜』の面々。
リーダーは剣士のウッドさん。
かなり体格の良いイケメンマッチョだが人好きのする優しい顔立ちの人だ。
それから魔術師のレインさん。
濃緑のマントを着た銀髪翠眼の美丈夫。
紹介されると嫌みのない所作で会釈をした。
周りの女性がほっておかないタイプだ。
弓士のシェリーさんと数少ない光魔法の使い手ティーナさん。
二人は双子だそうで、ショートがシェリーさん、ロングがティーナさん。
髪型が違うと雰囲気も変わるせいか双子というより普通の姉妹といった感じの金髪美人。
最後は剣士のアレスさん。
燃えるような赤毛に夜空を思わせるような藍色の瞳。
目付きの悪さが半端ない上に、背中には漫画やアニメでしかお目にかかることのないような大剣を背負っている。
そんな大きな剣、振り回せるの?
顔に出ていたのだろう。
アレスさんは私を見てニヤッと笑った。
え?
何故だろう。
知らない人なのにその笑顔を私は知っているような気がした。
次はBランクパーティー『妖精の羽』のメンバー。
リーダーのリタさんは女性剣士で、ビキニアーマー着用のダイナマイトボディの持ち主だった。
うわあ、すごい。
ビキニアーマーだ。
それにあの胸、メロンでも隠してるの?
彼女の豊満なお胸を見た後、自分の胸を見下ろすとこぢんまりして見えるのは何故だ。
これでもCカップなのに・・・くすん。
剣士のガレルさんは額から頬にかけて傷のある強面のマッチョさんで睨まれるとちょっと怖い。
ロックさんは弓士で少年といってもおかしくないように見える。
その若さでBランクならすごいのでは?と思っていると右手の親指を立ててにかっと笑った。
ウインクも忘れない。
そんなにわかりやすいのかしら、私って・・・。
最後は魔術師のアンナさん。
赤茶色の髪のかわいらしい人で光魔法は使えないが防御魔法がすごいらしい。
以上がフェアリーウィングの面々だ。
最後にマルクルさんが私を紹介してくれた。
「彼女は新人冒険者のサキ。Fランクだが、今回の作戦に参加してもらう。理由はわかっていると思うが、彼女には従魔契約しているシルバーウルフがいる。こいつに協力してもらうつもりだ」
「サキと申します。こっちはイヴァン。いろいろ不慣れなことばかりでご迷惑をおかけすると思いますが、よろしくお願いします」
私は立ち上がると、深々と頭を下げた。
どう考えても足手まといになりそうだもんね、私・・・。
すると領主様が、俺は聞いてねえぞとでもいうように
「うん?サキは庶民じゃないのかい?えらく立ち居振る舞いがきれいだね」
「ただの庶民ですっ」
即答しておいた。
決して貴族の落胤とかではない。
見るとエドさんとマルクルさんが、わかっているとでも言いたげにうんうんと頷いている。
だから違いますって!
立ち居振る舞いがきれいなのは、昔日本舞踊を習ってたからだと思う。
動作の一つ一つ、厳しく指導されたからなあ。
とっくの昔に忘れたと思っていたけど、体は覚えているものなのね。
「あら、きれいなのは所作だけじゃないわよ。その月の女神ルーナオレリアのような黒髪も素敵だわ。すごく艶やかで羨ましいわ。ねっ、どんな髪のお手入れしてるの?」
リタさんが言うと、シェリーさんも、
「私たちも気になってたの。何か特別な手入れしているの?」
と聞いてくる。
普通にシャンプーとコンディショナーして、時々トリートメントしてるくらいですよ。
でも最近は白髪が目立ってきたので、白髪染め用のシャンプーに変えようかと悩んでいたところだ。
あっ、今はその必要もなくなったんだっけ?
私が何か答えようと口を開きかけたとき、マルクルさんのドスの聞いた声が聞こえた。
「おいおい、そんなこと今じゃなくていいだろ。時間がねえんだ。先に進むぞ。で、サキ。シルバーウルフは魔物が集められていそうな場所がわかるか?どれくらい近くになればわかる?」
そっとイヴァンに目を向けると、
『嘆きの森の奥の廃村にいる。以前と変わりなければな』
「えーと、イヴァンが言うには嘆きの森の奥の廃村にいるみたいです」
「「「え?」」」
一瞬にして部屋の中がざわついた。
な、何?




