27 焼き魚定食と魔法の練習
異世界生活四日目の朝、目覚まし代わりになっている鳥の声で起きるとイヴァンと一緒に階下へ降り、朝の支度を済ませると朝食の準備に取り掛かる。
今日は鮭の切り身を焼いて、豆腐とあげの味噌汁、だし巻き卵、ほうれん草のおひたしを作るつもり。
うん、焼き魚定食だね。
前は焼き魚をするときは魚焼きグリルを使っていたけど、今はもっぱらフライパンに焼き魚用のアルミシートを敷いて焼いている。
グリルを使うより洗い物も簡単だし、何よりふっくら焼ける気がする。
その間に味噌汁を作り、だし巻き卵の用意をする。
白だしと水を加えた卵液を卵焼き器で焼いていく。
それからほうれん草のおひたし。
純和食の朝ごはんの完成だ。
イヴァンの分の鮭は骨があると危ないのでほぐして食べやすくしておいた。
朝食を食べ終えると後片付けをし、朝食を作る前にスイッチを入れておいた洗濯機も洗濯を終わっていたので、洗濯物を持って二階に上がり、ベランダに干す。
今日もいい天気だからよく乾きそうね。
洗濯物を干し終えると今度は掃除。
LDKの掃除はル〇バに任せて水回りへ。
やっぱりイヴァンはル〇バに追いかけられていた。
何故だ?
水回りの掃除を終え、リビングに戻ってくるとぐったりとソファに座り込んでいるイヴァンを横目に、リビング奥の和室の掃除に取り掛かる。
ここは小上がりになっていて残念ながらル〇バの範囲外だ。
リビングや和室の窓を全て開けているので、通り抜ける風が気持ちいい。
ほうきを手に取ると掃き始める。
このほうきは棕櫚という木の樹皮から出来ていて、ネットで見つけて買ったのだけど、とても使いやすくて気に入っている。
細かい埃やゴミなどすっきりきれいに取れるし、棕櫚には天然の油分が含まれているそうで、このほうきでフローリングを掃くとワックス効果もあって我が家のフローリングはいつもピカピカだ。
最も、普段はル〇バに頑張ってもらっているので棕櫚のほうきを使うのはたまにしかないんだけどね。
掃除が終わる頃にはリビングいっぱいに、太陽の光を受けたサンキャッチャーから出た小さな虹がいくつも揺らめいていた。
時折、開け放った窓から入る優しい風がサンキャッチャーを小さく揺らすので、それに合わせて虹も揺れて和みの空間になっている。
イヴァンと二人でしばらく虹の海をたゆたっていたが、風魔法と土魔法の練習をしようと森の中までやってきた。
『まず、風魔法だ。手の先から空気を押し出す感じでやってみろ』
魔力の流れは感じられるので、手の先から魔力を押し出すようなイメージでやってみる。
ぽす。
何か出た。
いや、圧縮された空気の塊が五十センチほど先に落ちた・・・そんな感じ。
『もっと鋭い、風の刃を投げるイメージで』
呆れたようなイヴァンの声に、空気のボールを作っても意味ないよねと、言われた通り風の刃をイメージしてみる。
風の刃・・・鋭い風の刃・・・って、あ、あれだ。
かまいたち。
よし、かまいたちのイメージでやってみよう。
今度は上手くできたようだ。
二メートルほど先に生えている低木の枝がスパンと切れて落ちた。
『いい感じだ。後はもっと鋭くもっと早くだ』
何度もやっている内にコツが掴めてきて、イヴァンのOKが出る頃には五メートル先の木の葉一枚を落とせるくらいまで上達した。
もっと練習すればもっと上手くなると言われたので毎日練習しよう。
いつもイヴァンがいてくれるとは限らないから自分の身くらい自分で守れるように頑張ろうと思う。
次は土魔法。
上級者ともなれば巨大な土人形を作って操ることも出来るそうだ。
大きなゴーレムはかわいくないから、たくさんの手のひらサイズのゴーレムが庭で運動会でもしてたら楽しいよねなんて考えてたら、
『複数のゴーレムを操るのは大変なことだぞ』
と真面目に返事された。
冗談なのに・・・。
初めは土を盛り上げるところから始める。
土を盛り上げると念じながら魔力を放出するとボコッと足元の土が三センチくらい盛り上がった。
「・・・」
『・・・それでは何の役にも立たんぞ』
わかってるわよっ。
もう一度、盛り上がれ、盛り上がれと念じながらやってみるとボコッ。
今度は十センチほど盛り上がった。
コツコツ練習すればいずれ私の身長より高い壁が出来るはずだ。
ふふっ。
そうなれば防御は完璧ね。
壁、壁と唱えながら練習してもなかなか二十センチの壁は越えられない。
うーん。
ふと、さっきの風魔法のときのようにイメージが大切なんじゃないかと思い至り、何かないかと考えていた・・・ら閃いた。
これだっ!
私は一呼吸置くと、おもむろに
「ぬりかべっ!」
と叫んだ。
すると目の前にどんっと大きな壁がそびえ立った。
おお!
やっぱりイメージって大切なのね。
でも残念ながら某アニメのように手足はないので、動き回ることはできないけどね。
こちらも何度か練習しているとかなり立派な壁を出現させることができるようになった。
なので、土魔法の最終目標は「たくさんの小さなゴーレムで運動会」にしようと思う。
うん、楽しみだ。
風魔法も土魔法も練習初日だし、午後からギルドへ行く予定もあるので、お昼には早いけど家に帰ることにした。
シャワーを浴びた後、お昼ご飯を作るべくキッチンに立つ。
冷蔵庫を開けて何を作ろうか考える。
野菜室に春キャベツを見つけて、春キャベツとベーコンの和風パスタを作ることにした。
お湯を沸かし、パスタを茹でる。
ベーコンと春キャベツを食べやすい大きさに切り、オリーブオイルを入れて温めたフライパンに入れ、塩胡椒で炒める。
茹で上がったパスタを入れ、茹で汁とだし、醬油で作った和風ソースとバターを入れて混ぜると、春らしい一品の出来上がりだ。
茹でた菜の花でもあればもっと春らしくなるのだけど。
イヴァンの前に置いた大盛りのパスタはあっという間になくなった。
おかわりの声を無視して食べ続けていたけど、あまりにもうるさいので、パスタの代わりにヨーグルトにあんこをのせて出してみた。
『白いのは酸っぱいがあんこが甘いからそれなりに美味いな』
と言いながら食べている。
ヨーグルトのあんこのせは美味しいのか。
いつもはフルーツをのせたり、ジャムを混ぜたり、メープルシロップをかけたりとかしか、したことないけど。
「『ごちそうさま」』
と手を合わせた後、軽く用事を済ませ、ギルドに向かって出発した。
私としては天気もいいのでのんびり歩いて行きたかったけど、時間もかかるし約束に遅れるのもマズいだろうというイヴァンに負けて、昨日みたいにイヴァンにのせてもらうことになった。
本当にこれ怖いんだけど。
ああ、でも遊園地のジェットコースターと思えばいいのかな。
ダメだ。
私、ジェットコースターもそんなに得意じゃなかったっ。
などと考えているうちに着いたようだ。
精神的に疲れたような気もするけど、気を取り直して門へ向かう。
今日は顔見知りのモリドさんはいないようで、知らない門番さんだった。
身分証を見せて通してもらう。
イヴァンがいるので、優先的に通してくれたけど、ここは喜んでいいところなのか?




