25 白玉ぜんざいとがま口財布
二人と別れ冒険者ギルドを出ると、今度は商業ギルドに行って登録料の銀貨三枚を支払うと、すぐに踵を返し、ギルドの外に出た。
昨日サラトスさんに言われた通り、イヴァンには中に入らず入り口のすぐ横で待っていてもらったのだ。
相変わらず街の人をびっくりさせてしまったようだけど、うん、これはもう街の人がイヴァンの姿に慣れてくれるのを待つしかない。
そう、焦らず、ゆっくり、のんびりとだ。
本当は街の中を散策したかったけど、さっきからイヴァンが白玉ぜんざい、白玉ぜんざいとうるさいので家に帰ることにした。
門を通って外に出ようとしたとき、唯一顔見知りの門番さんに会った。
「無事でよかったよ。うちの隊長がすごく心配してたからな」
「本当に心配かけてごめんなさい」
「ああ、気にするな。それより名前も名乗ってなかったな。俺はモリド」
「私はサキ、こっちはイヴァンです」
「サキもイヴァンもよろしくな」
「こちらこそよろしくお願いします」
ペコリと頭を下げる。
「それよりこんな時間から外へ出るのか?もう二時間もすれば門は閉まるぞ」
「エドさんも心配してくださったんですが、もうしばらく街の皆さんがイヴァンに慣れるまでは今まで通り野宿をしようと思ってます」
「えっ?サキみたいな小さな子が一人で大丈夫か?」
「私、もう大人ですからっ!」
思わず胸を張って答える。
「それにイヴァンもいるから大丈夫です」
「このことは隊長は?」
「ちゃんと言いました。渋々でしたが納得してくれましたし」
「そうか。隊長がいいって言ってるなら俺がどうこう言えねえか。でも十分気をつけろよ」
「はい。ありがとうございます。ではまた明日来ます」
モリドさんに手を振って別れると門を通り外へ出た。
しばらくイヴァンと一緒にのんびり歩いていたが、イヴァンがこれではいつまでたっても白玉ぜんざいが食えんと言い張り、私は渋々イヴァンに跨った。
誰もいないことを確かめてからイヴァンが飛び上がる。
私はイヴァンの首に抱きつき固く目を閉じて早く家に着くように願った。
あっという間に家に着いた私たちだが、なんだかもうぐったりだ。
イヴァンはそんな私にかまわず白玉ぜんざいだなとうるさい。
シャワーを浴びて着替えるとキッチンに入り、白玉ぜんざいの用意をする。
ボウルに白玉粉を入れ、水を少しずつ加えながらひとまとまりになるまで混ぜていく。
その間に鍋に水を入れ沸かしておく。
耳たぶくらいの硬さになったら一口サイズに丸める。
沸騰したお湯に丸めた団子を入れて茹でる。
団子が浮いてきたらざるにとって水の入ったボウルに入れる。
鍋に缶詰のゆであずきと水を入れ温める。
温まったら水から上げた団子を入れて軽く混ぜたら完成。
あーいい匂い。
焦げないように鍋の中身をかき混ぜているとあずきの甘い匂いがキッチン中に広がっていく。
私の横でイヴァンがまだかまだかとうるさい。
イヴァンの分を大きめの深皿にたっぷり入れる。
さすがに大きな椀はないので、シチュー皿で代用だ。
普通サイズの椀に私の分を入れてダイニングテーブルへ。
イヴァンはすでに自分の場所にスタンバっている。
「・・・」
うん、昨日から楽しみに待ってたんだもんね。
うんうん、もういろいろとしょうがないよね。
遠い目をしてぶつぶつ呟く私にイヴァンがもう食べていいかと聞いてきた。
うん、これがイヴァンだよ。
いろいろ諦めた私は、出来立ての白玉ぜんざいを食べるべく手を合わせて、
「『いただきます』」
あー美味しい。
甘いあずきが疲れた体に染み渡る気がする。
団子のもちもち感もたまらない。
イヴァンも気に入ってくれたようだ。
満足そうでよかったよ。
イヴァンの皿におかわりを追加し美味い美味いと言って食べるイヴァンを眺めていると和んでくる。
食べ終えた私たちはリビングのラグに移動してイヴァンの毛をすいたりしながらしばらく二人でゆったりしていたけど、気がつくと窓の外は日が落ち始め薄暗くなってきた。
夕方のおやつになっちゃったから夕食はもう少し遅くてもいいよね。
何作ろうかな。
そうだ、もらったレッドボアの肉を使ってみよう。
猪肉と言えばぼたん鍋くらいしか思いつかないけど、ここはシンプルにステーキにしてみようか。
私は立ち上がるとアイテムバッグに入れたままのレッドボアの肉を冷蔵庫に入れ、ご飯の用意だけしておこうと洗ったお米を炊飯器にセット。
よし、これでOK。
とここでふと気づく。
肉は冷蔵庫に入れるより時間経過がないアイテムバッグに入れたままにしておいた方がいいのでは・・・。
うーん。
しばらく考えたが、このまま冷蔵庫に入れておくことにした。
やっぱり冷蔵庫の方が馴染み深いし、アイテムバッグには冷蔵機能とかついてなさそうだもんね。
夕食の時間までどうしようかと考え、アイテムバッグにそのまま放り込んだ硬貨を思い出す。
確かにアイテムバッグに手を入れ、硬貨を思い浮かべると取り出せるが何となく違和感。
やっぱり財布がなくちゃね。
ということでがま口財布を作ろうと思います。
和奏が高校生くらいのときに、がま口ポーチやがま口財布が友達の間で流行って、和奏もいろいろ探したけど好きな柄が見つからなかったので作ってと頼まれたことがあった。
作ってみたら案外かわいくてポーチや財布、筆入れなどお揃いで作ってあげたらすごく喜んでくれたのだ。
二階の趣味部屋でがま口タイプの口金と型紙を見つけたので、次は布地選び。
実は私は布地も大好きで、手芸用品店に行くと使う予定がなくても布地コーナーを見て回り、気に入った柄の布地があればつい買ってしまっていた。
はぎれコーナーも好きで足を止めては真剣に選んでみたり。
なので部屋の片隅にはたくさんの布地があった。
散々悩んだ結果、ベージュ地に赤い小梅柄の布地に決定。
他に裏袋用の黄色と白のストライプの布地、キルト綿の接着芯、紙紐を用意する。
型紙に合わせて表布、裏布、接着芯を切る。
表布の裏に接着芯をアイロンで貼り付け、中表にして折り、両脇をミシンで縫う。
底マチを作って縫うと表袋の完成。
次に裏袋を表袋と同様にして完成させる。
裏袋を表に返し表袋の中に入れる。
表袋と裏袋をきれいに合わせて入口を縫うが片方には返し口を五センチほど残す。
口金の長さに合わせて紙紐を二本切る。
紙紐を本体入口に糸で縫い付ける。
反対側も同様に。
返し口から全体を裏返す。
裏袋を表袋の中に入れて形を整え、返し口をまつって閉じる。
口金の溝にボンドを塗って紙紐の部分を目打ちで溝に差し込む。
口金の端の部分をペンチを使って、潰して締める。
ボンドが乾いたら完成。
ふふっ。
いい感じにできたわ。
『サキは器用だな』
イヴァンが感心したように言ってくれる。
私ががま口財布を作るところを見ていたイヴァンは、私がアイロンを使うとアイロンの蒸気に驚き、それは何だ?と聞くので蒸気でシワをとるのと説明するとおぉと感嘆の声をあげ、ミシンを使うとミシンの音に驚いてどうなっているのだ?と不思議そうな顔をし、ここのレバーを下げると針と糸が自動で動いて縫ってくれるのと言うとうぬぬと呻いていた。
何だか人間くさくておもしろい。
小一時間ほどでがま口財布も完成し、そろそろいい時間になったので、夕食の準備を始めることにした。




