20 風の森は薬草の宝庫だった
「ところで、このアイテムバッグ、どこから持ってきたの?」
まさか盗んできたとかじゃないよね。
『失礼なことを言うでない。我が寝床にしていた山に昔からあった。我の山にあったものだから我のものだ』
その理屈もどうなんだとは思うが、
「そうなんだ。ごめんなさい。失礼なことを言って」
とイヴァンに謝り、
「イヴァンが住んでた山ってあそこに見えてる山のこと?」
遥か遠くに見える山を指差し聞くと、そうだと返事があった。
「一人で住んでたの?」
『そうだ』
「寂しくなかったの?」
『別に』
私はイヴァンに抱きついて思いっきりわしゃわしゃと撫で回した。
『何をするっ』と言いながらもイヴァンはちっとも嫌そうじゃなかったので、更にもふもふしておいた。
「ねえ、リオラ草は四十本採取できたんだけど、フォルモ草とカウラリア草は生えてないの?」
イヴァンは辺りを見渡すと一つの草に目を留めた。
『これがフォルモ草だ。麻痺や軽い毒などの状態異常を治すポーションができる』
見ると、葉も茎もすっと細い草で一見雑草と見間違えそうだ。
『カウラリア草はこの辺りには生えておらん。もう少し森の奥へ行ったところに生えている。これはMPポーションができる』
「わかった。じゃあフォルモ草を摘んだらカウラリア草の生えている場所を教えて」
フォルモ草も四十本ほど摘むとカウラリア草の生えている場所へ移動した。
あまり日が差さないジメッとしたところで、
『カウラリア草は日陰を好む。木の後ろや岩陰を探してみろ』
イヴァンに言われた通り木の後ろを見てみると、白っぽい背の低い草が生えていた。
『それだ。それがカウラリア草だ』
カウラリア草もちょうど四十本摘み取った。
頭の中で貰える報酬を計算して。
うん、これでいいや。
貨幣価値はわからないけど、ちょっと街の中を見て回るには十分でしょ。
足りないなら買わなきゃいいだけだし。
なので、採取を終え湖まで戻ってきた。
誰かに取られる心配もないので、リュックサックとバスケットは置いたままにしていた。
少し早いがお昼にしようとリュックの中からレジャーシートを出して木陰に敷く。
昼食用のサンドイッチとコンソメスープの入った水筒、イヴァン用にスープカップ(これは割れにくいものにした)、手を拭くためのおしぼり。
「サンドイッチを見たらすごくお腹がすいてきたわ。食べましょう」
おしぼりで手を拭き、イヴァンのスープをカップに注ぎ、それからサンドイッチに手を伸ばす。
イヴァンが食べやすいようにと一口サイズにしたせいか、イヴァンは私の三倍くらいのペースで食べている。
食べなくても生きていける精霊なのに、食べた分のエネルギーはどこへ行くんだろう。
不思議よね。
デザート代わりに袋入りのチョコレートを持ってきたので、袋から出してイヴァンの口元に持っていってみる。
『何だ?この黒いものは。あんことかいうものとは違う匂いがするぞ。でも甘い匂いだな』
くんくん匂いを嗅ぐイヴァンに
「これはチョコレート。カカオ豆を原料にしたお菓子よ。和菓子とは違うけど、これも甘くて美味しいよ」
イヴァンはパクッとチョコレートを一つ口に入れ、
『うむ。甘いな。これはこれで悪くはないが・・・』
もう一つチョコレートを食べた後、
『やはり、サキの作ったものがいいな』
嬉しいことを言ってくれるイヴァンに抱きつくと、思いっきりわしゃわしゃしてあげた。
『こらっ。何をするっ。やめんかっ』
口では嫌そうでも本気で嫌がっていなかったので、さらにわしゃわしゃもふもふすると、
『いい加減にせんかっ』
と本気で嫌がられた。
調子に乗り過ぎました。
ごめんなさい。
お腹も満たされ心地よい日差しにうとうとまどろんでしまいそうになるけど、街まで行かなくちゃ。
『少し眠ったらどうだ?』
「ダメだよ。早く街まで行かなきゃ帰りが遅くなっちゃう。街のお店だっていつまで開いてるかわからないし・・・」
昨日は結局、街へ行くのに1時間近くかかったのだ。
一眠りしてからでは真っ暗な中、帰ってこなければならないかもしれない。
街灯もないのに歩いて帰るのは無理だろう。
『我の背中に乗せてやろう。我なら街まであっという間だ』
「背中に?」
『ああ、しっかりつかまっていれば問題ない。それに我は風の精霊だ。風に乗るのは造作もない』
「そうなんだ。じゃあお言葉に甘えて少しだけお昼寝しちゃおうかな」
言い終わるや否や私は頭をイヴァンに預けて寝入ってしまった。
なんだか幸せだなあなんて思いながら・・・。
それから1時間後、しっかり目を覚ました私は一旦家に戻り、リュックとバスケットを置き、昨日と同じ黒いてるてるポンチョを羽織るとイヴァンの背中に跨る。
イヴァンはポンと飛び上がるといきなり空中を駆け出した。
「ぎゃー!待ってー!怖いっ!こんなの聞いてないっ!」
人間が豆粒ほどに見える高さを、周りの景色が一瞬で後方に過ぎていく速さで駆けていくイヴァンの首元に抱きついて、ギュッと固く目をつむるしかできない私だった。
確かに、時間にすればほんの五分くらいだろうけど、しかしあまりの恐怖に固まる私には、一時間にも二時間にも感じられた。
街の近くの目立たない場所で降ろされた私は半泣き状態でイヴァンを睨みながら、
「死ぬかと思ったっ!」
『言った通りすぐだっただろう』
「確かにそうだけどっ!」
悪びれないイヴァンに脱力する。
うん、もういいや、いろいろと。




