表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
のんびりまったり異世界生活  作者: 和奏
第一章 こんにちは異世界
18/160

閑話 エド②

 詰所に戻るとちょうど昼休憩中のモリドがいた。


「隊長、どうでした?」


「ああ、無事冒険者登録も従魔登録も完了した」


「登録できたってことは彼女はやっぱり成人してるってことですか」


「信じられねえが、十八才だとよ」


「えっ?」


 さすがのモリドも絶句だ。

 モリドには三属性のことも伝えておいた方がいいだろう。

 今後、トラブルのタネになりかねんからな。


「モリド。サキは珍しい三属性持ちだ。それも一つは光属性ときた。年は十八才でもずっと森の中で育ってきた世間知らずの嬢ちゃんだ。この先どんなトラブルに巻き込まれんとも限らん。一応お前も気にかけておいてくれ」


「さ、三属性!?しかも光属性まで・・・。本当に十八才だとしてもあの見た目じゃ強引に推し進めようとする輩の格好の餌食になりかねません。彼女がトラブルに巻き込まれないように俺たちがしっかり目を光らせておかないといけませんね」

 

「ああ、その通りだ。サキにはシルバーウルフがついているからそうそう好き勝手はできねえと思うが、気をつけておくに越したことはねえ。モリドも頼むぞ」


「はい。わかりました」


 昼休憩を終えたモリドが門番に戻っていき、俺もやりかけだった書類仕事を片付けた後、詰所の外で副隊長のスタンと軽く今後の打ち合わせをしていると、門から街の外へ出ようとしているサキに気がついた。

 サキも俺に気づいたようで手を振ってくれたので俺も振り返した。


 依頼か、気をつけろよ。


 心の中でサキに声をかけた後、目の前のスタンに意識を戻す。


「スタン、お前にも伝えておく。今のシルバーウルフを連れていたのがサキ。さっき冒険者登録を済ませたばかりの新人だが、三属性持ちでその内の一つは光属性ときた。トラブル要素満載だろ。今もほら見ろ。冒険者どもがサキの後を追ってぞろぞろ街を出て行ってる。まあ、仲間に引き込みたくてもシルバーウルフがいちゃあそう簡単にはいかんだろうがな」


 ぞろぞろ街を出て行く冒険者どもに目をやりながら俺が言うと、スタンも驚いて


「光属性を含む三属性持ちですか。それはまた珍しい。確かに気を配っておく必要がありそうですね。わかりました。気に留めておきます」


 その後俺は執務室で黙々と書類仕事を片付けていたが、突然異変が起こった。

 門の上部から街の外を監視していた部下のアルパが、大声で叫んだ。


「隊長っ、大変ですっ。一台の馬車が街めがけて暴走してきていますっ。さらにその後ろにはレッドボアがっ。このままでは大惨事ですっ」


 アルパの報告に俺はすぐさま門へ走った。

 道の向こうに土煙を上げながら一台の馬車がこちらに向かって疾走している。

 その後ろに見え隠れしている巨大なレッドボア。


 なんてこったっ!


「モリドっ、今すぐ外にいる人間を中に避難させろっ。ラーガっ、すぐにマルクルに連絡しろっ。スタンっ手の空いている隊員を全員門の外にっ」


 この時間帯は街へ入る人間もそう多くはないので外にいた人間はすぐに中に入ることはできたが、中に入ったからといって安全というわけではない。あのサイズのレッドボアがあのスピードで突っ込んできたら門どころか街すらひとたまりもない。


 俺たちだけで止められるか?

 俺のウォーターウォールとスタンのライトニングバーストがあればなんとか・・・。

 いや、微妙だな。

 しかし、何故あの馬車はレッドボアに追いかけられてるんだ?


 目を凝らして馬車を見ると、御者台に見知った顔の冒険者が一人立っていた。


 またあいつらかっ。

 何をしたんだっ。

 いや、あいつらのことは後だ。

 今はレッドボアを何とかしねえと。

 俺もスタンも魔力量はそう多くはないから一~二回しか使えねえ。

 何としても街の外でレッドボアを止めねえと街がヤバい。


 馬車とレッドボアがしっかり確認できる距離まで来たので、俺たちがレッドボアに狙いを定め魔力を込め・・・ようとしたとき、突然銀色の巨大な疾風が現れ、気がついた時にはドォーンという大きな地響きとともにレッドボアが地面に倒れ込んでいた。


 何が起こった?

 いや、その前に馬車だ。

 馬車を止めねえと門に激突しちまう。


 俺はレッドボアに向かって放つはずだった水魔法ウォーターウォールを馬車に向かって放った。


 あいつらなら別に手加減しなくてもいいよな。


 水の壁に捕らえられた冒険者どもを他の隊員にまかせ、俺とスタンはレッドボアに走り寄る。

 するとそこにはレッドボアの喉元に食らいつき一撃で仕留めたシルバーウルフの姿があった。


「・・・シルバーウルフ?」


 シルバーウルフは俺たちの方を一瞥すると、街道を西へ向かって走り去って行った。


「サキか?」


「エドっ。何があったっ?」


 呆然とシルバーウルフを見送っていた俺たちの後ろからマルクルの声がした。

 振り返るとマルクルが何人かの冒険者を連れてこっちへ向かってくるところだった。


「わからん。今わかっているのはそいつらの馬車を追いかけてきたレッドボアをシルバーウルフが一撃で倒したってことだけだ」


 俺はウォーターウォールに閉じ込められている冒険者どもを指差して言った。

 こいつらはここカイセリの街を拠点に活動しているBランクのパーティー「暗闇の聖人(ダークネスセント)」で茶髪の隻眼の男がリーダーのイードだ。


「イード。一体何があった?何故レッドボアに追いかけられていた?」


「知らんっ。突然追いかけられたんだっ。突然のことだったんで俺たちも逃げるのが精一杯で。エドっ、早くここから出せっ。俺たちは何もしてねえだろっ」


 確かにまだ何かをやらかしたと決まったわけじゃねえ。


「・・・。仕方ねえ。そこから出してやるが逃げるんじゃねえぞ。聞きたいことが山ほどあるからな」


 俺は渋々ウォーターウォールを消し、イードをはじめとするダークネスセント五人を解放してやった。

 話を聞くためにスタンと何名かの隊員で警備隊の本部へ連れて行く。

 その時、こいつらの使っていた馬車を調べていたモリドとラーガが縛られた小さなレッドボアを見つけた。


 どういうことだ?


「やっぱり例の件が関係しているとしか考えられねえ」


 マルクルの言葉に俺も頷いた。


「強引な手段を使ってでも取り調べるしかねえな」


「ああ、頼む。それとエド、あれはどうする?」


 マルクルの指差す先にあるのはレッドボアだ。


「やったのはシルバーウルフだからサキのもん・・・かな?」


「サキは?」


「わからん。シルバーウルフもやっつけて早々にどっか行っちまった」


「そうか。とりあえずあのままほっとくのはもったいねえ。ギルドに運んで解体するぞ。いいよな?」


「俺に聞くな。でもそれでいいんじゃねえの?解体するなら早い方がいいだろ。じゃあ俺は本部へ行く」


 ここでマルクルと別れて俺は警備隊の本部へ急いだ。


 本部でスタンや他の隊員たちが手分けしてダークネスセントのメンバーを尋問しているが誰一人口を割らないらしい。

 俺も脅したり宥めたりして何とか聞き出そうとするが上手くいかない。

 しまいには犯罪者でもねえのに取り調べを受けるいわれはねえと言い張る始末。

 確かに証拠がない以上、犯罪者だと決めつけるわけにはいかないが、怪しすぎるだろう。

 適当な理由を作って勾留しといて、その間に何とかするしかねえな。


 後をスタンに頼んで、俺はマルクルの元に足を運んだ。

 マルクルのいる執務室に入るとマルクルは開口一番


「レッドボアの群れが出た」


「は?どういうことだ?」


「今、たくさんの冒険者がレッドボアの買取に、ギルドに押しかけてきた。話を聞いてみると、あの巨大なレッドボアが通り過ぎた後、まるでその巨大なレッドボアの後を追いかけるかのように、普通サイズのレッドボアが群れを成してやってきたそうだ。さすがにあの巨大なレッドボアには手を出せなかった連中も、いつものサイズならと狩りまくったらしい。相手は群れだったが、こっちにもそれなりの人数がいて何とかなったと言っている」


「まさかそいつらって・・・」


「ああ、サキを追って行った冒険者の連中だ」


「で、サキは?」


「わからん。レッドボアを狩るのに気を取られて気がついたらいなくなってたと言っている」


「じゃあ、レッドボアの群れに巻き込まれて怪我をしたとかじゃなさそうだな。まあ、あいつにはシルバーウルフもついてるしな」


「エド、お前やけにサキを気にしてるじゃねえか。どうした?」


 ニヤニヤ笑うマルクルに


「いやー、俺にもよくわからんがなんでかほっとけねえんだよなあ。ログと同じくらいに見えるからかな?まあ、実際はもっと上だったが」


「ログはお前の下の息子か?」


「ああ、最近あいつらつれねえんだよ。前は父ちゃん父ちゃんって俺の後追っかけてたのに」


 俺の愚痴に、マルクルはくつくつと喉で笑いながら


「お前が子離れできてねえだけだろ」


「そうなのか!?」


 尚もぶつぶつ言う俺にマルクルは真剣な顔に戻り


「で、あいつらは何か吐いたのか?」


「いや、何をどうやってもしゃべりやがらねえ。今は適当な理由をつけて勾留しているが、そういつまでもそれが通るわけじゃねえし」


 ため息をつきながら言う俺にマルクルも


「あいつらも腐っても冒険者だからな」


 と同じようにため息をつく。


「・・・なあ、マルクル。サキに・・・というかシルバーウルフに協力してもらえねえかな。今日見た限りじゃかなり賢いしサキの言うこともしっかり聞く。あいつなら魔物の集められている場所がわかるんじゃないか?」


 俺の提案にマルクルも同意する。


「これ以上、手の打ちようがねえ今、シルバーウルフにかけるしかねえかもな」


 そう結論付けた俺たちはサキが依頼を終えて帰ってくるのを待ったが、結局この日サキは街に帰って来なかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ