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のんびりまったり異世界生活  作者: 和奏
第三章 こうなったら異世界生活を楽しみます
153/160

24 こんなのでも精霊なんです

「この小さいのが人型をしたシロ、それからこのいかつい顔をしたのがヴォル、最後にこのくるくる踊っているのがユラです」


 一瞬の沈黙の後、シェリーさんとティーナさんがヴォルを指差し、「魔物なの?何なの?」と騒ぎ立てる。


「精霊だそうです」


「…精霊?」


 アレスさん以外が疑いの目でヴォルを見ている。


「なんや、わしに喧嘩を売っとんのか?いつでも受けて立つで」


 ファイティングポーズをするヴォルを宥めながら、ウッドさんたちを安心させるように言う。


「ヴォルも私の従魔なので心配いりませんよ。でも従魔登録はしていないので他の人には内緒にしておいてくださいね」


 気を取り直して食事を始めたけれど、やはりイヴァンとヴォルの早食い競争やユラの食べ方を見て呆気にとられている。

 すでに慣れっこのアレスさんは「美味いっ」と嬉しそうに口に運んでいる。

 するとそれまでレインさんの背中に隠れるようにしていたサクラがレインさんの肩を伝って降りてきた。

 そしてじっとレインさんのシチューを見ている。


「サクラも食べる?」


 私の問いかけにこくんと頷くサクラにキュンっとしながらレインさんに了解を得る。

 サクラの前にもシチューの入った皿を置くと、器用にスプーンを使って食べ始めた。


 !

 キュンですっ、キュンですっ。

 めちゃくちゃかわいいんですけどっ。

 にへらと締まりのない顔になりそうなのを耐え、食事が終わったらモフモフしてサクラに癒されようと決意する。

 ウッドさんたちも口々に美味しいと言ってくれたので、ホッとしながら食事を終えた。


 何度かかまどを使って料理を作る練習をしておいてよかった。


 今日は食事がメインではないので、食事が終わると話し合いを…と思ったけれど、やはり彼らには探偵ごっこよりも優先されるべきはおやつだった。

 うるさい彼らを黙らせるにはおやつを食べさせておくのが一番だ。

 キッチンの棚から梅酒寒天といちごの泡雪かんを取り出す。

 どちらも夏にぴったりな冷たい甘味(スイーツ)だ。

 先ほど、シチューの材料を取りに風の森の家に戻ったとき一緒に持ってきて、凍える石(フリージングジェム)と一緒に棚の中へ入れておいたのだ。


 まず梅酒寒天。

 鍋に粉寒天、水、砂糖、梅酒を入れ火にかける。

 粉寒天と砂糖を溶かすようにゆっくりと混ぜる。

 型に流し入れ冷蔵庫で冷やし固めると完成。


 次にいちごの淡雪かん。

 鍋に粉寒天、水、砂糖を入れ火にかける。

 粉寒天と砂糖を溶かすようにゆっくりと混ぜる。

 ボウルに卵白を入れて泡立て、さらに砂糖を二回に分けて加え、その都度混ぜ、つのが立つまで泡立てる。

 泡立てた卵白=メレンゲに溶かした寒天液を少しずつ加え、よく混ぜ合わせる。

 ヘタを取り半分に切ったいちごを並べた型に、メレンゲと寒天液を混ぜ合わせたものを静かに流し入れ、冷蔵庫で冷やし固めると完成。


 固めるものが違うだけで基本は一緒だ。

 でもイヴァンはいちごの淡雪かんの方が好きだし、シロはやっぱり梅酒寒天の方が好みのようだ。

 ヴォルとユラはどちらも美味しいと言って食べている。


 アレスさんたちにも勧め、せっかくなのでたんぽぽコーヒーを淹れた。

 皆さん、初めて見る甘味(スイーツ)に興味津々のようで、全員がどちらも食べていた。

 そして皆美味しいと口をそろえて褒めてくれた。

 嬉しい限りだ。


「さてそろそろ本題に入ろうか。顔に模様のある謎の男のことだけど」


 と、一息ついたところでウッドさんが話し始める。

 顔に模様のある男のことを知っているということはアレスさんがある程度は説明してくれているのだろう。


「実は王都でも何度か目撃情報があるらしい。同一人物かどうかは定かではないけど、珍しい風貌の男だから別人ってことはないと思う。最近王都の外れで何度か魔物が出現しているけど、それも関係あるかもしれない。まあ、王都のことはさておき、このカイセリで起きていることだけど。謎の男は結界を張れる魔物を欲しがっている。つまりイヴァンだ。それでサキとイヴァンが囮になるって聞いたけど…」


「はい。そのつもりです」


 私は頷いた。


「危険だから本当は俺も反対だけど、敵の懐に入り込まないとわからないことも多いからサキたちにまかせるしかないと思ってる」


 みんなが私を見て、うんうんと頷いている。


「大丈夫ですよ。イヴァンがいますから。イヴァンだけじゃなくシロもヴォルもユラだってすごく頼りになるんです。だから心配はいりません」


 私の答えに、今度はイヴァンたちがうんうんと首を縦に振る。


「まあ、君たちに勝てるやつなんてそうそういないだろうからね。その点は安心だ」


「サキが誘拐されるとしたら一週間後だと思う」


 アレスさんが言う。


「あの男が来るのが一週間後。早々にサキを誘拐しても監禁場所や食事のことがあるから手間がかかる。当日誘拐してそのまま引き渡すのが一番手間がかからない。だから決行日は当日だと思う」


「俺もそう思うな。それでも念のため、サキはその日まで街に来ない方がいいと思う」


「わかりました」


 ウッドさんの言う通り、風の森から出ないようにしよう。


「それまで私たちにできることは全てやっておきますから、サキは当日普段通りにして誘いの手に乗ってください。さすがに無理矢理だとか力づくでということはないと思いますし」


 頷く私にレインさんがうっとりするような笑顔を向けてくる。


 心臓に悪いので、微笑むのは止めてください。


 これだからイケメンは困るわーと顔を赤らめていると、「サキ」とアレスさんにいつもより低い声で名前を呼ばれた。

 隣に座るアレスさんに顔を向けると少し機嫌が悪そうに見える。


 何か気に障ることをしたかしら?


 そう問いかけようと口を開きかけたとき、ケラケラ笑いながら、ウッドさんがアレスさんを呼んだ。


「いちいち気にしないの。器の小さい男だと思われるよ。それよりも続きを始めるよ」


 アレスさんは何か言いたそうに口を開いたけれど、結局何も言わず前を向いた。


 何だったの?と心の中で首を傾げていると、膝に置く私の左手が温かい何かで包まれた。

 そっと見てみるとアレスさんの右手が私の左手を握っている。

 急激な体温上昇を感じながらチラッと隣を見ると、アレスさんはすまし顔でウッドさんを見ている。

 でも、よく見ると耳が少し赤くなっている。


 やだ、なんだかかわいいわ。


 男らしいアレスさんにかわいいだなんて口に出しては言わないけれど、これがいわゆるギャップ萌えってやつかしらと平静を装いつつ、心の中では大いに悶える。

 でも今はそんな場合じゃないと、アレスさんの手の温もりを気にしつつウッドさんの話に意識を戻す。


「今日一日、ドムス市長を調べたけど、街の人間を人質に脅されている可能性があると思う。特にここ最近、領の西、魔の森に近い村が今までにない頻度で襲われている。その度に領主の城の騎士団が対処しているけど、追いつかないほどだそうだ。これが謎の男の仕業かどうか、確証はないけど無関係ではないと思う。なぜなら今までこの辺りで見かけなかった魔物が目撃されるようになったから。まあ、いずれにしてもこのままほっとくわけにもいかないし、ドムス市長一人で対処するにも限界がある」


「そうですね。それにこれは私の推測ですが、前市長ラルパ殿の死も何か関係しているのかもしれません。公には事故死とされていますが、本当に事故死だったのか。息子のセルジュ殿もラルパ殿に似て正義感の強い男です。セルジュ殿も同じ目に合わせてはならないと、あえてドムス市長が悪役を買って出た可能性もありますね」


 レインさんの言葉に、シェリーさんも、


「あり得るわね。本当にいいおじさんだもの。よく恵まれない子供たちにポケットマネーで食べ物や着るものをプレゼントしてたし」


「そうそう。だから孤児院が再建できることになったとき、一番喜んだのはドムスのおじさんだって話よ。それで裏でいろいろ手を回したおかげであんな立派な孤児院ができたって聞いたわ」


 知らなかった。

 孤児院のこと、ドムス市長がそんなに考えてくれていたなんて…。


 ティーナさんの話に驚く。


「とにかくもうこれ以上、ドムス市長にやりたくもない悪役をさせることもねえ。ここらで決着をつけねえとな」


 アレスさんの言葉にみんなが頷く。


「マルクルとエドには明日俺から話をするよ」


「領主の耳にも入れといた方がいいんじゃねえか?」


「そうだね。マルクルにはそう伝えるよ」


 その後、あれこれと打ち合わせをし、月が燦々と輝く頃に解散となった。

 街の方はウッドさんたちに任せて、私は誘拐されるその日まで風の森で過ごすことになった。

 まあ、いつもと変わらない毎日を送ればいいようだ。


 家路に着く皆さんを戸口まで見送る。

 別れ際、アレスさんが耳元で囁く。


「サキは心配しなくていい。俺が守るから」


 最後に私の頭をポンポンとなでると笑顔で帰って行った。


 アレスさんってあんな人だったかしら。


 昨日といい、今日といい、赤面することばかりだ。

 でも嫌な気がしないのも確かで。

 気づきたいような気づきたくないような複雑な感情のまま、風の森へと帰った私だった。


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