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のんびりまったり異世界生活  作者: 和奏
第三章 こうなったら異世界生活を楽しみます
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15 ユラの覚醒⁉

 それはイヴァンの周りを楽しそうに踊っているユラだった。


「今、ユラがしゃべったの?ユラから聞こえたような気がするんだけど」


「間違いなくそいつから聞こえたで」


 ヴォルだけでなく、みんながユラを見つめている。


「ユラ、恥ずかしいです?」


 頬をピンクに染め、恥ずかしそうにふるふる揺れるユラが何ともかわいらしい。


 …じゃなくてっ。


「ユラっ。あなたしゃべれるようになったのっ?どうしてっ?何があったのっ?」


 矢継ぎ早に質問する私に、ユラは


「わからないです?」


 と、ふるふるかわいく揺れながら頭をひねった。


「イヴァン。こんなことってよくあることなの?」


『おそらく、我ら上位の精霊と常に一緒にいたせいで少なからず影響を受けたのであろう。今まで我らがこのような下位のものと長く共におることはなかったからな』


「確かに考えられることじゃな。しかも我ら上位の精霊が三人もいる場所などそうそうあるものでもない。影響を受けぬ方がおかしいと考えるべきじゃな」


「ほんならこのちっこいの、少しは成長したっていうことか。つまりわしらのお陰っちゅうことやな」


 わははっと胸を反らせて高笑いするヴォルを尻目に、私はユラに抱きつく。


「すごいわっ、ユラ。これでユラと直接話ができるわね」


 でも話すときはいつも疑問形なのは何故?


 やっぱりユラは女の子だったのね、なんて思いながらユラのぷにぷにの感触を堪能していると、アレスさんに、


「あー、サキ。そろそろ次はどうするか考えた方がいいんじゃないか?」


 と、遠慮がちに言われてハッとする。


 そうだ。

 今はこんなことをしている場合ではなかったわ。

 名残惜しいけど…。

 さて、どうしよう。

 警察犬イヴァンは使えないし。


 悩む私の前にユラがくるくる踊りながらやって来た。


「ユラ、わかるです?」


「わかるの?」


 驚く私に、ユラは大きく頷くと全身から魔力のようなものを放出した。

 しばらく何かを探るような素振りを見せていたけど、ある方向で動きが止まる。


「向こうにいるです?」


 ユラが手の代わりに全身を使って指し示したのは、私たちが来た道、つまりエイダの家がある方角だった。


「エイダの家?」


「そうです?」


 ユラの言葉に、私たちはもう一度エイダの家向かった。

 半信半疑だった私たちだけど、急いでエイダの家に行ってみると、家の前でうろうろと挙動不審な男の子を見つけた。

 まさかと思いながら声をかけると、その子は答える前にイヴァンを見て、驚いて走り去ろうとした。

 でもそこは一級の冒険者であるアレスさんがさっと動いて男の子の逃げ道を塞いだ。

 怯える男の子をこれ以上怖がらせないように、少しかがんで男の子の目線に合わせると優しく話しかけた。


「驚かせてごめんね。私は早紀。あなたがブルズくん?」


 落ち着かないのか視線をあちこちに飛ばしながら、


「そ、そうだけど。治療師様が何の用だよ」


 ぶっきらぼうな返事に、ふふと笑みをこぼしながら、


「あなたに聞きたいことがあったの。このうさぎの編みぐるみなんだけど…」


 私が白いうさぎの編みぐるみをブルズに見せると、彼はあっと息をのんだ。

 やはり心当たりがあるようだ。

 どうしてエイダの持っていた人形を私が知っているのかと不安そうにするブルズに優しく説明する。


「これとそっくりなピンクのうさぎの編みぐるみなんだけど、私(正しくはヴォルだけど)のものなの。ちょっとした勘違いでエイダが持って行ってしまって…。探しているんだけど今持ってる?」


 私の言葉を聞いた途端、顔色を変えたブルズはふるふると震えながら頭を下げた。


「ご、ごめんなさい。治療師様の人形だって知らなくて…。エイダが持ってたからてっきりエイダのものだと…」


「エイダのものなのに奪い取っちゃったの?」


「そ、それは…」


 口ごもり、視線をキョロキョロと泳がせながら、


「だってあいつ、俺のことを無視して走って行こうとするから。それで俺、腹が立ってついあいつの持ってた人形を…」


 あら?


「つまりエイダの気が引きたくてやったの?」


 そう言ったらブルズの耳がほんのり赤くなった。


 あらまあ。


「あのとき、エイダは熱を出したトリルのために教会まで私を呼びに行こうと急いでいたの」


「え?」


 青ざめたブルズに、私はあわてて付け足した。


「もう心配はいらないわ。トリルはさっき私が治療したから。もうすぐみんなでルーナ・ルーチェに…。あっそうか。ブルズはエイダと一緒にルーナ・ルーチェに行きたかったのね?ならもう大丈夫よ。エイダにさっきのことをちゃんと謝って、それから一緒に行こうって誘えばいいの。大丈夫。なんたって今日はルーナ・ルーチェなんだもの」


 かわいくウインクをしたつもりだけど、ただの変顔になっただけなのは否めない。


 うぅ。


 少し元気を取り戻したブルズにもう一度、うさぎの編みぐるみについて聞いてみる。


「ブルズはついエイダから取っちゃったうさぎの編みぐるみを返そうと思ってここに来たんでしょ。エイダにはちゃんと話はしてあるから返してもらってもいいかしら?」


 手を出す私に、ブルズはばつが悪そうな顔をして恐る恐る言った。


「持って…ないんだ」


「え?そうなの?じゃあ今はどこにあるの?」


「それが…」


 ブルズの話によると、エイダから編みぐるみを取って走り出したものの、エイダは追いかけて来なくて腹が立ったけど、やっぱりエイダに返そうと思って広場まで戻る途中、顔に変な模様を描いた男とぶつかってこけた拍子に持っていた編みぐるみを離してしまったらしい。

 辺りを探したけど見つからなくてとりあえずエイダの家まで来たものの、謝る勇気が出なくて家の前でうろうろしていて、現在に至る。


 私は編みぐるみが現在行方不明なことより、ブルズの話に出てきた顔に模様のある男の方が気になった。


 もしかして前にオールドムッカの森で会った怪しい男のことかしら。

 モーザ・ドゥーグの群れやニコを操って何か良からぬことをしようとしていた男。

 結局、何者なのかわからないままだけど。

 今度、マルクルさんかグリセス様に聞いてみよう。

 何か進展があったかもしれないし。


 とここで、不安そうにじっと私を見るブルズに気づく。


「ごめん、ごめん。大丈夫よ。気にしないで。それよりもちゃんとエイダと仲直りしなきゃダメよ。女の子はね、意地悪な男の子より優しくて頼りがいのある男の子の方が好きなのよ。だからブルズも頑張って」


 それだけ言うと私たちは、ブルズが男とぶつかった辺りまで行ってみることにした。

 後ろで扉を叩く音がした。

 心の中で、ブルズ頑張れっと声援を送った。

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