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のんびりまったり異世界生活  作者: 和奏
第三章 こうなったら異世界生活を楽しみます
139/160

10 かき氷屋始めました

 あちらこちらから開店を告げる声が聞こえてきた。

 これから仕事に行く人相手の店は当然早くから開いているが、そうでない店もわりと早くから開いている。

 私の店はというとやはり冷たいスイーツということもあり、もう少し暑くなってから開けようと思っている。

 なので、今は必死で氷を削り、削ったそばからアイテムバッグに入れていく。

 シロップは昨日までに大量に作り、今は店のキッチンの大きな棚の中に入れてある。

 ここで役に立ったのが、先日手に入れた凍える石(フリージングジェム)だ。

 棚に入れておくと棚が冷蔵庫のようになり、適温でシロップを冷やしてくれる。

 私のアイテムバッグからいちいち取り出さなくて済むので大助かりだ。

 かき氷にシロップをかけるのはアメリと、アメリの友達パメラとルーシーに任せることにした。

 パメラとルーシーは同じ孤児院にいる子供たちで、パメラとルーシーはアメリと同じ年ということもあり、仲良くなったらしく、今日も一緒に手伝いに来てくれた。

 前回ポップコーンのお店を開店したときもジャックたち四兄弟に手伝ってもらったけれど、とにかく忙しくて大変だったので、今回手伝ってくれる人間が増えるのはとてもありがたいことだ。

 彼女たちにはシロップがけを担当してもらう。

 ジャック、ルーイ、モリーの三人は注文を聞いたり、接客をしてもらうつもりだ。

 まあ、モリーはまだ小さいので、前回同様看板娘として頑張ってもらおう。

 そしてみんなにおそろいの腰までギャルソンエプソンをつけてもらう。

 もちろん私の手作りだ。

 ちょっと渋めのカーキ色を選んだのだけど、若い子たちばかりなのでもっと明るい色にしてもよかったかもしれない。

 そんなことを思いつつ、アメリたちにシロップのかけ方を教え、準備を進める。

 と、そこへジャックがあわてたように飛び込んできた。


「サキっ、悪いっ。もう俺には無理だ。店の前にものすごい行列ができてて、まだかまだかって大騒ぎなんだっ。もう少し日が昇ってからだって言っても聞かなくて…」


 ジャックの言葉に、ついと店の外を見る。


 えっ!?


 店の前の道を埋め尽くすように大勢の人が並んでいた。


 えぇーっっ!


「だから前に言ったろ。みんなこの前のサキのポップコーンが気に入ってまた売ってほしいって言ってるって。今回もポップコーンだと思ってる客もいるみたいだけど、今日は冷たい甘味(スイーツ)だって言っても結局帰らずにいるからみんなサキの甘味(スイーツ)が気になるんだろう。コックスとか串焼きの屋台の親父たちも自分の店をほったらかしにして並んでるぞ」


 噓でしょうっっ!?


「どうしよう、ジャック。開けようと思えば開けられるけど、冷たいものを食べるにはまだ早くない?」


「別にいいんじゃねぇ?外はもうけっこう暑くなってるし」


「そう?じゃあ…もう開店しちゃう?みんな準備はいい?」


「「はーいっっ」」


 そしてその後は怒涛の勢いで時間が過ぎて行った。

 私の予想をはるかに超えるお客様が来てくださり、削っても削っても終わりが見えないほど氷を削った。

 みんなも大変だろうと思っても何とかしてあげる余裕もない。

 ところが突然終わりを告げた。

 シロップが全てなくなったのだ。

 お客様はまだ並んでくれていたけど、ないものはない。

 仕方がないので、今日の営業は終了し、また明日以降来てもらうことにした。

 ただ今の時間、午後二時を少し回った頃。

 もうみんなくたくたで机に突っ伏している。

 休憩どころかお昼ご飯すら食べていない。

 ちょっとしたアルバイトのつもりだったのに、これでは労働基準法違反だ。


「みんな、ごめんね。まさかこんなに忙しくなるとは思わなくて…」


「気にしなくていいよ、サキ。よかったじゃないか、これだけ売れてさ。だから言ったろ。こんなに美味いのに銅貨一枚じゃ安すぎるって。それに冷たい甘味なんて誰も真似できねえんだから、銅貨五枚でもよかったんだよ」


 実は最初、銅貨一枚で売ろうと思ってたんだよね。

 氷は無料だし、シロップに使った果物代しかかかってなかったから。

 それをジャックに言ったら安すぎる、銅貨五枚でも客は来るって言われて、結局間を取って銅貨三枚にしたんだけど…。


「そうね。みんなにもお給金弾むからね」


 喜ぶ気力もない彼らに、私はお昼ご飯用に作って持ってきたサンドイッチを勧めた。

 ジャックとルーイには申し訳ないけど、二人にはもう一仕事してもらわなければいけない。


「ジャック、ルーイ。疲れているのに悪いんだけど、お昼ご飯を食べ終わったら、もう一仕事頼まれてくれる?」


 ジャックもルーイも疲れているはずなのに快く引き受けてくれる。


「シロップを全部使っちゃったから明日の分がないの。アーニャおばさんにはお願いして取っておいてもらってるけど、たぶん足りないから他の果物屋さんを回ってマングート、サバル、グラーパ、サマリネをあるだけ買ってきてもらえない?このままじゃ明日の営業ができないわ」


「わかった。行ってくるよ。とりあえず腹ごしらえしてからな」


 そう言って二人は猛烈な勢いで食べ始めた。

 女の子たちも仲良くおしゃべりしながらサンドイッチを口に運んでいく。

 それを見てから私は近くで大人しく待っていてくれているイヴァンに近寄った。


「イヴァンもお疲れ様。お手伝いありがとう」


 イヴァンの首に抱きついてほおずりする。

 イヴァンは店の外で、順番を抜かそうとしたり、横から無理矢理入ろうとする人たちを威嚇して見張っていてくれたのだ。

 イヴァンの前にもサンドイッチを置くと、


『腹が減ってかなわぬ。いったいどれほど我を待たせれば気が済むのだ』


 と文句を言いつつ、サンドイッチを平らげていく。

 最近のイヴァンは臨機応変という言葉通り、今日みたいに忙しいときには「待つ」ということをしてくれる。

 成長著しい。


「これが終わったら、イヴァンの好きなおやつをたくさん作ってあげるからね」


 それからの私は次々と運び込まれる果物をシロップにするために忙しく動いていた。

 ジャックとルーイが街中の果物屋さんに声をかけてくれているのか、いろいろなお店から果物が届けられた。

 アメリたち女の子は果物の皮むきをしてくれている。

 私はシロップ作り。

 少しずつかまどの使い方も練習したので、今ではなんとか使えるようになった。


 こうやってここでの生活にも馴染んでいくんだろうな。


 全ての作業が終わったのは夕方で、家路につく人であふれていた。

 ジャックたちに今日の分のお給金を渡し、店の前で見送る。

 もらい過ぎだと遠慮する彼らに、明日以降も手伝ってほしいから忙しすぎて嫌だなんて言わないでねと無理矢理約束以上のお金を渡した。

 私は予想以上の来客に、小さな子供たちに無理をさせて申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 でもジャックは明日も来るからと笑顔で言ってくれるのだ。


 本当になんていい子たちなんだろう。


 私の横で一緒に子供たちを見送っているイヴァンを見る。


「もちろん、イヴァンもだからね」


 イヴァンに抱きつき、すりすりする私に、


『よせ。くすぐったい。離れろ』


 と文句を言いながらもちっとも嫌そうじゃないイヴァンに自然と笑みがこぼれた。


 しっかりと戸締りをすると急いで家に帰る。

 みんなお腹を空かせて待っているはずだ。


「ただいまーっ。すぐにご飯作るからね」


 リビングでまったりしていた三人に声をかける。

 イヴァンものそりとハンモックへ行き、疲れた体を癒すかのように寝転ぶ。


 ふふ。

 イヴァンてば、『我は手伝いなどせぬ』なんて言ってたけど、なんだかんだと気にしてくれてたんだよね。

 本当はもっとイヴァンの好きなものを作ってあげたいけど。

 落ち着いたらたくさん作るからね。


 心の中で感謝して、すぐさま夕食作り。

 今日はさすがに私もつかれたので、さっと作れる牛丼にしようと思う。

 使うのは街で買ってきたマッドブルの肉だ。


 玉ねぎをくし切りにし、水を入れた鍋に入れ、だしを加え、玉ねぎがしんなりするまで煮る。

 白ワイン、砂糖、醤油、みりん、生姜を加え、一口大に切った肉を入れ煮る。

 ご飯に盛り付けたら紅生姜をのせて完成。


 あとはもやしときゅうりとツナのナムル。


 もやしはレンジで加熱し、熱いうちに流水でさっと洗い水気を絞る。

 きゅうりを千切りにし、塩でもみ、しばらくしてから水気を絞る。

 ミニトマトはヘタをを取り、二等分する。

 ボールにもやし、きゅうり、トマト、ツナ、ポン酢、ごま油を入れて混ぜ合わせたら完成。


 みんなでテーブルを囲んで楽しく食べながら、かき氷屋の話をした。

 売り切れになるほど盛況だったわと報告すると、珍しいうえにあんなに美味しいのだから当たり前だと言われて嬉しかったのだけど、あの忙しさで最終日まで体力が持つかしらと嬉しい心配をしてしまった。


 夕食後、デザート代わりに前に作ってアイテムバッグに入れておいたアイシングクッキーを出した。

 さすがにもう何かを作る気力も体力もない。

 イヴァンそっくりなアイシングクッキーができるのももうすぐだろう。

 日々練習だ。


 片付けを終えるとお待ちかねのバスタイムだ。

 ラベンダーの香りに包まれながらお湯に浸って疲れを落とす。


 疲れたけれど、でもとても楽しかったわ。

 こうして少しずつ街での生活に慣れていくのもいいかもしれないわね。


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