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のんびりまったり異世界生活  作者: 和奏
第三章 こうなったら異世界生活を楽しみます
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6 アレスさんとかき氷

 報酬を受け取り、家に帰ろうとギルドを出ると突然声をかけられた。

 声の方を向くと、そこにはハリーさんがいた。

 驚く私にハリーさんは少し頭を下げて、少し冷たくも感じる声で話しかけてきた。


「突然すまない。私はハリー。知っていると思うが冒険者をやっている。少し君に聞きたいことがあるのだがいいだろうか」


 冒険者だというのにとても丁寧な話し方をする人だなあと感心する。


 なんとなく品を感じるのは気のせいかしら。


「私は早紀です。この子はイヴァン。私でわかることであればどうぞ」


「そこのシルバーウルフは君の従魔だと聞いた。そのシルバーウルフは…本当にシルバーウルフなのか?」


 え?


 思わずイヴァンに目をやる。

 今までシルバーウルフに違いないと、全く疑われたことがなかったのでハリーさんの質問の意味がわからない。


 まさか、バレてる?


「シルバーウルフでなければ何だと言うのですか?」


 質問に質問で返す。


「…そうだな。シルバーウルフ以外にあり得ないな。だがそれならどうやってCランクの君とシルバーウルフだけでコルドラ山の山頂まで行けた?その上特Aランクのフリージオルグリズリーを倒すとは…。悪いが私には信じられない。いや、そもそも何故ギルドマスターさえ疑わない?おかしくはないか?そいつはシルバーウルフではなくもしかしてフェ…」


「サキっ」


 ハリーさんが言い終わるよりも先に私を呼ぶ声がしたので、そちらへ顔を向けると久しぶりに見るアレスさんだった。

 話の腰を折られた形になったハリーさんだけど、それ以上話を続けることなく「すまなかった」と言って、雑踏に消えていった。

 悪い感じの人ではなかったけれど、イヴァンのことを疑っているみたいだった。

 あまり関わらないでおこう。


「今のは誰だ?見かけない顔だったが…」


「最近この街に来られたAランクの冒険者、ハリーさんですよ。それよりもアレスさん。随分久しぶりな気がしますね。怪我もなく元気そうでなによりです」」


「あ、あぁ。そうだな。ちょっといろいろあって王都へ行っていたからな。昨日帰って来たばかりだ」


「王都…ですか?」


「あぁ」


 そう答えながらも視線はハリーさんが消えて行った方を向いている。


「そうか。あいつが稲妻のハリーか」


「アレスさん。ハリーさんを知っているんですか?」


「いや。一人(ソロ)でAランクなんて珍しいからな。噂には聞いていたが会ったのは初めてだ」


「へぇ。ハリーさんて有名人だったんですね」


「で、サキはあいつと何を話していたんだ?」


 視線を私に戻したアレスさんは少し機嫌が悪そうに私に詰め寄った。


「いえ。別にこれと言っては…。ただハリーさん、イヴァンのことを疑っているみたいでした。本当にシルバーウルフなのかって」


「何?どういうことだ?」


「実はさっき…」


 とハリーさんとの話の内容を話そうとして、ふとこんなギルドの前ではなんだからとギルド併設のカフェでお茶でもどうですかと誘ってみたら、あまり聞かれない方がいい話じゃないのかと言われ、ユラの家に招待しようとしたら何故かアレスさんが自分の家に来ればいいと譲らず、軽い言い合いの末、結局アレスさんの家にお邪魔することになった。


 いいのだろうか?


 アレスさんに連れられたどり着いたのは、この辺りでは一般的なレンガ造りのこじんまりとしたかわいらしい一軒家だった。

 玄関までに、短いながらアプローチがあり、その両脇には本来なら花壇であろう場所に花ではなく雑草が生い茂っていた。

 私の視線に気づいたアレスさんがあわあわと「これはずっと留守にしてたからで…」と言い訳する様子がおかしくもかわいく見える。

 ふふと笑いながら、


「今度、花の苗を持ってきますから一緒に植えましょうか」


「え?ああ、それはありがたい。うん、一緒にか。それはいいな」


 なんだか嬉しそうなアレスさんに促され、家の中へ入った。


「ここは…物置ですか?」


 入ってすぐの部屋は物であふれていた。


「いや、まあ、なんというか…結果こうなった。ほら、仕事に必要な道具とか旅に持っていくものとか、玄関に近い所に置いた方が楽だろ」


「なるほど。確かに合理的かもしれませんが、訪ねてきた人がびっくりしませんか?」


「どうせ来るのはウッドやシェリーたちだけだ。あいつらはもう慣れてる」


「…ソウデスカ」


 男の一人暮らしならこんなものなのかしら。

 確かにアレスさんの言うこともわからないでもないけれど、と首を傾げながらも先へ進むアレスさんの後について行く。

 案内されたのはリビング兼ダイニングのような部屋で奥にはキッチンがあった。

 右手には二階へ上がる階段も見える。


 ダイニングの椅子を勧められ腰掛けると、アレスさんはキッチンへ行き何やらごそごそと探し始めた。

 しばらくして目当ての物が見つからなかったのか、こちらへ戻ってくると「すまん。茶がない」と頭を下げた。

 続けて「グラーパ酒ならあるんだが…」と申し訳なさそうに口にした。

 巨峰そっくりなグラーパから作られるグラーパ酒は領主様の城でも出されていたもので、この世界では一般的な飲み物だ。

 地球のワインと同じようなものだけど、アルコール度数がかなり低く子供でも飲めるほどらしい。

 といっても成人を迎える頃になるまであまり飲ませないようにする親が多いそうで、それを聞いてちょっと安心した。

 度数が低く水の代わりに飲んでいるといってもアルコールには違いないので。


「さすがに昼間からお酒というのは…。それに他人の家でお酒を飲んで酔うと大変なので、というか確実に酔います。なので遠慮しておきます。ごめんなさい」


「他人…。いや、まあ、そうだが…。別に酔っても大丈夫だぞ。俺は気にしない。酔っちまったらうちに泊まっていけばいい」


「いやいや、全くもって大丈夫じゃないです。下心ありありの怪しい人になってます」


「え?いや、そんなつもりじゃなくて…。ただ部屋も余ってるし心配ないと言いたかっただけで…」


 しどろもどろに言い訳するアレスさんにふと初めて会った日のことを思い出す。


 あの日も確か野宿するという私にやたらと家に来いと勧めてきたっけ。

 …。

 アレスさんって危ない人なんじゃ…。


 訝しげに自分を見る私に気がついたアレスさんはあわてて全力で否定してきた。


「サキ。誤解しないでくれ。俺は本当に変なことをするつもりはない。サキの意思を無視するなんてことは絶対にしない。ただ俺はこの家をサキに見てもらいたかっただけだ」


 この家を?


 家の中をゆっくり見回してみる。

 アレスさんに似合わない(失礼)とてもかわいらしい家だ。

 でもよく見るとあちこち薄汚れていて、うっすらとほこりもかぶっている。

 掃除が行き届いていないようだ。

 そういえばしばらく留守にしてたって言ってたっけ。

 あっ。

 そういうことなのね。


「わかりました。アレスさん」


 私はアレスさんの方を向いてにっこり笑って言った。


「お掃除を手伝えばいいんですね。確かに汚れが目立ってますしね」


 アレスさんは一瞬顔を輝かせたものの、次の私の言葉を聞いて肩を落とした。


 あれ?

 違った?


 そうだった、サキはこういう鈍いところがあったんだと何やらぶつぶつと言っているアレスさんのつぶやきを聞き流し、掃除の段取りを考えようとしたとき、ふと思い出した。


 そうじゃないっ。


「アレスさん。なんだか話がずれてます。確かハリーさんの話をしに来たと思うのですが」


「あ?あぁそうだったな。すまない。えーと」


「お茶なら私が風の森まで取りに…」


 と言いかけて思い直す。


「アレスさん。せっかくだからかき氷食べませんか?」


「かき氷?」


「はい。こんな暑い日にぴったりな冷たい甘味(スイーツ)です」


「…かき氷なんてどうやって作るんだ?」


「え?アレスさん。かき氷が何か知っているんですか?」


 思っていた反応と違うアレスさんに私の方が驚く。


「あ、いや、そうじゃなくて…。その、氷というくらいだから削ったりするのかと思って…」


「アレスさん、すごいです。その通りです。氷を削ってフルーツで作ったシロップをかけて食べるんです。よくわかりましたね」


「いや、それほどでも…」


 と何故か乾いた笑いを浮かべるアレスさんの様子にクスッと笑いをこぼしながら、


「マングート、サバル、サマリネ、グラーパ。アレスさんはどの果物がお好きですか?」


「そうだな。サマリネ、かな」


 アイテムバッグからサマリネのシロップとコルドラ山から取ってきた天然氷を取り出し、早速シャリシャリと氷を削っていく。

 器いっぱいになったところでサマリネのシロップをかけてアレスさんの前へ。

 スプーンですくってそっと口へ運ぶアレスさんの手が、心なしか震えているように見えるのは気のせいか。

 口に入れた後、何も言わず動かないアレスさんに不安を覚える。


 口に合わなかったのかしら。


 ドキドキしながら待つこと数秒。


「美味いっ!氷がふわふわで口に入れるとすぐ溶けてなくなって、サマリネの爽やかな味だけが口に残って…。今の季節にぴったりな食い物だな」


 アレスさんの賛辞にホッと胸をなでおろす。


「よかった。美味しいって言ってもらえて…」


「本当にうまい。こんなにふわふわな氷を作れるやつなんてそういないだろ。風魔法か?」


 頷く私に、


「風魔法をこんな風に使おうなんて誰も考えやしねえ。さすがサキだな」


 アレスさんに褒められてにやにやする私に、しびれを切らしたイヴァンが言った。


『我の分はまだかっ』


 イヴァンを見るとものすごい勢いで尻尾を振りながら私を見上げている。


 え?

 まだ食べる気なの?

 さっきジャックたちにかき氷を試食してもらったときも、我慢できずに食べてたよね。

 さすがにもう食べ過ぎでは…。


 そんな私の考えなんてわかっているくせに、諦める気配も見せないイヴァンに言うだけ無駄かとため息をつきつつ、イヴァンのためにかき氷を作る。

 けずった氷にたっぷりとサバルのシロップをかけてイヴァンの前に置く。

 もう何回も食べてるし、言わなくてもいいよねと何も言わずに出したけど、イヴァンは性懲りもなく急いで食べ過ぎて頭がキーンってなっていた。


 イヴァンに学習能力はないのか。

 いかに天然氷といえども、食べるの早過ぎでしょ。


 漫画のように器用に前足で頭を押さえるイヴァンを見て、本日何度目かわからないため息をついた。

 そこへアレスさんの笑い声が響く。


「せ、精霊というのはこんなに人間くさいものなのか?面白過ぎるだろ」


 あははと笑い転げるアレスさんにつられて私も笑った。

 笑いながら、気を許せる誰かとこんな風に時間を過ごすのも悪くないなと思った。


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