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のんびりまったり異世界生活  作者: 和奏
第三章 こうなったら異世界生活を楽しみます
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4 風魔法の使い方

 かき氷を口に入れながら考えていると、


『おかわりだ、サキ』


 イヴァンの声に顔を上げると、イヴァンだけでなくヴォルやシロまで器を差し出していた。


「冷たいものを食べ過ぎると体に良くないわよ」


 と言いつつも、シャリシャリと氷を削ってシロップをかけ、各々の前に置いていく。

 もちろん、ユラの分も忘れずに。


『この便利なものを見せてはならぬというなら、サキが代わりに削ればよかろう』


 幸せそうにかき氷を食べながら、こともなげにイヴァンが言う。


「はい?私が電動かき氷機の代わりになんてなれるわけないでしょう。本当に何を言ってるのよ」


 もう、と少しムッとしながら言えば、イヴァンはしれっと


風の刃(ウインドカッター)を使えば良い』


「ウインド…カッター…?」


 イヴァンの言葉に首を傾げながら、同じ言葉を口にする。


 …。


「いや、無理でしょうっ。いくらウインドカッターでもあんなふわふわに削れるわけないわっ」


『ん?簡単なことであろう?』


「簡単なわけないじゃないっ。そんなこと簡単に言わないでよ」


『…。難しいことではない。これで良いか?』


「…。そういう意味じゃないから…」


 頭を抱える私に、かき氷をすくいながらシロが言った。


「なれば、そこの風の精霊(フェンリル)にさせれば良い。簡単だというのならそやつに手本を見せてもらうのはどうじゃ?」


 私はパッと顔を上げてシロを見た。


「そうね。そうよね。イヴァン、お手本見せて?」


『よかろう。少し待つがよい』


 二杯目のかき氷をしっかり完食したイヴァンは、見てろと言わんばかりの得意げな顔で目の前にある天然氷に向かってウインドカッターを放った。


 スパンっ。


 氷が真っ二つに割れた。


『…』


「…」


『…もう一度だ』


 スパンっ。


 今度は真っ二つではなく、端の方が少し薄めに削れたけれど、かき氷というにはほど遠くただの薄い氷の板だ。


『…もう一度』


 何度やっても氷が薄くなるだけでかき氷とは言えない氷の山ができていく。


 やり方が悪いのよね、きっと。

 氷を刃で削って作るのがかき氷なんだからこれは間違ってない。

 固定した氷に刃を当てて回転させて薄く削っていく。

 こうして作るはずだから、まず氷を動かないように固定する。

 氷に小さな空気の刃を当てそっと動かしてみた。


 しゃり。


 少しだけどかき氷っぽいものができた。

 でも思ったより氷がぼてっとしている。


 もう一度。


 目に見えて変わったわけではないけれど、刃を一周することはできた。


 これなら練習次第でふわふわな氷ができるかも。


 うふふ…なんてにこにこしていたけど、ふと気がついた。


 あれ?

 これじゃあイヴァンの出番が…。


 イヴァンに目を向けると何とも言えない表情で私を見ていた。


 ごめん、イヴァン。

 そんなつもりじゃなかったんだけど…。


 どう声をかけようかと思案していると、突然大笑いする声が聞こえた。

 ヴォルだ。

 お腹を抱えてゲラゲラ笑っている。


「か、風の精霊のくせに氷一つ削られへんって、なんやねんっ。おかしいやろーっ。あーはっは」


 ヴォル。

 お願いだからイヴァンに喧嘩を売るのはやめて。

 これはちょっと特殊な魔法の使い方だからしょうがないのよ。


 ヴォルを止めるべく口を開こうとした私よりも早く、イヴァンの静かな怒りで部屋の温度が下がっていっているような気がする。


 わ、私、エアコンのスイッチ入れてないよね。


 あっという間にコルドラ山の山頂よりも冷えた部屋に、イヴァンの低い声が響く。


『我を愚弄するとはいい度胸だな。覚悟するがいい』


 そう言うなりイヴァンの魔力が急速に密になり、ヴォルに向けて放たれようとした瞬間、


「やめよ、風の精霊(フェンリル)。このような場所で魔力を放出すればこの家など跡形もなく消え去るぞ。よいのか、サキの寝床がなくなっても」


 ギロリとシロに睨まれ、イヴァンは仕方なく魔力を霧散させた。


『…我とてこのような居心地の良い場所をみすみす手放したくはない。しかし、火の精霊(あやつ)が我を愚弄するゆえ…』


 シロに睨まれて、だんだん尻すぼみになっていく。

 私はちょっとイヴァンがかわいそうになって、イヴァンの首に抱きついて言った。


「ごめんなさい、イヴァン。イヴァンがすごいのはわかってる。たぶんこれはかき氷機の機能を知っているかどうかだと思うの。どうやってかき氷ができるか知っていればイヴァンにだってできると思うわ。だからイヴァンが気にすることもないし、ヴォルがあんなに笑い転げることもなかったの。それによく考えればかき氷だって私が作れなくちゃダメなのよ。だってイヴァンはシルバーウルフってことになってるんだもの」


 シルバーウルフは魔法は使えない。

 魔法が使える魔物もいるらしいけど。


「だから、イヴァン。私が上手にかき氷が作れるように教えてくれる?きっとこれは魔法の使い方の問題だと思うから」


 なんとか丸く収まるようにと、優しくイヴァンに語りかける。


『…うむ。サキがそう言うのであれば我が手解きをしてやろう』


 ふふ。

 今までのイヴァンならこうも簡単に怒りを収めるなんてしてくれなかったけど、最近のイヴァンは違う。


 大人になったってことよね。

 もうとっくに大人だけど。


「私、電動かき氷機みたいなふわふわのかき氷が作れるように頑張るからね」


 それからの私は、毎日一心不乱に「私はかき氷機。完璧なかき氷機になるの」と念仏のように唱えながら氷を削る練習をした。

 その甲斐もあり時間はかかったけれど、我が家の電動かき氷機には多少負けはするものの、それなりにふわふわのかき氷が作れるようになった。

 その合間に上にかけるシロップの研究もした。

 家で作るシロップには砂糖を加えて甘さを出していたけれど、売るのであれば高価とされる砂糖を使うわけにはいかない。

 あれこれ試作した結果、やはり砂糖を入れなくても十分甘いマングートの実を使うことにした。

 マングート一択か、いろいろと他の味があっても…と悩んだのだけど、砂糖を使わずに甘さを出すのがなかなか難しい。

 それでもやはりいろいろ種類があった方が嬉しいだろうと数種類のシロップを作ることにした。

 まず、メロンの味のするピンクの果物サバルは採用決定。

 マングートほどではないけれど、十分甘いシロップになる。

 サバルを使ったピンクのかき氷。

 マングートを使った黄色のかき氷。

 それとグラーパを使った紫色のかき氷。

 これは私が一番美味しいと思ったから。


「いちごもいいけど、今は旬じゃないのか売ってないのよね。だからいちごは諦めるとして、できればブルーハワイみたいな青いかき氷も欲しいわね」


 青といわれて思い浮かぶのが、スイカのように大きい青い果物サマリネだ。

 地球(むこう)では見たことがないこの世界の果物。

 青い皮をむいても青い果肉が出てくる。

 中心に大きな種があるのでそれさえ取れば使える果肉の量は一番多い。

 味はかなりさっぱり系だ。


「ただ、あまり甘さはないのよねぇ。どうしよう。あぁ、こんなとき、もっと手軽に使える甘味料があればいいのに」


 ため息をつきつつ考えていると、ふとレモン味の黄色いかき氷を思い出した。


 そうよ。

 一つくらいさっぱり系のかき氷もありよね。


 ということで、さっぱり系のサマリネのシロップも作ることにした。


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