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のんびりまったり異世界生活  作者: 和奏
第三章 こうなったら異世界生活を楽しみます
132/160

3 天然氷で作ったかき氷が完成しました

「さ、寒いっっ!」


 こんな標高の高い山の山頂なんて、夏の簡素な服装で来る所じゃない。


「し、死ぬ。このままじゃ凍え死んじゃうっっ」


 自分を抱きしめながら足を動かしつつ両腕をさすってみるけれどあまり役には立たず、刺すような寒さに体中が痛い。

 体中の血が凍ったかのような感覚になり、もうダメだと思った瞬間、突然暖かい空気が私の体を覆った。


「暖かいーっっ!生き返るわーっ」


 凍りかけていた血が再び流れていくようだ。


「ありがとう、ヴォル」


 辺り一面に小さな炎を灯してくれているヴォルを見て、私は笑みを浮かべた。


「やっぱり火の精霊って頼りになるわね」


 ヴォルを見て微笑む私の目の端に顔面蒼白になったイヴァンが映った。

 そしてすぐに怒りの表情に変わった。


 あっ。

 どうしよう。

 これはめちゃくちゃマズいのでは…。


 あわててイヴァンのそばに駆け寄り、イヴァンの首にしがみつく。


「イ、イヴァンっ。勘違いしないでね。決してイヴァンが頼りにならないって言ってるわけじゃないの。イヴァンだってものすごく頼りになるわよ。心からそう思ってる。でも誰にも得手不得手はあるの。今回はちょーっとヴォルのほうが向いてたかなあってだけだから。イヴァンの強さはちゃんとわかってるから。ね、だから機嫌直して。イヴァンっ」


 ギュッとさらに力を込めてイヴァンに抱きつく。

 しばらくうーっっと唸り声をあげていたイヴァンだけど、ふぅとため息を一つ吐くと


『もうよい。確かにあの場で足を滑らせた我が悪いのだ』


 えっ?

 イヴァンが自分の非を認めた!?


 思わず耳を疑う発言をするイヴァンの顔を見た。

 途端に露骨に顔をしかめるイヴァン。


 し、しまった。

 つい…。


「イ、イヴァン大好きっ」


 もう一度イヴァンの首に抱きついた。

 内心、冷や汗たらたらの私に、イヴァンはもう一度大きなため息をついた。


『お前というやつは…。まあ良い。今回は誤魔化されておいてやる』


 よ、よかったーっ。


「ありがとう、イヴァン。大好きだよ」


 イヴァンの首に抱きついてほほをすりすりした。

 なんとかイヴァンの機嫌も直り、結界も張られ、ホッとする。


 この二人、仲が悪いわけでもないのだけどたまに張り合って…。

 違うわね。

 一方的にイヴァンがヴォルに突っかかっているだけ。

 ヴォルは少しも気にしてない。

 そう思うとなんだかイヴァンがかわいく思えてくるわ。


 私は鼻歌まじりで作業に取り掛かった。

 最初は悪戦苦闘していた氷の切り出しにも慣れ、ひょいひょいと小さくした氷をアイテムバッグに入れていく。

 ここでヴォルと従魔契約をして手に入れた重力魔法が役に立った。


 なんて便利なの。


 あらかた湖の氷をアイテムバッグに入れ終わると、私の後ろでのんびりくつろぐ二人に「さあ帰ろうか」と声をかけた。

 本当ならのんびりしている暇があったら手伝ってと言いたいところだけど、二人にはさっき魔物退治をしてもらったし、何より私の魔法の練習を兼ねていたので一人で頑張ったのだ。

 使えば使うほど魔法の精度は上がるらしい。


 目的の物を手に入れた私たちは、帰りはあっさりと転移魔法で家路についたのだった。


 時計を見ると十二時をかなり過ぎていたので、簡単にお昼ご飯を済ませるとすぐさま天然氷を使ったかき氷を作り始めた。


 かき氷機がシャリシャリと氷の塊をふわふわの氷に削っていく。

 器に盛った氷に、昨日の夜、新たに作ったマングートのシロップをかける。

 マングートは色も味も地球のマンゴーそっくりの果物でとても甘い。

 いや、マンゴーよりもずっと甘いと思う。

 シロップの上から四角く切ったマングートの果肉を乗せると完成。


 あぁ、なんだかかき氷がキラキラ光って見えるわ。


 それはイヴァンたちも同じだったようで、イヴァンとヴォルの目がキラキラ輝いているし、シロはあいかわらずの無表情だけど期待に満ちた目でかき氷を見ている。

 ユラに至ってはユラユラと踊りまくっていた。


 早速みんなで、スプーンを手に取り、一さじすくって口に入れた。


 あぁ、なんて美味しいの。


 口に入れた瞬間、あっという間に溶けてなくなってしまう。

 もちろん、氷なので溶けるのは当たり前だけど、その溶け方が違う。

 すうーと溶けて後からマングートの甘さがやってくるのだ。


 チラッと周りを見てみれば、みんなぽわんとハートマークを飛ばしながら食べている。

 イヴァンとヴォルも、いつもなら早食い競争のように我先にと口に放り込むのに、今回は違った。

 二人とも味わうようにゆっくりと食べている。

 早く食べ過ぎると頭がキーンっとなるっていうのもあるだろうけど。

 でもこの氷ならすぐに溶けるからよほど早く食べない限り、キーンとはならないかもしれない。

 表情の乏しいはずのシロも、口元が少し緩んでいるところを見ると気に入ってくれたようだし、ユラもすでに食べ終え、おかわりとでもいうように私の周りをうろちょろ、うろちょろ。


 やっぱり製氷機で作った氷より断然天然の氷ね。

 ジャックたちにも食べさせてあげたいなあ。

 子供たちなら絶対に喜ぶと思うの。

 天然氷は食べきれないほど持って帰って来たし。


 …。


 やっちゃおっかな、かき氷屋さん。


 実は以前、街に買った、ユラの家で商売らしきことがしたくなった私はたんぽぽコーヒーとポップコーンのお店を期間限定で開いたのだ。

 素人の私の練習も兼ねて期間は五日間。

 もちろん、たんぽぽコーヒーは春にジャックたちに集めてもらった根っこで作ったものだ。

 店先で試飲してもらって気に入れば粉を買ってもらうというスタイルにしたのだけど、結果これは微妙だった。

 美味しいと買ってくれる人とちょっと口に合わないという人が真っ二つに割れて、まぁこれも好みだしねと私は気にしなかったのだけど、毎日のようにマルクルさんが忙しい合間を縫ってやって来ては店の前で、「美味い、美味い」と大声で推してくれたので、それなりに売れはした。

 思ってたほどではなかったわねと思っていたら、その後街でよくたんぽぽコーヒーはもう売らないのかと声を掛けられるようになった。

 少しずつ浸透しているようで嬉しくなった。

 そしてポップコーン。

 あれから何度か街の市場へ出かけるうちに見つけてしまったのだ。

 ポップコーンになるモロコシを。

 それは家畜の飼料を売っているお店だった。

 人間が食べても問題はないらしいけど、やはり固すぎて人の口には合わないからだろう。

 見た目はモロコシそっくりで色だけが違った。

 食用のモロコシは紫色をしていたけれど、飼料用は赤かった。

 実際に作ってみないと食べられるかどうかわからないと思ったので、二本ほど購入し家に持ち帰って作ってみた。

 このままでは使えないので、実を取り、風魔法を使ってかちかちに乾燥させた後、フライパンに油をひいて強火にし、フライパンが温まったらモロコシの実を入れる。

 ふたをしてゆっくりとフライパンをゆする。

 ポンポンと弾けていくので、弾ける音がしなくなるまで待つ。

 ふたを開けて塩をかければ完成。

 今回は塩味だったけど、キャラメルやバター醬油など、バリエーションも豊富なので楽しみだ。


 出来上がったポップコーンを一つ手に取り、口に入れる。


 うん、美味しい。

 実の赤さも少し残って薄紅色に仕上がり、見た目もなかなかの出来栄えだ。

 実際、ポップコーンはかなり売れた。

 最初は家畜のえさってことで、抵抗はあったけれど。

 こちらも試食販売形式にしたので、すぐにポップコーンの美味しさをわかってもらえた。


 開店しても私一人じゃ無理かもしれないと、ジャックたちにも手伝ってもらった。

 彼らの収入にもつながって、一石二鳥でしょ。

 いろいろ大変だったけど、思いのほか楽しい一日だった。

 なのでまたお店を開くことは問題ないのだけど、別の問題が一つ。


 あの電動かき氷機、見られたら困るわよねー!?

 どうしようかしら。

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