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のんびりまったり異世界生活  作者: 和奏
第二章 異世界はやっぱり異世界です
129/160

67 そして私の忙しくも楽しい日々が始まりました

 翌朝、いつもと変わらない朝だと思っていたけど、鳥のさえずりに混じってニコの鳴き声が聞こえた。

 あくびをしながら階下へ降り、車庫を覗くと、ニコが嬉しそうに鳴く。

 イヴァンによると空を飛びたいらしいので、好きなだけ遊んできていいわよと言うと、綺麗な羽を広げ空へ飛んで行った。

 それからは朝フラッとどこかへ飛んで行き、夜に帰ってくるのが日課になった。

 時々、ニコはお土産を持って帰ってきてくれる。

 果物がたわわになっている枝だったり、高い山にしか咲かない珍しい花だったり、上位の魔物を狩ってきてくれることもある。

 初めて持って帰ってきてくれたコカトリスは毒羽根で仕留めたので、結局食べることはできずそのまま浄化することになったのだけど、浄化したら大きな魔石が出てきたのでいいお土産になった。

 それ以降魔物を狩るときは毒羽根でなく、自身の嘴や爪で仕留めて持って帰ってくるようになった。

 本当にニコは賢い。


 さらに嬉しい誤算もあった。

 少しずつ増えてきたプラスチックや空き缶など不燃ゴミをどうしようかとゴミの前で頭を抱えていたらユラが全て食べてくれたのだ。

 食べるという表現が正しいのかわからないけど、体内へ吸い込み、代わりに花の苗をたくさん出してくれた。

 ユラってばすごすぎる。

 でもおかげで悩みだった不燃ゴミ問題は解決した。

 こんなゴミなんか食べて大丈夫なのか甚だ疑問は残るけど、ユラはいたって平気なのでよしとしよう。


 カイセリの街のユラの家の地下室の掃除もなんとか終わった。

 ヴォルとの従魔契約で使えるようになった重力魔法で楽に運べるようになったので、一日で終了。

 もちろん、転移魔法の方がもっと楽にできただろうけど、少しくらい運動しないと体がなまると思って、頑張って階段の上り下りをしてみたのだ。

 若いとはいえ案外足にきた。

 ギルドでは腕を磨きたい冒険者のために実技を教えていて、時間のある冒険者が訓練をしていたりする。

 前に偶然それを見かけて、剣や槍などの武器を使った訓練は私には無理だとわかったのでせめて体を鍛えようと思ったのだ。

 思ったのだけど、なかなか実行に移せず、苦肉の策で階段の上り下りをしたのだけど、一日くらいやったところでどうなることもない。

 とわかっているけど、やらないよりはましでしょと自分に言い訳してみた。


 とりあえず土やその他不要なものを全部庭に出し、隅から隅まで綺麗にした。

 殺菌作用のある洗剤と少し固めのスポンジでいたるところをゴシゴシと、ピカピカになるまでこすって回った。

 最後に念のためと、浄化魔法をかけた。

 かなり重労働だったけど、達成感でいっぱいだ。

 最後の浄化魔法以外、魔法を使わずに綺麗にしたので体も多少は鍛えられたと思う。

 ・・・たぶん。


 その後は放置していた庭の手入れをした。

 もちろん、土は地下室にあったものを再利用。

 綺麗に整えた花壇に、不燃ゴミ処理でユラがたくさん出してくれた花の苗を植えた。

 プラスチックゴミや空き缶がどんな花に変わるのか楽しみだ。

 地球にユラのような生き物がいたらきっと地球の環境問題にも明るい光が射すのになあと、考えても仕方がないことを考えた。

 店舗入り口の横の大きな窓の下の花壇も綺麗にして苗を植える。

 手入れをしていると、隣に住むエステルに会った。

 彼は私がこの家を大掃除したとき、私を見て「出たーっ」と叫んで走って行った男の子だ。

 あれから何度か顔を合わす機会があり仲良くなった。

 あのときエステルは、私をこのお化け屋敷に住むお化けだと思ったそうだ。

 そうじゃないかとは思ったけどね。

 その後、私がちゃんと人間だったことに安心したらしい。

 何はともあれ地下室の掃除と庭の手入れは完了だ。

 

 夕方になるとルーイたちが麻袋いっぱいのたんぽぽの根っこを持ってきてくれる。

 最初はルーイたちだけだったのが、今はルーイたちと同じような境遇の子供たちも持ってきてくれるようになった。

 おかげで毎日大量のたんぽぽの根っこと格闘だ。

 洗って干して刻んで粉末にして、出来上がったものはアイテムバッグへ。

 この調子でいけばたんぽぽの根っこを全て採取し終える頃には、来年またたんぽぽが咲くまで切らさずに済むくらいのたんぽぽコーヒーの素が出来上がるだろう。

 願わくばマルクルさん以外にも好評でありますように。

 売れるとわかれば期間限定ではあるけど、子供たちに仕事ができる。

 かなり高額の報酬を払っているので、これを販売価格に転嫁させるととんでもない高額商品になってしまうので、こちらも考えなければいけない問題ではあるけど。


 そうそう孤児院の建築も順調だ。

 バロールさんによると建築費用の見積額は金貨五百枚。

 二階建てのかなりしっかりした建物になる予定だ。

 治療代最低金貨二十枚。

 払える余裕のある人はすぐに払ってくれたし、たくさんの人がそれ以上のお金を出してくれたらしい。

 特に小さな子供のいる冒険者は孤児院建築に賛同してくれて喜んで最低料金以上を払ってくれたそうだ。

 後で聞いたのだけど、ローガンさんは金貨八十枚も治療代として払ってくれたらしく、いつかローガンさんの眼を治してもらうために貯めていたお金を全部出してくれたんだろうなと思う。

 それもあってすぐに孤児院の建築に手を付けることができたんだろう。

 もちろん、最低料金しか払わない人もいたし、ジャックのように払えない人もいる。

 払えない人についてはバロールさんと分割払いで話がついているらしい。

 何もかもバロールさんに任せてしまって申し訳ないけど、今は孤児院の完成が待ち遠しい。


 それからもう一つ。

 ジャックだけど、いつでも仕事があるわけでもなくルーイたちと一緒にたんぽぽの根っこ掘りに同行することも多く、そうするとルーイたちだけでなく他の子供たちにも自然と気を配るようになり、気が付けば他の子供たちからも「ジャックお兄ちゃん」と慕われるようになった。

 これを気に入らないのが末っ子のモリーで、「私のお兄ちゃんなのにっ」と拗ねていた。

 思わずモリーを抱きしめてしまったくらいかわいい話だ。

 今やジャックは孤児たちのリーダー的存在らしい。

 もう大人なんだけどね。


 そしてメイブ。

 ジャックたちの宿を頼んだあの日、『火竜と麦酒(ビール)』亭からの帰り道、偶然メイブと鉢合わせした。

 一瞬、気まずそうに目を逸らすメイブだったけど、私に視線を止めると、「あのときは助かった」と頭を下げた。

 メイブが頭を下げるなんて思いもしなかった私は、太陽でも落ちてくるんじゃないかと思わず空を見上げたくらいだ。

 メイブの言うあのときとはヴォルに思いきりやられたときのことだろう。

 確かに私が水魔法とヒールで助けなければ確実に死んでいた。

 ヴォルにも生かすつもりが全くなかったし。

 「人として当然のことをしただけです」と義務的に答えると、メイブは少し視線を泳がせた後、活動拠点をカイセリから別の街へ移すと告げた。

 驚く私に「じゃあな」と一言言うなり、くるりと背を向けて歩き出した。

 その後ろ姿を見て、少し足を引きずっているように思った私は複雑な思いでヒールをかけた。

 今度はメイブが驚く番で、せっかくヒールをかけてくれたがヒールでは治らねえと言われた。

 どうもヴォルから逃げた後、モーザ・ドゥーグに襲われたらしく、見ればふくらはぎを食いちぎられていた。

 ならばとリジェネレイトをかける。

 私がそんなことをすると思っていなかったメイブは声も出ず、私を凝視するので、はなむけ代わりだと言って背を向けた。

 小さく「ありがとう」と聞こえた気がしたけど、私は振り返ることなく歩を進めた。

 まだ心のどこかにメイブを許せない気持ちが残っているからだろう。

 自分だけならまだしもウッドさんやロザリーさんにまで迷惑をかけたのだから。

 でもその後、バロールさんから、メイブが街を出て行く前にリジェネレイトの代金を払いに来たと聞いてわだかまりもなくなった。

 払ってもらおうとも思わなかったし、払ってくれるとも思わなかったから。

 最低料金の倍、金貨四十枚置いていってくれたそうだ。

 根っからの悪者でもなかったのかもしれない。


 最後に我が家の愛すべき同居人たち。

 次の日も朝から「印、印」と煩いヴォルのために、いつもの家事もそこそこに従魔の印とやらを作り始めた。

 ヴォルの瞳は赤だけど、シロみたいな真紅じゃなく少し薄めで見る角度によっては濃いピンクのように見えなくもない。

 なので、スワロは濃いピンクのような赤紫色のフューシャピンクという色にした。

 形もイヴァンとシロはシズク型のスワロだけど、心は乙女のヴォルにはハート型を選んだ。

 首周りの部分はゴールドをメインに赤を散らしてあまり華美な模様を作らず、トップにくるハート型のスワロが引き立つようにした。

 出来上がったそれをヴォルに見せると文字通り跳びあがって喜んでくれた。

 一つ目完成。


 次にユラの分だけど、正直ユラの首飾りは悩んだ。

 だってユラには首に当たる部分がないんだもの。

 引っかける所がないから作りようがない。

 どうしようかと悩んでいたら、ユラが参考にしていた手芸雑誌のある場所を行ったり来たり。

 何かと思えばティアラの写真だった。

 それも結婚式で使える花嫁仕様のティアラの特集記事。


 「もしかしてこれがいいの?」


 と聞く私に、勢いよく体を揺らし肯定した。

 普通、ティアラは頭の上にちょこんと載せて髪に挿すだけなので、ピンやヘアコームなんかを使って髪に留めるのだけど・・・ユラ、髪の毛ないよね。

 どうする気だと思いつつも、ティアラが気に入ったらしいユラのためにとりあえず作り始めた。

 白いパールビーズをメインにサイズの違うパールビーズとスワロクリスタルをバランス良く配置し、ワイヤーに通して形を整えていく。

 真ん中でユラユラ揺れるのはグリーンの花の形をしたスワロ。

 ユラの目がどこにあるのかわからないので、瞳の色もわからず、大地の精霊なので森のイメージで緑と、ティアラを載せると頭の上の花の模様が隠れてしまうので、そこから緑の色と花の形を選んだ。

 周りのビーズが白一色なので真ん中の緑が良く映える。

 完成したティアラをユラの頭の上に載せてみた。


 うわー!

 すごくかわいいっ。


 ユラもとても気に入ったようでくるくるふわふわ踊りまわっている。


 何故落ちない!?


 あれだけ動き回っているのに全く落ちる気配がない。

 糊付けされているかのようにピタッとくっついている。


 ユラの頭って接着剤なの?


 いやいや、そんなはずはない。

 いつも触っている私がユラにくっついたことはない。

 あの手触りは・・・そう若い子に人気のスクイーズの触り心地と一緒なのだ。

 ぷにゅぷにゅしていていつまでも触っていたくなる癒し系グッズ。


 ここは異世界だもの。

 深く考えるのはやめよう。

 だってティアラはユラにとっても似合っているもの。


 花嫁仕様のティアラのせいか、ユラがお姫様のように見える。

 あの喜びようから考えると、ユラは女の子かもしれない。

 これで二つ目完成。


 それから最後にニコの分。

 これまた悩んでしまう。

 体色が派手過ぎて何色にすればいいのやら。

 その上体も大きいし、みんなのように普通サイズでは小さすぎる。

 サンキャッチャー用の大きなスワロにしようかとも思ったけど、あいにく透明なものしか持っていなかった。


 ニコの瞳は黒だから黒いものがいいんだけどな。


 手持ちの手芸用アイテムを探してようやく見つけたのが六角錐という変わった形をした黒曜石だ。

 高さも十センチほどの大ぶりなものだけど、ニコからしたらこれでもまだ小さい。

 でもこれ以上大きなものがないので仕方がない。

 底の平らな部分に丸カンという金具がついているので、そこに鎖を通すこともできる。

 ただ鎖を通すだけでは寂しいので、テグスに穴の開いている水晶のさざれ石を通し、ところどころに天眼石と呼ばれる、黒にまるで眼のように見える年輪のような模様のある天然石を入れてポイントにしてみた。

 天眼石は魔除けの石とも言われているので、魔物だけどもう魔物じゃないニコが他の魔物に襲われないようにお守りとしての意味もある。

 最後にネックレスの留め具を取り付けて完成。


 なかなかいい感じに仕上がったわ。


 夜、ニコが帰ってくるのを待って、早速首にかけてみる。

 長さもちょうどいい。

 ニコが嬉しそうにヒューと鳴いた。

 三つ目も完成。


 イヴァンたちのためにご飯やおやつを作ったり、冒険者として主に薬草採取の依頼をこなしたり、街で治療師の仕事をしたり、ユラの家でお店を始めるべく案を練ったり、ヴォルに頼まれてかわいい小物を作ったり、たまには街の中を探索してみたり。

 こんな風に私は毎日を過ごしている。

 忙しいけれど楽しい毎日だ。 


これで第二章終了です。次章はあまり間を開けずに投稿したいと思ってはいますが・・・。なるべく早く投稿できるようにがんばりますのでよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一気に読んでしまいました。面白いです。サクサク読めます。 精霊が親しみやすくて可愛いです。 ゆっくりで良いので続きを更新していただけると嬉しいです。
[良い点] 更新がストップしていて残念です(T-T) でも続きがみたいのでしばらくブックマークつけときます!連載が再開しますように♪
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