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のんびりまったり異世界生活  作者: 和奏
第二章 異世界はやっぱり異世界です
127/160

65 最低限の衣食住は必要だ

 ノックをすると返事があったので扉を開けて中へ入る。

 そこにはすでにバロールさんも来ていた。


 「サキ。無事だったようだね。魔力の方は大丈夫かい?サキのことだから今日も魔力の大盤振る舞いだったんだろう?討伐に参加した冒険者たちは誰一人怪我などしていなかったからね」


 まだ二~三回しか会っていないバロールさんにも私のことはバレているらしい。

 

 「ところで昨日のリジェネレイトの代金のことなんだが・・・」


 「サキ。何度も言うが無料(ただ)はダメだ。いいな」


 「そんなに何度も念を押さなくてもわかってます、マルクルさん」


 「よし。じゃあ料金だが・・・」


 「金額は私が決めてもいいんですか?それとも何か決まりがみたいなものがあるんですか?」


 「いや、別に決まりがあるわけじゃない。サキが決めればいいが、無料(ただ)がダメなら銅貨一枚とか言うなよ。安すぎてもダメだからな」


 「じゃあ金貨二十枚で」


 「それでも安いんだがなあ」


 「金貨二十枚は最低料金です」


 「どういうことだ?」


 「最低料金金貨二十枚。これに自分の怪我の程度とか懐具合とか気持ちなんかをプラスしてもらってください。プラス部分は決まっていないので本人が自由に決めてくださって結構です。もちろんゼロでもかまいません。いわゆる気持ちなので。

 ちなみにこの治療代は教会の横に建設予定の孤児院の建築費用となります。たくさん支払っていただいたらその分完成が早くなりますのでぜひ周知させていただけたらと思います」


 「孤児院?」


 「はい、そうです」


 さっき、ジャックの話を聞いて思ったのだ。

 やっぱり最低限、衣食住の確保は必要だと。

 少なくとも寝る所と食べるもの。

 ジャックが言っていたように寝る所のない子供は他にもいるはずだ。

 寝る所が確保できれば少しは安心して暮らせるだろう。

 そこから少しずつ安定した生活ができるようにしていけばいい。


 「教会の横にある建物は元々孤児院だったって前にバロールさんにうかがいました。お金がないから建て替えられないのだと。だから費用を何とかできないかと思ったんです。治療代を受け取れというのなら受け取ります。でも受け取った代金をどう使おうが私の自由ですよね?どうですか?バロールさん」


 もし孤児院ができたとしても結局世話をするのはバロールさんたちなのだ。

 もちろん、私も手伝うつもりでいるけれど。


 「そりゃ、街の孤児たちに住む場所を与えてやれるのは嬉しいが・・・。それではサキには何の得もないだろう?」


 「心の安寧が得られます」


 「安寧・・・。しかし・・・」


 申し訳なさが先に立つのか、バロールさんは迷っている様子。

 それならばとバロールさんの背中を押すような言葉を選んでみた。


 「これも神の思し召しですよ」


 しばらく無言だったバロールさんも、


 「神を出されちゃ断れんなあ」


 と嬉しそうに笑った。


 孤児院の建て替えの手配や昨日の治療代の回収はバロールさんに任せて私はマルクルさんの部屋を出ようと立ち上がった。

 扉の取っ手に手をかけたとき、ブラックワイバーンのことを思い出したのでマルクルさんに、


 「ブラックワイバーンの解体が終わっていたので肉を半分ほどいただきました。残りの肉と素材は買い取りをお願いしておきました。ところで、マルクルさん。ブラックワイバーンの美味しい調理法ってご存知ですか?」


 「あぁ、助かる。ブラックワイバーンの調理法?そりゃ、豪快に焼くのが一番だろう。俺も今までに一度しか食ったことがないがな」


 マルクルさんに聞いたのは間違いか?

 でもフラッジオさんやラクトンさんに聞いても同じような答えが返ってくる気がする。

 まあいいか。

 結構な肉の量だから自分でいろいろ試してみよう。


 酒場兼カフェへ戻ると、モリーが素早く私を見つけて手を振ってくれた。


 「ごめんね。待たせちゃって。さあ行こうか」


 「どこに行くの?」


 「『火竜と麦酒(ビール)』亭よ。でも私、一度行ったことがあるんだけど行きも帰りも連れていってもらったから場所がよくわからないの。知ってたら教えてほしいんだけど」


 「知ってるよ。俺たちが案内してやるよ」


 得意気に胸を張るルーイに「うん、お願い」と笑いかけた。


 大通りから裏道に入るところまではわかるんだけどなあ。

 その後、くねくねした道を歩いているうちにわからなくなっちゃうのよねえ。


 『火竜と麦酒(ビール)』亭に着くと扉を開けて中に入り、店主らしき人に部屋が空いているか尋ねた。


 「あぁ、空いてるぜ。一人かい?」


 「いえ、四人です」


 「四人?」


 「えぇ。ジャック。みんな同じ部屋でいいわよね?」


 「えっ?俺たち?」


 訳が分からずきょとんとするジャックに、


 「しばらくはここで寝泊まりしてちょうだい」


 と頼んだ。

 だから俺たちにはそんな金ないんだってと断ろうとするジャックに、これはこれからお願いする報酬の一部だから心配しないでと言うと納得はしていない様子だったけど、とりあえずは頷いてくれた。

 店主に一ヶ月分の料金を払う。

 朝食、夕食を付けることもできるがどうする?と聞かれたのでそれもお願いした。

 ふと子供たちの顔を見ると心なしか青ざめているように見える。

 どうしたのかと思ったら、どんな仕事を頼まれるのかと心配になったらしい。

 なるほど、それは申し訳ない。

 

 部屋は二階の一番奥の部屋だった。

 二段ベッドが部屋の両端に置いてあり、あとは真ん中にテーブル、窓の下に小さな机があるだけだった。

 狭い部屋だったけど、ベッドで眠れるというだけで子供たちは大喜びだ。

 はしゃぐ子供たちに早速、手伝ってほしいことを伝える。


 「あのね。今、街道とか街のあちこちにたんぽぽが咲いているでしょう?たんぽぽの根っこが欲しいの。それをできるだけ綺麗な状態で掘り起こして集めてきてくれたら報酬を払うわ」


 「たんぽぽの根っこ?」


 何に使うんだ?とばかりに顔を見合わす子供たちに、


 「それで飲み物を作るの。だから大量に根っこが必要になったんだけど、さすがにたんぽぽの根っこ採取の依頼をギルドに出しても誰もしてくれないと思って、あなたたちに頼みたかったんだけど、どうかな?」


 「でもそんなに簡単なことでいいの?」


 「あら、そうでもないわよ。たんぽぽの根っこは案外地中深くまで長く伸びているし、それをできるだけ切らずに掘り起こそうと思ったら大変よ。どう?してもらえる?」


 「もちろんやるよ。それくらいなら俺たちにもできるから」


 「じゃあお願いするわ。ねぇ、ジャック。子供たちだけで危険じゃない?危険な場所に行ってまで採取しなくてもいいからね」


 自分たちでもできることだとわかってホッとした様子の子供たちを見ながら、ジャックに尋ねた。


 「大丈夫。ちゃんと言い聞かせるし、俺も仕事がなかったら一緒について行くから。それよりそんなことで大金をもらってもいいの?たんぽぽの根っこって実はすごい薬草なの?」


 「薬草じゃないわね。ほろ苦い飲み物ができるの。昨日マルクルさんたちに出したら殊の外マルクルさんに好評でね。ぜひ売って欲しいって頼まれたの。たんぽぽの咲いている間に採取しておかないと綿毛になって飛んで行って葉っぱだけになっちゃうと他の雑草と見分けがつきにくいでしょ。だから花が咲いている今しかないのよ」


 「わかった。頑張ってたくさん集めるよ。・・・サキ、その、いろいろありがとう」


 「どういたしまして。困った時はお互い様でしょ。私も何かと忙しいから代わりに根っこを集めてもらえたら本当に助かるの。そうそう、集めた根っこは夕方、家まで持ってきてもらえる?」


 「サキの家はどこなの?」


 「街の人がお化け屋敷って呼んでる家よ。知ってる?」


 お化け屋敷と言った途端、子供たちの動きが止まった。

 

 「サキ姉ちゃん、お化け屋敷に住んでんの?」

 

 ルーイがおずおずと聞いてきた。

 

 「そうよ」


 「大丈夫なの?食べられたりしない?」


 ルーイだけじゃなく、アメリとモリーも心配そうに私を見ている。


 「大丈夫。私、お化けと友達になったから」


 友達と聞いて子供たちの目が輝く。


 「お化けってどんななの?」


 「ぷにぷにでふわふわでくるくるなの」


 モリーの質問に昨日と同じように答えた。


 「よくわからないっ」

 

 モリーが口をとがらせてどういうことなのと訴えるけど、それ以上は答えられないのでそれしか言いようがないのと笑っておいた。


 「それじゃあ、そろそろ私は帰るわね」


 ジャックたちと部屋の外で別れると階下へ降り、店主に宿代や食事代以外に必要そうなもの、お風呂に入ったり、洗濯するための水代だったりの代金を支払って宿屋を出た。

 昨日の今日だから一人でもユラの家に帰れるはずと昨日の記憶を頼りに歩き出す。

 

 くねくね曲がった道を抜けるとほら大通り・・・ってあれ?

 ここどこ?


 知らない広場に出た。


 「おかしいなあ。合ってると思ったのに。ねぇ、イヴァン。ユラの家ってどっちの方向?」


 『後ろだ』


 「えっ?」


 どうも反対の方へ歩いていたらしい。

 一歩踏み出そうとしたら声をかけられた。

 知らない男の人だった。


 「サキ・・・だよな。昨日は助かった。体を元通りに治してくれて。おかげでまだ冒険者でいられるし、家族も養える。治療代は後でいいと言われたんでまだ払ってねえけど必ず払いに行くから」


 体格の良い、いかつい男の人は優しい顔で笑った。

 その後も昨日私が治療したらしい人たちに次々と声をかけられた。


 なんだか少し誇らしい気分になった。

 ちょっぴり、いやかなり嬉しい。


 声をかけてくれた冒険者の一人に家までの道を教えてもらい、気分よく家までの道のりを歩いた。


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