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のんびりまったり異世界生活  作者: 和奏
第二章 異世界はやっぱり異世界です
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61 綺麗なあなたと怪しいあなた

 まだもがいているレインボーバードに意識を戻し、やっぱり息の根を止めるべきなのかと考えたとき、レインボーバードの足にタグのような革紐がついているのに気がついた。

 よく見ると紐にはびっしりと記号のような文字のようなものが書き込まれている。


 「ねぇ、イヴァン。この足のところについている紐みたいなものを取りたいんだけど、触っても大丈夫?」


 『あぁ。もう少しホーリーをかけて動けなくしてからそっと取ってみろ』


 軽くホーリーをかけ、レインボーバードが動かないのを確認してからなるべく触らないように紐を外した。

 外した途端、レインボーバードの目の色が変わった。

 さっきまで真っ赤だったのが綺麗な漆黒になったのだ。

 さらにあんなに負の感情に支配されていたのが嘘のようにおとなしくなり起き上がるとジッと私を見つめた。


 「やっぱりこれで無理やり服従させられてたのかな?」


 その通りだとでも言うように、ヒューとレインボーバードが鳴いた。


 「私の言葉が理解できるの?」


 レインボーバードはさらにヒューと鳴く。


 「すごいっ。魔物なのに人間の言葉がわかるなんて頭がいいのね」


 『サキ。そんな魔物を助けてどうする?お前たち人間が困るだけであろう?』


 綺麗な見た目に反して有害な毒を撒き散らす危険な魔物であるレインボーバード。


 『ここで殺さずともどこかで冒険者に狩られるやもしれん。そのときの被害は甚大であろう。それでも生かすのか?』


 イヴァンの言うことはもっともだ。

 それでも私は・・・できるならこの子を助けたい。


 どうしようと悩んでいると、ヒューと一声鳴いたレインボーバードがすっと頭を下げた。


 うん?

 どういうこと?


 「なんや、そのレインボーバード、お前の従魔になるっちゅうとるぞ」

 

 ヴォルカンがレインボーバードの言葉を理解したことより、その意味に驚いた。


 「従魔?」


 「お前が助けたいっちゅうなら従魔にするしかないんちゃうか。昔、観賞するためだけに従魔にしよった王だか貴族だかもおったで。難しゅう考えることないやろ」


 ヴォルカンの言葉に心が動く。


 「私の従魔になったら他の人を襲ったりしないの?」


 「お前がそう命令すればいいだけや。その上、レインボーバードに触っても毒に侵されることもあらへん。それに・・・この先楽して暮らせるで。レインボーバードの羽根は幸運のお守りやいうて高値で取引されとるらしいからな。ウハウハの人生やで。そこら中に落ちとる羽根もわしが拾といたるさかい、心配せんでええ」


 なんともゲスい火の精霊だった。


 「イヴァン。従魔契約しちゃダメ?」


 イヴァンの前に膝をつき、上目遣いで頼んでみる。

 しばらく思案していたイヴァンだけど、大袈裟にため息をつくと、


 『仕方あるまい。サキの好きにすればよい』


 「ありがとう、イヴァン。大好きっ」


 イヴァンには効いたわ。

 必殺乙女の上目遣い。


 早速従魔契約をすべく、手のひらをレインボーバードに向けようとするも、


 「触っても大丈夫?」

 

 『問題ない。やつは自分の意志で毒を出さぬこともできる』


 小さな部類に入るというけど優に二メートルはある巨体で、背伸びをして何とか届く大きさだった。

 そっと手のひらを頭を下げるレインボーバードの額にあてた。

 でも何も起こらない。


 「おかしいなあ。イヴァンたちとしたときはピカッて光ったのに」


 不思議そうに首を傾げる私に、イヴァンが呆れ顔で言った。


 『当たり前だ。何も唱えておらぬのに契約が成立するわけがなかろう』


 「えっ?何か言わなきゃダメなの?イヴァンたちのときは何も言ってないわよ」


 『それは我らが精霊ゆえ言葉など必要ないからだ。言葉を持たぬ魔物と契約しようとするなら必要だ』


 「何て言えばいいの?」


 またも大袈裟にため息をついたイヴァンは、


 『我の後について同じように唱えろ。

  汝、盟約せよ』


 「汝、盟約せよ」


 『我の従魔とならんことを』


 「我の従魔とならんことを」


 『汝、盟約破りしとき』


 「汝、盟約破りしとき」


 『(おの)(めい)をもって贖うべし』


 「己が命をもって贖うべし」


 唱え終わるとイヴァンたちのときと同じように手のひらがピカッと光った。


 「これで完了?」


 『そうだ』


 「ありがとう、イヴァン」


 それからレインボーバードの頭を撫でてみる。

 くすぐったそうにするけど、何だか嬉しそうだ。


 『名前をつけてやれ』


 イヴァンに言われて考えるも、私って名付けセンスないんだよねえ。

 レインボーバードだからレイン。

 いやいや、人間のレインさんに失礼だ。

 虹色の鳥だから虹子さん。

 いやいや、女の子かどうかわからないし。

 この尾羽根、火の鳥みたいで綺麗なんだよねえ。

 だからヒノトリ。

 いやいや、呼びにくいでしょ、それは。

 うーん、どうしよう。


 散々悩んだ挙句、にじこさんからじをとってにこ。

 ニコに決定。


 「今日からよろしくね、ニコ」


 ヒューとフルートのような声でニコが鳴いた。


 よろしくって言ってくれたのかな。


 宣言通り、ヴォルカンは散らばったニコの羽根を拾い集めて私に渡してくれた。

 

 「ありがとう、ヴォルカン」


 「おぉ、気にせんでええ。わし今めっちゃ気分がええねん」


 よほどメアリーとの再会が嬉しかったらしい。

 

 もうここまでくると憎めないわね。


 『サキ。早くさっきできた魔穴を閉じねばまたイビルブラッドサッカーが出てくるかもしれぬぞ』


 そうだった。

 もうあんな気持ち悪いものに会いたくない。


 「ニコ。魔穴まで案内してくれる?」


 ヒュー。

 ニコは了解とでも言うように一声鳴き、先頭に立って案内してくれた。

 魔穴は森のさらに奥にあった。

 ニコは巨体をものともせず、木々の隙間を器用にすり抜けていく。

 すぐに少し開けた場所に出た。

 真ん中には大きく黒々とした魔穴があった。

 魔穴に近寄ろうとしてすぐに、魔穴の近くに立つ黒いマントを着た男・・・かどうかわからないけど人物がいた。

 フードをすっぽり被っているので顔まではわからない。

 魔穴に向かって何かぶつぶつとつぶやいている。


 「何故出てこない?向こうで何かあったのか?それともトラブルか?」


 はっきりとはわからなかったけど、こんなことを言っていたように思う。

 敵か味方かわからない目の前の人物に困惑していると、気配を察したのかフードを被った人物が顔を上げた。


 「誰だっ」

 

 声からすると男のようだけど目深にフードを被っているせいで顔はよく見えなかった。

 

 「あなたこそ誰なの?ここで何をしているんですか?」


 私が問いかけると不審な男は何かを言うより前に、少し離れた木の枝に止まるニコを見つけ、ニコに向かって言った。


 「レインボーバード、奴らを殺せっ」


 男の言葉を聞いても動かないニコに男は困惑した表情を浮かべながら、もう一度大きな声で言った。


 「何をしているっ。早く殺れっ」


 それでもニコは動かずじっと男の方を見ている。

 痺れを切らしたのか、男は小さく呪文のようなものを唱えるけど、やっぱりニコは動かない。


 「おいっ。俺の言うことが聞けないのかっ」


 ニコは私と従魔契約をしたので、男の言うことを聞くはずもなく。

 私は小さい声でイヴァンに尋ねた。


 「もしかしてあの人もニコと従魔契約してるの?」


 『一人の人間が複数の従魔を持つことはできても、従魔となるものが二人以上の人間を主とすることはできぬ』


 「そうなの。じゃあどうしてあの人はニコが言うことを聞くと思ってるのかしら」


 「レインボーバードの足についとった紐みたいなやつのせいちゃうか」


 「やっぱりそれしか考えられないわよね。あれは何なのかしら」


 三人でこそこそ喋っていたら突然男がこっちに向かって「おいっ」と怒鳴った。


 「お前は何者なんだ?その白いやつはよくわからんが、何故シルバーウルフはお前を襲わない?」


 イヴァンはシルバーウルフじゃないからよ。

 言わないけど。


 「この子は私の従魔です。ちなみに・・・あのレインボーバードもさっき私の従魔になりました」


 私の言葉に目の前の怪しい男はこれ以上はないくらい驚いているようだ。

 表情はわからないけど、驚いている雰囲気は伝わってくる。


 「・・・従魔!?そんな馬鹿な・・・。こんな高ランクの魔物と従魔契約ができるなんて・・・」


 「あなたこそ何者なんですか?ニコ・・・レインボーバードに無理やり言うことを聞かせてたでしょ。もしかしてモーザ・ドゥーグや巨大なまこ・・・じゃなくてイビルブラッドサッカーもあなたが無理やり?」


 「お前に答える義理はない」


 まあ、そうでしょうけど。


 「その魔穴もあなたが作ったの?不自然にできた魔穴だってことはわかってます」


 男は何も答えず、一歩足を踏み出したかと思えば、いきなり私たちに向かって(フレイム)(ヴォーテックス)と唱えた。

 途端、私たちは炎の渦に巻き込まれた。

 最もイヴァンの結界に守られていたので、私たちは無傷だったけど。


 イヴァンの結界ってすごいわっ。

 暑さも感じないなんて・・・。


 と感心する私の目に驚愕の表情を浮かべる男が映った。


 何?

 あの顔の模様は・・・。


 男が放った(フレイム)(ヴォーテックス)の爆風のせいか、深く被っていたはずのフードが脱げ、しっかりと顔が見えていた。

 三十代くらいに見える精悍な顔には黒い文字のような記号のようなものが顔中びっしりと描かれていた。

 そう、ニコの足についていたタグのようなものに書かれていたものとそっくりだった。


 「・・・結界か・・・」


 男はそうつぶやくとおもむろに懐から何かを取り出・・・そうとしたところで、


 「サキっ。どこだ?どこにいる?」


 私を呼ぶ声に気づき手を止めた。


 「・・・サキというのか。覚えておこう。またどこかでお前とは会うかもしれんな」


 そう言うなり男は消えた。


 転移魔法?


 『そうではない。あの男は魔法陣を使ったのだ。転移の魔法陣だ』


 「魔法陣・・・。そんなものがあるの・・・」


 『距離にもよるがかなりの魔力が必要となる。あの男もかなりの魔力を持っているようだな。まあ、お前には到底及ばぬが』


 「あの男の顔、見た?何なのかしら、あの模様みたいなもの・・・」


 「あれで魔力を増幅しとるんちゃうか。なんや、そんな話を聞いたことあるで。無理やり魔力を増やす方法があるって」


 『確かにあの男の魔力はあまり気持の良いものではなかった。そこの不自然にできた魔穴同様、不自然な魔力のように感じたが・・・」


 何が起こっているの?

 何か途方もないことが起ころうとしているんじゃ・・・。


 漠然とした不安を感じた頃、エドさんたちがやってきた。

 

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