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のんびりまったり異世界生活  作者: 和奏
第二章 異世界はやっぱり異世界です
122/160

60 ヴォルカンの探し物

 私としては精神的ダメージがなくなったことが一番大きい。

 こんな状況なのに鼻歌が出そうなほど気分がいい。

 不謹慎なのでしないけど。

 

 気分よく浄化魔法をかけまくって死骸を消し去り、ヒールやリジェネレイトで怪我人を治していく。

 イビルブラッドサッカーはやっつけたものの、モーザ・ドゥーグはあとからあとから出てくる。


 「こいつらどんだけいやがるんだっ。魔穴を閉じねえとキリがねえっ」


 マルクルさんは目の前に現れたモーザ・ドゥーグを一撃で屠ると、


 「サキっ。そいつに魔穴の場所がわかるかどうか聞いてくれっ」


 右から襲い掛かってきたモーザ・ドゥーグを同じように一撃で屠りながら叫んだ。

 何故か異様に張り切ってモーザ・ドゥーグに向かっていくイヴァンに、


 「イヴァンっ。魔穴の場所がわかる?」


 『この先の少し開けた所だ』


 「ありがとう。マルクルさん、この先だそうです」


 「わかったっ。少しでも手が空きそうなやつはサキと一緒に行けっ」


 「イヴァンがいるから大丈夫です。少しの間、抜けますから戻って来るまで何とか頑張っていてくださいっ」


 それだけ言うと私はイヴァンと一緒に魔穴のある場所まで急いだ。

 ヴォルカンも一緒だ。

 さっきの場所からいくらも行かないうちに魔穴に到着した。

 そこにはぽっかりと大きな黒い闇が口を開けていた。


 「これが魔穴・・・」


 初めて見るそれは何だかブラックホールみたいね、と呑気なことを考えた。

  

 でもブラックホールは何でも飲み込んじゃうけど、これは吐き出すんだっけ。


 なんて考えていると、突然黒い闇が動いて何かが飛び出してきた。

 モーザ・ドゥーグだった。

 すぐさまイヴァンが風の刃(ウインドカッター)を繰り出し相手の動きを止めると、すかさずヴォルカンが炎の玉(ファイヤーボール)を投げる。

 あっという間にモーザ・ドゥーグを仕留めてしまった。

 さらに左から襲い掛かってきたもう一匹も同じように仕留める。


 この二人、なんだかんだとすごい連携プレーよね。


 感心する私の耳に、イヴァンの怒鳴り声が飛び込んできた。


 『何をボーッとしておるっ。さっさと「聖なる光(ホーリー)」をかけろっ』


 「ごめんっ。すぐやるわ」


 聖なる光(ホーリー)は光魔法の一つで唯一の攻撃魔法らしい。

 リジェネレイト同様、かなりの魔力が必要となる魔法だそうだ。


 すぐさまホーリーを唱え、魔力を黒い穴に向かって放出する。

 眩しいくらいの光の渦とともに魔穴はどんどん小さくなり、やがて跡形もなく消滅した。


 「これで終わり?」


 イヴァンはあぁと鷹揚に頷いた。


 よかった。

 これでとりあえずモーザ・ドゥーグは何とかなったわね。


 ホッと胸をなでおろしていると、突然ヴォルカンの叫び声が響き渡った。


 「どうしたのっ。何があったのっ」


 慌ててヴォルカンの側まで近寄ると、ヴォルカンはさっきやっつけた二匹目のモーザ・ドゥーグを指差していた。

 指差す先には何か白い物が見える。

 ヴォルカンはそれを拾うと「会いたかったでぇー」と愛おしそうにほっぺにすりすりすした。


 な、何?


 突然のヴォルカンの行動に唖然としていると、ヴォルカンはほら、と私の目の前に拾った白い物を突きつけた。

 突きつけられた小さな白いそれは、陶器か何かでできたかわいらしいうさぎだった。


 「うさぎ・・・?」


 「わしの大事なメアリーや。ずっと探しとったんや。見つかってホンマよかったわ」


 なおもメアリーという名のうさぎにすりすりするヴォルカンを見て思わず頭を抱えた。


 毎日毎日朝から晩まで探していたものが・・・これ。

 まさかのうさぎ・・・。

 いや、ヴォルカンの性格を考えたら、ありすぎるほどにあった選択肢だったわ。


 今さらになってヴォルカンの必死さにも納得がいく。

 知り合って間もないけど、これがヴォルカンだった。


 「でもどうしてヴォルカンの大事なうさぎがモーザ・ドゥーグの中にあったの?」


 モーザ・ドゥーグの死骸を消しながらヴォルカンに尋ねると、意外な答えが返ってきた。


 「元々は別の用があってグルノーバルまで来たんや。ここからはだいぶ離れた場所の森やったけど、そこで魔穴を無理やり作っとる人間がおってな。なんやおもろいことしよる人間がおるな思うて見とったら、よくわからん言葉を唱えてその魔穴から出てきたモーザ・ドゥーグに命令しとるんや。知恵もないような下位な魔物でもあらへんモーザ・ドゥーグがそいつに従っとるんやで。どういうことやと興味津々で見とったら、突然一匹のモーザ・ドゥーグが飛び出してきよって、わしびっくりしてもうて思わず持っとったメアリーを落としてもうたんや。そしたらそのモーザ・ドゥーグ、よりによってわしの大事なメアリーを飲み込んでそのまま逃げてもうた。わしとしたことが迂闊やったわ。慌てて追いかけたんやけどこの森で見失ってもうてな。それでずっと探しとったんや。せやけど、ホンマ見つかってよかったわ。わしの大事なメアリー」


 メアリーに頬ずりするヴォルカン。

 そして引く私・・・。


 いやいや今はこんなことをしている場合じゃない。

 早く戻ってマルクルさんたちと合流しなくちゃ。


 踵を返して戻ろうとしたとき、ヒューっとそれはそれは澄んだ音色が聞こえた。


 何の音?

 まるでフルートみたいな・・・。


 すぐに疑問は解消した。

 イヴァンが教えてくれたからだ。


 『あれはレインボーバードの鳴き声だ。近くまで来ておるな』


 え?

 俄かに緊張が走る。


 二時の方向から聞こえるというイヴァンと一緒にレインボーバードがいると思われる場所へ急ぐ。

 やっと再会できたっちゅうのになんで邪魔すんねんとうるさいヴォルカンも連れて行く。

 こんなのでも役に立つかもしれないし。


 イヴァンに連れられ向かった先はなんと前にヴォルカンがメイブたちを火だるまにした場所だった。

 焼け野原となった場所にかろうじて残っていた一本の大きな木の枝に、七色に輝く体毛を持つ鳥が凛とした佇まいで止まっていた。


 綺麗・・・。


 周囲はレインボーバードの撒き散らしたらしい毒の瘴気が立ち上っていて、ヴォルカンによって焼け野原となっていたこの場所は死の大地と化していた。

 そんな死の気配が漂う場所に佇むレインボーバードは場違いのように映る。


 本当に魔物なの?


 何かの間違いじゃないの?と目で問えば、イヴァンもヴォルカンもあれは間違いなく魔物だと返ってきた。


 『しかし不思議だな。普通、空を飛ぶ大型の魔物は森など好まぬ。飛ぶのに木々が邪魔になるからな。なのに何故こやつは森の中でじっとしておるのだ?』


 「言われてみれば確かにそうやな。普通のレインボーバードやったら今頃あちこち飛び回って毒を撒き散らして死の大地にしとるな。ちょっと変わりもんのレインボーバードなんかもしれんな」


 変わりもんて・・・。

 変わりもんのあんたがそれを言うの?

 ヴォルカン。


 とりあえずそれは横において、目の前の魔物とは思えない魔物をどうにかしなくちゃ。


 「頑張ってやるしかないわね」


 少し緊張も残っているけど、イヴァンとヴォルカンもいると思えば心強い。

 その上、毒の瘴気もイヴァンの結界には効かないらしいので安心だ。


 イヴァンの万能な結界に万歳!!


 ちなみに精霊である彼らに毒は効かないらしい。


 「どうすればいいの?」


 『ホーリーを叩き込め。それ以外に方法はない』


 イヴァンの助言通り、ホーリーをかけるにしてもまだ少し距離がある。

 ジッとこちらを見つめるレインボーバードにゆっくりと近づいていく。

 距離が半分ほどになったとき、突然レインボーバードがゆっくりと羽を広げた。


 なんて綺麗なの。


 うっとりと見つめる私にイヴァンの鋭い声が飛ぶ。


 『羽根が飛んでくるぞ』


 イヴァンの言葉通り、ものすごいスピードで何枚もの羽根が飛んできた。

 イヴァンとヴォルカンはひょいと華麗に躱している。

 私の方はというと、結界に阻まれて私まで届かない。

 ここで初めて澄ましていたレインボーバードの表情が歪み、目に殺意が宿る。

 ヒューとフルートのような声で一声鳴くと、ゆっくりと羽ばたき、すっと枝から飛び立った。

 そのまま一直線にこちらに向かって飛んでくる。

 獲物は・・・私のようだ。

 空を飛ぶ魔物の例にもれず、鋭い嘴と爪を持つレインボーバードは、私の柔らかい皮膚にそれを食い込ませようと私めがけて飛んできたものの、イヴァンの結界に阻まれて体当たりをしただけに終わった。

 小さな部類に入るというレインボーバードも間近で見るとかなり大きい。

 急旋回してまた戻ってきたレインボーバードはさらに加速して体当たりしてくる。

 結界を壊そうとするかのように何度も。

 その時に見えるレインボーバードの顔が何故か悲しそうに見えて胸が疼く。

 本当はこんなことをしたくはないのだと言っているようで。


 『早くホーリーを叩き込めっ』


 イヴァンの言葉に従い、私は両手に魔力を込めると間近に迫ってきたレインボーバードにホーリーを放った。

 苦しそうに身を捩り、ヒューと一声鳴くと、また上空へ舞い上がり旋回して突撃してきた。

 私はもう一度ホーリーを放つ。

 レインボーバードはまた上空へ舞い上がろうとしたけれど、その途中で力尽きたのか、急降下で瘴気の海と化している大地に墜落した。

 慎重に近づくと、最後の抵抗とばかりに私を睨みつけながら羽根を飛ばしてくる。


 『サキ、止めを刺せ』


 イヴァンの言う通り、ホーリーをかけようとして・・・手を止めた。


 『どうした、サキ』


 「このレインボーバード、何か変じゃない?」


 『変とは?』


 「無理やり従わせられてるっていうかなんていうか。上手く言えないんだけど、そんな感じ」


 『何を言っておるのだ。いいから早くホーリーを・・・』


 「イヴァン。このレインボーバードを助ける方法ってないの?」


 『サキっ』


 「もしかしたらわしが見たモーザ・ドゥーグみたいに人間に操られとるんかもしれんで。なんせ突然できた魔穴から出てきよった魔物やさかいな」


 今まで黙ってメアリーを愛でていたヴォルカンが口を挟む。


 「ヴォルカンも気づいてたの?不自然にできた魔穴の存在」


 「当たり前やっ。わしを誰やと思っとるんや。偉大な火の精霊様やで」


 得意気に胸を反らすヴォルカンを見ながら、似たような科白をどこかで聞いたなあと思った。

 やっぱり似た者同士だ。


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