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のんびりまったり異世界生活  作者: 和奏
第二章 異世界はやっぱり異世界です
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58 決行直前

 これから大規模討伐があるとは思えないくらい和気あいあいとした雰囲気のところへマルクルさんの大きな声がして、場は一気に緊張感が高まった。


 「そろそろ時間だ。気を引き締めていけよ。ちなみに領主の派遣してくれる騎士団はここへ来るよりオールドムッカの森の方が近いから森の近くで合流することになっている。それから後方支援としてサキに参加してもらっている。もうみんな知っていると思うが光魔法の使い手だ。怪我をしたり、少しでも体調がおかしくなったりしたらすぐにヒールなり、リジェネレイトをかけてもらえ。こいつの魔力量はとんでもないから遠慮することはないぞ」


 何故かここでドッと笑いが起こった。


 へへっと笑ってみるも何故笑われたのかわからず、心の中で首をひねった。


 いざ出発という時に、前回同様馬に乗れない私を誰が乗せるかという、私にとっては何とも情けない論争が起こったので、やっぱり前回同様イヴァンに乗りますと言ってさっさとその場を離れた。

 実のところ、あまり馬には乗りたくない。

 お尻は痛いし、足のももやら何やらが筋肉痛みたいになるしで散々だったのだ。

 それにオールドムッカの森は一度行ったことがあるので、転移魔法が使える。

 西門が見えなくなった辺りで転移魔法を使い、オールドムッカの森の入り口まで転移した。


 前に来たときと同じ、鬱蒼とした森が目の前に現れた。

 前回のように鳥の鳴き声一つ聞こえず、不気味な静けさが森全体を包んでいた。


 森を離れ、みんなが来るまでどこで待っていようかとキョロキョロしながら歩いていると、「サキ」と私を呼ぶ声が聞こえた。


 見ると木立の陰からグリセス様が手を振っていた。

 すぐさまグリセス様の元に駆け寄る。

 久しぶりに見るグリセス様だ。

 相変わらずどこもかしこもキラキラしい。

 

 「おはようございます、グリセス様。お久しぶりです」


 「おはよう、サキ。相変わらず元気そうですね」


 グリセス様の後ろには騎士団の方が十数人待機していた。


 「グリセス様、少し早くないですか?マルクルさんたちはさっき街を出たところですよ」


 「朝七時に森の入り口に集合だと聞いていたのですが・・・」


 「私は朝七時に西門に集合だと聞きましたよ」


 「・・・」


 「・・・」


 どうも連絡が上手くいかなかったようだ。

 ここまで馬で一時間くらいらしい。

 仕方がないので、みんなが来るまでここで待つことにする。


 「今日は領主様は一緒じゃないんですか?」


 「えぇ。急に王宮から呼び出しがあって、夜が明けるか明けないかのうちに王都へ向けて出発しました」


 「そうなんですか。王都まで馬でどれくらいかかるんですか?」


 「そうですね。飛ばす馬の速さにもよりますが、だいたい三日から四日の距離ですね。さらに王宮まではもう半日かかりますが」


 つまり、王都アゾレスの王宮までは四日から五日かかるってことか。

 これが遠いのか近いのかわからないけど、案外不便だ。

 イヴァンならあっという間だとか言ってジェットコースターと化して私に精神的ダメージを与えるのだろう。


 うん、そんな遠い所、行かなくてもいいや。

 ちょっと興味はあるけど。


 「ここは辺境ではありますが、案外王都までは近い方なんですよ。まあ、馬車を使うと倍の日数はかかるので、ご婦人方からすれば旅行するのと大差ありませんけどね」


 ち、近いんだ・・・。

 便利な乗り物を利用していた身からすれば、それだけかかればもう海外旅行と同じ感覚なんだけど・・・。


 ふとイヴァンを見ると、いつの間にか騎士団の面々に取り囲まれ、一人の強者がイヴァンに触ろうと手を伸ばしているところだった。

 でもイヴァンは触られたくなかったのか、うぅと低い唸り声を出して威嚇していた。


 ちょっと触るくらいいいじゃないの。

 減るものでもないし。


 『サキ以外に触られたくないだけだ』


 ・・・。

 ここは喜ぶところよね。


 思わずにへらと笑いそうになって、ダメダメと頬をつねる。


 「どうかしましたか?」


 「いえ、何でもないです」


 あははと笑って誤魔化す。


 本当に最近のイヴァンは時々デレるので困ってしまう。

 イヴァンがデレるなんてどんな心境の変化があったのかしら。

 気になるわあ。


 なるべく顔に出さないように心の中でにまにましていたら、突然イヴァンが唸るのを止めて森の方を見た。


 「どうかした?イヴァン」


 『魔穴が出来た』


 「どういうこと?」


 『わからぬ。この間の魔穴とは別の魔穴がたった今できた。魔力溜まりがないにもかかわらずだ』


 「魔穴がもう一つできたの?」


 『そうだ。こんな不自然にできる魔穴など聞いたことがない』


 そういったことにあまり関心のなかったイヴァンですら気になるようなことが起きたらしい。


 「魔穴がもう一つできたとはどういうことでしょうか?」


 私の言葉を拾ったグリセス様が私に尋ねる。


 「それが先日できた魔穴とは別に、魔力溜まりがないにもかかわらず、今新しく魔穴ができたそうです」


 「それはいったい・・・。森で何が起こっているのでしょう」


 グリセス様は領主様から魔穴のことを聞いて知っているようで、何かがおかしいことにすぐに気づいてくれた。


 「グリセス様。我々だけでも先に森へ入った方がよろしいのでは・・・。何が起こったのか確認する必要があるかと思われますが・・・」


 騎士団の一人がおずおずとグリセス様に進言する。

 

 「確かに確認する必要はありますが、新しくできた魔穴からどんな魔物が出てきたのか。モーザ・ドゥーグの上を行く魔物が出てきた可能性もありますから、ここはマルクルたちを待って人海戦術で勝負する方が賢明かと思います。もうすぐマルクルたちも到着するでしょう」


 グリセス様の言葉に騎士団の方たちも神妙な面持ちで頷いている。


「イヴァン。もう少し森の中の様子がわからない?新しい魔穴からどんな魔物が出てきたかとか」


 じっと森を見つめるイヴァンにそっと聞いてみた。


 『少なくともレインボーバードが出てきたようだな。森に毒を撒き散らしておる。それと・・・」


 気配を探っているのか、しゃべるのを止めて森を凝視するイヴァン。

 すると突然顔を歪めて、


 『なんとも汚らわしいやつが現れおったものだ』


 「えっ?何が出たの?」


 イヴァンが口を開く前に、騎士団の誰かが叫んだ。


 「グリセス様っ。こちらに向かってくる集団が見えますっ。マルクル殿でしょうかっ」


 一斉にそちらの方へ顔を向けた。

 確かに馬で駆けてくる集団が見える。

 豆粒ほどだった集団がだんだん近づいてきて私たちに気づくと、少しずつ速度を落として、やがて止まった。

 やっぱりマルクルさんたちだった。


 「グリセス殿。待たせたか?これでもかなり急いだんだが」


 「そうですね。でもサキと話をしていたので苦にはなりませんでしたよ」


 そう言って微笑むグリセス様はキラキラと眩しかった。

 イケメンスマイルは本当に心臓に悪い。


 「それよりも大変なことが起こりました。また新たに魔穴が出来たそうです。ですね、サキ?」


 「はい。また突然できたみたいです。その魔穴からレインボーバード?が出たって」


 聞いていた周囲がざわつく。

 

 名前だけ聞いたら南国にでもいそうな色鮮やかな鳥なんだけど、本当に魔物なのかしら。


 『確かに普通の鳥のように見えるが、見た目に騙されてはならぬ。やつは見た目に反して猛毒を持つ危険な上位魔物だ。今も体中から毒を撒き散らしておる。やつに触れるだけでも毒に侵されてしまう。特にやつが羽根を飛ばしてきたら気をつけろ。羽根の根元の部分が突き刺されば即死だ』


 「じゃあ、どうすればいいの?退治できるの?」


 『有効なのは光魔法だな』


 「じゃあ、レインボーバード討伐は私の仕事ってことなの?」


 『そうなるな』


 「・・・」


 いや、無理でしょう。

 イヴァンのおかげでDランクになっているけど、私自身は新人冒険者の域を出ない。

 そんな私が高ランクのレインボーバードを討伐だなんて無理だ。


 『心配するな。我がついておる。しかし厄介なのはレインボーバードではなく・・・』


 「何なの?」とイヴァンに問う前にマルクルさんが、


 「モーザ・ドゥーグ退治は任せろ。たぶんわかったと思うがレインボーバードが出たのなら俺たちにはどうすることもできねえ。光魔法が使えるお前がやるしかねえ。頼んだぞ」


 にこやかに笑うマルクルさんに殺意が沸く。


 簡単に言わないでぇっっ!


 「よし、行くか。お前ら状態異常を治すポーションは持っているな。ないやつは持ってるやつの近くにいろ。サキに余裕があれば治してもらえ。いいな」


 余裕、あるかな、私・・・。


 グリセス様とマルクルさんを先頭に騎士団や冒険者が続いて行く。

 後方には私とエドさんたち警備隊の方々。


 「そういえば今日はスタンさんはいらっしゃらないんですね」


 「あぁ。スタンは今日は詰所で書類仕事だ。一緒に来たがってたけどな。前回の事件も片付いてねえからそっちの方も大変なんだよ」


 心なしか書類仕事から解放されて喜んでいるようにも見えるエドさんだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 大の大人が恥ずかしげもなく世慣れてない女子一人に丸投げってなんだかなー。と思います。
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