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のんびりまったり異世界生活  作者: 和奏
第二章 異世界はやっぱり異世界です
119/160

57 当日の朝

 翌朝目が覚めると、すっかり疲れも取れてすこぶる調子がいい。

 いつものように朝の支度を終えて朝食作り。


 今日はこれから大仕事が待っているので朝からがっつりメニュー。

 ということで回鍋肉(ホイコーロー)丼を作ろうと思います。


 キャベツ、ピーマンはざく切りに、人参は短冊切りに、長ネギは斜めに薄切りにする。

 フライパンにごま油を熱し、豚肉を入れて炒め、色が変わったら人参、長ネギ、ピーマン、キャベツを入れてサッと炒める。

 野菜がしんなりしたら、甜麵醬、豆板醬、醤油、酒、砂糖、水で溶いた片栗粉を入れて炒め合わせると完成。


 大きな器にご飯を盛ってその上に回鍋肉を乗せれば回鍋肉丼の完成だ。


 あーいい匂い。


 すでにお行儀よくテーブルに着いている四人の前に並べると、猛烈な勢いで食べ始めた。

 四人の食べる姿に圧倒されつつも(まあ、正確には圧倒されたのは二人だけど)この後昼食用のサンドイッチを作らないといけないので、私もすぐに朝食を食べ始めた。


 昼食用のサンドイッチも出来上がり、支度も終わってさあ出かけようという時になってイヴァンが行かないと言い出した。


 「今更何を言ってるの。マルクルさんたちと約束したんだから行くわよ」


 『ダメだ』


 「どうしてっ!?」


 『これから朝ドラを見なければならぬ』


 「はい?」


 見ると、イヴァンの頭の上でとぐろを巻いたシロが、ソファではヴォルカンがその通りとでも言いたげに頷いている。


 ・・・。

 いや、ちょっとハマりすぎなんじゃない?


 てこでも動かなそうなイヴァンにわざとらしく大きなため息をつくと、


 「わかったわ。でも約束は約束だから遅れるわけにはいかないの。代わりに今日の分の朝ドラは録画予約しといてあげるから」


 『録画予約?』


 「リアルタイムで見れない人のためにいつでも好きな時に見れる機能のことよ。今日の依頼が終わって帰ってきてからでもちゃんと見れるから。だから安心して」


 教えたくなかった、録画予約・・・。

 これから毎日エンドレスってことにならないように祈るわ。


 「何と便利な魔法があるのだな」


 シロが感心しているけど、魔法じゃないから。

 それでもごちゃごちゃと駄々をこねるイヴァンの口にいちご飴を一つ放り込み、何とか納得させることに成功した。


 いつものようにヴォルカンは探し物に、シロは湖に、ユラは街のユラの家で待っていることになった。

 ヴォルカンとシロを見送り、イヴァンとユラとともにユラの家に転移する。

 そこでユラと別れ、西門を目指して歩いて行く。

 途中、ギルドの前で昨日イヴァンが狩ってきてくれたワイバーンの存在を思い出すけど、さすがにこんな朝早い時間から開いてないわよねと通り過ぎようとしたら、運よくフラッジオさんに遭遇した。


 「おはようございます、フラッジオさん」


 「おお、嬢ちゃんか。今日はモーザ・ドゥーグの討伐に行くんじゃろ。しっかり持って帰ってきてくれよ。今日はモーザ・ドゥーグの解体じゃと思ったら楽しみ過ぎて眠れんかったわい」


 白くて長いあごひげをさすりながらフラッジオさんは嬉しそうに言った。


 こんな朝早くに出勤してくるくらい、解体が好きなのね。

 あっ、そうだ。


 「フラッジオさん。実はお願いがあるんですけど」


 なんじゃと目で問われた私は続けた。


 「昨日イヴァンがワイバーンを狩ってきてくれたんですけど、私には解体ができなくて・・・。なのでぜひ解体をお願いしたいんですけど、どうでしょうか?」


 「ワ、ワイバーンじゃと!?どこにある?すぐに解体してやるぞっ」


 歓喜の表情で手を出すフラッジオさんにさすがにここで出しては困るのでは?と言うとすぐに解体作業場に連れて行かれた。

 早くしろと急かすフラッジオさんに苦笑いしながら、アイテムバッグの中からワイバーンを出した。


 「こ、これは・・・ブラックワイバーン」


 「?」


 「ワイバーンの中でも上位に位置する魔物で、わしも解体するのは初めてじゃ。血が騒ぐのう」


 小躍りしそうなほど興奮しているフラッジオさんに聞こえているかどうかわからないけど、よろしくお願いしますと頼んで作業場を後にした。


 「イヴァンてばなんだかすごい魔物を狩ってきてくれたんだね。ありがとう。ブラックワイバーンの肉をもらったら頑張って料理するね」


 『あぁ、楽しみにしておる』


 西門に着くと、ちらほら見知った顔があった。


 『ミストラルメイデン』のヒューゴさんとトビーさんだ。


 「おはようございます」


 「おぉ、サキか。早いな」


 「おはよう、サキ」


 朝から元気なヒューゴさんと、ちょっぴり眠そうなトビーさん。


 「サキ、昨日は助かった。おかげで今日もバッチリだ。そうだ、サキ。せっかくだから他のメンバーを紹介させてくれ。リッツとコナーだ」


 ヒューゴさんよりもさらに大きな体格のリッツさん。

 濃い紫色の髪が印象的だ。

 体のわりにシャイなのか、頭を下げただけで一言もしゃべらなかった。

 コナーさんは反対に一番小さい・・・というか一番若い。

 綺麗な金髪に鼻の周りのそばかすがチャームポイントか。


 「コナーってんだ。よろしくな」


 私の手を取り、ブンブンと上下に振るコナーさんに苦笑する。


 ヒューゴさんたちと話しているところへエドさんがやってきた。


 「サキ、おはよう。体調はどうだ?何ともないか?」


 心配性のお父さんだ。


 「おはようございます、エドさん。体調はバッチリですよ。しっかり食べてぐっすり寝ましたからすっかり元気です」


 「本当にわかんねえな。何で食べて寝たら魔力が全回復するんだ?」


 それは私にもわかりません。

 そもそもイヴァンと従魔契約してかなり魔力が増えたところに、シロと契約したからかさらに魔力が増え、今では総魔力量がとんでもないことになっているらしい。

 だからリジェネレイトをかけまくっても平気だったのだ。


 「おはよう、サキ」


 後ろから声がかかったので振り返ると、朝から笑顔のモリドさんだった。


 「おはようございます、モリドさん。今日はモリドさんも参加されるんですか?」


 「あぁ、前回は怪我のせいで参加できなかったから隊長に頼んでメンバーに入れてもらったんだ。それよりサキは大丈夫なのか?昨日は一日中ずっと魔力を使ってたんだろ?」


 「ありがとうございます。でも心配いりませんよ。すっかり元通りです」


 両腕で力こぶを作って、元気なことをアピールする。

 最も力こぶは全然作れなかったけど。


 「まあ、サキが大丈夫だって言うなら大丈夫なんだろ」


 笑顔を見せるモリドさんに、エドさんが顔を少し歪めて、


 「モリド。普通は上司の俺に最初に挨拶するもんだろ」


 「あぁ、そうでした。おはようございます、隊長」


 「お前なあ・・・」


 エドさんはため息をついて、モリドさんの頭に、両の拳を丸めてぐりぐりと押し付けた。


 「痛いですっ、隊長っ。ホント、すんませんでしたっ」


 涙目のモリドさんはそれでも懲りなかったようで、


 「でも、隊長。どうせなら朝一番に目に入れるならおっさんよりサキみたいなかわいい子を見たいじゃないですか」


 「誰がおっさんだっ」


 またも頭をぐりぐりされて涙目になるモリドさんに、私はこらえきれずに声を出して笑ってしまった。

 そこへ聞き覚えのある元気な声が聞こえてきた。


 「おはよー、サキ。どうしたの?朝から何かおもしろいことでもあった?」


 声の主はボルターだった。


 「おはよう、ボルター。うん、ちょっとね」


 まだクスクス笑っている私に、「何?何があったの?」と興味津々のボルターだけど、もしかしたらこれは男の沽券にかかわることかもしれないので、「何でもないわ」と誤魔化しておいた。


 「それより、ボルター。ローガンさんたちはどうしたの?」


 きょろきょろ辺りを見回すも見当たらない。


 「それがさ、出かける直前にトーマスがぎっくり腰になっちまって、姉ちゃんとローガンが今日の討伐はやめとけって説得してるんだけど、聞かなくてさ」


 おかしくて仕方ないとけらけら笑うボルターだけど、私は、


 「大変じゃないっ。すぐに治さなくちゃ」


 「大丈夫、大丈夫。すぐにポーション飲んだからそれは治ってるんだ。でも大事を取って宿に居ろって言う姉ちゃんたちと、何が何でも行くって言い張るトーマスが喧嘩してるんだ。俺はまあどっちでもいいから先にここに来たんだ」


 ・・・。

 えーと、何て言ったらいいのか。


 「心配しなくてももうすぐ三人で来るはずだぜ。結局いつも年の功でトーマスが勝つんだ」


 腰に手を当てて大きな口を開けて笑うボルターの肩をモリドさんがぐいと掴んで妙に低い声音で言った。


 「サキ。いつこいつと知り合ったのか知らねえけど、何でこいつとはタメ口なんだ?」


 少し不機嫌そうなモリドさんに、私は首を傾げながら、


 「昨日、友達になりました。同い年なのに敬語はおかしいって言われて・・・。それもそうかなと思ったのでこんな感じになりました」


 「俺の方が先にサキと知り合ったのにズルいぞ。俺にもタメ口で話してくれ」


 「ちなみにモリドさんはおいくつですか?」


 「二十歳。もうすぐ二十一になる」


 「じゃあ、年上ですね。なのでこのままで・・・」


 「待てっ。年上っつっても二~三こしか変わらねえだろ。たいした違いはねえぞ」


 「そうですか?けっこう違うと思いますけど」


 「違わねえ!!」


 やけに違わないと強調するモリドさんにさらに首を傾げていると、


 「あら?ボルターったらモリドと何喧嘩してるのよ」


 また別の声が割り込んできたと思ったらマイラさんだった。

 ローガンさんとトーマスさんもいる。

 ボルターの言っていた通り、年の功でトーマスさんが勝ったらしい。


 「あ、姉ちゃん。別に俺が喧嘩してるわけじゃねえよ。モリドが勝手に怒ってるんだよ」


 「どういうこと?」


 「それがさ・・・」


 そんな会話をする姉弟を他所に、私はトーマスさんに駆け寄った。


 「おはようございます、トーマスさん。ボルターにトーマスさんがぎっくり腰になったって聞いたんですけど大丈夫ですか?」


 「おはよう、お嬢。大丈夫じゃよ。ポーション飲んだらすっかり元気じゃ」


 その言葉を証明するかのように踊り出すトーマスさんを慌てて止めると、念のためにとヒールをかけた。


 「おぉ、ありがとうな」


 本当に元気なおじいちゃんだ。


 ホッと小さな息を漏らした後、ローガンさんの方を向いて「おはようございます」と挨拶した。


 「あぁ、おはよう」


 少し目を泳がせながらローガンさんも返してくれる。

 

 「・・・昨日はありがとな。目を治してくれて・・・」


 恥ずかしいのか決して私の方は見ないローガンさんだけど、本当に感謝してくれているようで私の方もなんだか嬉しい。


 「やだーっ、もしかしてモリドったらボルターに嫉妬してるのっ!?」


 「ち、違えよっ。変なこと言うなっ」

 

 賑やかなマイラさんを本物の目で愛おしそうに見つめながら、


 「俺が気にするなって何度言っても時々辛そうな目で俺を見るんだ。冒険者に怪我は付き物だって頭ではわかっていても心が受け入れられない。この二年はずっとそんな感じだった。でも昨日眼球を再生してもらってからは以前と同じように心から笑ってくれるようになった」


 ローガンさんは()()()()と私の目を見ながら言ってくれた。


 「サキのおかげだ。本当にありがとう」


 ふふ。

 ローガンさんの気持ちが本当に嬉しい。


 思わず笑みがこぼれてしまった私を見たローガンさんは少し顔を赤くしながらそっぽを向いた。


 だから笑わずにいるなんて無理ですって。

 目指せクールビューティって言われても一日で挫折する自信があるわっ。

  

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