56 天変地異の前触れか!?
風の森の家に帰るとすぐにシロが湖から戻り、幾ばくもしないうちにヴォルカンが大声を上げながら帰ってきた。
「腹減ったーっ。飯にしてくれっ」
どこの親父なの。
とにかく今日は私もかなり魔力を消費したので、がっつり食べたい。
焼き肉とかステーキとか食べたいけど、高級魔物肉はもうないからなあ。
他に何かあったっけ。
冷蔵庫を開けて確認しようとする私の耳にイヴァンの信じられない言葉が飛び込んできた。
『なら我が狩ってきてやろう。少し待っておれ』
そう言うなりイヴァンがいなくなった。
えっ?
狩りなんかしないって言ってたのにどういう風の吹き回し?
明日、天変地異に見舞われるかもしれないわ。
いや、問題はそこじゃない。
魔物を狩ってきてくれても私には解体なんかできないんだって。
それでもイヴァンの気持ちは嬉しいので何かを狩って帰ってきたら、とりあえずそれはアイテムバッグに入れておいて、時間のあるときにギルドに持って行って解体してもらおう。
だから今日は冷蔵庫にあるものでなんとかしなくちゃ。
冷蔵庫の中をいろいろ物色して牛肉と鶏肉を発見したので、牛肉のガーリックライスと塩鶏を作ることにした。
フライパンにオリーブオイルとみじん切りにしたにんにくを入れて加熱し、香りが立ってきたら牛薄切り肉を加えて炒める。
ご飯と白ごまを加えてさらに炒め、醤油、塩こしょうを入れて全体がパラっとするまで炒め合わせる。
器に盛りつけ、小ねぎを散らせばガーリックライスの完成。
次に塩鶏。
鶏肉を観音開きにしてフォークで数か所穴を開ける。
穴を開けた鶏肉に砂糖と塩をしっかり揉み込む。
深めのフライパンに皮を下にして入れ、酒を回しかけ落し蓋をして火にかける。
五分ほどしたらひっくり返して再度落し蓋をして三分待つ。
火を止めて落し蓋をしたまま五分蒸らすと完成。
塩鶏を作ったときに出た煮汁を利用してスープを作る。
鶏の出汁が出てとても美味しい。
煮汁に水を足して火にかけ、切ったベーコンと玉ねぎを加えて少し煮て味を調える。
最後に色味にドライパセリを振りかけたら完成。
それからレタス、ブロッコリー、トマトで作った生野菜サラダ。
全ての料理が完成したちょうどその時、イヴァンが帰ってきた。
玄関の外から私を呼ぶ声が聞こえるので外へ出てみると、巨大な黒い物体が目に飛び込んできた。
夜の闇の中に佇むそれは大きすぎて、玄関灯の光だけでは全容が全くわからない。
「イヴァン、これは何?」
『ワイバーンだ。まだ一度も食したことがないゆえ味はわからぬが、サキなら美味い飯にしてくれるだろう』
褒められるのは嬉しいけど、さっきから何だろう。
このイヴァンの変わりようは。
イヴァンってこんなに優しかったかしら?
『サキっ!お前というやつは・・・。膨大な魔力を持つお前でもさすがに今日は疲れただろうと我が気を使ってやったというに。感謝の気持ちが足りぬっ』
「冗談よ。イヴァンが本当は優しいのは知ってるわ。ありがとう」
イヴァンの首に抱きついてすりすりする私の頬は緩みっぱなしだ。
だって本当にイヴァンの心遣いが嬉しいんだもの。
照れ隠しなのか『早く飯にしろっ』とうるさいイヴァンと一緒に家に入る。
ワイバーンはアイテムバッグの中に入れた。
「イヴァンがせっかく狩ってきてくれたワイバーンだけど、私、解体はできないから今度ギルドで解体してもらってくるわね。だから今日は冷蔵庫にあるもので作ったわ。今ちょうど出来上がったところよ」
ダイニングテーブルに料理を並べ終わると声をかける。
全員が席に着くと「いただきます」と一緒に手を合わせて食べ始めた。
ちなみにユラにも教えたけど、手に当たる部分がないため断念した。
丸い触手を使えばできるんじゃないかと思ったんだけどどうにもできなかったのだ。
「ワイバーンを解体してもらったら、フラッジオさんかラクトンさんにお薦めの食べ方を聞いてみるわね。どんな味なのかしら。楽しみだわ」
食べ終ると案の定デザートの催促だ。
さすがにデザートまで作る時間がなかったから今から何かを作らないと。
どうしようか。
イヴァンたちからしたらデザートでもおやつでも甘ければ何でもいいのだ。
何か簡単にできる甘い物。
そういえばこの間テレビで、某テーマパークで販売されているチュロスの作り方をやってたわね。
ネットで検索したらすぐ出てきた。
そんなに時間もかからなさそうだし、材料も揃ってるし。
チュロス、作ってみようかな。
鍋に水、バター、塩、シナモンを入れて火にかける。
沸騰したら火を弱め、中力粉・・・がないので薄力粉と強力粉を半量ずつ加えて混ぜる。
全体がまとまってきたら火から下ろし濡れ布巾の上に置いて少し休ませる。
生地に卵を加え混ぜる。
生地を星型の口金をつけた絞り袋に入れ、生地を絞りだし適当な長さに切って揚げ油に落としていく。
きつね色になったら取り出し、キッチンペーパーの上に並べていく。
ポリ袋にグラニュー糖とシナモンを入れて混ぜ合わせ、揚げたてのチュロスに絡ませると完成。
揚げたてを一つ口に入れて確かめる。
あそこで食べたチュロスっぽい味だと思うんだけど、ここ何年も行ってないのではっきりとはわからないけど、それでもとても美味しくできたと思う。
早速、まだかと待ち構える四人の前に出してみた。
四人は美味いと言いながら平らげてあっという間になくなった。
私の分は?
はあと小さくため息をつくと、後片付けをすべく席を立った。
後片付けを終えると明日のお昼とおやつのことを考える。
お昼はやっぱりサンドイッチが無難かしらね。
お昼はそれでいいとしておやつは何がいいかしら。
イヴァンのことだから何にもなしってわけにはいかないものね。
明日も朝が早いから今のうちにおやつを作っておきたいんだけどな。
そうだ。
いちごを使っていちご飴を作ろう。
この間、久しぶりに恵里たちとテレビ電話で話したんだけど、そのとき和奏が、今女子高生の間でいちご飴が流行ってるらしいよと教えてくれたのだ。
鍋に水と砂糖を入れて混ぜ、砂糖が溶けたら火にかける。
煮詰まるまで放置。
その間に洗ったいちごの水分を完全に拭き取り、ヘタを取ったらそこへ串をさす。
砂糖液ができたら火から下ろし素早くいちごをくぐらせる。
クッキングシートに乗せて冷やし固めると完成。
いちごだけじゃ寂しいので缶詰のみかんを使ってみかん飴も作ってみた。
いちご飴、みかん飴を一つずつ口に入れて味見をする。
へえ。
パリパリして意外といけるわ。
と感心しているとものすごく視線を感じたので目を向けると、明らかに一人だけズルいと顔に書いてある四人がいた。
仕方がないので四人にも同じように味見をしてもらう。
四人ともお気に召したようでまだ食べたいと騒いでいたけど、明日のおやつだから明日まで我慢してちょうだいとさっさとアイテムバッグに入れて隠した。
見えるところにあるとどうしても欲しくなっちゃうしね。
サンドイッチ用の食パンや朝食用に炊飯器の準備をして、それからゆっくりお風呂に入って疲れを取って、ぐっすり就寝。
たくさんの魔力を必要とする魔法は、私が思っていた以上に私を疲れさせていたようで、あっという間に夢の中の住人となっていた。