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のんびりまったり異世界生活  作者: 和奏
第二章 異世界はやっぱり異世界です
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51 パイとコーヒーとサトウの木

  あれこれ言うよりさっさとおやつを出した方が話が早いので、三人に断ってアイテムバッグから今朝作ったカスタードクリームといちごのパイを取り出す。

 イヴァンにおやつは必要不可欠なのはもうバレているので三人に否はなく。

 それをイヴァンの前に置いた瞬間、


 ぐぅーっっ。


 私のお腹が鳴った。


 「あはは。ごめんなさい。今日は忙しくてお昼ご飯を食べそこねちゃったので・・・」


 笑って誤魔化したものの、一度空腹を感じてしまうと空腹感が止まらない。

 仕方がないので、一緒にお茶にしませんか?と三人を誘った。


 「パイは甘さ控えめに作ってますけど、よかったらこれも一緒にどうぞ」


 パイと一緒に出したのはコーヒー。

 最もコーヒー豆から作ったコーヒーじゃなくて、たんぽぽの根っこから作ったたんぽぽコーヒーだけど。

 コーヒーとは名ばかりのノンカフェインの飲み物だ。

 ちょうど庭にたんぽぽが咲いていたので、根っこを抜いて自家製のたんぽぽコーヒーを作ってみたのだ。

 どこからともなくたんぽぽの綿毛が飛んでくるようで、毎年庭のあちこちにたんぽぽがひっそりと咲いている。

 今年もいつも通りたんぽぽが咲いたので、根っこを掘り起こしてずっと家にいた間に作ったのだ。


 作り方は至って簡単。

 根っこについている土を落とし、しっかりと洗う。

 洗ったら水分をよく拭き取る。

 洗った根っこを小さく刻む。

 刻んだ根っこをトレーに並べ、直射日光の当たる場所に置き、カラカラになるまで乾燥させる。

 乾燥させた根っこをフライパンに入れ、焙煎する。

 こげ茶色になるくらいまで焙煎出来たらミキサーで細かく砕き、粉末になったら完成。

 これを抽出するとたんぽぽコーヒーの出来上がりだ。


 「これは飲めるのか?」

 

 カップに注がれた黒々とした液体を見て、エドさんがつぶやく。

 一見、泥水のように見えなくもないものね。


 「たんぽぽコーヒーって飲んだことありませんか?」


 「たんぽぽ!?たんぽぽって道端や野原に咲いてる黄色い花だよな?」


 風の森にもカイセリまでの街道にも街中にもたんぽぽが咲いているのを見かけたので、もしかしたらたんぽぽコーヒーくらいあるんじゃないかと思ったのだけど。


 「たんぽぽの根っこから作るんです。少し苦いですけど、こういう味が好きな人にはいいと思います」


 三人は恐る恐るカップに口をつける。


 「確かに少し苦いが、その苦みが美味い」


 「パンチがきいてて美味いな」


 「香りもいいね」


 三人の感想を聞く限り、気に入ってもらえたようだ。

 私のお腹が再度、空腹を訴える前に、一口大に切ったパイを口に運ぶ。

 パイ生地もサクサクだし、カスタードクリームも程よい甘さでいちごによく合う。

 イヴァンもかなりお気に召したようで、ものすごい勢いで平らげている。

 三人もパイに手を伸ばす。


 「「「美味いっ」」」

 

 見事にハモる三人。


 「サクサクがいいな」


 「間に挟んである黄色いのが甘くて美味い」


 「サキ。私の娘兼城の料理人にならないか」


 とんでもない勧誘も混じっていたけど、それは無視(スルー)し、お口に合ってよかったですとにっこりしておいた。


 「いや本当にうちの料理人に引けを取らないくらい美味い」


 領主様、それは褒めすぎです。

 パイ生地は冷凍のだし、私が作ったのはカスタードクリームだけ。


 そしてやっぱりあの話題。


 「この甘さの元は砂糖・・・だね。サキはどうやって手に入れてるんだい?」


 パイを出したときから聞かれるだろうなとは思っていたけど。


 「その前に・・・。領主様の城でお使いの砂糖は何から出来ているんですか?」


 前から気になっていたことを聞いてみた。

 サトウキビから作られる砂糖だと思い込んでいたけど、そうでない可能性もある。

 甜菜糖のように砂糖大根から作られた砂糖が一般的な砂糖を指すのかもしれない。

 ところが領主様の答えは意外なものだった。


 「確か、サトウの木から取れると聞いたような気がするが・・・」


 「サトウの木・・・ですか?」


 「あぁ。何でも樹液から作るとか」


 「なるほど」


 たぶん、サトウの木はサトウカエデのことだろう。

 いわゆるメープルシロップが取れる木だ。

 樹に穴を開けて集めた樹液を煮詰めるとメープルシロップになり、それをさらに煮詰めて結晶化させるとメープルシュガーと呼ばれる砂糖になる。

 最もこの世界のことだから、サトウカエデによく似た木かもしれないけど。


 「サトウカエデは暑さ、寒さに強くて比較的育てやすい木なのに砂糖の流通量が少ないのはどうしてかしら。収穫時期が短いこともあるだろうけど、栽培されるサトウカエデが少ないのか、砂糖が作られる過程で何かあるのか、もしくは輸送上の問題なのか・・・。あっ、もしかして国とか貴族の利権が絡んでるとか?」


 「・・・サキはどうしてそんなに詳しいんだい?」


 「えっ?」


 しまったっ!

 私、声に出してたんだ。

 最近、声に出しても出さなくてもイヴァンたちにはバレちゃうから、全然気にしてなかったから。

 

 「・・・私、読書が趣味なので・・・」


 「読書?だからサキはそんなに物知りなのか・・・」


 感心するエドさんとマルクルさんに対し、領主様はまだ納得していないようで、どこで本を手に入れたのか、とかサキの知識は全て本から得たものなのか、その割には知識が偏っている気がするが、などと根掘り葉掘り聞いてくる。


 どう誤魔化そうかと内心おろおろしていると、そこへ救いの神が現れた。


 『サキ。おかわり』


 「えっ?おかわり?ちょっと待ってね、イヴァン」


 微妙な空気が消えてホッとしつつ、いそいそとイヴァンの前にパイを置く。


 「皆さんもおかわりいかがですか?」

 

 話題転換のつもりで勧めてみる。

 私が触れられたくないと思っているのを察してくれたのだろう。


 「私はこのたんぽぽコーヒーが欲しいな」


 「俺も」


 「じゃあ俺はパイのおかわりをもらおうかな」


 エドさんは案外甘党らしい。

 パイを出したり、コーヒーを注いだりしながら、一応言っておく。


 「そもそも私の使っている砂糖は元々の原料が違います。サトウの木から作られた砂糖を使っているわけではありません」


 上白糖やグラニュー糖が一般的だけど、メープルシュガーも簡単に手に入れることができる。

 お菓子作りをする人の家には常備されているかもしれないけど、残念ながらうちにはない。


 「しかし、たんぽぽなんかでこんな美味い飲み物が作れるのか・・・。驚きだな」


 妙に感心するマルクルさんの声に、砂糖や私のことでこれ以上突っ込まれても困るなと思っていたので少しホッとした。


 「どっかに売ってないかな、これ」


 えっ?

 そんなに気に入ったんですか?


 「マルクルさん。もし、たんぽぽコーヒーを販売したら買ってくれますか?」


 「おっ。売ってくれるのか?そうなったら俺は絶対買うぞ」


 たんぽぽコーヒーは売り物になるのか。

 覚えておこう。

 でも庭で採れるたんぽぽの根っこなんてたかが知れている。

 せいぜいが小さな瓶一本分くらいの粉末しかできない。

 それにうちの庭に咲いていたたんぽぽの根っこは全部掘り起こしたのでもうない。

 商売用となるとたくさんのたんぽぽの根っこが必要だ。


 風の森とか街道のたんぽぽ、掘りまくるか・・・。


 うーんとあごに手を当てて考えていると、領主様が少し遠慮がちに、


 「サキ。そろそろさっきの話の続きをしてもらってもいいかな」


 あっ、そうだった。

 つい、おやつタイムになっちゃったけど、大事な話の途中だった。


 「えーと、どこまで話しましたっけ」


 「地上の魔力溜まりが・・・ってとこまでだな」


 エドさんが教えてくれる。


 「そうでした、そうでした。地上にある魔力溜まりは虹石の華になりますが、魔穴になることもあるそうです。集まった魔力が強いと魔穴から生まれてくる魔物も強くなるそうです」


 「知らなかった・・・。魔穴はそうやってできるのか・・・」


 「王宮に報告せねばならん」


 「ということは、サキ。オールドムッカの森に魔穴ができたということか?」


 マルクルさんの問いに私はかぶりを振った。


 「それがよくわからないんです。何日か前にオールドムッカの森に行ったときには魔力溜まりはなかったとイヴァンは言っています。虹石の華ができるときには魔力は動かないけど、魔穴ができるときには大きな魔力が動くそうで、昨日オールドムッカの森で魔力が動いたのをイヴァンは感じたそうです。でも動いたというより無理やり動かされたようだと」


 「つまり、魔力溜まりがないと魔穴はできないはずなのに、何故か魔力溜まりがないはずのオールドムッカの森に魔穴ができた。それも不自然に。ということでいいかな?」


 領主様の言葉に、私は頷いた。


 「しかし、それがわかったところで、何を意味するのか全くわからん。突然できた魔穴からモーザ・ドゥーグの群れが出てきた。これは事実だから魔穴が突如できた理由はさておきモーザ・ドゥーグの群れと魔穴をどうにかしねえと。魔穴が開いたままじゃあ、いくらでも魔物が出てきやがる。急いで討伐隊を編成しねえとな」


 「そうだな。この間の件もまだ片付いてねえが、これ以上怪我人が出る前に・・・つっても怪我人ならサキがいれば何とかなるか。死人が出る前に何とかしねえと厄介だな。警備隊からも人を出す」


 「私の方からも騎士団を派遣しよう。しかし魔穴を閉じるには膨大な魔力が必要・・・だがこれはサキがいれば問題ないな。王宮に魔術師団の派遣を要請する必要がない分、すぐに動ける」


 えーと。

 つまり。

 私の不参加は選択肢にないってこと?


 「まあ、そういうことだから、サキ。シルバーウルフ共々よろしく頼む。もちろんちゃんと報酬も出るからな」


 たくさんの怪我をした人たちを見て、ちょっぴり怖いと思う気持ちもあるけれど、もうあんなに大怪我する人たちを見たくないと思う気持ちもある。

 だから私にできることがあるならお手伝いしたいと思う。


「私でお役に立てるならよろしくお願いします」 


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