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のんびりまったり異世界生活  作者: 和奏
第二章 異世界はやっぱり異世界です
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46 消えたユラ

 テーブルの上に並べた大量の海苔巻きを見ながら考える。


 「せっかくお弁当にしたのに家の中で食べるのも味気ないわね。・・・そうだ。ユラがいるんだから森の奥のハナマイムの大木の下でお花見なんてどうかしら。桜じゃなくてチューリップもどきを見ながらのお花見だけど。天気もいいし最高のお花見日和だわ。

 ねぇ、せっかくだから森の奥までお花見に行かない?天気もいいし、外で食べた方がきっと美味しいわよ」


 ピクニック用のバスケットに海苔巻き弁当を詰めながら、リビングの三人に声をかけた。

 今すぐ食わせろとうるさいイヴァンは無視して、早速森の奥のハナマイムの大木目指して歩く。

 もちろん、イヴァンもブツブツ言いながらついて来る。

 頭の上にシロを乗せて。

 イヴァンに食べないという選択肢はないらしい。

 朝の森はまだ少しヒヤッとする冷たさが残るけど、この時間になるとぽかぽか陽気でとても暖かい。

 ユラはたくさんの木々に囲まれて嬉しいのか、それはもうあっちへふらふら、こっちへふらふらと舞い踊っているかのように浮かれている。 


 やっぱりユラは大地の精霊なんだね。


 街中の家の庭とは比べ物にならない森の中で嬉しいオーラ全開の様子がひしひしと伝わってくる。

 湖の横を通り抜け、さらに奥へと進む。

 やがてハナマイムの大木が見えてきた。

 それを目にしたユラはまっしぐらに大木へと飛んで行く。

 アトリア草に囲まれた大木は何度見ても圧巻だ。

 ユラはハナマイムの大木の近くまで来るとじっと見上げている。

 何か感じるものがあるのかしばらく見上げたまま動かなかった。

 あまりにも長い間、微動だにしないのでちょっと心配になった私が声をかけようとした瞬間、ユラの姿が消えた。

 正確には、突然大木まで移動したと思ったら吸い込まれるように幹の中に消えて行ったのだ。


 うちにあるハナマイムみたいに何かを確かめているのかしら。

 その割には入ったきり全然出てこないけど。


 挿し木のときは何かを確かめるように出たり入ったりを繰り返していたけど、今は出てくる様子もない。


 大丈夫かしら。


 そんなことを思っていたら、しびれを切らしたイヴァンが『早く食わせろ』と不機嫌さを隠そうともせず声を張り上げた。


 「わかったからちょっと待って。ねぇ、イヴァン。ユラはどうしちゃったの?何で出てこないの?」


 『我が知るわけがなかろう。あやつの気配は全くせん。それより飯だ。何か変わったものを作っていただろう。早く食わせろ。もう待てぬ』


 「気配がしないってどういうこと?」


 『だから我は知らぬと言っておろう。とりあえずこの辺りにやつはおらん。わかっているのはそれだけだ』


 「サキ。確かにユラとかいう大地の精霊の気配はない。その木の中に入った瞬間に消えた」


 イヴァンの言葉を補足するようなシロの言葉に私は口を開けたまま声も出なかった。


 消えた?

 消えたってどういうこと?

 ユラはどこに行っちゃったの?


 ハナマイムの大木を見上げながら固まる私はよほど心配そうな顔をしていたのだろう。

 シロが心配するな、下位とはいえあやつも精霊の端くれだと慰めてくれる。

 確かにそうなんだろうけど、心配なことには変わりない。


 ユラ、どうしちゃったの?

 何があったの?


 今は心配する以外できることはないので、ユラを気にしつつ、ハナマイムの大木の下にレジャーシートを広げ、ピクニックバスケットから海苔巻きを取り出す。

 たくさんの海苔巻きを並べると、すぐにイヴァンが口いっぱいに頬張る。

 シロも人型に変異し、いつものようにのんびり食べ始める。

 私はというとユラが気になって食べる気が起きず、対照的に食べる二人を見ているだけだった。


 ふう。


 何度目かのため息をついたその時、黙々と食べていた二人が食べる手を止め、私の背後のハナマイムの大木に目をやった。


 「どうした・・・」


 の?と最後まで言い終えるより前にユラが突然目の前に現れた。


 「ユラっっ!」


 思わず手を伸ばし、ユラを抱きしめた。

 ユラのぷにぷにの感触を確かめながら、


 「ユラ、どこに行ってたの?何で消えちゃったの?心配したんだよ。でも無事でよかった」


 ユラは一生懸命何かを伝えようとしてくれているけど、私には全くわからない。

 そこへイヴァンとシロの驚きを含んだ声が聞こえた。


 『ほお。不思議なこともあるのだな』


 「うむ。そのようなことができるとは初耳じゃ」


 「ユラは何て言ったの?」


 『この大木を見た瞬間、懐かしいような感覚がして引き寄せられるように大木に近づいたら吸い込まれるように大木の中へ入って、気がついたらアルクマールの深淵の森にいたと言っておる』


 「深淵の森?」


 「緑の国アルクマールにある大地の精霊 ソルの住処じゃ。魔法も使えぬような下位の精霊じゃと思うておったが転移魔法が使えるのか」

 

 『しかし、魔力が動いた気配はなかった』


 「確かにそうじゃが。それではそやつが深淵の森まで移動した理由がつかぬ。そもそも本当にそこが深淵の森であったかどうかもわからぬがな」


 『かすかだが大地の精霊(ソル)の気配がそやつに残っておる。会った場所が深淵の森かどうかはともかくそやつがソルに触れたことは確かだ』


 「じゃあ、そのソルって精霊がこの近くにいたとか?」


 『近くにいたなら我らがやつの気配に気づかぬはずがない』


 私の意見はイヴァンに即否定された。

 見ればシロも同意するかのように首を縦に振っている。


 精霊なめんなよということですか。

 はい、ごめんなさい。


 つまりユラはハナマイムの大木の中に入った途端、アルクマールの深淵の森という所に瞬間移動したってこと?

 しかも魔法も使わずに。


 もしかしてこのハナマイムの大木、どこでも○○なんじゃないの、ネコ型ロボットのポケットに入ってる・・・。


 そっとハナマイムの大木の幹に触れてみる。

 何も起こらない。

 どこでもハナマイムではなかったようだ。


 結局、何もわからないままだけどユラが無事ならいいや。

 

 イヴァンとシロも興味を失くしたようで、また海苔巻きにかぶりついている。


 「ユラも一緒に食べよう」


 あいかわらず意味不明の食べ方だけど、なんだか幸せオーラ全開のユラを見ているともう何でもいいやという気分になってくる。

 すると急に自分が空腹なことに気づいて、イヴァンとユラに全部食べられてしまう前に私とシロの分を確保した。

 海苔巻きをモグモグ食べる合間を縫って、ユラに話しかける。


 「ユラ。深淵の森ってどんな所だった?大地の精霊(ソル)はどんな人?ユラのお友達はたくさんいたの?」


 ユラは身振り手振りで伝えようとしてくれるけど、全然わからない。

 見かねたシロが教えてくれた。


 「緑が豊かで明るく楽しい場所だった。ソルは大きくて優しかった。周りにたくさん仲間がいた。一緒にくるくる踊っていたらもう帰る時間だとソルに言われたので帰ってきたと言っておる」


 「へぇ。何だかソルってお母さんみたいね。でも楽しかったのならよかったわね。また行けたらいいわね、お友達のところへ」


 変わったユラだからできたことかもしれないわね。


 『デザートが食べたい』と騒ぐイヴァンに昨日作ったカップケーキを出したり(昨日はカップケーキはデザートじゃなくておやつだと思ったけど、今日のデザートを作ってなかったのでカップケーキを持ってきた。イヴァンに否はないだろう)、シロにラシュートのことを聞いてみたり。

 騒がしいけど、楽しい午後のひと時だった。


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