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のんびりまったり異世界生活  作者: 和奏
第二章 異世界はやっぱり異世界です
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44 イヴァンの成長

 バロールさんやエミリさんと楽しく会話をしながら食事を取り終えるとまた診療所に戻る。

 戻るや否やすぐに治療を受けに人がやって来た。

 光魔法を使って治療を続け、気がつけば辺りは鮮やかなオレンジの光で満ちていた。

 ふと見上げると、西の空に綺麗な夕日が見えた。


 もうこんな時間。


 ちょうど人の波も途切れ、バロールさんが今日の治療の終了を告げに来た。


 「サキ、疲れただろう?サキのおかげで皆が笑顔で帰って行ったよ。ありがとう。また来週もよろしく頼むよ。それでこれが今日の報酬だ」


 そう言ってバロールさんが袋を渡してくれた。

 チャリっと音がするので、硬貨が入っているようだ。


 「期待するほどは入っておらんが・・・」


 「とんでもないっ。ありがとうございます」


 ずっしりとした重さを確かめながら、私は頭を下げた。


 「ではまた来週来ますね」


 エミリさんに夕食を一緒にと誘われたけど、家で待っているシロやアロハシャツを取りに来るであろうヴォルカンを思い浮かべ、丁寧にお断りをし、教会を後にした。


 ユラの家に向いながら、ふと気がついた。


 「そういえば今日はおやつ、おやつって騒がなかったわね。ちゃんと用意してたのに。どうしたの?」


 となりを歩くイヴァンを見ながら問いかけると、イヴァンは前を見たまま、


 『別に』


 と言葉短く答えた。


 「どこか悪いの?お腹が痛いとか」


 人間の薬って精霊にも効くのかしら。

 あっ、私がヒールをかければいいんだわ。


 『心配ない。どこかが悪いわけではない』


 「じゃあ、どうして?おやつを食べないイヴァンなんて信じられないんだけど」


 ハァと、イヴァンは大きなため息をつくと、


 『ずっと忙しくしておっただろう。サキの邪魔にならぬようにしておっただけだ』


 「えっ?」


 思わず歩みを止めてイヴァンを見た。

 チラッと見えたイヴァンの横顔は何でもないように見えたけど、少し赤くなっていたように思う。

 照れ隠しなのか歩みを止めないイヴァンに慌てて追いつくと、前に回り込んでしゃがみ込み、イヴァンの首にギュッと抱きついた。


 「イヴァンてば、少しは他人を思いやれるようになったんだね。成長したね。えらいね」


 『我は千年生きる精霊。子供扱いするでない』


 「わかってるけど、嬉しいんだもん」


 イヴァンの首元に顔を埋めてすりすりする私に、


 『うっとおしくてかなわぬ。早く離れろ』


 少しイラっとしたような口調だけど、本当は照れてるだけなんだよね。

 ふふっ。

 イヴァンてばかわいい。


 なんて余裕ですりすりモフモフしていたら本気でイヴァンがキレた。

 イヴァンの我慢の限界はほんの三十秒しかなかった。


 ユラの家まで帰ってくるとすぐにユラが姿を現した。


 「ただいま、ユラ」


 よほど一人が寂しかったのか嬉しそうに私の周りをくるくるフワフワ回っている。

 まるでダンスをしているみたいでおもしろい。

 本当はここでお茶でもしながら一息つきたいところだけど、もうそろそろ夜の帳が降りてくる頃だ。

 みんなお腹を空かせているだろうから、風の森に帰って夕食を作らないと。


 「ユラ。晩ご飯が出来たらまた持ってくるからね」


 そう言って、私はイヴァンとともに風の森の家に帰った。


 家に着くなり、ソファにドサッと座り、目を閉じた。


 「はぁ。やっぱり久しぶりの労働は疲れるわねえ」

 

 手を頭の上にあげて伸びをする。


 「今日は柚子の香りの入浴剤を入れてお風呂に入ろう」


 寝る前のバスタイムを思い浮かべてウキウキしていると、突然バンっという音とともに玄関のドアが開き、ドスドスという音。


 「帰ったでっ。腹減ったっ。飯はどこやっ」


 現れたのはもちろんヴォルカンだ。


 「ヴォルカン。もっと静かに帰って来れないの?ううん、それより今日もうちで晩ご飯食べる気?」


 「当たり前や。あんな美味い飯、食わずにおるやつがどこにおるねん。早う、食わせろ」


 私が作る料理を美味しいと言ってくれるのは嬉しいけど、上から目線のあの言い方はなんかちょっと引っかかるわーなんて複雑な心境でいると、


 『我も腹が減った。早く飯にしろ』


 イヴァンまで・・・。


 確かにもう夕食の時間だ。

 外は薄暗闇を通り越して真っ暗に近い。

 もうすぐシロも帰ってくるだろう。


 「しょうがないなあ。すぐに作るから待ってて。でもその前に洗濯物だけ取り込んでくるわ」


 二階に上がり、ベランダに干しておいた洗濯物を取り込んでいく。

 一緒に干したヴォルカンのアロハシャツとハーフパンツもしっかりと乾いてお日様の匂いがする。

 それらを持って階下へ降りると、またしてもイヴァンとヴォルカンの口喧嘩が勃発していた。


 アロハシャツとハーフパンツをヴォルカンに手渡しながら、


 「また喧嘩してるの?本当に飽きないわねえ。で、何が原因なの?」


 エプロンをつけてキッチンに立ち、夕食の支度を始める。

 冷蔵庫を開けて何を作ろうか考えていると、イヴァンの不機嫌そうな声が聞こえてきた。


 『こやつが今日もここで寝るなどとほざくからだ。ここはこやつの家ではないっ』


 「えっ?そうなの?」


 冷蔵庫を開けたままヴォルカンを見ると、ヴォルカンは腰に手を当て踏ん反り返りながら、


 「もちろんや。何か文句でもあるんか。精霊であるわしが泊まったるって言うとんのや。こんな喜ばしいことはないやろ。ありがたく思うんやな」


 いやいや、もう充分ですから。

 こんな狭い家に精霊が三人もいたら大渋滞もいいとこです。

 でもそう言ったって出て行く気はないんだろうなあ。

 どうせ言っても無駄だし、別に場所がないわけでもないからまあいいか。

 

 気持ちを切り替えて夕食の準備に取り掛かる。

 今日はチキン南蛮にしようと思う。

 でも高級魔物肉はもうないから普通の鶏もも肉を使って。

 鶏もも肉に塩こしょうをしようとして手を止めた。


 一口大に切ってから揚げた方が食べやすいかな。


 鶏もも肉を一口大に切って塩こしょうをし、小麦粉を薄くまぶす。

 溶き卵にくぐらせて油で揚げる。

 醤油、酢、砂糖を鍋に入れて中火にかけ、煮立ったら揚げたもも肉を戻して甘酢だれに絡ませる。

 刻んだゆで卵に玉ねぎのみじん切り、マヨネーズ、レモン汁、塩こしょうを混ぜてタルタルソースを作る。

 お皿にレタスを敷き揚げた鶏もも肉を並べ上から余った甘酢だれをかけ、さらにタルタルソースをかけると完成。


 それからミネストローネ。

 玉ねぎ、じゃがいも、人参、セロリ、キャベツを一センチ角に、ベーコンは一センチ幅に切る。

 鍋にオリーブオイルを熱し、ベーコンを炒め、その後角切り野菜を入れてさらに炒める。

 水、トマト缶、コンソメを入れて野菜が柔らかくなるまで煮込み、塩こしょうで味を調えたら完成。


 そして最初に作っておいた新玉ねぎと人参のマリネサラダを冷蔵庫から取り出す。


 スライスした新玉ねぎと人参に塩を振って水気を絞り、オリーブオイル、酢、塩こしょう、蜂蜜を混ぜたものをかけ、冷蔵庫で寝かせておいたのだ。


 ちょっと味の染み込みが足りないかもしれないけど。


 それらをテーブルに並べ、リビングにいるイヴァンたちに声をかけた。

 シロもいつの間にか湖から戻ってきたようで、ちゃっかりイヴァンの頭の上に陣取っている。

 そしてあれだけ仲の悪そうだったイヴァンとヴォルカンは二人仲良くソファに座り、テレビを見ていた。


 朝ドラの総集編を。


 イヴァンは何故か先輩面してヴォルカンにいろいろと力説していた。

 いかに人間がおもしろくて滑稽なのかを・・・。


 イヴァン。

 あなた、そんな気持ちで朝ドラ見てたの?

 朝ドラといえば愛と感動のドラマだよね。

 それなのにっ。

 N〇Kに謝れっっ!


 とにかく気を取り直してみんなで食卓を囲む。

 そしてまた早食い競争だ。

 騒がしい夕食も終わると、いつものようにデザートを催促するイヴァンとヴォルカン。


 デザートかあ。

 今朝作ったカップケーキでもいいんだけど、でもどっちかというとおやつだよね。

 待てのできない精霊たちだから時間のかかるものはダメだし。


 わらび餅なんかどうかしら。

 わらび餅粉はないけど、片栗粉で代用できるし。

 そんなに時間もかからないし。

 それにちょっとひんやりしたものが食べたい気分だし。


 ヴォルカンがいると暑いのだ。

 火の精霊だからか部屋の温度が二~三度くらい高くなった気がする。

 朝晩は少し冷える今はいいけど、この先梅雨から夏にかけてはちょっと遠慮したいなあ。

 ・・・この世界にも梅雨ってあるのかしら。


 なんて考えながら手を動かす。


 お鍋に片栗粉と砂糖と水を入れて良く混ぜ火にかける。

 混ぜているとだんだん固くなってくるので、火を弱めてさらに混ぜる。

 透明になったら火を止めてしばらく混ぜる。

 出来上がったものをタッパーに取って粗熱を取り、冷蔵庫へ入れて冷やしたいところだけど時間がないので、氷水の入ったボウルに一口サイズに切ったものを入れて冷ます。

 水気を切って皿に盛りつけ、きな粉をかけたら完成。


 ぷるぷると美味しそうだ。


 イヴァンたちの目の前に並べると、各々のスタイルで食べ始める。


 「なんや冷とうて美味いなあ」


 『うむ。あっさりとした味だが、ぷるぷるして美味い』


 「シンプルなのが良い」


 ユラのところに夕食とわらび餅を届けて帰って来ると、私もわらび餅を一つすくって口に入れ、ちょっとうるさいけどこれはこれで楽しくていいのかもしれないとほっこりしたのだった。


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