39 唐揚げとプリンとヴォルカン
白うさを直し終えた私は夕食の準備に取り掛かる。
たいして時間はかかっていないと思っていたけど、外はもう夕闇に包まれていた。
冷蔵庫を確認して、マトルトサーペントの肉で唐揚げを作ることにした。
マトルトサーペントの肉を一口大に切り分ける。
切り分けた肉と下味となるめんつゆ、すりおろしにんにく、すりおろししょうが、酒、塩こしょうを密閉できる保存袋に入れ、よく揉み込みしばらく冷蔵庫にねかす。
寝かしている間にお味噌汁を作る。
具材は長ネギ、椎茸、油揚げ。
それから付け合わせの準備。
キャベツの千切りやキュウリのスライス、トマト、それと茹でて冷凍してあった紫色のモロコシの実をさっと湯通しして解凍したものを用意する。
もう少し寝かせた方が味が染み込んで美味しいんだけどな。
そう思いつつも、何故かすでにテーブルに着く三人のために下味をつけた肉を揚げ始める。
後ろで『まだか。早くしろ』「何でそんなに遅いねん」などとごちゃごちゃ言う声を聞きながら、うるさいのが増えたとため息をつく私だった。
片栗粉と小麦粉を混ぜた衣を肉にまぶし、最初は百七十度くらいの低温で焼き色がつくまで揚げる。
次に油の温度を百九十度まで上げてもう一度揚げる。
こんがりきつね色になれば完成。
たっぷりの野菜を乗せた皿に盛りつけ、レモンのくし切りを添えたら各々の前に並べる。
それから炊き立てのご飯とお味噌汁。
ユラの分をトレーに乗せるとユラのところへ。
「ユラっ。ごめんっ。後でまた来るって言ってたのに来れなくて。明日は初出勤だからその前にユラのところへ寄るからね」
名残惜しそうにするユラに心を痛めながら、ユラに手を振りうちに戻る。
椅子に座り、さあ食べようと手を合わせたときに気がついた。
「ヴォルカンはお箸が使えるの?」
「お箸?何やそれ」
だよねぇ。
「これ使って」
スプーンとフォークを用意してヴォルカンに手渡す。
「いただきます」の後、ものすごい勢いで二人が食べ始めた。
こっちが呆気にとられるくらいの勢いだ。
そんなにお腹が空いていたのかしら。
悪いことをしたわなんて思ったけど、食べる二人をよく見てみたら、イヴァンとヴォルカンはお互いを横目でチラチラ見ながら食べていた。
もしかして早食い競争でもしているの?
そして二人同時に「おかわり」の声。
慌ててバットに揚げてあった唐揚げを山盛り、各々の皿に盛った。
そしてそれをまた勢いよく口に放り込んでいく。
それもあっという間になくなり、またしても二人同時に「おかわり」。
再度唐揚げを盛りつける。
早食い競争じゃなくて大食い競争かも・・・。
そしてそんな二人を気にせず、マイペースで食べているシロ。
これが大人の余裕ってやつかしら。
サクッとジューシーに仕上がり、最高に美味しいマトルトサーペントの唐揚げを頬張りながら、私は思うのだった。
食べ終わった後は、いつも通り、『デザートはまだか』『早く出せ』とうるさい事この上ない。
さっき作ったプリンを冷蔵庫から取り出すと、大きめの器にどんっと置いた。
それを二つ。
私とシロの分は小さな器にとんっと置く。
それから私とシロのプリンには控えめに、イヴァンとヴォルカンのプリンにはたっぷり生クリームをかけ、大量のいちごを乗せた。
もちろん私とシロのプリンには少しだけ。
最後に冷凍ブルーベリーを添えたら完成。
『甘くて美味い』
「ホンマや。めちゃ美味いな」
すぐさまプリンにかぶりつくイヴァンとヴォルカン。
もはや早食いなのか大食いなのかわからない始末。
「二人とも。そんなにせかせか食べないで、もっとじっくり味わって食べてよ。作り甲斐がないでしょ」
ため息交じりに私が言うと、二人同時に、
『ちゃんと味わっておる』
「ちゃんと味おうとるで」
仲が良いのか悪いのか、気の合う二人を見ながら、もう一度ため息をつく私だった。
夕食を終え、後片付けも済んだところで二階へ上がり寝室の隣の部屋に入る。
和奏や洸大が泊まりに来たときに使っていた部屋で、二段ベッドが置いてあった。
そして下段のベッドを整え始める。
もちろんヴォルカンのためだ。
夕食の後、この後どうするのかと尋ねれば、「こいつらがここに寝るならわしもここで寝る」と言ってきかなかったのだ。
半分そうなるのかなとは思っていたけど、さすがにヴォルカンだけ追い出すわけにもいかず、仕方なしに泊めることになったのだけど。
「ちょっと不安が残るけど・・・。深く考えないようにしよう。明日から仕事なんだし」
いやーな予感は無視して手早くシーツや枕カバーを交換する。
それが終わると今度は物置として使っている向かいの部屋に入り、お目当ての物をごそごそと探し始めた。
「どこに置いたっけ。この辺りだと思ったんだけどなあ。あっ、あった」
私が探していたものは水槽。
昼間宣言したようにシロの寝床にするのだ。
「昔飼ってたメダカ用だから少し小さいかもしれないけど、しょうがないわね。これしかないし」
水槽を持って寝室に入り、ベッド近くのチェストの上に置く。
「やっぱり水を入れた方がいいのかしら。それとも布団代わりのふかふかの綿?うーん。シロに聞いてからにしよう」
下に降りたところでお風呂が沸いたことを知らせるブザーが鳴った。
浴室に入り、湯船にバラの香りの入浴剤を入れると、ヴォルカンを呼んだ。
「なんや?わしを呼びつけるとはいい度胸しとるな」
そう言いながらもひょっこり現れたヴォルカンに、色よい返事はもらえないと思いつつも聞いてみる。
「お風呂が沸いたけど入る?」
「風呂?何やそれ」
「体中のよごれを落として、その後お湯に浸かって疲れを取るの。イヴァンもシロも入りたがらないけどね」
「汚れってわしは汚くないでっ。たまに浄化魔法かけて綺麗にしとるからな」
たまに!?
「それは綺麗とは言わないわよっ。かけるなら毎日かけなさいっ、毎日っ。で、どうするの?入るの?入らないの?」
少々キレ気味にヴォルカンに畳みかける。
「なんかようわからんもんは遠慮したいとこやけど・・・。うん?なんやええ匂いがしとる」
くんくんと赤い小さな鼻を動かすヴォルカンにバラの香りの入浴剤を入れてあるのと説明した。
「癒されるでしょ」
「よし。しょうがないから入ったるわっ」
そう言うなり湯船に飛び込もうとしたヴォルカンを慌てて引き止めた。
「ちょっと待って。服は脱いでちょうだい。ついでに洗濯するから」
「はあ!?服を脱げって、お前変態か?」
はいっ!?
「何言ってるのよっ!お風呂は普通服を脱いで入るものなのよっ。人を変態扱いしないでっ」
あんたの方が変態のくせにっという言葉は飲み込んで、とりあえず服を脱がせる。
「ほらっ。さっさと脱いでって・・・あれ?」
私の勢いに押されて服を脱ぎ始めるヴォルカンにさらに言い募ろうとして、ふとヴォルカンの着ているアロハシャツの胸ポケットが目についた。
「勝手に何入れてるのっ」
私が指差す先、ヴォルカンの胸ポケットにはリビングに飾ってあった編みぐるみのうさぎがちゃっかり収まっていた。
「あぁ、これか。このかわいいうさぎはかわいいわしにぴったりやろ」
ヴォルカンの言葉に私が脱力したのは言うまでもない。