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のんびりまったり異世界生活  作者: 和奏
第二章 異世界はやっぱり異世界です
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38 キャサリンの手術

 おやつを食べ終わったイヴァンとシロはリビングへ行くと、イヴァンはハンモックに寝そべり、シロはサンキャッチャーが作り出す虹と遊ぼうと思ったようだけど、すでに夕暮れ時なので虹は出ておらず、シロは肩を落とした。

 シロの肩がどこにあるのかはわからないけど。

 二人の後を追ったヴォルカンは見たことのない物ばかりのリビングで、イヴァンとシロに「あれは何だ?」「これは何だ?」と質問攻めにしている。

 そんな三人を微笑ましく思いながら、私はダイニングの椅子に座って手元にあるボロボロのぬいぐるみをもう一度丹念に調べていた。

 

 生地自体はしっかりしているわね。

 破れている所もほとんどが縫い目の部分だし。

 ああ、でもお腹の所は切られちゃってるから手術(オペ)が必要ね。

 少し大きいから傷跡が残っちゃうかも。

 どれくらいの量の綿が無くなったのかわからないからざっくりと詰めるしかないか。

 あとは・・・汚れね。


 白いうさぎのぬいぐるみなので、あちこちに汚れが目立つ。


 直す前に洗った方がいいかも。


 そう思った私は、まずキッチンスケールでぬいぐるみの重さを量った。


 約四百二十グラムね。


 次に身長。

 

 耳の先から足先までおよそ七十センチ。


 それらをメモすると今度ははさみを手に取り、取れかかっている目のボタンの糸を切った。

 ちゃんとついている方の目のボタンも同様に。

 それからぬいぐるみに入っている綿を全部取り出す。

 やはり、綿本来のフワフワ感がかなりなくなっている。


 せっかくだから綿は全部新しいものと取り替えよう。


 綿を取り出し、ぺちゃんこになったぬいぐるみを手に洗面所へ向かう。

 洗面台に水を張り、中性洗剤を入れ優しくもみ洗いをする。

 なるべく生地を傷めないように丁寧に丁寧に。

 汚れで汚くなった水を取り替え、洗剤を入れもう一度もみ洗いをする。

 これを水が汚れなくなるまで繰り返した。

 次にすすぎ。

 何度も水を替えながら泡が出なくなるまでもみ洗いをする。

 最後にもう一度水を張り柔軟剤を入れて、二十分ほど放置。

 これで乾いたらフワフワになっているはずだ。


 つけ置きしている間に綿の用意をする。

 二階の趣味部屋に入り、必要な物を探す。


 「確かこの辺りに綿があったはずなんだけど・・・。あった。あとは針と糸でしょ。それと・・・これも」


 必要な物をバスケットに入れダイニングへ戻ろうとしてふと足を止めた。

 視線の先には黒い布地。

 とても手触りのいい、それこそうさぎの毛のようなラビットファーだ。

 あまりにも触り心地がいいので、クッションカバーでも作ろうかと思い購入したけど、今日まで手つかずのままになっていた。


 これで黒うさのぬいぐるみを作ったらかわいいかも。

 ヴォルカンの白うさとそっくりに作って双子コーデみたいにお揃いの服を着せたりして。


 ・・・。

 

 いやいや、頼まれてもいないのにそんなことをしなくても・・・。


 もう一人作れるくらいの綿はあるし、目にできるようなボタンもたくさんある。


 だから頼まれてないんだってば。


 ないのは時間だけ。


 ・・・。


 わかった。

 認めます。

 そう、ただ単に私が作りたいだけなんだって。

 白うさと黒うさ、一緒に並べたら絶対かわいいもの。


 でも今は本当に白うさを直すくらいの時間しかないから黒うさはまた今度。


 バスケットをダイニングテーブルの上に置くと洗面所へ行って、つけ置きしておいたぺちゃんこのぬいぐるみを取りだし、風魔法で一気に乾かす。


 「うん。いい感じにフワフワになったわ」


 乾いたペラペラのぬいぐるみを持ってダイニングに戻り、すぐさま作業に取り掛かろうとしたら背後から背筋が凍るようなおどろおどろしいヴォルカンの声音がした。


 「お前、わしの大事なキャサリンに何してくれとるんじゃ」


 後ろを向くと、般若のような形相のヴォルカンが立っていた。

 視線はもちろん私が持っているペラペラのぬいぐるみだ。


 これ、ヤバいやつかも。


 身の危険を感じた私は慌ててヴォルカンに説明した。


 「誤解しないで。これは壊してるんじゃなくて直そうとしているの」


 「直すはずが余計におかしなことになっとるやないかっ」


 「だから直す前に洗ったのよ。あまりに汚れて白いはずのうさぎが灰色みたいになってたから。ほら。よく見て。真っ白になったでしょ?」


 私はヴォルカンの目の前に持っていたぬいぐるみを突きつけた。


 「ホンマや。真っ白になっとる・・・」


 「でしょ。確かに今の状態は前より大変なことになってるけど、これからつなぎ合わせて綿を詰めて目のボタンをつけたら元通りよ。だから心配しないで」


 「・・・わかった。せやけどまだお前を全面的に信用したわけやないからな。ここでお前が直すとこ見させてもらうで」


 私の正面の椅子にどかりと座ったヴォルカンは腕組みをしながら私を見ている。


 「見張ってなくてもちゃんと直しますって」


 そんな怖い顔で見られたら集中できないじゃないの。


 「我もサキが直しているところが見たい」


 シロがにょろにょろとテーブルの上に登ってきて邪魔にならない所でとぐろを巻いた。


 「そんなに見られたら恥ずかしいんだけど」


 二人にジッと見られながら作業を開始する。


 取れかかっている耳や足は糸を切ってはずし、全てのパーツを裏返しにする。

 お腹の切れた部分もなるべく縫い目が目立たないように細かく縫っていく。

 外した耳と足を元の場所に縫い付け、手芸用のかんしという道具を使ってそれぞれを表に返していく。

 かんしは耳や足の先まできっちり表に返すことができるので便利だ。

 表に返せたら手芸用の綿を詰めていく。

 ちょうど五百グラム入りの綿なので、無くなった綿の量がどれくらいかわからないけど、前とそんなに差はないはずだ。

 手や足の先、耳の先にも気をつけて綿を詰めていき、特に頭の部分は詰め方が下手だとかわいくなくなるので要注意。

 ほぼ詰め終えたところでふと気がついた。


 このままじゃ安定が悪いんじゃないかしら。


 二階の趣味部屋からペレットと端切れを取ってきた。

 ペレットとはぬいぐるみの中に入れるビーズのようなもので、重しにしたりクッションに入れて抱き心地をよくしたりする。

 今回使うのはプラスチック製のもので、そのまま使うと中で動いてしまうので、一緒に持ってきた端切れで袋を作り、その中にペレットを入れてちょうどぬいぐるみのお尻の辺りに入れる。

 ペレットを入れることで座らせたとき、重しになって安定するのだ。


 ペレットの分、少し重くなっちゃったけど、まあいいか。

 

 綿を詰め終わったら頭の部分とボディを縫い合わせてくっつける。

 なるべく縫い目が目立たないように細かく針を入れたから大丈夫だと思う。

 うさぎの顔やボディのバランスを見ながら目の位置を決め、ボタンを縫いつけると完成だ。

 直し終えた白うさを抱き上げいろいろな角度から見てみたけど、私としてはまずまずの出来だ。


 「ヴォルカン。直してみたけどどうかな?」


 ヴォルカンに白うさを手渡し確かめてもらう。

 ヴォルカンも私と同じようにあちこちに視線を走らせ、しっかりと抱き心地を確認すると、ほぉと息を吐いた。

 

 「お前、すごいな。ホンマに元通りや」


 「だから言ったであろう。サキにまかせておけば大丈夫だと」


 「アクエ、お前は何も言ってへんやろ」


 「そうであったか?」


 漫才みたいなことを言い合う二人を微笑ましく思いながら、


 「ヴォルカン、もう一度そのぬいぐるみを貸して。もう少しかわいくしてあげるから」


 首を傾げるヴォルカンに笑いかけながら、バスケットに入れて一緒に持ってきたものを見せる。


 「リボンよ。これで耳のところにリボンをつけてあげるとかわいいと思うの」


 持ってきたのは平らな紐状のものなので、これを針と糸を使ってリボンの形に加工するのだ。

 ただ結ぶだけなら簡単だけど、その分ほどけやすい。

 リボンの形にしてから糸で縫いつけると、ほどけることはないからね。


 「お前、気が利くやないか。すぐに作ってくれ」


 テンションの上がったヴォルカンは、私に白うさを渡すと待ちきれないのかテーブルの周りをぴょんぴょん跳ね回っている。

 私は早速リボン作りに取り掛かる。

 

 幅の違う赤地に白いドット模様のリボンを二つ用意し、少し幅の広い方は二十センチくらいに、幅の狭い方は十五センチにカットする。

 カットしたリボンを輪っかにしてつなぎ目を糸で縫う。

 幅の広い方も狭い方も同じようにして作り、小さい方を大きい方に重ねて中央を折りたたんで糸で縛る。

 この時まず内側に半分折ってから両側を外側に折ると綺麗なリボンになる。

 中央に糸で縛ったところや裏のリボンのつなぎ目が隠れるように小さくカットしたリボンを巻きつけたら完成。


 出来上がったガーリーなリボンを左耳の付け根に糸で縫いつけた。


 おぉ。

 なかなかの出来じゃない?


 私は満足げに頷くと、ヴォルカンに白うさをを手渡した。


 「こんな感じでどうかしら」


 白うさを受け取ったヴォルカンは家を壊しそうな勢いで跳ね回り、


 「めちゃくちゃかわいいやんけ。ますますわしに似てきよったなあ」


 ・・・。


 私は思った。


 この火の精霊は自分はかわいいと勘違いをしているおとぼけうさぎなのだと。


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