プロローグ
初投稿です。
ゆるゆる設定ですので、温かい目で見ていただければ嬉しいです。
夫が死んだ。
突然のことだった。
信号を無視して突っ込んできたトラックから子供を庇ってのことだった。
子供好きのあの人らしい。
私たちは子供のいないアラフィフ夫婦だったので、全てのことを私一人でやらなければならなかった。
葬儀の事、事故関連の事、生命保険をはじめとする遺産関連の事、夫の退職手続きの事などやるべきことは山ほどあった。
それらがようやく終わり、庭付き二階建ての小さな一軒家と、慎ましく生活すれば一生困らない程度のお金が手元に残った。
とにかくこの数ヵ月は慌ただしくて、全てが終わって夫がいない生活にも慣れてきた今、少しだけ未来のことを考えられるようになった。
これからどうしよう。
以前は働きに出ていたが、夫が死んだ時にやめた。
それどころではなかったからだ。
また働きに出る?
それとも一人旅でもしようかしら。
夫が生きていた頃は、夫の仕事が忙しすぎて旅行にもほとんど行ったことがなかった。
一度くらい二人でのんびりと温泉にでも行っておけばよかったな。
そんなことを考えていると、インターホンが鳴った。
妹だった。
両親も早くに亡くなり、夫もいなくなった今、唯一の身寄りだ。
玄関を開けるや否や
「お姉ちゃん、ちゃんと食べてる?夜はちゃんと眠れてる?体が一番大事だからね」
と言って入って来る。
「うん、大丈夫。食べてるし、眠れてるよ」
うん、嘘ではない。
最近は食べられるようになったし、眠れるようにもなった。
「はい、これお土産。お姉ちゃん好きでしょ」
そう言って妹-恵里は紙袋を手渡してくる。
中を見ると恵里の家の近所の有名な和菓子屋さんの豆大福と桜あんのお饅頭が入っている。
「お茶入れるから一緒に食べよ」
私がお茶を入れている間、恵里はリビング奥の和室にあるあの人-亘さんの仏壇に手を合わせてくれていた。
豆大福を皿に取り、お茶とともにダイニングテーブルに置くと、向かい合って座った。
看護師として働いている恵里は忙しい中、時間を作っては会いに来てくれる。
「落ち着いた?」
「そうね。やっとあの人がいないことにも慣れてきたみたい」
「これからどうするの?」
「う~ん。のんびりまったりするのもいいかなあ。今までちょっとドタバタすぎたし」
なんてねと冗談ぽく言うと、
「それもいいんじゃない?今までできなかったこととかやりたいこととか片っ端からやってみるのもいいかも。旅行に行くとか食べ歩きするとか」
豆大福を口に入れ、やっぱりここの豆大福は美味しいね、なんて言っている。
「一人が寂しいなら私も付き合うし、和奏や洸大だってそう」
和奏と洸大は恵里の子で、和奏はこの三月に大学を卒業して四月から図書館に就職が決まっている。
洸大の方も春から大学生だ。
二人とも私に懐いてくれている、とてもかわいい姪っ子と甥っ子だ。
「そうね。いつまでもふさぎ込んでるわけにもいかないもんね。何か新しいことでも始めてみようかな」
「うん、それがいいよ。まだまだ先は長いんだもの。人生楽しまなきゃね」
しばらく取り留めもない話をした後、恵里は帰って行った。
久しぶりにおしゃべりをして気分が晴れたのか、なんだかやる気が出てきたみたいだ。
ずっとほったらかしだった庭も手入れをして、何か植えよう。
年末に出来なかった大掃除もしよう。
家が綺麗になれば、元気になれる気がする。
うん、明日から頑張ろう。
この後、もう一話投稿します